【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE6 悪夢は再び

時間は少し前後して。

真とカナードがそれぞれ戦闘を開始する約30分ほど前。

 

IS学園 正門

 

 

黒塗りの高級車が2台停車して、先の車両の運転席側の窓が開く。

車を運転しているのはライリーであった。

 

水色の髪を揺らしながら、女性の警備員に彼女は微笑みつつ、身分証明書を提示する。

 

 

「フランス代表候補生フレイ・シュバリィーの教官、ライリー・ナウです。所用の為まいりました。確認をお願いします」

 

 

提示された身分証とライリーの顔を確認した警備員は笑みを浮かべてゲートの操作を行う。

 

 

「はい、確認しました。どうぞ」

 

「どうも」

 

 

警備員にそう返したライリーが微笑みながらアクセルを踏む。

ライリーの運転する車に続いてもう1台も進んでいく。

 

 

「それでは手筈通りに。ミシェル、援護はお願いするよ」

 

「りょーかい、ボス」

 

 

後部座席に座る短い金髪に緑眼の女性、【ミシェル・ライマン】は崩したスーツを整えながら返す。

 

 

『私たちの顔はもうとっくに知られてるのによく通れたな。警備がザルなのか?』

 

 

左耳に付けられた小型通信端末からもう1台に乗車しているオータムの声が聞こえる。

 

 

「私のISには【物好きな連中】が開発した変装機能が搭載されていてね。ある程度ならば顔を偽ることができるのさ。先程の警備員には君達が別の人間に見えるよう調整していただけだよ」

 

「成程、貴女のその水色の髪はその機能って事ね」

 

 

助手席に座るスコールが納得したように言う。

 

 

「ご名答。さてミススコール、ミスオータム。シン・アスカとカナード・パルスの陽動は任せるよ。私の機体の相性的に梃子摺るとしたら彼ら二人となるだろう。君たちのISならば相性はいいはずだ」

 

「ええ、任せて」

 

 

ライリーの言葉にスコールは頷く。

 

 

「ダリル君とフォルテ君はISの能力でのジャミングをお願いする。ミシェルが援護につくから万が一ばれても撤退は容易だ、気にせずに頼むよ」

 

『了解しました』

 

『りょーかい』

 

 

オータムが運転する車に同乗しているダリルとフォルテが答える。

 

 

「私は餌を回収する」

 

 

運転していた車を来客用の駐車場に止めたライリーはそう呟いて笑みを浮かべた。

 

――――――――――――――

爆発騒ぎが起こる数分前。

第1アリーナ

 

現在第1アリーナでは訓練の申請を出していたラキーナのストライクが空を翔けていた。

その背部に装着されているストライカーパックは【I.W.S.P.】であった。

 

1週間前のフレイとの模擬戦で破壊されたフリーダムストライカーは現在束の手によって新たに製作が進められている。

稼働データをフィードバックしてよりラキーナに適した状態に仕上げるとの事だが、やはり時間がかかってしまう。

その為、ラキーナはI.W.S.P.パックの習熟訓練を続けている。

 

 

(前に比べればだいぶ動けるようになって来たかな……筋肉痛とか酷いけど)

 

 

未成熟な身体なため、苦手だがトレーニングを行うことで少しでも鍛えているのだ。

しかし、そもそもがインドア気質でロクにトレーニングも行っていなかったため、全身の筋肉痛に悩まされていた。

 

フラガラッハをビーム刃を起動せずに展開して素振りを開始する。

ビームサーベルと違って実体剣でもあるフラガラッハの扱いには癖がある。

真やカナード、アスランからもアドバイスをもらっている為その通りに体に覚えこませる。

 

数分経って高機動を合わせた近接格闘の訓練に移ろうかと思案した時、センサーが見知った人物を捉えた。

 

 

『フレイ?』

 

 

そう、フレイがアリーナの入口からこちらを眺めていたのだ。

ラキーナが自身に気付いたことを理解したのか、フレイも手を振っていた。

ラキーナも手を振ってそれに返す。

そして彼女はISスーツに着替える為か更衣室に向かっていった。

 

 

「お疲れ様、ラキ」

 

 

数分後、ISスーツに着替えたフレイがBピットに帰還していたラキーナに問う。

一旦ISを解除して水分補給をしていたラキーナはドリンクを置いてから返す。

 

 

「うん、フレイも今から?」

 

「ええ。ちょっと呼ばれててね」

 

「呼ばれてた?」

 

「ええ、ほら。彼女よ、私の教官よ」

 

 

ピットの入口を見ると水色の髪にスーツを着込んだ女性が立っていた。

その女性がフレイの隣にまで歩いて着て微笑む。

 

 

「ああ、紹介するわ、私の教官【ライリー・ナウ】よ」

 

「紹介に預かったライリーだ。よろしく」

 

「えっと……よろしくお願いします」

 

 

ライリーが差し出した握手に答える。

どういう訳か彼女から寒気を感じる。

 

 

「3人目の男性搭乗者であるカナード君の妹、飛び級制度でIS学園に転入した天才少女。なるほど、会ってみると才気に溢れているね、君は」

 

「……ありがとうございます」

 

 

初対面の人間であるはずなのに、何故か彼女の言葉に圧力を感じる。

 

 

「何、ライリー。ラキに嫉妬でもしてるの?」

 

「ふふ、別段そういうことではないのだがね。やはり羨ましいと思うよ。IS学園の飛び級制度の合格基準はかなり厳しいものさ、それを若干14歳でパスした天才。自分にもその力があれば……なんて考えてしまうね。これでも元は代表候補生だったんだよ、私は」

 

「……いえ、私はそんな大した人間じゃ……」

 

「ほう?強大な力を己の信じるモノの為に使った君がかい?」

 

「……えっ?」

 

 

ライリーの顔が歪む。

その歪みは嘲笑の色を強く浮かべていた。

 

 

「それでも守りたい世界があるんだ……だったかね?その言葉はさぞ美しいものだ、だが君はそれを実行できたのだろうか?」

 

「らっ、ライリー?何言ってるの?」

 

「いや、できなかった。何故ならば君は自身でその言葉の意味を考えていなかったからだ。滑稽で、道化だよ。そんな君に倒された者たちは本当に哀れで嘆かわしい」

 

 

突如ラキーナに向かって語りだしたライリーにフレイは困惑の表情を浮かべている。

しかも雰囲気は険呑としているように感じる。

 

 

「貴女はまさか……っ!?」

 

 

ラキーナの脳裏に蘇るのはかつての記憶。

 

 

『私にはあるのだよ! この宇宙でただ一人、全ての人類を裁く権利がなっ!』

 

『正義と信じ、分からぬと逃げ!知らず、聞かず!その果ての終局だ、もはや止める術など無いっ!』

 

『知れば誰もが望むだろう! 君のようになりたいとっ!』

 

 

それはキラ・ヤマトが死闘の果てに倒した敵。

世界を呪い、自身にとって守りたい人間を殺めた怨敵。

 

 

その怨敵の名は――【ラウ・ル・クルーゼ】

 

 

『フレイッ!そいつから離れてっ!』

 

「えっ!?」

 

 

ストライクを身に纏い、ビームライフルの照準を合わせる。

装備しているストライカーパックは【I.W.S.P.】だ。

生身の人間であるライリーに向けてISを展開し、ビームライフルの照準を合わせている。

 

友人であるラキーナが取った行動が理解できないフレイであったが状況は止まらない。

 

するとライリーの水色の髪の毛が変化していく。

その色は金。

 

同時に彼女の胸元にあるネックレス、待機形態のISが展開されていく。

 

 

(ライリーのIS、ラファールじゃないっ!?)

 

 

フレイの記憶ではライリーの持つISは、自身と同じ【ラファール・リヴァイヴ】のカスタム機であったはず。

だが今彼女が身に纏っているソレは全くの別物であった。

 

まるで【天】の象徴である【太陽】を背負ったかのようなシルエットの背部パッケージ。

全身が灰色、左腕部にはシールドと一体化した巨大なライフルの様な武装が見える。

 

 

「らっ、ライリーっ、これどういう……っ!?」

 

『君は眠っていたまえ。危害は加えないよ。君は大切な教え子であると同時に、餌なのだからね』

 

 

そう告げたライリーは、フレイが反応できない速度で彼女の腹部にマニピュレータを押し当てる。

同時に軽い電気ショックが走り、彼女の意識を刈り取った。

 

その行為はラキーナの逆鱗に触れる行為。

――彼女の意識の中で、怒りと共に紫の【種】が弾け飛んだ。

 

 

『クルゥゥゥゼェェッ!』

 

 

雄叫びの様に咆哮したラキーナはフラガラッハを上段に構える。

だが、コンソールに躍り出たロックオン警報に咄嗟に回避を選択した。

 

 

『っ!?』

 

 

後方を確認するといつの間にか射出され射撃体勢についていたドラグーンがこちらを狙っていた。

ライリーのISの背部からドラグーンが一基無くなっている。

 

 

(何時の間にドラグーンをっ!?)

 

 

S.E.E.D.によって鋭敏になった感覚とハイパーセンサーにはドラグーンが突如出現したようにしか感じなかった。

そして新たなロックオン警報がコンソールに表示された。

 

新たに三基のドラグーンが同様に突如現れて、ラキーナを包囲していた。

 

 

『くっ!!』

 

 

スラスターを噴かせることでドラグーンのビームから逃れる。

射出されたドラグーンはそのまま、まるで生きているようにラキーナを追跡していく。

 

そして当然ドラグーンだけではなかった。

 

 

『どうしたね、キラ・ヤマト君。この程度で苦戦するような君じゃないはずだが?』

 

 

左腕のビームサーベルを振り上げ、ライリーがラキーナに接近していた。

当然のように同時制御を行いつつだ。

 

咄嗟にフラガラッハでそのビームサーベルを受け止める。

ビーム刃とビームサーベルの鍔迫り合いによってビーム粒子が辺りに散っている。

 

 

すると第一アリーナを振動が襲った。

第一アリーナの外殻部分から黒煙が上がっている。

 

 

『爆発っ!?』

 

『ふふ、どうやら始まったようだ』

 

 

そうラキーナとの鍔迫り合いを続けるライリーが呟いた。

 

 

『アナタは何でっ!ここにいるんだっ!』

 

『私がここにいる理由は一つ……君もわかっているだろう?人類を滅ぼす為だよ』

 

 

ラキーナが問うとライリーは笑みを浮かべてそう返した。

 

 

『っ、そんな好き勝手をっ!』

 

『私にはその権利があるのだよっ!女尊男卑にISの軍事利用、それに伴う人間の遺伝子操作っ!地球に魂を縛られた者達の業っ!人類と言う種の醜さは世界が変わっても変わらぬっ!この世界も所詮はC.E.と同じように腐り始めているのだっ!やはり人はっ!滅びるべき存在なのだよっ!』

 

 

かつて相対した時と同じく、捲し立てるライリーの声には狂気と憎悪を感じる。

 

 

『アナタの身勝手な行為で……フレイを、フレイを利用するのかっ!』

 

『彼女には感謝しているよ。フランス代表候補生教官という立場を得ることができたのだからね』

 

『っ!!アナタはぁっ!!』

 

 

怒りと共にI.W.S.P.パックから得られる推力を乗せたフラガラッハでビームサーベルを押し切る。

そしてもう1本のフラガラッハでライリーの顔面を狙って振り抜く。

 

それにほぅと感心したような声をライリーは洩らした。

 

 

『以前とは別人のようだ。生の意識、私に対する憎悪と怒りを感じるよ。以前よりもずっと人間らしい』

 

 

迫るフラガラッハを瞬時加速を使用して距離を取ることでライリーは回避する。

 

 

『しかしその程度で私を、【ロキプロヴィデンス】を止めることはできない』

 

『っ!?』

 

 

フラガラッハを躱されたラキーナが追撃を仕掛ける為に機体を加速させた瞬間であった。

自機を中心として球状にドラグーン十五基が一瞬で展開され、射撃位置についていた。

 

 

(これはまさか【単一仕様能力】……っ!?)

 

 

S.E.E.D.によって鋭敏になった感覚ですら、ドラグーンの射出と展開を察知できなかった。

射撃位置についたドラグーンは、まるで最初からあったかのように(・・・・・・・・・・・・・・・)存在している。

 

 

(ドラグーンを瞬時に任意位置に射撃体勢で展開(・・・・・・・・・・・・・・・)できるのかっ!?こんなの躱しようが……っ!)

 

 

咄嗟にI.W.S.P.のコンバインドシールドを展開して防御態勢を取る。

 

シールド防御とI.W.S.P.パックへの直撃を防ぐためにAMBACと緻密な機体制御によって何とか回避を試みるが、ドラグーンのビームは単発式ではなく連続発射式だ。

当然ながら全ての攻撃を防ぐことは叶わなかった。

 

 

『ぐぅっ!!』

 

 

飛来するビームがストライクの脚部や腰部の装甲を削り取る。

ビームの被弾数が多かったためか絶対防御が発動。

それによって、ストライクは一瞬でエネルギーが枯渇してしまった。

 

 

『ぐぁっ!?』

 

 

エネルギーが枯渇したストライクを身に纏ったまま、ラキーナは弾き飛ばされた。

ロキプロヴィデンスは左マニピュレータに備え付けられた機動盾に組み込まれたビームライフルでラキーナを狙う。

 

 

『っ、やられっ……!?』

 

 

もはや満足な機動すらできない状態のストライクがこれ以上の攻撃を受けたならば結果は見えている。

思わずラキーナは目を瞑ってしまった。

 

だがビームがラキーナに届くことはなかった。

何故ならば、アリーナの上空から発射されたビームがロキプロヴィデンスに襲い掛かったからだ。

ロックオン警告によってそれに気づいたライリーはとっさに機体を操作して躱す。

 

上空を見上げると、そこには紅い騎士の様なISが存在していた。

 

 

『っ、あれはジャスティス……アスランか』

 

『ラキはやらせないっ!』

 

 

ラキーナを守ったのは紅きIS【インフィニットジャスティス】を駆るアスランであった。

数分前に起こった爆発騒ぎの確認の為、ブレイク号から出撃していたのだ。

 

 

『あっ、アスラン……』

 

『ラキっ、無事の様だな……っ!?』

 

 

突如、インフィニットジャスティスの背後に出現したドラグーンにアスランは驚愕しつつも咄嗟の機体操作により、ドラグーンから発射されたビームを回避した。

 

 

『一瞬でドラグーンをっ!?』

 

 

アスランの周囲に、先程のラキーナと同じく十基以上のドラグーンが一瞬で展開され、アスランを翻弄している。

それを確認したライリーは笑みを浮かべた。

 

 

『さて、長居は無用のようだ。目的は達した』

 

 

ライリーは気絶して倒れているフレイを抱えて機体を浮上させていく。

 

 

『っ、逃がすものかっ!』

 

 

グラップルスティンガーを展開して射出。

しかしドラグーンに翻弄されながらの攻撃であったため狙いが甘かったのか、射出後、即座に現れたドラグーンによってシザークローは迎撃されて破壊されてしまった。

 

 

『それでは失礼するよ』

 

 

背部スラスターを噴かしてプロヴィデンスは上昇して行く。

機動力は並の高機動ISよりも格上のようだ。

 

アスランを陽動していたドラグーンが彼への攻撃を止め、消失していく。

 

 

『ドラグーンが消えた……っ!?』

 

 

ライリーの操るドラグーンの攻撃を回避していたアスランがそう呟く。

 

 

『っ、待てっ!待ってっ!フレイを、フレイをどうする気っ!?』

 

 

最低限の搭乗者保護機能しか機能していない今のストライクにできることはない。

 

 

『兄さんっ!真っ!束さんっ!くっ、なんでっ!?ジャミングで繋がらないのっ!?』

 

 

通信による援護を要請しようにも、どういう訳かカナードや真、千冬達に通信が繋がらない。

つまりただライリーが去っていくのを眺めている事しかできない。

 

 

『フレイッ、フレェェェェイッ!!!』

 

 

そしてセンサーから反応が消える。

 

 

『あ……ああ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

ラキーナの慟哭がアリーナに響いた。

その慟哭は、かつてキラ・ヤマトがフレイ・アルスターを失った時と全く同じものであった。

 




新年あけましておめでとうございます。

今年もIS-Destiny-運命の翼を持つ少年をよろしくお願い致します。


次回予告
「PHASE7 開き始めた扉」


「奴等の行動の意図が読めない。何の理由があってフレイ・シュバリィーを狙ったかだ」


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