Fate/Turn ZeroOrder   作:十三

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 どうも。ハンティングクエストに意味を見いだせないFGOユーザー、十三です。
『精霊根』『戦馬の幼角』『血の涙石』『黒獣脂』―――これらは第五特異点とzeroイベで漁ったから数は足りてるんだよなぁ。

 あと、友人から言われたのですが、この作品は別に”遠坂アンチ”で書いているわけではありません。普通に書いていたらこうなっちゃうんです。後悔?するわけないです。

 それでは今回もお楽しみくださいませ。







ACT-7 「救いという名の絶望、絶望という名の救い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その戦局を一言で表すのならば、『混沌』だった。

 

 

 まず自陣営。『諸葛孔明』という英霊を憑依させるという形で疑似サーヴァントとなったキャスター・ロードエルメロイⅡ世、デミ・サーヴァントにしてエクストラクラスである『シールダー』のマシュ、騎士王セイバー・アルトリア、守護者の英霊アーチャー・エミヤ。

 

 未だ敵対しているのかそうでないか判明していないのが、第四次聖杯戦争でライダーとして召喚された征服王イスカンダルと、マスターであるウェイバー・ベルベット。

 

 目下、悠然と立ち塞がる”敵”は、遠坂陣営のサーヴァント。アーチャーのクラスを以て現界した英雄王ギルガメッシュ。

 

 この場限りの共闘の盟約を取り付けて来たのは、第四次聖杯戦争にてセイバーのクラスで召喚された同一存在の騎士王アルトリア・ペンドラゴン。

 

 そして最後に、このただでさえ収集が付かなくなってきた戦場を更に混沌とさせるように乱入して来たのは、狂乱の戦士『バーサーカー』のサーヴァント。

 その真名は、ランスロット・デュ・ラック。

 《湖の騎士》と称される、アーサー王円卓騎士団最強の騎士こそが、狂戦士の姿に貶められた、哀れな結末がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

「な……っ⁉ 湖の騎士(サー・ランスロット)⁉ そんなはずはありませんハクヤ‼ 彼があろうことか狂戦士(バーサーカー)の適性を持つなどと―――」

 

「現実を見なさい、騎士王()

 

 ひどく狼狽した様子を見せるセイバーに向かって、第四次聖杯戦争を経験し、結末を見届けたアルトリアは冷ややかに言う。

 その言葉通り、現実を見ろと促す。それが彼女にとって、どれほど背けたいモノであろうとも。

 

「いずれは知らねばならなかったのです。彼を狂乱の檻から解放する事のできる存在がいるとするならば、それはギネヴィアか、さもなくば私以外に有り得ない。

 真正面から見据えるのです。あれこそはまさしく、円卓の騎士の中でも最も誉れ在る騎士が内包する”闇”を凝縮した姿なのだと」

 

「ッ……‼」

 

「しかしながら、それだけに注視する事ができないというのも、中々に厳しくありますが」

 

 そう。今の状況ではバーサーカー―――ランスロットにだけ注意を注ぐというのは危険すぎる。

 既に、四組の陣営が睨みあっているこの状況。普通であらばこの戦況で下手に動くのは愚策だと理解している筈なのだ。まともな感覚を持つマスターが、サーヴァントの手綱を握って制御できているのなら、そもそもこんな危険な場所に自らのサーヴァントを送り込もうとは思うまい。

 ましてや、攻撃を仕掛けさせるなど愚の骨頂。しかし―――

 

 

「A……Ar(アァ)―――Ar(アァ)thur(サァ)――――――ッ‼」

 

 狂戦士は吼える。

 後世に於いて、誇り高く在りながら王の妻と禁じられた間柄となった不義の男と蔑まれ、貶められた裏切りの騎士。

 そこに、王に対する敬意も、忠義もない。少なくともこの狂気の檻に囚われている間は、彼は王に対して憎悪の念を注ぐ狂戦士であるのだから。

 

 死神の如き漆黒の戦化粧に身を包み、奈落の底より這い出たかの如く昏い靄を纏ったバーサーカーは、兜に刻まれたスリットの奥に潜む真紅の輝きを煌々と照らし出し、臨戦態勢を整える。

 しかし、それを見逃そうとしない裁定者が、殺意の波動を以てして狂戦士を見下ろす。

 

 

(オレ)の治める世に、煩わしい蠅など要らん。吼え滾って己の矮小さを誇示する事しかできんのならば―――その醜い貌など要らんだろう」

 

 己が主君への憎悪のみに駆られる不忠者など、ギルガメッシュにしてみればさして見るべき取り柄もない存在だ。

 一言で言うならば、彼は白けたのだ。これ以上煩わしい咆哮を耳に入れる事を鬱陶しがった彼は、極限の殺意を内包した財の一撃で以て狂戦士を這いつくばらせようとした。だが―――

 

「URRRRRRRRRッ‼」

 

 瞬間、イスカンダルとウェイバー、そして彼の正体を未だ受け止めきれていなかったセイバーは、俄かには信じがたい光景を見た。

 何に興味を向けるでもなく、ただ愚直に二人のアルトリアに向けて突進してきたランスロット。そしてそれを背後から狙った『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』から射出された黄金剣の一振り。

 しかしランスロットは、背を向け、射出された宝剣を一瞥もしていない状況で()()()()()()()、更に速度を上げて二人に迫ったのである。

 

「そんな―――」

 

「ッ‼」

 

 呆けたままの昔の自分。それを庇うように前へ踏み出したアルトリアは、振り下ろされた宝剣の一撃と鍔競り合うように聖剣を振るった。

 第四次聖杯戦争の記憶が残る彼女にとっては、『狂化』のスキルのせいで理性が失われている筈のランスロットが何故これ程までに鋭い武威を振るう事ができるのか、そして何より、何故()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()という事についても理解していた。

 そして、時空を越えて人理修復の旅を行い、その中でランスロット()と相対した白夜もまた同じ。

 

 『無窮の武練』。心技体の完全なる合一により、如何なる精神的制約下に於いても十全な戦闘能力を発揮する事ができるスキル。これをランスロットは、最高ランクのA+ランクで体得している。

 『狂化』スキルの影響で全パラメーターが強制的に底上げされた上でのこのアドバンテージは、控えめに言ってもかなり恐ろしい。それが円卓最強と謳われた騎士であるなら、尚更だ。

 

 そして、ギルガメッシュの宝具をいとも容易く”己の宝具”として扱うそのカラクリは、彼の有する宝具の一つが齎した効果だった。

 

 『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』。敵の謀策に嵌って丸腰で戦う事を余儀なくされた際に、落ちていた楡の枝を拾ってそれを武器に戦ったという逸話から具現化したその宝具は、ランスロットが手にし、”武器”として認めた上で魔力を巡らせたモノを自身の宝具として扱う事ができるという能力を持つ。

 

 見れば確かに、今現在ランスロットがギルガメッシュから簒奪した宝剣からは黄金の輝きは既に失われ、血管のような真紅の線が剣全体を侵食していた。

 

 

「狂犬めが……(オレ)の財に触れるだけに飽き足らず、厚顔にも簒奪するか‼ 畜生の分際で王たる(オレ)を侮辱した罪を思い知るがいい‼」

 

 そして案の定、ギルガメッシュは憤怒の形相に顔を歪め、更に『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を開帳する。

 展開されたのは、50挺にも及ぶ黄金の奔流。その一つ一つが近代爆撃兵器にも匹敵する破壊力を備える事を思えば、それがどれだけ危機的状況を意味するかは推して知るべしと言ったところだ。

 

 しかしランスロットは、ここまで来ても尚ギルガメッシュの立つ方向を向こうとしない。その不遜にも過ぎる態度が更に怒りを増長させ、圧殺せんと宝具の大波が押し寄せる。

 

「先輩‼」

 

「アーチャー、迎撃に回ってくれ‼ セイバーは彼女を連れて後ろに下がって‼ マシュは流れ弾の防御に専念してくれ‼」

 

「「「了解‼」」」

 

 直後、怒涛の破壊音が川岸のみならず周辺地域を揺るがした。

 それは、地震の換算すれば震度5以上は下らない極大な被害。白夜の言葉通り動いたサーヴァントたちは幸運にもその被害に巻き込まれる事はなかったが、防波堤は大きく決壊し、未遠川はさながらモーセの十戒のごとく瞬間的に”割れた”。

 

 まさに絨毯爆撃もかくやという様相を呈し、僅か十数秒間で、戦地となった場所の周辺地域は甚大な被害を被っていた。

 住宅街は少しばかり離れていた場所に居を構えていたのが不幸中の幸いではあったが、それでも地盤沈下を起こしかねない程に強烈な振動を受けたアスファルトとコンクリートは無惨にも剥げ、砕け、見るに堪えない姿を晒していた。

 

 

「ARRRRR■■■■■――――――――ッ‼」

 

「ッ‼ やはり厄介だな、君の能力は……っ‼」

 

 しかし、それ程の攻撃に晒されたにも関わらず、ランスロットは未だに狂い暴れていた。

 その体には、一振りの宝具も刺さってはいない。寧ろその両手には、先程までの宝剣とは違い、一風変わった形状の宝槍と宝斧を携えていた。

 『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』による異常なほどの猛攻を掻い潜ったのみならず、その嵐の中で新たな武器を掴み取って尚も戦い続けるその姿には、さしものエミヤも畏怖の念を感じずにはいられない。

 干将・莫耶を手に応戦するが、拮抗した状況は長くは続かないと、白夜は客観的に見てそう感じていた。

 

『キャスター‼ 『石兵八陣(かえらずのじん)』でバーサーカーだけを閉じ込められる⁉』

 

『私もそうしたいところだがな‼ Fuck(クソッ)‼ ああも軽業師のように飛び回られたら固定するのが難しい‼ 最悪英雄王も巻き込むしかなくなるぞ‼』

 

 それはまずい、と白夜はそう直感的に思った。

 ランスロットだけならばまだしも、ギルガメッシュも同時に陣の中に巻き込めば宝具が破られるまでの時間は極端に短くなるだろう。

 そうなれば、最悪今はランスロットにのみ注がれているギルガメッシュの憎悪が此方に向く可能性もある。そうなればいよいよ状況は最悪になる。

 

 如何に複数のサーヴァントの力を借りる事ができていると言っても、無限に続く宝具の雨嵐の猛攻に加え、単一最強クラスの武力を持つランスロットが同時に襲い掛かってくればひとたまりもない。

 そうなればいよいよ―――宝具を開帳させるしかなくなってくる。

 

 白夜は奥の手も考慮の内に入れながらアルトリアの方を見ると、彼女も白夜の目を見て小さく頷いた。

 決断すべきか―――覚悟を決めて白夜が目に力を入れた瞬間、混沌とした戦場に一条の稲妻が迸った。

 

 

AAAALaLaLaLaie(アアアアラララライッ)‼」

 

 それはまさしく神威の蹂躙。地表を滑るように奔った雷は、戦車(チャリオット)の車輪と神牛の蹄という二重の破壊力を以てして()()()()()()()()()()()()

 視界外からいきなり現れた無慈悲な蹂躙に、さしものランスロットも対抗する事ができず、刃を交わし合っていたエミヤの眼前を突き抜けたイスカンダルの戦車(チャリオット)は、黒鎧の狂戦士を盛大に吹き飛ばし、川の水面を滑るように飛びながら対岸の砂利道へと叩き込んだ。

 

「ら、ライダー?」

 

 これまで戦いの様子を傍観していたイスカンダルが、この状況でこういう形で参戦してくるという事が流石に予想できなかった白夜が呆然としたような様子でそう言うと、イスカンダルは厳かな雰囲気を纏ったままに徐に口を開いた。

 

 

「成程、確かに奇襲や横槍は戦の常だ。余もそれは否定せん。

 が、元より立ち合いがあった戦に水を差した挙句、ただ徒に戦局を引っ掻き乱す輩は余は好かん。故にこの場は退場してもらった。それだけの事よ」

 

「そ、それだけの理由でガチで死ぬような突進したのかよオマエ‼ あぁもう‼ 寿命が10年は縮んだぞこのバカ‼」

 

「一々喚くでないわ坊主。それとそこの……ハクヤと言ったか。貴様の陣営に加担したわけではないという事は一応言わせてもらうぞ。そこのバビロニアの英雄王との戦に余は一切手を出さんから、そのつもりでいるが良い」

 

 すると対岸、盛大に吹き飛ばされた形になったランスロットは、瀕死の状態に陥りながらも霊体化して戦場を離脱した。その様子を見て苦々しい顔をする過去の自分を見て、アルトリアはイスカンダルの方に向き直った。

 

「ですが、感謝します征服王。助力、ではないにしても、貴方の行動で私達が助かったのもまた事実だ」

 

「ほぅ? 随分と余への敵意が薄いと見えるなブリテンの騎士王よ。もう少し意地っ張りな娘子だと踏んでおったのだが」

 

「そちらこそ流石の慧眼だ征服王。この時点で私の真名を探り当てるか」

 

「そりゃあなぁ。あの狂戦士めの真名が分かっている以上、お前さんの正体も知れるってモンだ。元より、その聖剣を見逃すような阿呆ではないわい。―――とはいえ」

 

 イスカンダルは戦車(チャリオット)の御者台から、”未熟”な方のアルトリアを見て再び口を開く。

 

「そっちの()()とは違うようだがのう」

 

「な……っ⁉ 私を愚弄するか⁉」

 

 突っかかる彼女を、アルトリアは無言のままに制した。

 その双眸に浮かんでいるのは、凡そ”自分”に向けたものとは思えない厳しい色だった。

 何も言うな。今の貴女では何を言っても無駄だ。―――まるで言外に、そう言っているように。

 

 

「……言葉の交わし合いは結構だが、まだ状況は続いているぞ」

 

 そんな中、孔明の言葉が一同を現実へと引き戻す。

 ギルガメッシュは、アルトリアたちが言葉を交わし合っている間、ランスロットが吹き飛ばされた方向を無言のままに睨み続け、憤怒の表情は未だに薄れていなかった。

 自身()をとことんまで無視し続けた挙句、嘲笑うかのように己の宝具を悉く躱し、あまつさえ奪い取って行った存在だ。まさしく、許す事などできない存在だったのだろう。

 

 すると彼は、その獅子よりも獰猛な真紅の双眸をイスカンダルの方に向けた。

 

「……何のつもりだ、雑種。あの畜生は(オレ)が誅すると言った筈だ。よもや耳に入らなかったなどとは言わせんぞ?」

 

「つってもなぁ、オイ。あのままお前さんが宝具を撃ちまくってたら余たちもタダでは済まなかったと考えると、手を出したとしても不思議ではなかろう?」

 

「知るか。元より貴様らも(オレ)が手ずから殺す雑種共だ。あの畜生に較べればまだ(オレ)の慈悲を賜るに値する雑種と思って泳がせていたが……愚弄するというのなら今すぐ死をくれてやろう」

 

 スッ、と片手を掲げる姿を見て、孔明の言葉通り未だ戦況は変わっていない事を再認識する。

 どう動けば最も最善手か―――それを瞬間的に脳内で思索していると、唐突にギルガメッシュが僅かに瞠目したような表情を浮かべ、その後に忌々し気に顔を歪めた。

 

 

「……時臣めが。ここで(オレ)に退けと言うか。―――まぁ良い。度し難い畜生めを誅し損ねた事は業腹だが、貴様らの足掻きに免じてここは見逃してやろう。

 ―――そこの雑種」

 

「え? お、俺?」

 

 ギルガメッシュが視線を向けたのは、他でもない白夜だった。

 突然指名された事に狼狽しながらも応えると、ギルガメッシュは玩具を弄ぶかのような双眸で以て嗤った。

 

「余興にも至らぬ児戯ではあったが、無聊を慰める程度には愉しめたと言っておこう。次に相見えた時は、劣らぬ足掻きを(オレ)に見せよ」

 

 褒められた―――と言うには余りにも意識の差が隔たり過ぎているため、喜びの感情などは欠片も浮かんではこなかった。寧ろ辟易とした感情が芽生えたほどだ。

 しかし幸いにもそれを表情に出す前に、ギルガメッシュは霊体化して電柱の上から姿を消していた。恐らくは、宝具のこれ以上の開帳と周囲への被害拡大を恐れた遠坂時臣が令呪を使って呼び戻したのだろう。……些か遅すぎた感じは否めないが。

 ともあれ―――。

 

 

「生き残れたかぁ……」

 

「ホントに死ぬかと思ったぁ……」

 

 白夜とウェイバーの声が重なり、白夜は思わずその場で腰を下ろした。幾度も死線は潜り抜けて来た身の上とはいえ、それでもやはり純粋な殺意を浴びせ続けられれば疲労は蓄積してしまう。

 

「まあなぁ、初陣にしちゃあちぃっとばかしキツかったとは思うが、それでもシャキッとせんか坊主。この程度で音を上げちまっていたら余と共に戦場を駆ける事などできんぞ?」

 

「マケドニアからインダス川越える辺りまで強行進軍したオマエと較べるなよぉ……」

 

 今にも気絶しかねない程に衰弱したウェイバーに喝を入れ続けるイスカンダルは、そこで白夜達の方に向き直った。

 

「さて、邪魔者は軒並みいなくなったところで余としては貴様らと一戦交えても構わんわけだが―――」

 

「最初にも言った筈だ、征服王。私たちは、貴方と事を構えるつもりはない」

 

 挑発ともとれるイスカンダルの言葉に、しかし孔明はあくまでも冷静に対応する。

 どのような状況になったとしても、最優先事項を覆すようなことがあってはならない。この場で征服王イスカンダルと矛を交わらせるというのは、最悪の状況と言っても過言ではなかった。

 

「なんだ、つまらんのう」

 

「私たちには私たちですべき事がある。それに、今宵はこちらの陣営も些か以上に消耗した。益荒男と相見える事が目的ならば、まさか疲弊した者を相手に勝鬨を挙げるなど卑怯な振る舞いはしないでしょう?」

 

「フム、どうにも貴様を相手にするとこちとら調子が狂うのう。だが一理ある。相見えるも盟を交わすも、どちらにせよ今宵は興が削がれた。今日のところは貴様の口車に乗るとしよう」

 

「感謝する」

 

 そう言い残し、イスカンダルは再び『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』を駆って冬木の空へと消えて行ってしまった。

 車輪が軋る度に撒き散らされる雷鳴の音が遠のいて行き、また一人この戦場後から離脱したのを見届け、一度の視線は第四次聖杯戦争のセイバー(アルトリア)に注がれた。

 

 

「貴女もありがとう。お陰で助かったよ、セイバー」

 

「いえ……ほとんど加勢する事もできず、力不足を痛感しました。近くにアイリスフィールを待たせていますので、今宵はこの辺りで私も失礼します」

 

 白夜が労いの言葉を掛けるも、浮かない顔で立ち去ろうとする。しかしそんな彼女に、徐にアルトリアが声を掛けた。

 

「待ちなさい、騎士王()

 

「……何でしょうか」

 

「一つ、最後に訊いておきます。―――貴女はあのバーサーカー、否、ランスロットと再び対峙した時に、躊躇いなく彼を斬れますか?」

 

 その言葉に、肩を震わせる。

 狂戦士のクラスに堕ちてまで発揮されたあの武練と、自身に対しての曇りなき憎悪。感情では認めたくなかったが、理解せざるを得なかった。

 ”アレ”は間違いなく、自分の腹心の臣であった騎士なのだと。

 

 ならば、何故? という思いが胸中を駆け巡る。

 確かに、かの騎士を罰したのは自分だ。彼女本人(アルトリア)としては王妃ギネヴィアに”女性”として在るべき生き方を選ばせてくれた彼を裁くつもりは毛頭なかったが、”騎士王”として不貞を働いた彼を咎め無く赦す事はできなかった。

 だがその罰を彼は粛々と聞き入れたし、その際に面を上げた彼の顔に、自身に対しての憎悪の感情など微塵も宿っていなかったのを覚えている。

 

 しかし今、彼は騎士として最底辺の業に堕ちてまで自分を恨み抜いている。その形容し難い罪悪感が、あの場を以てして彼女の剣を鈍らせたのだ。

 だからこそ、「躊躇いなく斬れるか」という問いに際して、彼女は即答する事ができなかった。

 

「彼の憤怒の真相を知った時、貴女は必ず再び闘気を鈍らせるでしょう。王として己の騎士を斬るという罪悪感に苛まれ、望まぬ勝利を強いられる。―――ただ聖杯を獲るという、一つの望みに突き動かされて」

 

「貴女に、一体何が―――」

 

「分かるのかと? えぇ、分かります。私はアルトリア(貴女)であり、しかし貴女とは違うアルトリア()だ。

 己の闇と向き合う事を勧めます騎士王()。そうすればもしくは―――私と同じ茨の道を辿らなくて済むかもしれないのですから」

 

「…………」

 

 その助言を聞き、しかし彼女は何も言葉を返さないままに冬木の闇の中へと消えて行った。

 その後ろ姿を見送りながら、アルトリアは自虐気味の笑みを溢す。

 

 

「……見苦しいところをお見せしました、マスター」

 

「いや、気にしないでいいよ。貴女も色々と気苦労が多そうだね」

 

「えぇ、まぁ。それ程昔の事でもない筈なのですが、どうにも未熟であった頃の自分を見ると放っておけなくて……孔明殿、貴方の気持ちが理解できたような気がします」

 

「私の場合はそれ程高尚なものではない。無知で無策で無謀な自分が腹立たしかっただけだ。―――結果的にそれが良い方向に行ったのだから、尚更な」

 

「だが、それでも”導く”という意志があるだけマシだろう。私のような大人げの欠片もない行動をするよりかは、君達のほうが幾らも人道的だとは思うがね」

 

 孔明、そしてエミヤがフォローを入れる中、マシュが「あのー……」と控えめに声を掛けて来た。

 

「そろそろ私たちもここから離れた方が良いのでは? 幾ら聖堂教会が聖杯戦争中の隠蔽工作を行ってくれているとは言え……この状況は流石にマズイかと」

 

 そう言われてみて改めて周囲を見渡してみると、その被害の凄まじさが存分に見て取れた。

 防波堤は半壊し、所々では川の流れが変わっている場所すらある。勿論周辺の街路樹や電柱は軒並み薙ぎ倒され、それによって引き起こされた停電現象が周囲一帯を襲っていた。

 一部では道路のひび割れどころか液状化現象まで引き起こされている始末であり、直接的な人的被害こそ出ていないが、弾き出される被害総額は膨大なものとなるだろう。複合施設や高層ビルなどが立ち並ぶ新都の中心部で起こらなかった事がせめてもの救いではあるだろうが。

 

 恐らく現時点でも聖堂教会の監督役のスタッフが事件隠蔽の為に東奔西走している頃合いだろうが、自治体や警察組織への根回しがあったとしても野次馬が来ないとは限らない。

 幸いにして時代は1994年。2015年程ネット環境が整っておらず、画像や動画の類が急激にネットワークを介して広まる前に対処する事は可能だ。しかしいつの時代も、人の口には戸が立てられない。誰かに見咎められる前に退散してしまうのが最も賢い選択だろう。

 

 

「て、撤収ー。地上を進んで行くと誰かに見つかるかもしれないから、もう一度地下水道網を通って行こう‼」

 

「えぇ。それが良いと思います、先輩。孔明さん、地下水道を使って深山町まで戻る事は可能ですか?」

 

「可能だ。幸い新都近くの下水道網は地上と比べてセキュリティ面は未だザルだからな。監視カメラすら設置されていない状況だ。誰かに出くわすという事もないだろう」

 

「では、我々は再び霊体化するとしましょうか」

 

「そうだな。マスター、異常事態が起こったらすぐに呼びたまえ」

 

「ありがとう」

 

 アルトリアとエミヤが霊体化したのを区切りとして、白夜達は再び下水道口から撤退を開始した。

 聖堂教会のスタッフが現場に辿り着いたのは、その僅か数分後。彼らは被害の甚大さを再確認すると共に、大規模な英霊同士の戦いの爪痕が如何に恐ろしいものであるかという事を骨の髄まで理解する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 新都を離れ、深山町の郊外に位置するマンホール。その蓋が重々しい音を立てて横にずらされ、その穴から一人の少女が顔を出し、キョロキョロと周囲を見渡す―――傍から見れば非現実的な光景だが、生憎とそれを見咎める者は誰もいなかった。

 

「先輩、周囲に人影はありません。大丈夫です」

 

 マシュはそう言うと共に先にマンホールの中から出て、先に孔明を、そして次に白夜を引っ張り上げる。そして疲労の色を僅かに残した白夜は、しかし最後にある人物を引っ張り上げた。

 

「大丈夫ですか? 上がれます?」

 

「……すまない、大丈夫だ。今は何とか、体の調子も整って来たから、な」

 

 引きずり上げたのは、幽鬼もかくやという形相を浮かべた一人の男性だった。

 痩せ衰えてところどころ骨が浮き出ている不健康な肉体は元より、土気色の顔色はお世辞にも健康体の人間が浮かべるそれではない。静脈は瘢痕のように浮かび上がり、特に男性の左半身は半分麻痺している状態だ。本来ならば、病院のベッドで絶対安静の状態の末期患者の様相を呈している。

 

 男性の名は、間桐雁夜。第四次聖杯戦争にてバーサーカーを召喚したマスターの一人であり、彼もまた聖杯を手にするという願望を抱えた参加者の一人だった。

 そんな彼を伴って白夜達が地下道から出て来たのには、理由があった。

 

 

 

 

 数時間前、面倒な人目を避けるために地下道をひたすら歩いていた白夜達一行。

 幸いな事に、水の流れは霊脈の流れにも深く起因するらしく、嘗てこの土地で大聖杯の解体作業に当たった孔明は、その地下道の入り組んだ道についても詳しかった。

 その為迷うという事はなく、そのまま行けば30分程で深山町にあるマンホールの一つから地上に出られる―――筈だった。

 

 ”それ”を発見したのはマシュだった。入り組んだ地下道の一角。掃き溜めのように異臭が充満する暗闇の中で力尽きたように倒れていた男性を発見し、白夜にそれを報告した。

 その、傍目から見ても衰弱しきった様子の男性は、常人が見れば力尽きたホームレスのように見えただろう。だが白夜は、その男性の右手に宿った赤く輝く令呪を見て、警戒心を再び強めた。

 

 孔明曰く、男性の名は間桐雁夜。

 先程まで暴走の限りを尽くしたバーサーカー・ランスロットのマスターであり、御三家の一角である間桐家の次男であるという。

 

 それを聞いた瞬間、傍らで霊体化していたアルトリアが微かに反応したが、実体化する事はなかった。

 つまるところ、彼をこの場で始末すればランスロットはいずれ魔力の欠乏に至り、消滅に至る。『単独行動』スキルを持つアーチャーであれば数日は実体化を保っていられるが、それ以外、それも特に魔力消費が激しいバーサーカーともなれば数時間程度で消滅してしまうだろう。

 

 不確定要素を残しておきたくないのならば、ここで仕留めるのも立派な行動の一つだ。しかし白夜は雁夜の脈を計り、彼がまだ生きている事を確認した後に孔明に向き直って言った。

 

 

「孔明、治癒魔術使える? 最低限、この人が歩けるくらいになるまで回復してあげてくれないかな」

 

 

 ここで斃してしまっても、デメリットの方が残る可能性が高い。

 彼が回復した後に白夜達に敵意を向けてランスロットを差し向けて来たのならば最悪だが、それでも幾許かの情報が手に入れば僥倖だ。

 しかも、彼のプロフィールを見る限り、真っ当な魔術師ではない。恐らく彼にとって有利になる条件があれば、話くらいは訊かせて貰えるだろうと踏んだのだ。

 

 結局、地下道の中でも比較的衛生面で良い場所を探し出して治癒魔術を施し、雁夜が目覚めるまでに約1時間程を費やした。

 

 目覚めた当初は予想通りかなり狼狽した様子だったが、白夜達が徒に害を加えないと真剣に伝え、それが伝わってからは特に張りつめたような緊張感もなく話を進める事ができた。

 彼はまず白夜達に、ランスロットが襲い掛かった事について謝罪をしてきた。意外な言葉に白夜が少なからず驚くと、雁夜は元々遠坂時臣のサーヴァント―――ギルガメッシュを潰させるためだけにあの場にランスロットを送り込んだらしい。

 

 しかし蓋を開けてみれば、ランスロットはギルガメッシュを視界にすら入れず、ただ二人のアルトリアに襲い掛かった。

 恐らく彼は、憎悪の念を向けるアルトリアが眼前に、それも()()()存在していた事に、ただでさえなけなしの判断力が完全崩壊し、マスターの命を無視して攻撃して来たのだろうと推測した。

 そうでなくとも、バーサーカーというクラスで召喚されたサーヴァントは無軌道だ。戦場で、それもあんな混沌とした状況の中で思い通りに動くはずもない。だからこそ謝罪を向けられるのもおかしな話ではあったのだが、根っからの魔術師ではない雁夜にとっては、それは単に「迷惑をかけた行為」であったらしい。

 

 

「……君たちは、いや、君たちも、聖杯戦争の参加者、なのか?」

 

 断続的に引き起こされているらしい動悸で呼吸が整っていない状況で、雁夜は白夜に対して問いかけた。それに対して白夜は―――

 

「いえ、聖杯戦争の参加者ではありません。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 という、決して嘘はついていない回答を残した。

 可能であればバーサーカー陣営とも敵対したくはないという彼の言葉は、一先ず雁夜から疑心暗鬼にも似た警戒心を取り除く事に成功したが、彼の抱えるサーヴァントが”バーサーカー”である以上、敵対しなくてはならない可能性は高いのだ。

 

 間桐雁夜が聖杯を求める理由―――それは訊かなかったが、それでも彼が並々ならぬ執念を以てこの戦争に参加したのは充分に見て取れた。

 恐らく彼は元々、マスターとして聖杯に選ばれるだけの力量を持った魔術師ではなかったのだろう。そんな彼が間桐という実家を出奔し、そして聖杯戦争直前になって再びその門を叩いた理由は知らない。

 しかし孔明曰く、彼は間桐の家系が代々継承してきた蟲を扱う魔術をその身に重ね掛けて無理矢理魔力と魔術回路を拡大したという。僅か1年という短い月日でそのような肉体改造を行えばどうなるかなど、そんな事は白夜でも理解できる。

 

 推測するに彼の肉体は、もう数ヶ月と保つまい。

 この男性が聖杯を獲ったところで、自身の肉体の回復などという陳腐な事を望まない事くらいは分かる。彼は己の身を犠牲にしてまで叶えたい望みが確かにあるのだ。

 

 その想い自体は素直に好感が持てた。魔術師とは違う世界で生きながら、それでも望みを果たすために敢えて命を張って虎穴に飛び込むその気概は、応援してあげたいと切に思う。

 だが、現実は非情だ。彼に聖杯を獲らせるわけにはいかず、その行動を白夜達は止めなければならない。

 

 

「……よかったら、地上まで送りましょうか? 自分達も、深山町まで帰るところだったんで」

 

「あ、あぁ。それは願ってもないけれど……なんでそこまで、してくれるんだ?」

 

 雁夜のその言葉に白夜は一瞬息を忘れ、しかし次の瞬間には偽らざる言葉が口から出て来た。

 

 

「まぁ、何と言うか、魔術師らしくない魔術師の縁って事ですよ。貴方を助けたのも俺の勝手な行動みたいなもんです。別に何かを強請ろうってワケじゃないですからね」

 

「魔術師らしくない、魔術師か。確かに君は、何と言うか……”魔術師”らしくない。あぁ、勿論良い意味で、だ」

 

「お互い様です。信じてくれました?」

 

「一応、な。助けてくれたことには感謝するよ。ありがとう」

 

 

 そうしたやりとりを経て、雁夜の症状が落ち着くまでにかかった時間は更に数時間。

 気付けばこの世界の標準時に合わせた時計は午前5時を指しており、完全に夜が明けていた。とはいえ、季節は冬であり、未だ辺りが薄暗かった為に地上に出る際にも特に困るような事はなかった。

 

 早朝特有の刺すような寒さに身を震わせながら、歩く事十数分。覚束ない足取りで歩いていた雁夜が、白夜の方を振り向いて薄く微笑んだ。

 

「ここまでで大丈夫だ。……一つ言っておくと、あまり間桐邸(ウチ)には近寄らない方が良い。陰湿極まりない糞爺の蟲共が徘徊しているからな」

 

「えぇ。雁夜さんもお大事に」

 

 と言ったところで彼が自分の体を案じる事などない事は分かっていたが、それでも言わずにはいられなかったというのが本音だ。

 そのまま雁夜が門を開けて自邸に入っていくところを見届けてから、マシュ、孔明と顔を合わせる。

 

「雁夜さん……どことなく哀しい顔をしていましたね。先の見えない(うろ)の中を歩いているような、そんな感じです」

 

「全く、君のお人好しも大概だな、マスター。とはいえ、秘密裏に間桐雁夜とコンタクトが取れたのは収穫だ。君としては、そんなつもりはなかったんだろうがな」

 

「まぁね。……ところで孔明、雁夜さんの言ってた”糞爺”って―――」

 

「あぁ。間桐家の当主にして、数世紀の長きにわたって延命を重ねていた老魔術師、間桐臓碩。―――嘗てはマキリ・ゾォルケンと言う名だったそうだがな」

 

「っ‼ 先輩、マキリ・ゾォルケンという名前は、確か……」

 

 マシュの言葉に、白夜は頷いた。

 

 第四特異点『死界魔霧都市(ミストシティ)』ロンドン。その特異点にて”M”のコードネームで呼ばれ、第四特異点を焼却する『魔霧計画』を主導していた人物こそが、マキリ・ゾォルケンだった。

 しかし、白夜達が出会ったその人物は、高潔な理想を抱いた若者という雰囲気であった。結果的に彼はその理想の高さゆえに魔術師として格の違い過ぎる存在―――グランドキャスター・ソロモンへの抵抗を諦めざるを得なかった。

 

 それがこの時代では、重ねた年月と共に腐敗した魂によって似ても似つかぬ外道に堕ちてしまったらしい。時の流れ、そして精神の腐敗というのはかくも容易にヒトの心を壊してしまう―――それを白夜は痛感した。

 

 

 気付けば、白夜の足は間桐邸の方へと向かっていた。

 無論、屋敷の敷地内に入るつもりは毛頭ない。ただその妄執の詰まった屋敷がどういったものかと一目見るだけに留めるつもりだった。

 

 しかし屋敷の上階部分。幾つもの豪奢な窓ガラスが並ぶその先に、一人の人物を見てしまう。

 

 

「? あれって―――女の子?」

 

「え? あ、はい。そうですね。間桐の家系の女の子でしょうか?」

 

 何かをするでもなく、恐らくは寝間着らしい服を纏った薄紫色の髪をした少女が、白夜達の方をずっと見ていた。

 遠目だったために白夜には良くは分からなかったが―――しかしサーヴァントとして五感が鋭くなったマシュが、その少女のとある箇所を見て思わず眉を顰める。

 

「せ、先輩。あの子……」

 

「?」

 

「目が……目に光が、宿っていません」

 

 失明をしている、という意味合いの言葉ではないという事は理解できた。他ならない人間に近い感覚を持つマシュが嫌悪感も露わにそう言うという事は、つまり()()()()()なのだろう。

 しかし、マシュにそう言われた白夜が再び少女を見ようところで、孔明に制された。

 

「やめておきたまえ、マスター。これ以上あの少女に関わらん方が良い」

 

「え? ……何で?」

 

「関われば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 紫煙を燻らせながら冷ややかにそう言う孔明の声色は、いつものそれよりも一段階低かった。

 その言葉と横顔を見る限り、彼は本気でそう言っているのだろう。関わっても何も良い事がない。寧ろ損をすると、彼は断言しているのだ。

 

 確かに、ここで自分が首を突っ込む必要がないという事は白夜自身が一番良く分かっていた。

 あれこれ構わず首を突っ込んで全てを良い結果に導けるほど器用ではないし、節操なく足を踏み入れたところで、大前提の目標を達成できなくなれば元の木阿弥だ。

 選べる選択肢は、可能な限り絞らなくてはならない。関わって良い事案と、そうでない事案。そしてその中でもあの少女に関する事案は、彼曰く”特級の爆弾”なのだろう。

 

 気付けば、エミヤが傍に実体化していた。

 普段は皮肉屋な一面を見せる彼だが、彼がマシュと同じ場所を見ている目は厳しい。

 

 

「教授の言っている事は正しい。君は、この案件に首を突っ込むべきではない」

 

「アーチャー……」

 

「元より特異点の下で起こっている事だ。聖杯を破壊し、世界が修正されれば”なかった”事になる泡沫の夢。君が動いたところで、根本的な解決にはならないからな」

 

 そのエミヤの言葉が、白夜の心に重くのしかかる。

 それは、今までの時代でも経験して来た事だ。どれだけ鮮烈に戦っても、どれだけの希望を残しても、世界の修正が成った後は、人類史は再び”在るべき形”を辿り始める。

 

 分かっている筈だ。分かっていた筈だ。―――それでも形容し難い悔しさが胸中に飛来するのは何故だろうか。あの少女が今まで辿ってきた半生しか知らない身で、しかしこれだけ悔しく思うのは何故なのか。

 気付けば白夜は、振り絞るようにしてエミヤに問いを投げていた。

 

「アーチャー、いや、エミヤ。じゃあこれだけ訊いてもいいかな?」

 

「……何かね?」

 

 彼ならば答えてくれると、そういう根拠のない希望を抱いて。

 

 

「あの子の名前は、何て言うの?」

 

 

「―――間桐桜。この時代、この段階で、冬木で最も救われていない存在を選ぶとすれば、それは間違いなく彼女だろうな」

 

 

 その名と、その言葉をしっかりと胸の中に刻み込んで、白夜は間桐邸を後にする。

 肌を刺すような凍える空気が、何故か一層強まったような、そんな感触が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






Q:戦いの流れが原作Zeroの倉庫街の戦いと同じなんですがそれは。
A:普通に白夜陣営だけでもランスロさんを撃退する事は可能だったのですが、そうなるとイスカンダルさんが空気になっちゃうから仕方なかった。

Q:結局ランスロさんはゴッド・ブル轢き逃げされるんか。
A:古代マケドニアには道交法とかないからね仕方ないね。

Q:ヤバい白夜君。AUOにロックオンされた?
A:されちゃった☆

Q:被害総額で監督役涙目。
A:仕事だろぉ?(煽り)

Q:桜ちゃん救済ルートありますか⁉
A:作者としては彼女の救済は未来の主人公に任せたいけど、ケリィがいないこの世界線だとその状況にならない可能性が高い。
 その為……どうしましょうか。


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