Fate/Turn ZeroOrder   作:十三

3 / 25



 火のアイリスフィールは害悪(※個人の感想です)。どうも、十三です。

 今回は原作通りのところが多いですかね。最初の方はキッチリしておかないと後が大変なので。一応ゲームでは出てこなかった陣営の様子もチラッとは出しています。まぁ……こうなるよね。

 以前と引き続き、ツッコミどころはあとがきに書いておきました。






ACT-3 「御三家の苦悩」

 

 

 

 

 

 結局のところ、少年が考え付いた策は主観的観点から見れば凡庸なものだった。一芝居打つために必要な演技力など持ち合わせていなかったから最終的には孔明に任せるハメになってしまったが、それでも作戦自体は成功したと言えるだろう。

 

 

「アイリスフィール・フォン・アインツベルン。ご覧の通りだ、他陣営のサーヴァントに気付かれた可能性が高い。今はウチのサーヴァントが押し留めてはいるが、いつそちらに矛が向くかは分からん。此処は互いに痛み分けとするのが得策かと思うが、如何に」

 

 当初の策としてはアーチャー―――エミヤに戦闘に支障がない場所を派手に痕跡が残るように狙撃して他陣営のサーヴァントの襲撃を装い、自然流れで退却してもらう腹積もりだったが、プランは多少変更せざるを得なかった。

 現実主義なエミヤが「自分の勘」という曖昧な理由を押し通してまで倒すべきと進言した敵がいた事は少々予想外だったが、少年はそれを了承した。代わりに「派手に暴れてくれ」という条件を提示して。

 

 そうする事で、『襲撃して来た他陣営のサーヴァントをこちらのサーヴァントが迎撃している』という状況を限定的ながら作る事ができた。

 爆発音に反応して一瞬だけ相手の視線が逸らされた瞬間に孔明とアイコンタクトを取ると、彼はまるで深い嘆息をしたくなるかのような表情を浮かべ、しかし次の瞬間には見事に一芝居を打ってくれた。

 

 

 その孔明の言葉と今までの戦況で、恐らくあちら側が察したであろう情報は三つ。

 

 一つは、互いのセイバーの実力が現時点では拮抗しているという事。一対一の決闘式ではなく、バトルロワイヤル形式の聖杯戦争において、早期に決着がつきそうにない勝負というのはなるべく避けた方が互いの利益になる。漁夫の利を狙う他陣営のサーヴァントが乱入しようものならば、共倒れになる可能性が高いからだ。

 

 二つ目は、その宜しくない状況である他陣営のサーヴァントが乱入して来たという事。実際にはこちらから仕掛けた形になるのだが、今の段階ではそれを察する術はあちらにはない。撤退を考えるには充分な要因となりえるだろう。

 

 そして三つめ、こちら側が複数のサーヴァントを従えているという事だ。聖杯戦争の大前提として、自らのサーヴァントを失ったマスターが再び聖杯から令呪を授けられ、マスターを失った他陣営のはぐれサーヴァントと再契約するという敗者復活戦のようなルールは存在するものの、一人のマスターが同時に複数騎のサーヴァントを抱えるといった状況は有り得ない。

 それを知らしめるという事は自分達がイレギュラーである事を公言するようなものだが、それもまぁ、今更だ。

 

 

「……そうね。その提言は受け入れましょう」

 

「良いのですか? アイリスフィール」

 

「えぇ。元より聖杯戦争はまだ序盤だもの。ここで焦って貴方に甚大な被害を負わせるわけにはいかないわ。―――貴方方が撤退中の私たちの背中を狙う蛮族(バーバリアン)でない事を祈りましょう」

 

「そこは安心していただいて構わない。こちらとしても貴女方との決着はこんな場所で着けるべきではないと考えているのでね」

 

 孔明がそう言ったところで、アイリスフィールの表情は苦々しいそれのまま崩れない。

 恐らくはこれが芝居だという事を彼女は理解しているのだろう。理解した上で、この場ではその筋書きに乗る事を良しとした。

 状況に臨機応変に対応でき、戦局を見極める事ができる聡明な人物だ。そしてそれを全てひっくるめた上で苦々しく思うという事はマスターとしての矜持も持ち合わせている。

 積極的に敵対しない方向で行くのは助かったと、少年は胸の内で密かに安堵の息を漏らした。

 

 そして他方では、アルトリア同士が未だ警戒の解かない眼で互いを見据え合っていた。

 とはいえ、戦闘を行う事は既にご法度だ。あちらのセイバーは既にダークスーツの姿に戻り、アルトリアも鎧を脱いだ青のドレス姿に戻っている。

 

「……己と戦うなどと珍妙な事ではありましたが、同時に得難い経験だった。いずれまた、尋常な勝負を所望したいものです」

 

「それはこちらの言葉です。……些か腑に落ちない点が幾つかありましたが、まぁそれはこの際置いておきましょう。私が思っていたよりも、その剣には曇りがない。矛を交わせる事には異存はない」

 

 己同士であるが故か、交わすのはそれらの言葉だけで充分だったようだ。

 何とか収まるところに収まってくれた事に少年が安堵していると、不意にダークスーツ姿のセイバーが彼に視線を向けて来た。

 

「貴方がわた―――コホン、そちらのセイバーのマスターですか?」

 

「え? あ、あぁ。うん」

 

 思わず反射神経気味に答えてしまうと、セイバーはどこか不敵な笑みを浮かべてみせる。

 

「敵ながら、見事な手腕でした。できれば名を訊いておきたいところですが」

 

「名前? 俺の?」

 

 ふむ、と一瞬考え込む。

 聖杯戦争において、サーヴァントの真明は基本的に秘匿すべき情報だ。それは変わらない。

 だが、マスターの名前というものは事前準備などがあれば大抵の事は分かってしまう筈だ。その上、自分はこの世界軸の人間ですらない。知られたところで、特に害はないだろう。

 そういう結論に至り、褒められた事にこそばゆい感情を抱きながら答えてみせる。

 

 

「別に訊いても得なんかないと思うけどね。―――俺は岸波、岸波白夜(きしなみはくや)。ただの日本出身の、しがない三流魔術師だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――未遠川倉庫街付近で起こった戦闘は痛み分けで終了した様子です。また、その付近で勃発した戦闘も、同様に終了した模様です」

 

 

 戦闘が行われた倉庫街より、南東に約15キロ離れた丘の上。そこに屹立するのは、この聖杯戦争における聖堂教会の監督役が拠点とする冬木教会。

 その地下室にて、今一人の男が偵察の結果を滔々と報告していた。

 

 一分の隙もなく僧衣を着込んだその男の名は、言峰綺礼。今回の聖杯戦争における監督役である言峰璃正の嫡男であり、アサシン《百の貌》のハサンのマスターでもあった。

 しかし彼に、聖杯戦争を独力で戦い抜き、聖杯を手にする渇望はない。彼のこの戦いにおいての役割はただ一つ。間諜のサーヴァントとしてこれ以上ない程のアドバンテージを持つハサンを扱い、とある人物を聖杯戦争の唯一の勝者に仕立て上げる事にある。

 

『そうか……しかしどうなっている? まさか二人のセイバーが相対し、あまつさえ容貌が瓜二つだと?』

 

 綺礼の眼前に設置されているのは、真鍮製の朝顔のような形を象った通信用の魔道具。その声が繋がる先は、未遠川を越えた先、深山町にある冬木を管理するセカンドオーナー、遠坂家の地下工房。

 今代において、良質な霊脈が幾つも渦巻くこの冬木という地を管理する任を担っているのは遠坂時臣。この度アーチャーのサーヴァントを召喚して聖杯戦争に参戦している彼は、しかし協力関係を敷いている綺礼からの報告を聞いて少なからず狼狽している様子だった。

 

「それについては―――申し訳ありませんが見当もついていないのが現状です。父の所有する霊器盤は、本日の夕刻から大いに狂っている有様でして」

 

『確認されただけで―――どのくらい増えた?』

 

「はい。セイバー、アーチャー、キャスター、アサシン……それに正常に魔力波が掴めないサーヴァントが一人。恐らく、エクストラクラスかと思われます」

 

『5体……だと⁉』

 

 瞠目した様子の時臣だったが、内心では綺礼も忸怩たる思いを抱いていた。

 

 遡る事数時間前の夕刻、冬木大橋の袂付近で異常なほどの魔力反応が検知された。既に冬木市全域にアサシンの監視網を敷いていた綺礼はそのポイントに向けて一体のハサンを差し向けたのだが―――高ランクの『気配遮断』スキルを持っているのも関わらずその潜伏は看破され、逆に仕留められるという結果に終わったのだ。

 その後は危険性も加味して複数体のアサシンを放ったが、奇妙奇天烈な結界に阻まれて監視すら不可能という有様。漸く埠頭付近で戦闘を開始したかと思えば、開戦直後に偵察していたハサンは視覚外から狙撃されて脱落するという有様だ。

 

 異様なほどの周到さは、昨晩に時臣と綺礼が打った一芝居―――アーチャーにアサシンを撃破させ、アサシンの脱落を他のマスターに確認させる―――を看破しているのみならず、まるでこちらが打つ手を逐一読み切っているかのような手腕だった。

 結果的に綺礼は、望遠に長けたハサンの個体を遠方に配置し、そこから戦局を眺める事しかできなかった。そのせいで、視覚情報は手に入れられたが、音声情報までは拾えなかった。

 

 だから、知りようがない。アインツベルンの陣営と相対して、その後ケイネス・エルメロイの陣営と何事かの取引きをしていたあの連中が、何者であるかという事を。

 

『その5体のサーヴァントは……まさか、同一のマスターが率いていると?』

 

「……確認した限りでは、アサシンのサーヴァントは敵対している様子でしたが、他4体に関しては―――導師の仰る通りかと」

 

『なん……という……』

 

 絶句する感情も理解できる。そもそもサーヴァントを複数体従える事そのものが異常と称するしかない事態なのだ。

 それに加え、実体化しているとはいえ本性は霊体でしかないサーヴァントは、現界するだけでも魔力を消費する。戦闘を行うというならば尚更であり、その消費魔力はマスターが負担するのが基本だ。

 その大前提で考えれば、4体もサーヴァントを抱えている時点でマスターは膨大な量の魔力を吸い上げられている事になる。抜け道は幾らかあるのだろうが、それにしても尋常とは言い難い。

 

『その、マスターの特徴は? さぞや名のある魔術師―――という線はないか。それならば璃正神父の耳にも入るだろう』

 

「確認した限りでは、黒髪の少年です。一見、何の変哲もない凡庸な人物に見えますが―――」

 

『? どうしたのかね』

 

「……いえ、何でもありません。ともあれ、イレギュラーな事態が発生した事は確かです。如何なさいましょう」

 

 何かの言葉を呑み込み、綺礼は時臣の判断を促す。すると、通信魔道具の向こうから返って来たのは、一先ず静観する旨の判断だった。

 

『確かに由々しき事態ではあるが、状況はそれ程変化してきていないのもまた事実だ。それに例え4体がかりであったとしても、英雄王の宝具には敵うまい』

 

「…………」

 

『綺礼、君は引き続きアサシンを用いての諜報を。それに、璃正神父に彼らの対して教会に赴くようにとの旨の連絡を飛ばすように伝えておいてくれ』

 

「承知いたしました。我が師よ」

 

 その言葉を最後に、魔道具からの声は途絶えた。

 

 綺礼は、そのまま魔道具の隣に設けてあった椅子に座り込むと、双眸を閉ざして再び先程までの戦いを瞼の裏に思い返す。

 見ていたのは、サーヴァントとの共感知覚の能力によってアサシンが眺めていたそれと全く同じものだ。あの戦いで綺礼が注目していたのはセイバーとセイバー、アーチャーとアサシンの戦いの趨勢も勿論であったが、とみに気になったのは先程彼自身が”変哲のない凡庸な人物”という報告をしたマスターらしき少年の事だった。

 

 実のところ、綺礼は彼の事を凡庸だとは思っていなかった。確かに戦場に於ける立ち位置や体の置き方などは熟練者のそれには見えないが、その視線の動きは確実に2騎のセイバーの動きを逐一捉えて把握していたように見えたのだ。

 聖堂教会の代行者―――魔術師狩りの達人として武術を修めている彼だからこそ分かる。その行動が、どれだけ異常な事であるかという事を。

 実際綺礼でさえ、高速機動するサーヴァントの行動を余すところなく捉えるのは難しい。それはある意味当然の事。未だ30年近くしか生きていない人間が、伝説となり、精霊に近しい存在まで昇華された幻想の体現者である英霊の本気の挙動に反射速度で追いつくのは、生半可な事ではないのだから。

 

 

「(観察眼と戦術眼に長け、更に4騎のサーヴァントを従える……否、確認されていないだけでそれ以上も有り得るという事か)」

 

 そこまで考え、綺礼は再び目を開いた。儚く輝き、時々不安定に消えかかる室内の灯が、まるで己の心情を表しているかのようであり、内心で苦笑しかけた。

 

「(そこまでして彼には、聖杯に託すべき願いがあるという事か?)」

 

 聖杯戦争の原則ルールを完全に無視してまで参戦した異色のマスター。一体どんな抜け道を使って4騎ものサーヴァントを従えているのかは知らないが、そこまでしておいて戦局をただ荒らし回るだけが目的だとは考えにくい。だとすれば彼もまた、聖杯を得るために参戦したのだという事だ。

 

「(一体―――何を求めて?)」

 

 言峰綺礼は空虚な人間だ。幼い頃よりその心は、何事であろうとも満たされない不可解な(あな)が存在していた。

 何を以てすればそれを満たす事ができるのか。彼の半生は、それを探すための探求の人生だったと言っても過言ではない。その為にあらゆる事にのめり込もうとするも、それが己が求めていなかった事だと理解した直後にはまるで無価値な屑紙であったかのように投げ捨てた。それを培うために費やしてきた年月も金も、全く興味がないと言わんばかりに。

 

 気付けば彼は父と同じ聖堂教会の関係者になっていたのみならず、異端狩りのエリート中のエリート、武を以て魔を滅殺する”代行者”にまでなっていた。

 しかし人であれば羨むような経歴を積み上げて来たのにも拘らず、未だに彼の虚は塞がらない。数年前に妻と死別してからは、寧ろより一層それが顕著になってきた衒いがある。

 

 故に彼は、右手の甲に令呪を宿し、親交のあった遠坂家の協力者として聖杯戦争に参加する事が決定した時、またとない機会と内心で思った事があった。

 聖杯に選ばれた魔術師が、英霊を使役して行う代理戦争。彼らはそれぞれ聖杯に託する想いと祈りを持って終結する。その渇望の中には―――自分が今まで寡聞にして知らなかったモノがきっとある筈だ、と。

 

「(探ってみる、価値はあるか)」

 

 そんな中で見つけたのは、素性も狙いも全く不明なマスター。凡庸な容貌をしていながら、しかし秘めた才覚は本物だろう。そんな彼が一体何を求め、この冬木にやってきたのか。

 

 

「―――お呼びでしょうか、綺礼様」

 

 念話で命を出すと、すぐさま眼前に髑髏のサーヴァントが現れる。

 綺礼自身は初日での遠坂時臣との芝居により『サーヴァントを失い、身柄の保護を求めて冬木教会にやってきた敗残兵』という事になっている。その為、自らの足で出歩く事が叶わない。

 故にこそ、諜報に関しては自らのサーヴァントに委ねるしか他はないのだ。

 

「例の正体不明のマスターの情報を探れ。くれぐれも、直接手を掛けようとはするな」

 

「御意」

 

 主の指示に、ただその一言だけを返して再び霊体化するアサシン。

 

 無論これは、時臣の命とは関係のない事柄だ。以前の、それこそ遠坂家を援護するためだけの使い捨ての駒としての己しか自覚していなかった時の彼からすれば考えられなかった事だろう。

 結果的にそれは時臣の利になる事かもしれないが、僭越な行為には変わらない。―――しかし綺礼は、その命を出したことに罪悪感は一切なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

「どう? マシュ。できる?」

 

「っ―――ご、ごめんなさい先輩。やはり無理そうです」

 

 

 激闘から一夜が明けた翌日の昼間。

 再び前日休息を取っていた郊外の一角に戻ってきた面々は軽く一休みをした後、とある作業に取り掛かっていた。

 

 それは、いままでの特異点でも行っていた魔力が収束する霊脈を探してのサークルポイントの設置。これを行う事でカルデア、特に『守護英霊召喚システム・フェイト』からのサポートを万全に受ける事ができるため、カルデアからのまともな支援が受けられない特異点においてこの作業は生死を分ける重要なものだと言っても差し支えがない。

 

 だが、これまでの特異点ではそれほど梃子摺る事なく行えてきたこの作業が、この時代の冬木においては何とも難しい作業であったのだ。

 

 

「ふむ、予想していたとはいえやはり難しいか。管理者が十全に機能している状態では、霊脈に干渉するのは困難だ。一度間を置くとしよう」

 

「だってさ。ほら、もういいよマシュ。ご苦労様」

 

「……はい」

 

 優しく肩を叩いて労う少年―――白夜の言葉に、マシュは項垂れながらも媒介としていた己の聖遺物である巨大な十字盾を持ち上げる。

 

土地の管理者(セカンドオーナー)……それについても孔明は知ってるんだよね?」

 

「あぁ。この冬木の地は、代々遠坂家が魔術協会から委託されて土地を管理している。……それについては君も知っているだろう? エミヤ」

 

「―――あぁ。その通りだ」

 

 孔明の声に応じて現界したのはエミヤ。時間軸においてはこの第四次聖杯戦争の10年後に勃発した第五次聖杯戦争にアーチャーのサーヴァントとして―――遠坂家の人間に召喚されたらしい彼は、僅かに懐古の念を浮かべた表情で頷いた。

 

「私が召喚された頃はともかく、この時代の遠坂はセカンドオーナーとして十全な力を持っていただろう。それを潜り抜けて霊脈に干渉するのは生半可な事ではないぞ」

 

 エミヤのその言葉を聞き、銜えていた葉巻を手にして紫煙を吐き出した孔明は舌打ち交じりに言った。

 

「まぁそれでも一縷の望みを賭けてやってはみたが……駄目だな。彼女の父親らしい質実剛健な結界だ。気は進まんが、実力行使で行くしかないだろうな」

 

「え? ちょ、待、実力行使って何? 何するつもり? まさか遠坂邸に殴り込んで肉体言語で認めさせるつもり?」

 

「フッ、まさか。昨夜ミセス・アイリスフィールにも言っただろう。我々は蛮族などでは決してない。そんな愚かな事はしないさ」

 

「そ、そうだよね。あー、よかった。危うく犯罪者になるところだっ―――」

 

 

「遠坂が結界の要所に配置している要石を一つ残らず壊しに行く。それでオールオッケーだ」

 

 

「やってる事やっぱ変わってないじゃん‼ 侵略者じゃん‼ しかも手痛いしっぺ返しが来る事前提のタチが悪すぎるヤツじゃないか‼」

 

 一般的な魔術師の思考とは縁がない白夜ですら、その程度の事は常識的に理解できる。いわば比喩でもなんでもなく、遠坂家にしてみれば自分の庭を土足で踏み荒らされるような行為なのだ。これを外道と呼ばずして何と呼べばいい。

 

「全部ぶっ壊す必要はないんじゃないの? その……要石とやらを幾つか壊せば、綻びは出てくる筈だからそこから介入すれば―――」

 

「いや、ダメだ。次代の遠坂ならば確かにそういう構造にしていた可能性は、まぁ否定できんが、遠坂時臣は典型的な”魔術師”であり、”貴族”だ。己の領分を荒らされるような可能性は隅の隅まで潰しているだろう。

 恐らく要石は、最後の一つまで潰さなくては外部から霊脈には介入できん。尤も、聖杯クラスの秘蹟であれば話は別だろうがな」

 

「うーわー……」

 

 これまでに訪れた特異点では、良質の霊脈が集まるポイントに対して何ら魔術的加工が為されていなかった為に難なくサークルポイントを設置する事ができたが、今回に限ってはそうもいかないらしい。

 自ら厄介事に足を突っ込んでいる自覚があるからこそ、なるべく無用な厄介事を招き寄せないようにという心構えでやって来ていたつもりではあったが、2日目にして既に破綻の様相を呈してきた。

 

 これを実行に移してしまえば、遠坂陣営との共闘は万が一にも可能性がなくなる。領地を荒らしに荒らしておいてしれっとした顔で「同盟結びませんか?」などと言いに来ればとりあえずタコ殴りは必至だろう。多分自分でもそうする。

 

「……ねぇ、マシュ」

 

「はい」

 

「これもしかしなくてもさ、聖杯戦争云々の前に聖堂教会の監督役に目の敵にされるんじゃない?」

 

 一歩間違えれば、否、一歩間違えなくてもテロの領域だ。勿論、霊脈を乱しに乱しておいて無関係な風を装い「管理者の監督不行き届きでしょ」などとのたまう事に関しての罪悪感というのもあるが、それ以前に膨大なエネルギーであるマナの流れに人為的に変調を与えるような事があれば、それは最悪の場合魔術師だけではなく一般人の生活にも甚大な被害を及ぼす恐れがある。―――その事を白夜は、カルデアで受講している『良く分かるキャスターの魔術講座』で聞いて知っていた。

 

 無論そうなれば、聖杯戦争以前に秘匿されるべき魔術の存在が公になる可能性があるという事で監督役が出張ってきてもおかしくない。最悪の場合、聖堂教会と魔術協会の双方から命を狙われる可能性すらある。

 とはいえ後者の方は、自分たちは長くこの世界に留まるつもりはないので懸念すべき事ではない。が、監督役がまるっと敵に回るのは何としても避けたいと思うのは普通の事だ。

 

「そう……ですね。最悪監督役権限で全ての陣営から狙われる事になるかもしれません。そうなれば流石に……」

 

「私が召喚された第五次聖杯戦争の監督役ならばとやかく言うどころか寧ろ面白がりそうなモノだが……それは高望みが過ぎるというものか」

 

 マシュやエミヤらと揃って唸っていると、孔明はやはり狼狽した様子は見せずに言い放ってみせた。

 

「安心したまえ。大元である円蔵山のマナを乱せば確かに万が一があるかもしれないが、遠坂邸を中心とした霊脈はそれなりではあるが極上には一歩及ばん。結界を解除したところで精々が魔術師が僅かな違和感を感じる程度のモノだろうよ。

 監督役についても今のところは問題ない。要は監督役の指示に従うよりもこちらの同盟に利益があると思わせる事ができれば良いのだからな。―――それに、第四次聖杯戦争の遠坂陣営は監督役とグルだったという報告もある。我々がイレギュラーである以上、どの道敵視されるのは避けられん」

 

 

 孔明曰く、冬木の聖杯は第三次聖杯戦争の時点で既に黒く汚染され、願望器などといった清純なモノとはかけ離れた存在になっているという。

 否、それ以前にこの聖杯戦争という存在そのものがマスター、サーヴァント双方の願望を叶えるために執り行われたものではない。遥か昔にアインツベルン、マキリ、遠坂の『始まりの御三家』と呼ばれる面々が、()()()()()()7()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()為に用意した舞台であって、即ち御三家以外の外様のマスターは”願望器”という餌に釣られて集まった愚かな衆愚でしかないのだ。

 

 つまるところ、大前提からして既に狂っているのにも関わらず、前回の第三次聖杯戦争でアインツベルンが”余計な事”をしでかしてくれた所為で更に狂ってしまったのがこの聖杯戦争なのである。

 例えその真相を知らないマスターが最後まで勝ち抜き、聖杯に願いを託したとしても、その願いは歪み捩子くれた形で叶えられ、この世を絶望と破壊で染め上げてしまう。

 

 故にこそ、この時間軸におけるカルデアの最終目的は『聖杯の封印、もしくは破壊』なのである。狂いに狂って汚泥を吐き出す事しかできない聖杯など、回収する意味すらないのだから。

 

 

「聖杯は、サーヴァントの魂が5騎分捧げられた時点で活動を開始する。つまり、脱落させる事ができるサーヴァントは4騎までという事だ」

 

 この第四次聖杯戦争において必ず脱落させなくてはならないサーヴァントは、アサシン、キャスター、そしてアーチャーの3騎。

 キャスターは元より話の通じない人格破綻者であり、殺人鬼。アーチャーはそれとはまた方向性が違うがやはり話は通じない。下手をすれば要らぬ厄介事を招き寄せる可能性がある。アサシンは、アーチャー陣営―――つまり遠坂家と結託しているため、どの道敵対は避けられない。

 一番の不安定要素はバーサーカー。『狂化』のスキルが固定で掛かっている以上、マスター次第で敵にも味方にもなる。安全牌とは言い難く、最悪の場合はこちらも敵に回す事になる。

 

 この時点で4騎。だからこそ孔明は、セイバー、ランサー、ライダーの陣営とは本当の意味で矛を交える事を良しとしなかったのだ。

 

 故に彼は、セイバー陣営が去った後の埠頭でランサー陣営とも話をつけ、本日の夜10時に会談の席を設けさせた。その辺りの抜かりない手腕は、流石時計塔のロードの一人であり、世界に名を轟かせる名軍師に認められた男と言うべきだろう。

 ―――ライダー陣営との交渉に関しては、晴れない顔をしていたのが気になる事ではあるが。

 

 

「さて、話はここまでだ。兵は拙速を貴ぶ。早速動くぞ」

 

「ごめんなさい遠坂さん。謝って済む問題じゃ多分ないけどゴメンナサイ」

 

「罪悪感が凄いですが……やるしかありませんよね」

 

「因果応報が巡ってくる前に片づけられるかが勝負だな」

 

「気は進みませんが……仕方ありません。私も力になりましょう」

 

 マシュに孔明、エミヤにアルトリア。

 孔明以外の面々は、心のどこかで腑に落ちない感情を抱きながらも、特異点の修復という理念で動いている以上、それを果たすために動くのは吝かではない。

 恐らく遠坂家は尋常でないくらいの被害を被る事になるだろう。それに関して白夜は―――もうひたすら謝罪の言葉を言い続ける事でしか、贖罪とする事しかできなかった。

 

 

 遠坂家が要石の守護の為に設置した宝石ゴーレムが木っ端微塵に破壊され、戦端が開いたのはそれから数時間後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q:おい、この主人公……
A:別にお月様旅行してたザビ君本人ではないですよ? 別の世界軸の、魂だけは一緒っぽい別人です(別人とはなんなのか)。才能だけはきっちりトレースしてるみたいですが。
 因みにFate/EXTRA未プレイの方は『TYPE-MOON Wiki』を参照されると元ネタが分かるかと。

Q:「サーヴァントの動きを捉えるのが難しい」……10年後アサシンとおいかけっこしてたお前が何言ってんだよ。
A:だって実際普通なら不可能でしょう。代行者とかいうチートな麻婆だからこそ「難しい」で留まるんですよ。やっぱコイツ頭おかしい。

Q:ならセイバー相手に圧倒した葛木先生はどうなるんだ
A:あれはティーチャーのサーヴァントですしおすし。……まぁ真面目に言えば、あれはキャスターのサポートと初見殺しの技を使う先生がアレだっただけで、二回目に戦う事があればセイバー勝ってたって誰かが言ってました。

Q:遠坂に恨みがあるのか?
A:私が個人で恨みがあるのはアインツベルンのクソ爺と間桐のクソ爺だけです。でも桜ちゃんをロクに調べずに蟲の餌食にしたトッキーは少し痛い目を見ればいいと思うよ。



 こんな感じでしょうか。他にもツッコミどころがあれば感想欄にどしどし送ってください。勿論それ以外も大歓迎です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。