Fate/Turn ZeroOrder   作:十三

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※これまでの全体的なあらすじ

■1日目
・第四次聖杯戦争最中の冬木へのレイシフト直後に群体アサシンに襲撃を食らうも撃退。
・第四次聖杯戦争のアルトリアとカルデアのアルトリアが激突。別の場所ではエミヤと謎のアサシンが激突。
・謎のアサシンには逃げられるものの、第四次聖杯戦争のセイバー陣営とは休戦が成立。

■2日目
・冬木でのサークルポイント設置のために遠坂家が管理する魔術結界の要石の破壊活動に従事。この時点で遠坂家への金銭的被害はかなりのものに
・『冬木ニュータワー』にてケイネス・エルメロイと会談。
・会談の帰り、友人を助けるために夜の冬木を走っていた少女(遠坂凛)を見かけて事情を聞き、そのままキャスターのマスター(雨生龍之介)が連れ去った子供たちを救出する。

■3日目
・キャスター陣営の拠点に向かう一同はランサー陣営と合流して突入。キャスター(ジル・ド・レェ)を協力して斃し、無残な形で死亡してしまった子供たち諸共拠点を焼却処分して脱出。
・脱出途中、首を落とされて死亡していたキャスターのマスター(雨生龍之介)を発見。しかしその暗殺をしてのけた謎のアサシンとは場所の不利的な観点から矛は交えず。
・直後、ライダー陣営が突入してくるもひとまず休戦。
・外に出た直後、アーチャー(ギルガメッシュ)からの突然の襲撃を受けるも、加勢してくれた第四次聖杯戦争のセイバーと共に切り抜けようと奮戦―――その最中にバーサーカー(ランスロット)の横槍が入るものの、これはライダー(イスカンダル)により撃退。その後、アーチャー(ギルガメッシュ)も消えていった。
・下水道を通って移動していた一同は、そこで瀕死の状態だったバーサーカーのマスター、間桐雁夜を助ける。
・間桐邸まで送り届けたのち、白夜は「間桐桜」の存在を知る。

■4日目
・エミヤから桜についての事情を聞き、思うところが生まれてしまう。
・気晴らしに街まで出ると、本屋で偶然にも桜と出会い、そのまま一緒に昼食を摂ることになる。
・昼食を摂っていた店でライダー陣営と出会い、ウェイバーと言葉を交わす。
・深夜、ランサー陣営と二度目の会談。孔明が完全にケイネスを言いくるめてイギリスへと帰国させ、ランサー(ディルムッド)とは同盟関係となる。

■5日目
・教会から呼び出しの書状が届き、菓子折り持参で突入。途中で話に参加した遠坂時臣が娘(桜)の身の安全を考慮していなかったことに怒り、言葉を吐き捨てて帰宅。
・帰り道で偶然ライダー陣営と出会い、その足でアインツベルン城にダイナミック訪問。原作とは少し違う聖杯問答が繰り広げられる。
・その最中、時臣の命で大聖杯を調査途中だった言峰綺礼が聖杯の泥に呑まれる。
・聖杯を完全に破壊する旨をギルガメッシュ相手に堂々と言い放った白夜、ギルガメッシュに気に入られる。
・マスターが呑まれ、シャドウサーヴァントと化した百貌のハサンを撃破。しかしその後、自衛機能が発動した黒聖杯が召喚したモードレッドとダレイオス三世の襲撃を受ける。
・白夜は『限定召喚(インクルード)』でカルデアからジャック・ザ・リッパーを呼び出して、その宝具で撤退に成功。
・その後、拠点まで帰って来た一同を今度は謎のアサシン(エミヤキリツグ)が襲撃するも、エミヤとの交戦最中に休戦。「白夜たちの選択を見届ける」という意味で、キリツグは白夜たちに同行することになる。
・ランスロット、黒聖杯に精神を呑まれて黒化(元々だろとか言わない)

■6日目
・傷を癒すために街に出た一同は再び桜と出会い、そして白夜は街に出た桜を見守っていた雁夜と話をする。
・その後、冬木教会に赴いた一同は大聖杯が既に動き出している情報を入手。早急に『龍洞』に向かおうとするも、エミヤより間桐邸がサーヴァントの襲撃を受けていると聞き、そちらに向かう。
・間桐雁夜は桜を守るために単身奮戦するも、黒聖杯によって召喚されたランサー(フィン・マックール)と、黒化した自身のサーヴァント、ランスロットの凶手にかかって死亡。その直前、白夜に桜の事を託した。
・「大聖杯の破壊」そして「桜の救出」を目的として『龍洞』に向かう一同だったが、各地に散らばったサーヴァントの対処に人員を割かざるを得なくなる。
 アルトリア(カルデア)vsモードレッド
 ディルムッドvsフィン・マックール
 イスカンダル&孔明vsダレイオス三世
 キリツグvsコトミネキレイ(準サーヴァント化)
 アルトリア(第四次聖杯戦争)vsランスロット
以上の対戦カードが切られる。
・そして白夜たちは一路、大聖杯が安置されている『龍洞』の最深部へと向かうのだった。



■結論
 全部アインツベルン(アハト翁)が悪い。






ACT-24 「戦士の矜持」

 

 

 

 

 

 

 若かりし時は、余計な事など何も考えていなかった。

 

 ただ戦い、ただ勝利し、栄光と名誉を勝ち取ってきた。

 ヌァザ神の孫娘であるマーナの子として生まれ、森の女(ドルイド)に育てられたという半生は、彼に類稀なる才覚と実力を齎した。

 

 エリンの危機を脅かす外敵を狩り続け、二頭の猟犬と共に気ままな狩猟を行う日々。

 やがて彼の下には優秀な騎士達が集い、杯を交わし合った彼らと共にただ、戦った。

 

 美麗な姫との逢瀬もあった。共に詩を作った友との邂逅もあった。

 だがやはり、その中でも特に一際輝いているのは、信を置く者達と共にエリンの大地を駆けた記憶。武を持って故郷を守り、騎士らと共に祝杯の席で笑い合った記憶。

 

 

 いつからだっただろうか。それらの記憶が風化し始めてしまったのは。

 

 齢を重ね、肉体も全盛期には及ばず、精神も何かに固執し始める。

 そうして老年と言われても差し支えない歳まで生きた頃、彼はただ一人の若い美姫の美しさに惚れ込んだ。

 

 

 顧みてみれば、その固執が彼の凋落の始まりだった。

 ただ一人の女を手に入れるために忠実に己に仕え続けた騎士を憤怒のままに追い回し、そうして最後には―――殺してしまった。

 

 その暴挙は、息子のオシーンを始めとした多くの騎士たちから非難された。一度生まれた深い軋轢は結局最後まで埋まることはなく、栄光を築いた素晴らしき騎士ではなく、老害としての烙印を押される事となる。

 

 それを後悔したのは、あろうことか最期の時だ。

 上王(ハイ・キング)を継いだカルブレが放ったフィオナ騎士団排除の為の軍勢と戦い、その激闘の中で五人の敵兵の槍に貫かれた瞬間。

 己の死期を悟った瞬間に、嘗ての愚行を顧みて悔いた。

 

 己が最も大切にしていたものは何だったのか。もう二度と掌から溢すまいと思っていたものは何だったのか。

 

 一人の女にしがみ付いた妄執が忠臣を殺したのであれば、それはもう騎士とは呼べまい。

 ただの醜い、ヒトの欲望の権化。ともすれば一生涯の内に栄枯盛衰を辿るのは必然であっただろう。

 

 

 

 ―――実際のところ、英霊フィン・マックールには晩年の己の記憶というものがない。

 

 否、語弊がないように言い直せば、”記憶”そのものは存在しているのだが、それが自身ものであったかどうかの確証が曖昧であるのだ。

 例えるのならば、他人が書いた日記帳をパラパラとめくりながら追憶をしているようなもの。だからこそ若かりし頃の―――それこそ理想の騎士を体現していた頃の彼にしてみれば、晩年の己の愚行は許しがたいものがあった。

 

 確かに彼は、見目麗しい女性が好きだ。幾度もそんな美女らと逢瀬を重ねたことがある。

 だが、それと騎士らとの絆はまた別のものである筈。嫉妬に駆られる事、それ自体は致し方ないとしても、一度矛を収めたのにも拘らず嫉妬を再燃させて復讐を果たすなど見苦しいにも程がある。

 

 

 しかし彼は―――ディルムッド・オディナはそれを憎みはしないだろう。

 

 アレはそういった騎士だ。吟遊詩人が嬉々として語り継ぐ、エリンの騎士の輝かしき姿。

 望まぬ形のものであったとは言え、誓約(ゲッシュ)を守り通すのはアルスターの末裔たる騎士の在るべき姿。それでいて尚、フィンの幕下の騎士とは決して矛を交えずに忠義を示したその姿。

 

 恐らく彼は、死の直前まで何も恨まなかったに違いない。或いは”()()()()()()()()()()()()()()”と、己を責めすらしたのかもしれない。

 

 だからこそ、死して英霊の身となった自分ができる唯一の贖罪は―――ただの一人の騎士として全力を以て応えることに他ならなかった。

 

 

 

 

 

 栄えあるフィオナ騎士団最強の騎士―――《輝く貌》のディルムッド。

 

 ただの騎士、ただの戦士として矛を交えるに、胸が高鳴らずにいられようか。

 右と左、その両手に携えた赤槍と黄槍。義父である妖精王オェングスから授かったそれらの二槍を巧みに振るい、苛烈な攻めを具現する技の数々を捌きながら、フィンは口惜しさも滲ませていた。

 

 この絶技が、後どれほどの幾年月を重ねれば古今無双の戦士になれたことだろう。或いはあのような愛憎劇が無ければ、いつかは騎士団の首領として皆を導き、ともすれば自身を超えるような英雄になっていた可能性を考えれば、更にその惜しさは広がるばかり。

 

 だがそんな思いよりも激しくこみ上げる思いがフィンの心を支配していた。

 

 

「ハハ、ハハハハハッ‼ 流石だぞディルムッド・オディナ‼ 死して漸く叶ったお前との闘いの何と心地良い事か‼」

 

「主―――‼」

 

「己の身分も、境遇も、立場も損得も建前も何も要らん‼ ただ純粋に一流の騎士と矛を交え、どちらが先に心の臓を貫くかを競う一戦―――もう一度言おう、ディルムッド‼ 私は今、この上ない悦びを感じている‼」

 

 槍の穂先と穂先が軋み合う度、互いの視線が交差する度、隠し切れない笑みが綻ぶ度、フィン・マックールという戦士の心は更に高らかに鼓動を刻む。

 

 不遇な最期を与えてしまった忠臣は、英霊となって漸く己を真に認める主と邂逅する事ができた。

 であれば、元主君として手向けられるのは一つだけ。悲運の騎士として貶められてしまったこの男に再び、戦場で果たし合う栄誉を与える事だけだ。

 

 

 

 ―――どれくらい、激闘を続けていただろうか。

 

 それすらも分からなくなるほどに懸命に、そして全てを捧げて槍を振るい続けていた。

 槍兵(ランサー)のクラスでは全力を発揮することは叶わない―――それは分かっていた事だ。

 だが、それを言い訳にするつもりなど毛頭ない。主と忠臣、そんな関係すらも今は無粋。ただひたすらに、”どちらがより強いのか”を求めて競い合う。

 

 行動の一つ一つに迷いも後悔も一切ない。それは間違いなく、若かりし頃のフィン・マックールが夢と野望を抱いて草原を駆けていた、その熱情と同じモノ。

 その幸福感を思い出し、そしてその余韻に浸る頃には既に―――死闘の決着は着いていた。

 

 

「は、ははは……」

 

 先程の生気に満ちた笑い声とは違い、今口から出たそれは、意図せずに漏れ出た失笑だった。

 つぅ、と。喉奥から舌の上を這って来た鮮血の一筋が口元から垂れ出ていく。

 

 視線を下ろさずとも分かる。フィン・マックールという英霊の霊核―――心臓の部分を見事に突き穿っていたのは、不治癒の呪いがかけられた黄槍。

 どういう過程を経て自身の心臓を穿ったのか。その数瞬前の事すら思い出せない。刹那に生き、刹那に果てる。それが、武人としての生き様だ。

 

「見事だ、ディルムッド。私の胸を穿った最後に至るまで、全てが思いの籠った、良い一撃だった」

 

「……何を仰いますか、主よ」

 

 対して、ディルムッドの声も全てを出し切ったかのような、清廉とした声だった。

 だが、(まろ)び出た言葉は滑らかなものではない。彼もまた、自身の内側から込み上げるものに美声が妨げられていた。

 

 ディルムッドの黄槍がフィンの心臓を穿っていたように、フィンの水を司る槍もまた―――ディルムッドの心臓を穿っていたのだから。

 

 

「主よ、一つ今わの際に申し上げても宜しいでしょうか?」

 

「何だ、藪から棒に。言っただろう、今の私たちは主従ではないのだと」

 

「……そうは参りません。生前の主君を蔑ろにするなど、騎士としてあるまじき行いです」

 

「まったく……お前のその融通の利かなさは死後でも変わらんな」

 

 互いに胸を貫く槍が自重を支えているような有様で、しかしディルムッドは鮮血が滴る口から己の言葉を紡ぎだす。

 

 

「私は、生前の己の生き方に後悔はありませんでした」

 

「……」

 

「妖精王に育てられ、騎士として生きたこと。貴方(フィン・マックール)という素晴らしき戦士の下で戦えたこと。フィオナ騎士団の同胞らと共にエリンを守護したこと。……グラーニャの誓約(ゲッシュ)を受け入れて臣としてあるまじき者に成り下がったことから、最期の最後に至るまで―――己の未熟さを嘆くことはあっても、後悔だけは、それだけは一度も抱きませんでした」

 

 だから、と。手足の感覚が薄くなっていくのを感じながらディルムッドは、生前の最期に伝えられなかった言葉を吐き出していく。

 

「私の貴方に対する忠義は変わりませぬ。我が剣を、槍を、この身の全てを捧げると誓った時から、その心は、決して」

 

「……はは、まったく。オシーンもそうだったが、どうして私が心を砕いた騎士は皆、頑固者しかいないのだろうな」

 

 呆れたような声色ながら、フィンの口元は変わらず笑っていた。

 だがそれでも、決して心の奥の思いを言葉として吐き出すことがなかったこの忠臣がこうもハッキリと伝えることを伝えたのならば、嘗ての主としては褒美に似たものを授けなくてはならない。

 そう思い至ったフィンは、腰に括りつけた革袋に手を伸ばし、僅かに震える手でその栓を抜いた。

 

「……今のお前なら、大丈夫だろう」

 

「……主?」

 

「この時代、この世でお前が果てるまで仕えたいと思う者がいるんだろう? ならば、ここで果てるのは無粋というものだ」

 

 そう言うとフィンは自身の宝具でもある長槍―――無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)をディルムッドの心臓から引き抜くと、革袋の中身を傷の部分に()()()()()

 

「っ―――これは‼」

 

 ディルムッドが驚愕の声を漏らしたのも束の間。直後、致命傷であった筈の傷が癒えていき、身体の感覚も戻っていった。

 その力を、ディルムッドは知っている。自身の宝具を携えながら二、三歩下がったフィンを見ると、彼はまるで悪戯が成功した子供のような、そんな表情を浮かべていた。

 

「生憎と英霊フィン・マックール()には晩年の記憶がハッキリと残ってはいないがね。それでも何があったのかは知っている」

 

 今にも消滅してしまいそうな有様で、それでもフィンは()()()()が入っていたその革袋を握ったまま目尻を下げた。

 

「ようやっと私は、自分の力でお前を助けることができた」

 

 『この手で掬う命たちよ(ウシュク・ベーハー)』―――それはフィン・マックールという英雄が持つ「その手で掬った水は悉く癒やしの力を得る」という逸話が宝具へと昇華したもの。

 人間は元より、同じ英霊にすら効果を齎すそれを、フィンは躊躇う事無く自身ではなくディルムッドに浴びせかけた。

 

 嘗て、蘇った嫉妬心から魔猪に襲撃されて瀕死の重傷を負ったディルムッドを救わず、見殺しにしてしまった生前の知識。

 もはやそれは繰り返すまいと思っていたからこそ、この宝具を彼に使うことに躊躇いはなかったのだ。

 

 

「行け、ディルムッド。私の騎士としてではなく、ただの一人のサーヴァントとしてお前が信じる者の力に成りに行け」

 

「―――ハッ‼ 承知致しました」

 

「さらばだ、ディルムッド‼ フィオナ騎士団最強の戦士よ‼ 叶うのならば今度は、同じ陣営で共に肩を並べて戦いたいものだな‼」

 

 そう言い残して、フィンは最後まで何一つ濁った感情を晒さないままに消滅した。

 

 残されたディルムッドは一人、先程までの戦闘の痕跡が残った教会敷地内の石畳を見下ろして―――しかしすぐに顔を上げた。

 頭上に頂く月は、未だ輝かしくも妖しい。この災厄の夜は、まだ明けそうにない。

 

 ならば、まだ戦場は残っている。生かされ、託された命を全力で使い果たせる戦場が。

 

「しばしお待ちを、白夜殿。このディルムッド、此度こそは盟友の誓いを守って見せましょう」

 

 そう言った長身痩躯の槍兵は、宵の闇に溶けるように旋風を残してその場から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い   怖い   痛い   苦しい

 

 

 

 もうやめて     ここから出して     もう嫌だ

 

 

 

 

 やめて、出て行って。

 

 ワタシの(ナカ)に入ってこないで。

 

 

 誰か―――だれかだれかだれかだれかダレカダレカダレカダレカダレカ―――

 

 

 

 

 

 

 

『全てに見放されて、全てに見捨てられて、それでもまだ欠片程度の希望を捨てられないのは窮屈でしょう?』

 

 

 

 ―――不意に、彼女の(ナカ)に憎悪と醜悪以外の声が潜り込んできた。

 

 それはとても穏やかな声ではあったが、しかしそれでもマトモなそれとは到底思えない。冥府の底から這い出てきたようなそれは、彼女の心の底に僅かに残った正常な精神を違わず奈落の底に引きずり降ろそうとする。

 

 

 

ワタシ(聖杯)が助けてあげましょう。アナタはとても―――えぇ、とっても良い身体(素質)を持っているのだもの。ワタシ(聖杯)と同化するにはとっても素敵な子』

 

 

 瞼を開ければ、迫ってくるのは形容し難い”黒の帯”。

 それが少女の体に纏わりつき、やがてその矮躯の全てを覆いつくした。

 

 

『さぁ、新たに目覚めなさいな、虚数の愛し子。ワタシ(聖杯)の影として存分に全てを呑み込むの。手始めに―――そうね』

 

 

 茫、と闇以外の何かに照らされる。

 

 それは、龍の洞穴の最深部―――全ての元凶である黒聖杯の下に辿り着いた者達の姿。

 大盾を構えた少女、赤い外套を翻す色黒の男―――そして、その後ろに佇む黒髪の青年。

 

 ふと、少女の()()()が軋んだような感触があった。

 しかしそれが何であるのかも、既に理解が及ばない。光を一切映さない茫洋とした瞳で、少女はただ体を傾け、悪意の揺り籠から生まれ落ちる。

 

 

 自分の姿を見て驚愕の表情を浮かべた青年に目を向けたまま、少女は自分の(ナカ)に燻った軋みを無視して地面に足をつける。

 

 

 

「こんばんは」

 

 

 その言葉に、意味はない。意味はないが、何故か口から紡ぎだされてしまった。

 何故、と考えるまでもなく、足元から生まれ出た醜悪な影たちがうねり出す。髪は毒々しいまでに白く、そして漆黒に深紅の縦縞が刻まれた(モノ)を身に纏わせた異形の少女は今、無垢なままの声色で辿り着いた者達に最期を告げる。

 

 

 

「さようなら」

 

 

 そして、鏖殺の口火を切る影の高波は、大空洞の中を覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 友人から「お前のFate小説の主人公って岸波の魂の奴だろ? だったらCCCイベの小説も書くよな? な?」と絶対言われるであろうことを言われたために、だったら早めに未だに完結してないZeroイベのこの小説を完結させないといかんなと思って焦った十三です。

 パッションリップと鈴鹿御前も欲しいなって思って課金ガチャしてたら何故だかメルトリリスの宝具レベルが3になってましたが私は元気です。
 仕事が忙しいので勤務日は帰ってきてから小説を書く気力はとてもなくてですね……皆様にはご迷惑をお掛けしておりますが、この日々に慣れるまではどうかご勘弁をいただきたい所存であります。

あー、腰痛ぇ。



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