「っ―――アイリスフィールさん、ウェイバー君‼ 下がって‼」
異常事態を視覚で理解した直後、白夜は真っ先に己の身ではなく他のマスターの身を案じた。
それは、自身の近くにマシュがいてくれているという安堵感からの判断でもあったが、彼はこの時、嘗て味わった雰囲気を記憶の底から掘り出していた。
「先輩、これは……」
「懐かしいのは確かだけど……生憎二度と経験したくなかったなぁ」
アインツベルン城の中庭を囲み、白夜達を包囲するように顕現したのは、優に60は下らない数のアサシンの群体。
それらは全て個にして群、群にして個の存在達。歴代のハサン・サッバーハの中で己の”多重人格”を利用して《百貌》の異名を持ったハサンの全貌が、ここに来て露わになったのである。
しかしながら、白夜が一瞥した限りではそこに先日までは存在していた”自我”が見受けられなかった。加えて輪郭すら曖昧な黒い靄に包まれているという外見的特徴から鑑みるに、彼らは既に単一の固定概念として存在している真っ当なサーヴァントではなくなっていることは明らかだった。即ち―――
「ハサンのシャドウサーヴァント、か。特異点Fを思い出すよ」
白夜達にとってはさして珍しくはない存在ではあるが、この冬木の地で再びこの影法師と相見える事に皮肉な運命すら感じていた。
「な、何だよコイツら‼ あ、アサシン⁉」
「……坊主、気を張っとけよ。どうにも妙だ」
「……セイバー」
「えぇ、大丈夫です、アイリスフィール。私がいる限り、貴女には指一本触れさせません」
だが今は、余裕を感じている暇などない。格落ちのシャドウサーヴァントと言えど、総数は60体以上。多対一の戦闘に慣れている白夜達であればまだしも、同盟相手も守りながらとあっては気を抜くことなどできはしない。
一瞬、この状況そのものがギルガメッシュが仕組んだ陥穽の一つであるという可能性が浮かんだが、例えそうであったとしても、これから自分が取る手段は変わらない。
『……サーヴァント、マスター……殺ス』
『殺ス』
『殺ス』
『殺ス』
『我ラ山ノ翁、《百貌》ノハサン・サッバーハ。貴様ラノ命、貰イ受ケル』
戦局の初期配置としては確実に此方の方が劣勢である。なまじ相手は格落ちとはいえアサシンクラスのサーヴァント。直接マスターを狙われれば、それこそひとたまりもない。
だが、戦局の不利はその後の戦術で以て覆せるのが常である。本来であればこういう場は孔明の専売特許なのだろうが、今回は自分がやらねばならないと、白夜はそう自覚していた。
状況はどうあれ、原初の王に啖呵を切り、自分の意志を示してしまった。であればこれは、乗り越えて当然の関門の一つだろう。
世界を救うのであれば、この程度の窮地は乗り切らなければ意味がない。
『アーチャー……いや、エミヤ』
『どうするかね、マスター』
『宝具展開を許可するから、トドメは全部任せるよ』
『フッ―――承知した』
念話でエミヤとの短い意思疎通を終えると、白夜は出血の影響で若干朦朧とし始めた意識を気合で保ち続けながら、他のサーヴァント達にも指示を出していく。
「アルトリア、孔明。40―――いや、30秒凌いでくれ」
「了解です」
「やれやれ、事はそう簡単にいかないのが常、か」
「それと―――ディルムッド」
「はっ」
騎士としての性格がそうさせるのか、迷わず傅くその姿勢に苦笑を漏らしそうになるのを堪え、彼にも指示を伝える。
「貴方にはアーチャーの護衛を。決して近づけないように努めてほしい。地味な仕事で申し訳ないけれど……」
「いえ、不満などありませぬ。その任、このディルムッド確かに拝命いたしました」
ディルムッドはそう言うと、再び一礼して白夜の下を離れた。
何故だか一度はちょうど良い距離感を築けたと思っていたのに、また必要以上に畏まられている気がしないでもない事に危機感を感じない事もなかったが、事態はそんな悠長な態度を許してはくれなかった。
「っ―――先輩っ‼」
咄嗟にマシュが盾を構えていた方向を反転させると、甲高い金属音と共に投擲された一振りの
それと同時に、黒の影が一斉に月下を疾駆し始める。元々の敏捷値がAランクと高いだけあってマスターも共にいるこの戦場ではかなりの脅威であると言えるだろう。単体であれば充分に対処が可能であっても、数の暴力に頼られては個として突出しているサーヴァントが不得手とする消耗戦を強いられる事になる。
だが、相手がシャドウサーヴァントである以上、連携面で難があるのも確かだ。その弱点を突きながらアルトリアや孔明が対処をしていると、エミヤが宝具の詠唱を開始する。
『
通常の投影魔術とは桁違いの魔力が励起し始め、余波がアインツベルン城の中庭を覆い尽くす。
『
『
詠唱を続けるエミヤに向かって、四方から
しかしそれらは、白夜の指示を受けてエミヤを護っていたディルムッドの双槍捌きによって弾かれる。
『
『
『
投影魔術、その中でも剣の投影に特化した彼が持つ、己の魔術の最終形態。
しかしながらそれは、波乱の人生を送った彼の生き方をそのものを表し―――華やかさなどとは無縁の代物。
『
だがそれを―――恥じるつもりは毛頭ない。
『
銀花の花弁が舞う純白の庭園から、風景は黄昏の荒野に変わる。
草の一本も生えない大地の上には、まるで墓標を表しているかのように無数の刀剣が突き立ち、空中に浮かぶ歯車は緩慢な駆動を続けていた。
それこそは、守護者エミヤが理想の果てに辿り着いた場所。正義の味方とはかけ離れた最果ての死地が、他ならぬ彼の意志で以て顕現する。
丘の上に一人立つエミヤは、錬鉄の固有結界の発動と同時に出現位置を操作され、ひと固まりになったアサシンの群体を見て皮肉気な笑みを浮かべた。
「招かれざる客ゆえ、大したもてなしも出来んがね」
軽く手を振るうと、虚空に幾百もの刀剣が出現する。
それらは、ギルガメッシュの宝物庫に仕舞い込まれた絶世の武具らとは違う。無骨の極み―――ただ相手を突き刺し、圧し潰し、斬り裂く為だけに存在する”剣”の軍勢に他ならない。
黄昏空の一部を鈍色の鋭刃が埋め尽くし、次の瞬間、切っ先が雪崩のようにアサシン群体の中心へと殺到した。
刃が漆黒の外套を貫く度に、個体は黒い靄となって消えていく。辛うじて躱し、荒野を走り回るハメになった個体も、固有結界の中で逃げ切れる筈がない。
一体、また一体と、体に剣が突き立ち絶命していく。意志を持たない影程度がこの世界を塗り潰すだけの力を持つはずもなく、剣の蹂躙は十数分と経たずに終わりを告げた。
「《百貌》のハサン、か。シャドウサーヴァントに堕ちていなければ少しばかりは手強かったか……いや」
よしんば彼らが真っ当な英霊の状態で挑んできたとしても、こちらの勝利は揺るぎはしなかっただろう。
孔明から聞いた彼らの宝具『
シャドウサーヴァントに堕ちてしまった理由こそ謎だが、この第四次聖杯戦争において彼らの強みはほぼ活かせていなかったと言ってしまっても過言ではない。これでもしハサンのマスターが現代戦を知り尽くした”魔術使い”であったらと思うと―――流石に背筋が寒くなってくる。
気付けば、周囲の景色は再び月下の庭園に戻っていた。
エミヤの見る限り、マスター陣に被害が行っているようには見えなかった。―――否、一人だけ傷を負っている人物はいる。
「マスター、アサシンの排除は終了した。……大丈夫か?」
「大丈夫……って言いたいところだけどね。止血はしたけどそれまでに結構ドクドクいってたから頭ボーッとしてる。正直眠い」
「無茶をするからだ、全く。……まぁいい、この場は私と教授が収めておく。君はゆっくり―――」
「っ―――ああっ‼」
エミヤが白夜に労いの言葉を掛けていると、少し離れた位置で
いつの間にかその場から消えていたギルガメッシュを除いて全員が声の方に視線を向けると、そこには膝をついて表情を僅かに顰めたアイリスフィールの姿があった。
「アイリスフィール⁉ どうしたのですか⁉」
「セイバー……気を付けて。さっきの連中とは違って、無理矢理森の結界を突破してきた存在がいるわ」
強引に突破をしたという観点から見れば数時間前の白夜達も同じようなものではあったが、あの時は最低限孔明の手によって結界に細工を施した後であったため、結界主であるアイリスフィールへのフィードバックは微々たるものであったはずだった。
しかし今、魔術回路を通して身体に異常をきたすほどの負荷が彼女にはかかっている。それが何を意味するか、理解できない者は一人もいなかった。
「アサシンのシャドウサーヴァントは捨て駒、って事か。……一体誰が……」
思考の波に吞まれそうになったところで、白夜は否、と考えを打ち切る。
元より、正式な聖杯戦争にシャドウサーヴァントが紛れ込んだという事実そのものがイレギュラーな事態を示している。そして嘗て、『特異点F』にて冬木の地にシャドウサーヴァントが蔓延る事になった要因を思い返してみると―――。
「……孔明」
「…………」
「ちょっとマズい。聖杯に先手を打たれたかもしれない」
「あぁ、私もその可能性に思い至った」
脳裏をよぎるのは、今までの特異点で聖杯が齎したサーヴァント連続召喚の悪夢。
孔明がカルデアに召喚されたのは第二特異点セプテムの定礎復元後だったが、それより前からその展開に晒され続けてきた白夜とマシュは、こういった状況把握能力には長けていた。
「な、なぁ。き、岸波」
「……? どうしたの? ウェイバー君」
「ひょっとして……マズい感じなのか?」
「まぁ……マズいかマズくないかって言ったら前者に一票って感じかな」
今更誤魔化したところでどうなる訳でもないために正直にそう伝えると、ウェイバーは最初こそ狼狽えるような素振りは見せたが、しかしこの前のように逃げ出そうとはしなかった。
「どこかの陣営のサーヴァントが仕掛けてきたのか?」
「いや……多分違う。色々とイレギュラーが積み重なったせいで、大聖杯が自衛に走って召喚者なしでサーヴァントを召喚した可能性があるね」
「な、何だよそれ‼ そんな事が―――」
「有り得るんだよ。特異点の聖杯なら尚更ね」
特に強い口調ではなかったというのに、妙に説得力のあるその言葉にウェイバーは押し黙る。
その時、白夜の体の節々に緊急で巻かれた包帯に再び血が滲み始めた様子を見て、更に彼の表情は引き締まった。
「……そんなになっても、戦うのかよ」
「戦うよ」
「……一旦退いた方がいいんじゃないか?」
その言葉は臆病心から出たものではなく、ウェイバーなりに戦略性を鑑みてのものだった。
アインツベルン城の中庭はそこそこの広さはあるとはいえ、サーヴァント同士が激突するには些か狭い。ましてや乱戦ともなれば尚更だ。
しかし白夜は、その策に「そうだね」と同意しながらも、その場を動こうとはしなかった。
「そうしたいのは山々だったんだけど―――多分今背を見せたら、死ぬ」
直後、アインツベルン城の屋根の一角が突然轟音と共に破壊された。
何かが高速で落下―――否、
「な、なんだあれ……」
「赤銀の鎧……騎士? それに……斧を持った大男?」
ウェイバーとアイリスフィールが闖入者の正体を図りかねていると、アイリスフィールを守っていた
「な……何故……何故貴公がそこにいる……何故そこに立っている‼ モードレッド‼」
「何故? 決まってんだろうがよ。父上がそこにいるのなら、敵として此処にいるのがオレの在るべき姿だからな‼」
彼―――否、彼女は間髪を入れずにそう答えると、屋根の上から飛び降りて中庭に着地する。それと同時に、その傍らに控えていた漆黒の肌の大男も地響きと共に降り立った。
その大男の方には、今度はイスカンダルが「ほぅ」と感慨深げな声を漏らした。
「よもや貴様と再び相見える事ができるとはな。……フン、これが聖杯の巡り合わせだとしたら、全く良い趣味をしておるわい」
敵意と言うよりかは懐古するような声色のイスカンダルの声に、しかし大男は答えない。いや、答えられないと言うべきか。
「■■■■■■■―――‼
嘗ての宿敵であり好敵手でもある存在が狂戦士に堕ちた姿を目の当たりにしても、イスカンダルは戦意を萎えさせる事はなく、それどころかより深く口角を吊り上げた。
だが、少なくともこの二人が”敵”として立ちはだかったことを事実として受け止めなければいけない白夜にとっては、間違っても笑みなどは見せられない状況であった。それが精一杯の強がりからくる笑みであったとしても、である。
「セイバー・モードレッドにバーサーカー・ダレイオス三世……流石にちょっと厳しい、かな」
万全の状態で迎え撃てたのならば、勝機など幾らでも見出せてみせただろう。
シャドウサーヴァントとの戦いで消耗しすぎたという事もないのだが、先ほど一度エミヤの宝具開帳を許した以上、大規模な宝具展開を許せるほどの魔力的な余裕が今の白夜にはない。
イスカンダルや
「……ん? あれ? 父上が二人? えっと……どういう事だかちっと分からねぇけど、まぁいいか。どっちかがニセモノだったとしても、どっちも潰せばそれで丸く収まるってモンだ」
「何故……ランスロット卿だけでなく貴公まで……っ」
「あン? ランスロットのヤツもいるのかよ。……ま、それは別にいいや。オレが召喚された理由? そんなのはさっき言った通りだ。オレは、
「何を―――」
「……成程」
理解しきれていない
「つまり貴方は、
嘗てアルトリアが第四次聖杯戦争を戦っていた当時の大聖杯は、マスターなしでの独自のサーヴァント召喚を行うなどという常識の枠を超えた行動を取ることはなかった。
だがこの世界軸は特異点。世界の捻じ曲がりが顕著であり、それを大聖杯そのものが”危険因子”と判断した以上、どのような行動を取ったしても不思議ではない。
どのような経緯があったのかは分からないが、恐らく先ほどのシャドウサーヴァントは、何らかの理由で大聖杯の悪意に呑まれてしまった末路なのだろう。この世界軸のサーヴァントも召喚される際に大聖杯を介して召喚されている以上、その存在そのものを触媒として、縁のあるサーヴァントが一種の抑止力として呼ばれたのだと考えれば、辻褄は合う。
しかし、魔術王が設置していない、ヒトの手によって生み出された聖杯である以上、幾ら『
だからこそ大聖杯は、
ならば尚更、ここでこの二名を相手にするわけにはいかなくなった。
よしんば倒せたとしても、その理論が通用する限り、二度三度と新しいサーヴァントの召喚を許す恐れがある。それも恐らく、この聖杯戦争において召喚されているサーヴァントの弱点に成り得るサーヴァントを、だ。
その結論に辿り着いてからの、白夜の作戦構築は早かった。
撤退戦などは初めてではない。寧ろ慣れ親しんでいると言っても過言ではないだろう。幾らサーヴァントの個々の力が強大であるとは言え、「最小限の被害を以て勝利を掴む」という大前提を掲げている以上、彼は臆病者と言う誹りを受けることを何ら厭わずに撤退を選択できる。今回も、その例に漏れることはなかった。
「ウェイバー君」
「? なん……」
訝しげな声で白夜に応えたウェイバーだったが、白夜が無言のままに首を横に振った意味を理解したのだろう。すぐさま、自分のサーヴァントに念話を送った。
『おい、ライダー』
『何だ、坊主。奴と一戦交えるなら覚悟しておけよ。そうそう簡単に突破できる相手ではない』
『……そう言うってことは分かってんだろ』
好戦的になりながらも、すべき事を察してはいる自分のサーヴァントの言葉に安堵しながら、ウェイバーは闘気に呑まれずに告げた。
『―――退却だ。『
『霊体化できる輩をそうさせればな。―――何だ、随分と良い顔をしとるな』
『……はぐらかすなよ。それよりオマエ的には良いのかよ。戦いたいんだろ?』
以前、何となく街を散策していた際に偶然聞いた、征服王イスカンダルが生涯の好敵手と定めた王の話。
アケメネス朝ペルシア最後の王。東征の進軍の際に幾度も矛を交え、その度に互いの強大さを思い知ったという好敵手。
『暴風王』ダレイオス三世―――此処に至って相見えたからにはどうあっても決着を着けたがるべきだと思っていたウェイバーの思惑を、しかしイスカンダルは否と答えて見せた。
『確かに彼の王とはこうして会ったからには決着を着けなきゃならんがな、そいつは然るべき時、然るべき場所と相場が決まっておる。此処で戦うには些か性急に過ぎるな』
『……そうかよ。でもあちらさんはそうは思っていないみたいだぞ』
元より真っ当なバーサーカーに自制を促すというその行為そのものが無意味であると言っても差し支えないのだが、ダレイオス三世に関してもそれは例外ではなかった。
今でこそ睨み合いで互いに動いていない状況だが、撤退の素振りを見せればまず間違いなく突撃してくるだろう。
『この状況からの退却は経験上無傷では済まんぞ。ダレイオスもそうだが、あっちの
『分かってるよ。……でも何か策はあるんだよ、きっと』
この切羽詰まった状況において結局他人任せになってしまう事に一抹の敗北感を感じないと言えば噓になるが、だからといって自分がどれだけ頭をひねろうと最適解は思い浮かばない。
ウェイバーから見て、岸波白夜という少年は決してこういった場面で口からでまかせを言い張るような人間ではないという事は何となく分かる。今はそれに賭けるしかないという事、そしてそれが命懸けになるという事も理解できるからこそ、神経を張り詰めずにはいられなかった。
ぼやけてきた視界を無理矢理クリアに戻しながら、白夜は状況分析を全て終了させる。此方の様子を視線だけで窺ってきた孔明に対し無言の合図を送ると、白夜は持ち込んだ聖晶石の内、半数の3個を手中に握りしめた。
「ドクター、ダ・ヴィンチちゃん。応答を」
『―――こちらカルデア。状況はモニターしているよ。……やるんだね?』
「うん。―――守護英霊召喚システム・フェイト副次機能『
『オールオッケーだ。君のバイタル面もちょっぴり危なそうだから、切り抜けるなら上手くやるんだよ?』
「ありがとう、ダ・ヴィンチちゃん」
白夜はそれだけ言葉を交わすと、一つ深呼吸を行い、魔術回路を励起させて聖晶石に魔力を送り込む。
すると、聖晶石はまるで脆い硝子細工のように砕け散り、その残滓が白夜の足元で魔法陣を生み出した。
『―――
青白い光が立ち上がり、召喚者の白夜を中心に魔力が渦巻いていく。
厄介な事をしでかそうとしていると直感で判断したモードレッドは舌打ちと共に斬りかかろうとしたが、それはアルトリアが解放した聖剣の一振りによって止められる。
「ッ―――‼」
「行かせませんよ、モードレッド」
同じように白夜に攻撃を仕掛けようとしたダレイオスも、直前に孔明が発動させた八卦陣によって行動を制御されていた。頼もしい味方の援護を受け、白夜は気力を振り絞った。
「来てくれッ―――ジャック・ザ・リッパー‼」
立ち上る光が最高潮になると同時に、光の中から一人の少女が飛び出してきた。
「―――おかあさんっ‼」
無邪気な声と共に白夜の方を見て笑顔を見せた銀髪の少女の真名は、アサシン・ジャック・ザ・リッパー。
第四特異点
「ジャック」
「うん」
「耳を貸してくれるかな」
その言葉に従って近づいてきたジャックの耳元で、早く、そして簡潔に作戦を伝える。
「やってくれる?」
「うん。おかあさんのおねがいだもん」
「そうか、ありがとな」
ニコリと満面の笑みを浮かべたジャックは、そのまま跳躍し、中庭の中心に立つ。
そのタイミングを見計らい、傍らに控えていたマシュが白夜を抱え上げ、そのまま戦車の御者台の中へと飛び込む。その中に既にウェイバーがいる事を確認し、もう一組に対して撤退の合図を出す。
「セイバー‼ アイリスフィールさん‼ 早くこっちに‼」
「セイバー‼」
「くっ―――」
切羽詰まったその言葉に
するとその直後、戦車の周囲のみならずアインツベルン城の周辺に至るまでの一帯を―――突然濃霧が覆った。
「き、霧? これって―――」
「ただの、霧じゃないです。あの子が……ジャック・ザ・リッパーが発現させた結界宝具です」
『
無論ただの霧ではなく魔力を含んだそれは、一般人であれば即死、魔術師であっても大ダメージを余儀なくされ、サーヴァントであってもステータスダウンという弱体化を施される。
本来であればこの宝具は、ロンドン一帯を覆い尽くしたという基をなぞり、冬木市全土を覆い尽くせる程度の効果範囲を持つ。
だが、その効果範囲を意図的にアインツベルンの森内部だけに留め、その分霧の濃度を限界まで濃くする事により、こうして局地的な目晦ましとして絶大な効力も発揮する。効果を及ぼす対象はジャックに決定権が委ねられているため、先程の耳打ちで対象から除外させた一向に対しては、視界が極端に遮られる以外のデメリットは存在していない。
「ッ、クソッ‼ 何だコイツ‼」
「■■■■■■■■■―――‼」
反面、効果対象に指定されたモードレッドとダレイオス三世は敏捷値の大幅なダウンが施され、更に幻惑効果すら付与された濃霧によって白夜達の乗った戦車の位置すら特定できない状況に陥った。
時間稼ぎという任を終えたアルトリアは霊体化し、孔明もマシュに導かれて御者台の中へと戻ってきた。他、ディルムッドとエミヤの両名も霊体化して、撤退準備が完全に整う。
「ジャック‼ もう大丈夫だ‼ 戻っておいで‼」
「うん、わかった‼」
「ライダー‼」
「よぅし、ちと全速力で離脱するぞ‼ 振り落とされんようにな‼」
そして最後、ジャックが霊体化するのと同時に『
濃霧の影響が残っている間にアインツベルンの森を離脱した戦車は、そのまま白夜達の拠点が築かれた山中の方へと駆けていく。
一先ずの窮地を何とか脱した一行は、一様に安堵の域を漏らす。それは白夜とて変わらず、タイミングが重要だった作戦が何とか成功して緊張感が一気に解れ―――。
―――そして、そのまま意識が闇の中へと落ちて行った。
祝、『限定召喚(インクルード)』使用‼ 設定忘れてたわけじゃないんだからね‼(ガチ)
『Fate/Apocrypha』での霧の宝具の使用を見て、「これ使いようによっちゃヤバいな」と思ったのがキッカケでした。……え? FGOにおいては宝具は一つ? アーアーキコエナイナー
というわけで、聖杯がいらんヒャッハーしたせいで青王(Zero)の精神力がまたガン削られるハメになりましたが是非もないね。これでも原作よりマシな方だと思うから。そんで多分ココが最底辺だから。
次回、折角限定的とはいえ登場させたジャックちゃんをこのままフェードアウトさせるのも惜しいと思ってる筆者がどうにかやります(注:筆者はジャックちゃんを持っていません)
PS:
え? フィナーレ全力闘技? ……知らない子ですね。
そしてネロイベで少し課金した直後に700万DL記念でジャンヌ・オルタピックアップを持ってくるこの意地の悪さよ。……どうせ出ないし呼符だけでの挑戦にしようそうしよう。