Fate/Turn ZeroOrder   作:十三

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Q:これはやっぱり「遠坂時臣アンチ」じゃね?
A:多分アニメとか原作読んだ人の大半はこう思ってるんじゃないかなと思うからセーフの方向で。









ACT-13 「策謀の密会 後篇」

 

 

 

 

 

 

 

 

「同盟、ですか」

 

「互いに聖杯を目的とした者同士。そして君も、君のサーヴァント達も折り紙付きだ。―――最後に我々のみで決着を着けるまで、一時休戦と行こうじゃないか」

 

 方針自体は理解できる。自陣のみの力だけではどうにもできなくなる状況が迷い込んでくるのが戦争というものだ。

 特に聖杯戦争のような、独立した7つの陣営がバトルロワイヤル方式で最後の一人になるまで勝ち続ける―――という体の戦いであれば尚更だ。

 

 根回しに根回しを重ね、時には手を組んででも状況を有利に運んでいく。それは正しい考え方だ。

 だが―――。

 

 

「……遠坂時臣さん、貴方の目的は聖杯を使って『根源』に至る事ですよね」

 

「無論だ。それこそが遠坂家の悲願。……嘗てはアインツベルンとマキリも同じ宿願を抱いた好敵手であったが、時の流れというものが変えてしまった。悲しい事だ」

 

「成程。ではそれを踏まえた上で返答させていただきますが―――お断りします」

 

 白夜は外見上は平静を保ったままに、それだけを告げる。

 同盟を申し出られる可能性はゼロではなかった。利害の一致があれば受けていたかもしれないのもまた事実。

 だが今の状況では、それは害しか生まないと判断したが故の結論だった。

 

「……理由を訊いても?」

 

「単純です。互いに目的と価値観の齟齬がある状態で同盟を組んだところで、破綻するのは目に見えていますから」

 

 同盟というものは、ただ単純に戦力が強い者と組めば良いというものではない。一番思慮に入れるべきなのは互いの最終目的、そして価値観の一致である。

 それは、戦争というモノを経験した英霊ならば誰もが知っていた。特に軍略に長けた指揮官としての才もある英霊ならば尚の事。

 

「齟齬、か。君の目的は聖杯ではないと?」

 

「聖杯です。ですが貴方のように、聖杯を降臨させるつもりなどサラサラありません」

 

「……何?」

 

「円蔵山の最奥に眠る大聖杯を破壊して最悪の事態を回避する。―――それが我々の目的ですから」

 

 それを言い切った直後、流石に時臣の表情に動揺が混じる。

 しかし、畳み掛けをやめるつもりはない。主導権は此方が握ったまま、それをキープしなくてはならない。

 先日の孔明とケイネスとのやり取りのように、僅かも隙を見せないやり取りが必要なのだ。

 

 

「聖杯の破壊……だと? それが何を意味するのか―――」

 

「えぇ、分かっています。そちらこそご存知ですか? 今現在、大聖杯はこれ以上ないくらいに”汚染”されているという事を」

 

「”汚染”、だと?」

 

 思わず眉を顰めそうになり、しかしすぐに平静を取り戻す。

 自分自身も孔明から齎された情報を鵜呑みにしている為に偉そうなことを言える立場ではない事は理解しているが、遠坂家は曲がりなりにも冬木市の管理者(セカンドオーナー)である。

 前回の聖杯戦争から60年、それだけの猶予はあったのに、大聖杯の歪みに気付いていなかったとは思いたくなかった。

 

「今の聖杯を使って『根源』に至れる程の”孔”を開けようものなら、冬木市だけに留まらず、世界規模で阿鼻叫喚の地獄が具現します。―――自分は聖人のような人間では決してありませんが、それでも見過ごせないものはありますので」

 

「……聖杯が異常を孕んでいるという根拠は?」

 

「ご自身の目で確かめられれば宜しいのでは? 幸い、前回の聖杯戦争で監督役を務めた璃正神父もいらっしゃいますし、自分から百聞を訊きだすよりも真実に迫れるかと」

 

 演技ではない、というのは時臣の目と声色で理解できた。

 何の理由もなしに60年という長きにわたって大聖杯を放置し続けたのだとしたらとんだ職務怠慢と言わざるを得ないが、白夜の見立てでは目の前の人物がそこまで無能だとは思えなかった。

 自分よりも遥かに長く魔術師の世界で生きている人物である。儀式魔術の管理を怠るような魔術師であれば、とっくの昔に魔術教会は見切りをつけていただろうし、聖堂教会も手を組もうとは思わなかっただろう。

 

 ならば何故? という疑問が脳内を駆け巡る中、改めて時臣の様子を見てみれば、同盟会談を持ちかけた時に比べて僅かに落ち着きがなくなっている。

 恐らく内心では、この会談を早く打ち切って大聖杯の調査に向かいたいのだろう。人目を避ける必要があるため、本調査は夜になるのだろうが、それでも下準備は必要だと分かる。

 だが、会談自体は時臣が持ちかけたものであるため、本人から話を打ち切り辛いのだろう。それはもう「誇り」というよりは「プライド」の問題なのだろうが。

 

 ともあれ、白夜としてもこれ以上話しても成果は得られないと思い、紅茶を飲み干してからゆっくりと立ち上がった。

 

 

「未熟者の分際で失礼をしました。そちらの結界防壁を破壊した人間の言い分など信じられないかもしれませんが、精査していただければと」

 

「―――いや、興味深い情報を聞かせてもらった。それが虚偽か真実かは責任を持って調べさせてもらおう」

 

「感謝します」

 

「しかし、これでは此方側から一方的に訊き出すような形になってしまったな。それではあまりに図々しいというもの。私に答えられる事であれば、答えようじゃないか」

 

 要は貸し借りを此処で帳消しにしたいという申し出である。ここで敢えて誘いに乗らずに「いえいえ、お気持ちだけで十分です」という日本人だけが使える謙虚さを発動してお流れにすることもできなくはない。

 だが、折角相手がほぼ無条件で応えてくれると言うのだから―――白夜としては一度当人に訊いておきたいと思った事を訊く。

 

 

「では一つ。―――貴方は何故『遠坂桜』を間桐の養子に出したんですか?」

 

「む……」

 

 何故それを知っている、という疑問は時臣の口からは出てこなかった。意外そうな表情をした理由は、他の事にある。

 

「……訊きたいことはそれかね?」

 

「あぁ、ごめんなさい、言い方が間違っていましたね。―――あの子の才能が間桐で開花できると、本当に思っていましたか?」

 

 背後から感じるのは、孔明のプレッシャーを混ぜ込んだ視線。折角のチャンスに敢えてこれを訊いたことに対して彼も思うところがあるのだろうが、口を挟まないという事は予測は出来ていたという事。

 ザクザクと刃のように背中に刺さる視線こそ辛いものがあったが、そのお陰で目の前の相手の事を必要以上に意識し過ぎないでいられる。

 

「間桐の魔術特性は知っているだろう? 蟲を媒介にした魔術特性ならば或いは―――」

 

「自分の知り合いに時計塔でそういうの詳しい人がいて、訊いてみたんですけどね。「アホじゃないか」と一蹴されました。確かに遠坂家の宝石魔術とあの子の魔術特性は相性があまり良くないですけど、それでもコネクションがあってあの子の才能を生かせる魔術の家はまだあったんじゃないですか? それを探さなかったのは……」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――と、白夜は言葉に刃を仕込ませてそう告げた。

 

 順当に行けば、次の聖杯戦争は60年後。そうなれば参戦するのは桜の子か、孫になる事はほぼ決まっているようなものである。

 桜の内包する『架空元素・虚数』という希少性が高い魔術特性が例え開花しなくても、その子が、孫が目覚めてくれればそれでいい。なまじ桜が『配偶者の血統における潜在能力を最大限引き出した子を産む』という特異体質を宿した遠坂葵―――旧姓・禅城葵の血を濃く受け継いでいるからこそ、母体としての優秀さはほぼ決まっているようなものだ。

 

「まぁ、その思惑がなかったかと言えば嘘になる」

 

「はぁ」

 

「間桐の養子となれば、桜の才を受け継いだ末裔が聖杯戦争に参加し、遠坂の末裔と相争う事になるだろう。どちらが聖杯を手にしようとも、遠坂家の悲願は果たされることになる」

 

 そして敗北した方にも、名誉は残る。かくも魔術師らしき戦いを繰り広げれば、その後の安寧は保証されたようなものだと喜色を滲ませながら言う時臣に対して―――白夜は()()()()()()()()()()

 

「はぁ」

 

 話している最中なのに口数が少ないのがその証拠だ。それを敏感に感じ取ったのはマシュだった。

 

 普段、岸波白夜という少年は話している相手への興味を失わない人物だ。言葉の一つ一つに何らかの疑問を、または深く聞き入る要素を見つけ出して聞き続ける。謂わば聞き上手な性格なのである。

 どれだけの非道を生前に犯した英霊であろうとも、まずは話を訊く、興味を抱く。

 何故そうするに至ったのか、もしくはそうしなければならなかったのか―――それをじっくりと時間をかけてでも訊くからこそ、いつの間にか彼の周囲には彼を信頼する英霊たちが集まっていた。

 

 どれだけの事を語ろうとも、どれだけの狂気を孕もうとも、どれだけの歪みを内包していようとも、岸波白夜という少年は「それが貴方なんだろ?」という一言で片づけてしまう。

 

 逆に言えば、彼が話し相手に対して「興味をなくす」という事は、その人物に対して「魅力がない」と判断したという事。

 それは一見当たり前の繋がりのように思えるが、こと白夜に限定すればそれは珍しい事なのだ。

 

 

 願いの為に娘をも利用する―――事ではない。

 

 その「願い」が、あまりにも形骸化し過ぎている。いつ辿り着くか、そもそも本当に存在するのかも曖昧なモノの為に、欲求も愛情も全て殺しつくして目指し足掻く。

 己自身が求めた夢ですらない。延々と、脈々と受け継がれた妄執ともとれるモノが、いつしか己の目指す場所になっただけという事。

 

 それは―――()()()()()()()()()

 

 その時点を以て白夜は理解してしまう。やはり自分は、生粋の魔術師とはとことん馬が合わない性格なのだと。

 

 

「ありがとうございました。もういいです」

 

 声色は常に平坦だ。感情の起伏が全くない状態というのも、この少年には珍しい。

 まるで何事もどうでもいいと言わんばかりにソファーから立ち上がり、談話室の扉のノブに手をかけた。

 

 本来ならそこで何も言わずに立ち去るつもりではあったが、それでもやはり、言っておかなければならなかった言葉を寸でのところで思い出し、首だけで振り返った。

 

 

「……親の愛情というのは何ものにも代え難いものです。例えどんな人からどれ程深い愛情を向けられても、それだけは別格ですから」

 

 今でも、眼を瞑れば褪せることなく思い出せる。

 カルデアを訪れるまでは、本当にただの一般家庭の一人息子だった。魔術の世界など全く関係なく、父は毎朝スーツ姿で会社に行き、母はエプロン姿で家を管理してくれていた。

 本当に、普通の家族だ。煌びやかな過去を持つ英霊たちに比べれば劣るだろうが―――それでも白夜にとってはこれ以上ないくらいに大事な存在であったし、今でも胸を張ってそう言える。

 

 人理を復元するのは英霊たちの夢の為というのは建前でも何でもないが、自分の家族を、自分の世界を取り戻すためという理由も勿論ある。

 それほどまでに重いのだ。親から注がれる愛情というものは。

 

「損得を大前提に注がれる愛情なんて偽物ですよ。最後まで子供の味方で、子供の幸せを願い続けられるのが……それが多分、本当の親というものだと思います」

 

 だから、と。

 親になったこともないのに偉そうな口を叩いているという自覚はあるが、それでも、この一言だけは叩き込んでおかなくてはならない。

 

「親の我が儘に、子供を巻き込むなよ」

 

 ただそれだけを言い放って、白夜は談話室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後―――。

 

 精神的な疲労と自虐感に苛まれて、深山町にある喫茶店のテーブルでダウンしている白夜の姿があった。

 

 

「疲れた」

 

「先輩、ここのホットケーキ美味しいですよ。食べて元気出してください」

 

「マシュが食べさせてくれたら元気出る」

 

「せ、先輩が本当にお疲れモードです‼ し、しかしこれはチャンスですね‼ ……は、はい先輩、あーん、です」

 

「む、確かこういう状況では言わなければならない事があると黒髭殿が言っていましたね。えーと確か……『リア充死すべし慈悲はない』?」

 

「私はそれを言った直後に黒髭がアンとメアリーにタッグで潰されていた記憶があるのだがね」

 

 暖房の効いた、客のあまり入っていない喫茶店でそうした会話を繰り広げている光景は、傍から見たら外国人観光客の集まりのように見えなくもない。―――繋がりは予想できないだろうが。

 優雅にブラックコーヒーの入ったカップを傾けながらひたすらに喫茶店のデザートメニューを口の中に入れていくアルトリアの口元をハンカチで拭うエミヤの姿を見ながら、あー、そうそうこの感じだよ、と白夜が言葉を漏らす。

 

「腹の探り合いはやっぱり性に合わないなぁ」

 

「いや、才能はあるだろう。此方が切れるカードが多かったとはいえ、歴戦の魔術師相手に良く立ち回った。及第点だ」

 

 珍しい孔明からの衒いのない褒め言葉に嬉しくはなるものの、しかしやはり、内心は複雑だった。

 

「何か今回、俺が最初から最後まで悪役だった気がする」

 

「いえ、そうでもありませんよマスター。実際交渉事なんてあのようなものです。私の時代でもそうでした。円卓の騎士の中でもサー・アグラヴェインやサー・ケイはその手のプロでしたし」

 

「交渉事に正義も悪も有りはしない。互いに正しいと思う事をどれだけ押し通せるかが肝だからな。今回はまぁ、それ程難しい課題ではなかったが」

 

「勘弁してください孔明先生。あとセイバー、流石にプロと比べられるのは辛いっす」

 

 外交なんて現在に至るまで喧嘩腰で挑んでナンボの世界だし、と、意気消沈しながら、喫茶店の窓から外の様子を眺めた。

 良く晴れた陽気である。肌を刺すような寒さも、今日に限ればそれ程でもない。それこそ、防寒用の基礎魔術を必要としない程度には。

 

「流石に予定を切り上げて大聖杯を破壊しに行くわけにはいかないかぁ」

 

「各方面に根回ししていない状態で乗り込んでも、事態を察した監督役にマークされて要らぬ邪魔が入るだけだからな。速攻で片付けられれば問題はないんだが、アレはそんな生易しいものではない」

 

「『兵は拙速を貴ぶ』とは違うんだね」

 

「猪武者とは話が違うさ。それは君も良く分かっていると思うが?」

 

 白夜は無言で頷いた。

 グランドオーダー内の話ではあるが、どの特異点であっても容易く聖杯を手に入れられた例はない。第三特異点『オケアノス』は例外ではあるが、それでも苦労したことには変わりないのだから。

 

 聖杯回収、もしくは破壊という任に就いている以上、楽な仕事はできない。というよりも許されない。

 仮にも一つの時代区分、もしくは世界全体を歪めてしまうほどの力を持つ存在なのだ。生半可な力でどうにかできる筈もない。

 

 

 

「……それよりも、久しぶりに見ましたね。()()()()()()()()()()()()()()

 

 マシュのその言葉に、白夜は窓の外を眺めながらふぅ、と一つ浅い溜息を吐いた。

 前述したが、基本白夜は怒らない性格だ。カルデア内でアルトリアとモードレッドが出合い頭に喧嘩を始めた時、もしくはセイバー顔全てが抹殺対象(リリィ除く)と公言しているヒロインXが面倒なことをやらかしそうになった時には叱るようにはしているが、それも本気で怒っている訳ではない。本気で怒ったのは―――オケアノスの特異点でイアソンと相対した時以来だろうか。

 

 とはいえ、その時と今回とでは怒りの種類が違う。今回はもっと、人間に近しい感情での怒りだったのは確かだ。

 

「何だかなぁ。悲しくなってきたというか何と言うか」

 

「……魔術師の世界ではああいう事は往々にして有り得る事だ。子に愛情を注ぐのは、自身が先代から受け継いだ魔術刻印を万全の態勢で受け継がせ、己の研究を託すために他ならん。

 その為か、長子以下の子は冷遇される傾向にある。その点で言えば遠坂時臣も”魔術師らしい魔術師”と言えるだろうな」

 

 「魔術」というフィルターを介してしか、世の中を見渡す事ができない。それが生粋の魔術師という存在。―――それはもう仕方のない事だ。生きている世界が違う白夜がどうこう言える事ではない。

 だがそれでも、その思想の犠牲になって泣く事すら忘れてしまった少女が目の前にいたのだ。それを易々と「なかった事」にできる程、彼は物分かりの良い性格ではなかった。

 

「分かってはいるんだよね。時臣さんは時臣さんで桜ちゃんの事を愛してるって事は。でもその愛情の注ぎ方が俺達みたいな一般人とはかけ離れすぎてて外道に思えてしまう」

 

「価値観の齟齬、ですか。……先輩はそういった意味でも同盟を断ったのですか?」

 

「いやいや、流石にそんな個人的感情じゃないさ。でもまぁ、やっぱり納得は出来ないんだよ」

 

 やっぱり自分は魔術師の世界では生きられないらしい。白夜はそう思うしかなかったのだ。

 

「朝寝坊してギリギリに起きてさ、母さんが作ってくれた朝御飯をかっこみながら「行ってきます」が言えて、夕方には「ただいま」って言うと「おかえりなさい」が返ってくるのが俺の普通で、多分これからも変わらない。夜にビール飲みながら野球観戦して一喜一憂してる父さんの横でつまみだけ掻っ攫っていくのも好きだったし、母さんが買い物行ってきた後に買い物袋の中を見て夕飯の献立を予想するのも好きだった。

 ……結局俺は、そういう生活しか望めないんだよ」

 

「…………」

 

「だから、やっぱりダメなんだ。家族と幸せな生活を送れてないどころか、笑う事も泣く事も忘れた子を、俺は放っておけない」

 

 それが大きなお世話だという事は分かっている。自分がやらねばならない事でもないという事も無論。

 放っておいても、いずれ誰かが彼女を助けるかもしれない。自分よりも遥かに相応しい人物が、彼女を闇の底から引きずりあげてくれるかもしれない。

 

 だが、その時が来るまでに、彼女は何度苦しまなければならないのか、何度凌辱の憂き目に遭わなければならないのか。

 それはきっと、間桐の家にいる限りは終わらない地獄の連鎖なのだろう。

 

「フム、ならばいっそ間桐を滅ぼしてみるか?」

 

「いきなりブッコんできたね、アーチャー」

 

「まぁそれが一番手っ取り早い方法ではあるからな。間桐の当主が如何に化け物じみているとはいえ、流石にサーヴァントを相手にすればひとたまりもあるまい。……()()()()()()()()()のは難しいだろうが」

 

「?」

 

「まぁとにかく、どのような方法を取るにせよ、責任は最後まで持つことだ」

 

 了解、と答えて再びガラスの方へと視線を移すと―――そこには筋肉が鎮座していた。

 否、この言い方では語弊がある。正確には「筋肉の塊のような大男がガラスの前に立っていた」と表現すべき光景があった。

 

 思わず一同で呆然となってしまった此方側を他所に、その大男は隣で立っていた小柄な青年を小脇に担いで喫茶店の入口へと走っていく。

 そして数秒後、カランカランという入り口が開く音と共に、先日ぶりの野太い声が耳朶に響いた。

 

 

「よぉ坊主‼ 昨日ぶりだな‼」

 

「確かに深山町ってそこまで広くないけど、エンカウント率高過ぎじゃないかなぁ」

 

 そんな白夜の呟きにも似た声も、豪快な笑い声に掻き消されてしまう。イスカンダルの横では、小脇に抱えられたままのウェイバーが大きく溜息を吐き、しかし白夜を見た瞬間に気まずそうに視線をそらした。

 こっちは別に気にしてないのになぁと思っていると、奇異な目を向ける喫茶店のマスターの視線も無視して、イスカンダルはボックス席に座る一同を見渡した。

 

「ちょうど良い。全員揃っておるようだな」

 

「……何か用かな、征服王」

 

 相も変わらずどこか緊張したような声色を滲ませたまま孔明がそう問いかけると、それに対して「うむ」と肯定の意を示す。

 

「先日は幾人もの王が鎬を削る正念場を経験できたとは言え、やはり余にしてみれば消化不良であったのでな。そこで今回は別の手法で語らってみようと声をかけて回っておったのだ」

 

「別の手法、ですか?」

 

「嫌な予感しかしない……何かセイバーの眉間にメッチャ皺寄ってるし」

 

「……誰しも黒歴史というものはあるのです、マスター」

 

 悪い意味で食欲が抑えられたのか、ホットケーキを切り分けていたナイフを止めて、イスカンダルへと視線を向けるアルトリア。

 

「―――征服王、酒と肴の算段はついているのですか?」

 

「ほぅ、やはり話が早いな。酒は今から余が河岸に赴いて目利きをしようと思っておった。肴は考えておらんかったがな」

 

「それでは映えるものも映えないでしょう。……アーチャー」

 

「む、何をする気かは知らんが、料理というジャンルにおいて私に発破をかけるならば相応の覚悟はしておけ」

 

 わぁ、バトラーのサーヴァントが本領を発揮しようとしてるなぁ、などと呑気な事を現実逃避気味に考えていたが、それでは埒が明かないと判断して直球で疑問を投げかける。

 

 

「ライダー・イスカンダル、何をするつもりで?」

 

「王の宴を開く。幸いおあつらえ向きのドデカい城(アインツベルンの城)があるのでな。ちょいと様子見がてら邪魔するのよ」

 

 生粋の魔術師の思考も良く分からないが、やはり生粋の王の思考も良く分からない。

 白夜はそれを再確認しながら、結構な値段が掛かれた喫茶店の支払い票に溜め息交じりに手を伸ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 どうも、石材と木材と鉄材で交換できるものは全て終わり、残るは真水と食料―――やっぱりカーミラ礼装は正義だと思いました。十三です。

 
 何かトッキーがクズみたいな雰囲気になっちゃったけど、一般人の観点からしたらこんな感じなんじゃないかなぁ。こういうところは型月ファンの方々の間で議論し尽くされたと思いますが。とりあえず背中のアゾットには気をつけな。

 次回はみんな大好き聖杯問答です。そりゃあ自分の主張が論破(とは言えないけど)される状況とか、青王様にとっては黒歴史だよね。あの時は精神的に結構余裕なかったからなぁ……何だ、全部切嗣が悪いんじゃないか。



PS:
 何となくの思いつきでポケモンのSSが書きたくなってきた。何故だかもう主人公の設定と持ちポケの設定まで終わっている。多分ガチ勢。
 ……短編には収まりきらないなぁ。どうしようかなぁ。
 

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