Fate/Turn ZeroOrder   作:十三

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Q:何で投稿がこんなに遅れたんだ。

A:ゴメンナサイスミマセン。全身全霊で謝るのでクラレント連続ぶっぱはやめてぇ‼

 り、理由(言い訳)は幾つかあるんです‼ バイト先で時間帯責任者になって本部の講習に呼ばれたり、卒論の資料集めに国立国会図書館に詰めてたり、身内に不幸があったかと思ったら従兄が結婚しやがったりで……あ、後ポケモンGO始めたりエルサレム横断のクエストをしてたりもしました。昨日クリアしました。






ACT-12 「策謀の密会 前篇」

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり、その「岸波白夜」という少年が、4体の英霊を従えるマスターだと?」

 

『間違いはないかと思われます。先の未遠川河口周辺の戦闘に於いても、アサシンの一体がその姿を確認しておりました。―――アーチャーの宝具の掃射に対して的確な援護指示を出していた節があり、相当”戦場慣れ”しているものと思われます』

 

「っ……」

 

 遠坂時臣は、自邸の地下にある工房の椅子にもたれかかったまま、眉間に手を当てて小さく唸る。

 

 当初、彼は英雄王ギルガメッシュの強さは不動のものであると確信していた。如何にイレギュラーが相手であろうとも、敵が英霊である限り叶うものではないだろう、と。

 しかし、先の戦いの結果を聞けば、そのような悠長な事は言っていられなくなった。ギルガメッシュは真の宝具である『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』を開帳していないが、それは相手にしても同じ事。

 あのまま戦い続けたところでよもやギルガメッシュが敗北するなどという未来はなかったと信じたいが、それでも絶対勝利の方程式に綻びが出たことは事実だった。

 

「(唯一の成果は、英雄王が戦に赴くことに消極的にならなくなった、という事か)」

 

 実際、先の戦いの際に令呪を使ってギルガメッシュを呼び戻した際は内心冷や汗をかいたものだった。一体どんな心境の変化があって戦場に赴いたのかは未だに理解できないが、あそこまで「興が乗っていた」ギルガメッシュの行動に水を差したことで、更に関係が悪化するものと覚悟していた。

 だが、蓋を開ければギルガメッシュは深々と頭を下げて迎えた時臣に対して何も言葉をかけず、そのまま再び霊体化してしまった。その直前に僅かに顔を上げてみると、機嫌よく笑みを浮かべていたその横顔が見えたのを覚えている。

 

 とはいえ、それとあのギルガメッシュがマスターの命令を聞くようになったという事はイコールではない。何が激情の琴線に触れるか分からないあの性格は未だに健在であり、今も何処で何をしているのか皆目見当がつかない。

 つまるところ今まで通りではあるのだが、それでも頭痛の種には違いなかった。

 

 

『……また、彼は昨日昼にバーサーカーのマスターである間桐雁夜と、そしてライダーのマスターであるウェイバー・ベルベット、ランサーのマスターであるケイネス・エルメロイ・アーチボルトとそれぞれ戦闘目的ではなく顔を合わせています。

 更にケイネス・エルメロイに関しては、先程拠点としていたホテル『冬木ニュータワー』をチェックアウトしたという情報が教会スタッフを介して齎されました。行き先は方角と高速道路に入った事から察するに冬木市最寄りのF空港かと思われます。―――つまり、ケイネス・エルメロイはこの聖杯戦争を棄権する腹積もりかと』

 

「何だと? そんな事をすれば時計塔ではいい笑いものだ。卿とてそれくらいは弁えている筈だが……」

 

『師よ、ケイネス・エルメロイがホテルをチェックアウトしたのは、岸波白夜が彼の下を訪れてホテルを去ってから数時間後の事です。推察するに、彼が何かしらの手腕で以てケイネス・エルメロイを「聖杯戦争を棄権せざるを得ない」状況に追い込んだのではないかと』

 

「……その時の会話などはアサシンのスキルで諜報できなかったのか?」

 

『申し訳ありません。ケイネス・エルメロイはわざわざホテルの最上階のスイートルームを全て貸し切って堅牢な工房を建設しておりましたので、如何にアサシンと言えども潜入は不可能でした』

 

 綺礼の報告が正しければ、岸波白夜という少年は時計塔の一級講師すらも出し抜く交渉の手腕も持っているという事になる。加えてギルガメッシュの宝具にも対処できるほどの力量を備えているとあらば、もはや悠々と放置するわけにもいかない。

 

 

『それでは、一度この少年を教会に呼び出してみるというのは如何でしょう、時臣くん』

 

 魔力が動力源の通信器の向こう側でそう提案したのは、綺礼の父であり、今回の聖杯戦争の監督役でもある言峰璃正。その言葉に、時臣はふと顔を上げた。

 

『聖杯戦争に参加する魔術師は、原則的に監督役に参加の意を届けねばなりません。その理由で私には、この少年を呼び出せる権限がある』

 

「しかし、そこに私が居合わせるわけにはいかないでしょう。彼らは既にアサシンの正体を認識している。私と綺礼の共闘関係どころか、監督役との繋がりも既に掴んでいるかもしれません」

 

 もし、その関係が既知であったのならば、時臣たちにとっては一番知られてはならない情報を握られているという事になる。

 確たる証拠がなければ煙に巻く事も充分に可能だが、徒にその情報を広められれば幾ら噂とはいえ潰すのに奔走する羽目になる。

 

『いえ、時臣くんにはその場に参席する権利がある。管理者(セカンドオーナー)たる貴方の守護術式を完膚なきまでに砕いたのは彼らだ。彼らもそれは分かっていましょう』

 

「っ……」

 

 改めてその事態を思い出すと、内心忸怩たる思いが込み上げてくる。

 冬木の霊脈の管理のために配置した宝石ゴーレムは、一体を作り上げるだけでも数年の歳月と相当な費用を要したモノであった。それに比例するように強度と戦闘能力は、千年単位の霊石を使用して創り出すゴーレムとそう大差がないまでに上等なモノに仕上がっていたはずだった。

 

 しかしそんな傑作も、サーヴァントの手に掛かれば石槫(いしくれ)も同然。完膚なきまでに、それこそ一体残らず殲滅されて霊脈を管理していた楔を破壊されたことで、現在冬木は無尽蔵に霊脈が流れている状況だ。

 それは、管理者(セカンドオーナー)としての怠慢を問われると共に、遠坂家そのものに金銭的な大打撃を与えたことを意味していた。

 

 

「……璃正神父、どうか手配をお願いできますかな?」

 

『お任せください。―――とはいえ、名目上は単なる情報開示の為に呼び出すだけに過ぎませんので……』

 

「えぇ、勿論。野暮なことはしませんよ」

 

 そのやり取りを最後に、通信器から声が聞こえなくなる。すると時臣は、腰かけていた椅子から身を起き上がらせた。

 

 未知との遭遇―――探究者たる魔術師として、それは歓迎すべきことなのだろう。

 だが今は、一族の栄華を、悲願を叶える儀式の最中である。願わくばその未知が致命的に遠坂の運命を妨げるようなモノであっては欲しくないと、時臣は心の中でそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんかメンド臭そうなの貰った」

 

 

 食料の買い出しをするために街に降りていた白夜がそんな事をいいながらマシュと共に拠点場所に戻ってきたのは、まだ朝方の時間だった。

 八卦陣の貼り直しをしていた孔明と、その補佐をしていたアルトリアは、エミヤがカルデアから送ってもらったエコバックと見慣れない封筒を手にした白夜とマシュの姿を見て、一瞬硬直した。

 

「……一応訊くがマスター、それは何だ?」

 

「商店街で買い物してたら通りすがりにぶつかってきた人から押し付けられた。スリだったらアーチャーに頼んでハチの巣にしてもらおうかなって思ったけど、実害なさそうだから放っておいたんだよ」

 

「因みにマスター、その人物はどんな感じの人でしたか?」

 

「一見一般人っぽいけど、ヤバめの殺気を隠してる感じだったかな? アレどう見ても一般人じゃないね。ねぇ、マシュ」

 

「えぇ。私とエミヤ先輩も一瞬臨戦態勢に入ってしまいましたが、特にそれ以降接触もしてきませんでした。―――しかしやはり先輩を危険な目に遭わせるわけにはいきませんね。今度からは私が一人で買い出しをします‼ えぇ、何といっても私はシールダー、先輩の盾なのですから‼」

 

「マシュの過保護モードが入った。何とかしてアーチャー」

 

「まぁ、程度がどうであれ君の身を案じているのは間違いないのだから何とも言えんな。―――そら、これで封を切るといい」

 

 そう言ってエミヤは、投影したナイフを白夜に渡す。そうやって封を開けてみると、そこには届け先の人間の魔力に反応して文字が浮かび上がる仕掛けが施された一枚の紙が入っていた。

 浮かび上がった文字を上から下へと追っていくと、次第に白夜の表情が曇って行き、最終的に「あ”-……」と声を漏らした。

 

「遂に来た。いつか来るとは思ってんだけどなぁ……」

 

「やはり監督役からの呼び出しか。名目上はマスター登録の不履行といったところだろうな。……霊脈基点の破壊も問われるとしたら、遠坂時臣も出張ってくるかもしれんが。いや、そうなるだろうな」

 

「やっぱり手痛いしっぺ返し食らったけど……まぁ仕方ないか。こうでもしないと拠点設置できなかったしなぁ」

 

 当初はあれやこれやと言っていた白夜ではあったが、流石に此処までくれば孔明の策をどうこう言うつもりはなかった。

 まず考えるべきは目の前の事柄である。彼方が「岸波白夜」を指名して呼び出しているのなら、ケイネスとの話し合いのように孔明に全てを任せるわけにもいかない。―――必然的に、彼自身が中心となって上手く話を撒かなければいけなくなるのだ。

 

 とはいえ、腹を括る事が早い事に定評がある白夜は、その事自体は既に割り切っていた。

 従えているサーヴァントたちの中にそういう性格の持ち主が多いせいか、彼自身「準備段階では悲観的に行動するも、実践では楽観的に行動する」という面がチラホラ見られる。要は、「どうとでもなれコノヤロー」と後先考えずに行動することも偶にあるという事だ。

 

「一先ず呼び出しには応じよう。罠だったとしてもマシュと孔明がいれば何とかなるし」

 

「えぇ、お任せください先輩」

 

「私も種を蒔いた責任としてできる限りフォローは入れよう。だが、話の主導はマスター、君にある。こういったやり取りは後々必須になるだろう」

 

 心の中では「面倒臭い」と思って憚っていない白夜ではあるが、それでも孔明の言葉には頷かざるを得なかった。

 交渉事や、言葉を以てしての面倒事の回避。人理の修正という命題を背負った身としては、いつどこでそういったスキルが役立つか分からない以上、実践で以て身に着けておく必要はある。

 

「了解。……ま、俺もちょうど時臣さんには訊きたいこともあったしね」

 

 朝食用に買ってきたコンビニパンを口に入れながらそんな事を言っていると、ふとエミヤが渋い顔をしながら近づいてきた。

 

「マスター、遠坂時臣や監督役は警戒しておいて然るべしだが、アサシン―――ハサンのマスターにも警戒は解かないでおけ」

 

「アーチャー?」

 

「言峰綺礼……ヤツは危険だ。……いや、10年前の今ならば多少はマトモだったかもしれないが、それでも警戒しておいて損はない」

 

 いつになく重い口調でそう言うエミヤを見て、白夜はパンを咀嚼し終えると少し考える仕草を見せた。

 

「アサシンのマスターで、監督役の息子だっけ? でも表向きアーチャー陣営とは敵対してる姿勢を他の陣営には見せてるわけだから、今回姿を現す事はないんじゃない?」

 

「あぁ、恐らく今回はそうだろう。だが奴は常識では測れない行動を取る時がある。―――私も随分と頭を悩ませたものだ」

 

「アーチャー、目が死んでる目が死んでる」

 

 とはいえ、普段冷静に戦況を分析するエミヤがここまで特定の人物を警戒するように促すというのも珍しい。そういった事もあってか、白夜の脳内に「言峰綺礼」という人物の存在がインプットされることになった。

 

「……因みにヤバいのって行動的に? それとも戦闘能力的に?」

 

「両方だ。私が知っているのは第五次聖杯戦争時の奴であり、一概に正確とは言えないのだがね。だが奴はこの時代には既に聖堂教会の『代行者』としての実力を有していたはずだ」

 

「代行者、って言うと確か……」

 

「教会内部で異端討伐の任を帯びた戦闘者の事だ。魔術師とバケモノ狩りのプロフェッショナルだよ」

 

 そしてこれはエミヤも知らない事ではあるが、第四次聖杯戦争の頃の言峰綺礼の代行者としての戦闘能力は年齢的な意味合いもあってまさしく”全盛期”と呼んでも過言ではなかった。

 精密な『黒鍵』の扱いと、達人級に至った八極拳を用いた戦闘能力は、『代行者』の中でも更にトップエリートたちが所属する組織である『埋葬機関』の機関員にも引けを取らないほどであった。

 無論、そんな超常人間と一対一で戦ったところで、白夜が勝利を収める可能性はゼロである。ともすれば戦闘能力が乏しいサーヴァントを上回る実力を持つ彼を相手にするのは、余りにも愚策であると言えた。

 

 白夜自身もエミヤの口ぶりからその危険性を理解していたのか、深入りすることもなかった。

 自身が”戦闘者”として未熟なのは分かりきっている。それはそれで忸怩たる思いを抱かないかと言えば嘘になるのだが、虚栄心に突き動かされて蛮勇に走るわけにもいかない。

 1年前には想像もできなかったが、既に彼の身は彼だけのものではない。グランドオーダーを遂行するに当たって残された最後の希望であり、決して失われてはならない存在なのだ。

 

 

「分かった。気を付けておく。それでも、目下の問題は別ではあるんだけどね」

 

「……でも先輩、もう話の持って行き方の筋道は大体決まってるという顔をしていますね」

 

 マシュのその指摘に、白夜は思わず呆然とした顔をしてしまった。しかしすぐに失笑してしまう。

 

「顔に出てた?」

 

「えぇ、出てました。「我に秘中あり」といった凛々しい顔をされていましたよ」

 

「なんじゃそりゃ」

 

 思わず苦笑いが浮かび上がったが、確かにマシュの言う通りではあった。

 秘中などといった烏滸がましいものではないが、最低限揚げ足を取られない程度には凌ぐ事ができるだろう。

 

「そんじゃ、ま。お招きに預かるとしますか」

 

「一級クラスの魔術師と『第八秘蹟会』所属の人間に会いに行くのにそんなノリなのは君くらいだろうよ、マスター」

 

 笑い交じりのアーチャーの皮肉を背に受けながら、白夜は大きく体を伸ばして購入したミネラルウォーターを一気に呷った。

 目指すのは冬木教会。雲行きが怪しい空を仰ぎながら、しかし白夜はそれとは反比例するような表情を浮かべながら、拠点を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 言峰璃正にとって、予想外だったのは2つ。

 

 1つは、教会の手の者を使って招待状じみたものを送ったとは言え、その呼び出しに普通に応じた事である。

 それも、送ってからその日の内、それも数時間以内の事であった。通常であれば最大限警戒した上で数日の間を置いて来るものだと思っていたが、それは完全に良い意味でも悪い意味でも裏切られた形になった。

 無論、早々に話がつけられることに越した事はなかったし、来訪にしてもきちんと街中の公衆電話からアポをしてから来るという生真面目さだ。そういった意味では個人的には好感が持てた。

 

 しかし―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、どうも初めまして。岸波白夜と申します。新米魔術師でマスターやってます。この度はお招きに預かりお邪魔させていただきました。

 いや、でも立派な教会ですね。自分はちょっと諸々な理由で特定の宗教とか信じてないんですけど。―――あ、コレつまらないものですが、どうぞ」

 

 

 

 

 まさか取引先を訪問するような雰囲気で、しかも駅前で購入したらしい菓子折りを持参して来るというTHE・日本人スタイルで教会の扉を叩くなどという事は、どう足掻いても想像する事はできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 璃正が正気を取り戻したのは、それから数分後の事だった。

 否、「正気を取り戻した」という言葉には語弊があるだろう。事実彼は差し出された菓子折りを「これはどうもご丁寧に」と受け取った後に教会の談話室の方に白夜たちを案内した。

 だが、その間は上の空だったのもまた事実だ。真っ当な魔術師ならば、そして真っ当な常識を持って聖杯戦争に参戦した人間ならばまず取らないであろう行動のオンパレードに現実逃避をしてしまった感は否めない。

 

 しかし、正気を取り戻した今、改めてこの岸波白夜という少年を観察してみたが―――どうにも良く分からなかった。

 

 

 璃正は、若くして第三次聖杯戦争の監督役という任を全うした後に、聖地巡礼をしながら聖遺物の保護と管理をする為に世界中を旅してきた。

 当然、その中であらゆる世界のあらゆる人物と出会い、言葉を交わしてきた為に、人を見抜く目はそれなりにあると自負していたのだが、そんな彼から見れば、白夜の言動には一切”偽り”が見られない。

 先程までの常識破りな行動(一般人の感性からすれば至極真っ当ではあるが)も、彼の本心からの行動だったのだとすれば―――益々読めなくなる。

 

 飄々としているように見えて、その実隙は無い。歩き方などを見れば武術の腕前などはそれ程ではないと分かるし、熟練の魔術師特有の雰囲気もない。

 彼が纏っているのは正真正銘の、()()()()()()()()()()()()()者のみが醸し出せる雰囲気だ。彼が連れてきた少女と長身の男共々、「手を出せばただでは済まない」という意識を感じさせる。

 

 どうやら此方の目論見は外れてしまったようだと内心で溜息を吐きながら、璃正は白夜の座る対面の椅子に腰かけた。

 

 

「改めて初めまして。私はこの度の第四次聖杯戦争にて監督役を務めさせていただいている言峰璃正という者です。今回はわざわざお呼び立てして申し訳ない」

 

「いえいえ。不備を招いてしまったのは此方の不手際です。何しろド素人なものでして、田舎者が作法も弁えずにすみませんでした」

 

「謙遜を。貴方とて聖杯に選ばれたマスターの一人には変わらない。……僅かばかり疑問点が残る事を除けば、ですが」

 

 軽く揺すっては見たものの、当然の事ながら白夜はこの程度では顔色を変えることはなかった。

 

 

「それは、自分が複数のサーヴァントを伴って参戦している、という事ですか?」

 

 

 そして白夜は、そのことに関しては特に引っ張ろうとも思わなかった。

 放っておいてもいずれはバレる事であり、何より彼らはその事には既に気付いているだろう。

 彼らが知りたいのは「複数のサーヴァントを伴っている」という事ではなくて、「白夜達が何者か」という一点に尽きる。

 

「……えぇ。通常聖杯は七つのクラスに当てはめた七体のサーヴァントしか現界させない。仮に複数同時召喚が可能であったとしても、魔力供給が追い付かない」

 

「自分は先程も言った通りド素人なので聖杯戦争の常識なんてものは最初から存じ上げていないのですが……まぁ何事にも「抜け道」があるって事で良いと思います。

 現に()()()()()()聖杯も大きな異常を示してはいませんし、自分たちも冬木市に住まう一般人の方々には充分配慮して戦っています。お心遣いはありがたいですが、そこはあまり深く詮索しないでいただけると助かります」

 

「…………」

 

 璃正は顔を顰めそうになったが、目の前の少年の言う事にも一理あった。

 聖杯戦争の監督役と言えども、参加するマスターの行動すべてを監視・制限する権限はない。現にランサーのマスターであったケイネスは聖杯のサーヴァント召喚システムを解析した上でパスを二分し、許嫁のソラウと分断する形での変則契約という裏技じみた方法を取って見せたのだ。

 

 更に、冬木市民に実害を与えていないというのもまた事実である。

 遠坂家の守護結界に甚大な被害を与えはしたが、彼らが関与したとみられる倉庫街と未遠川河口付近での戦闘行為に於いて、人的被害は一切確認されていない。特に後者においてはかの英雄王の宝具の掃射を相手にしながら、被害は最小限に抑え込まれていた。

 

 狙いが読めないのはともかく、良識があるのは確かだろう。だからこそ璃正も、必要以上に強くは出られない。これがキャスターのマスターであった連続殺人鬼のような倫理観の欠片も持たない外道であったならば、糾弾することに一切の躊躇いもなかったのだが。

 

 

 ふと、少年の座る椅子の後ろに立つ二人の人物に目が移った。

 

 双方とも現代風の衣装を身に纏ってはいるが、醸し出される魔力の量は尋常ではない。正体はまさしくサーヴァント。

 成程、確かに良い事態とは言い難い。この第四次聖杯戦争に於いて遠坂時臣に聖杯を勝ち取ってもらうには、このイレギュラーは歓迎すべきものではない。

 ―――そのような尤もらしい理由をつけることでしか、璃正は目の前の少年に対し最低限の敵対心を抱けなかった。

 

 

「まぁでも、マスター申告を怠ったのは先程も申し上げた通り此方のミスなので色々とお話しするのは吝かではないのですが……やっぱりちゃんと面と向かって話したいという気持ちはありますね」

 

 白夜は出された紅茶を啜りながら、薄い笑みを浮かべたままに談話室奥の扉に目をやる。

 

「そこにいらっしゃるんでしょう? ―――遠坂時臣さん」

 

 意味ありげな声が静寂に包まれた教会内に響き、それとほぼ同時にその扉が開いた。

 

「……これは失礼した。聞き耳を立てるような野暮なことはするつもりはなかったのだがね」

 

 大粒のルビーがはめ込まれた杖を携えて出てきた紳士の姿を司会に収めると共に、白夜は再びゆっくりとした動作でティーカップを傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『危ない危ない危ない、マジで危なかった‼ あれで出てきてくれなかったら俺ただの痛い厨二病患者だった‼』

 

『先輩、クールですクール‼ 落ち着いて余裕の表情を保っていて下さい‼』

 

『本当に君は危なっかしいな‼ 色々な意味で‼』

 

 

 だが実際、白夜は外見程余裕があるわけではなかった。

 実のところ、教会に入ってから今に至るまで、念話の中では常にこんな感じであった。

 今までの特異点で様々な王族関係のサーヴァントと対峙してきたせいか、感情の揺れを表に出さない方法くらいならば既に存じているのだが、その分内側の感情までは平静ではいられない。

 

 とはいえ、その分「場に馴染む」のも早いのが白夜の特徴だ。

 現に今、遠坂時臣が目の前に現れた事そのものに関しては特に驚いてはいない。焦っているのは今の先程の自分の言動がもし盛大に滑ってしまったらどうしようという所から湧いてきたものである。

 

 

「改めて名乗ろう。冬木市の管理者(セカンドオーナー)であり、此度の聖杯戦争ではマスターの一人として参戦させてもらっている遠坂時臣だ」

 

「初めまして、岸波白夜です。外様の身ではありますが、どうぞ宜しく」

 

 初見の印象は、まさしく「貴族」そのものであった。

 中世ヨーロッパなどではともかく、20世紀の現代においてはまずお目に掛かれないタイプの人間だろう。それも、未だに貴族制度が残るイギリスなどではなく、そういった制度が絶えて久しいこの日本で、である。

 

 己の存在という者に対する自負心。義務を抱え、誇りを抱え、それらを護り続けていくことが使命であると欠片も疑っていないようなタイプ。

 自分では逆立ちしても出来そうにない生き方だと思う反面、そういった生き方を貫ける人の事を、白夜は衒いもなく尊敬していた。―――尤も、それだけではその人物そのものを評価できないのもまた事実である。

 

 

「今回の君の武勇は私もよく存じている。……正直私はかなりの自信を持って今回の聖杯戦争に挑んだのだがね」

 

「ご謙遜を。かの英雄王を召喚するに至らず、戦場に立たせているのは貴方の人望のようなものでしょう」

 

 尤も、そんな英雄王の姿も少年時代の彼からすれば「もう黒歴史ですね」と断言される程ではあるのだが。

 とはいえ、自らアーチャーのサーヴァントであると言うに及んだという事は、彼もまた、話を長くさせるつもりはないという事だろう。

 

「いや、君の手腕に感服したのは事実だ。何せ私が手ずから手掛けた霊脈の守護結界の位置を余さず見抜いて数時間足らずで全て無効化されてしまうとは……いやはや、魔術を嗜んでそれ程でもない者にここまでしてやられるとは思いもしなかった」

 

 その時、時臣の声色に僅かな棘を白夜は感じた。

 魔術師として、自ら手掛けた結界を無効化されたことに感服しているというのも事実だろうが、それよりも自分の管理地で好き勝手されたという事が気に食わないのだろう。それは分かる。立場が逆ならば自分も複雑な感情を持っていたことだろう。

 だが―――。

 

 

「―――聖杯戦争は”戦争”ですから。敵の懐に潜り込んで戦わなければならないので、まず最初に地盤から作り始めるのが定石です。自分に戦術論を教えてくれた人の中の一人が、そう教えて下さったので」

 

 

 それを教えてくれたのは、誰よりも”真っ当な”防衛戦を知り尽くしたが故に、敵がまず仕掛けるべき動きを誰よりも熟知した英霊、ヘクトール。

 神々が介入した最後の戦役に於いて、神の予想すら覆す程の武勇を馳せたトロイアの大英雄。俊足のアキレウスを以てしても、一対一の決闘に引きずり出す事でしか仕留めることができなかった名将軍にして政治家。

 カルデアでは常に飄々とした面を見せてはいるが、一度戦場に立てば冷静沈着な判断力と苛烈な槍捌きで敵を圧倒する彼は、白夜にとって戦術論の師の一人だった。

 

 

『ま、防衛戦ってぇのはどれだけ下準備をしたかで決まるのさ。一か八かの賭けでやるもんじゃねぇしなぁ。実際オレはその一か八かの賭けに出て死んだワケだし?

 つってもまぁ、だからと言って自分が敷いた防衛戦を突破されて怒り出すようじゃあソイツは()()()()()()()()さ。怒る前にやらなきゃならんことは幾らでもあるってな。マスターもそこんトコ覚えておいた方がいいぜ?』

 

 

 いつも通りの口調と態度のままに、しかし声色だけは真剣さを滲ませた声で彼はそう言った。

 無論、戦術的な意味合いではそれが最も正しいのだろう。しかしそれを何の疑問も躊躇もなく淡々と実行できるのは、生涯を通して戦場に立ち続けた者達か、或いは何のしがらみもなく達観した者だけだ。

 だからこそ白夜は、最初に孔明がこの作戦を立案した時にやんわりと別の案を考えていたのだ。

 

 だが、直後にキャスターの暴挙という形で「人の死」をまざまざと見せつけられてしまった事で、今までのグランドオーダーで渡り歩いてきた場所での「戦い」或いは「戦争」の在るべき姿を、白夜は強く思い出す。

 誰もが自軍に勝利を呼び込むことに必死になり、ありとあらゆる手で以て戦場を掻き乱し、蹂躙する。その大前提に則ってみれば、孔明の策は「当たり前」の事だったのだ。

 

 

「我々の行動に、其方に対する不条理性はあっても非人道性はない筈です。サーヴァントに魂喰いをさせて魔力を補給するなどという事も行っていません。―――それについては断言できます」

 

 しかし、どれ程婉曲な罠と策を仕掛けようとも、白夜は()()()()()()()()()()()()()()()()。それは、彼が自身の「人間性」を失わないようにと遵守している事の一つでもあるからだ。

 だが、一度でも戦いというモノに赴いたことのある者ならば誰だって理解している。―――戦場では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事を。

 

「此方も、容易く守護結界を突破したわけではありません。謂わば我々は異分子(イレギュラー)のようなものですしね」

 

 だから、と、白夜は続けた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。後は自分を糾弾するも、放っておくも其方側の判断に委ねましょう」

 

 その言葉が彼自身の口から出た時、マシュが一瞬だけ心配そうに眉を顰めたが、それよりも分かりやすく時臣が押し黙った。

 ここで話を区切るという事はつまり、暗に時臣に対してこう言っている事になる。―――「自分を罰するような事があれば、それは即ち貴方の鼎の軽重が問われる事と同義である」と。

 

 そうなれば、貴族の資質を持つ時臣は彼を非難することはできない。例え万人が見ている場でなくとも、自らの価値が下がる事は、彼にとっては許しがたい事であった。

 

「……いや、私も少々ばかり意固地になっていたようだ。そも、損失を惜しんで勝てる戦など此の世にありはしないだろう。君のような若い魔術師が、そこまでの含蓄を衒いもなく言うことができる理由を知りたいというのが本音だがね」

 

「面白くもない話です。自分で戦う才能が皆無な三流魔術師が、みっともなく足掻いてもがいて必死に生き残っていただけですよ」

 

 ともあれ、話を有利な方向に誘導できたのは僥倖だった。

 罪に問われてこの先動きづらくなるという状況だけは何としても避けたかったので、これだけできれば上等と言えるだろう。

 

 すると、少しばかり安堵して目を離した隙に、いつの間にか璃正の姿が談話室から消えていた。

 

「あぁ、璃正神父には申し訳ないがご退席願った。……ここから先は、”聖杯戦争のマスター同士”の会話にしたい」

 

 それだけを告げると、時臣は単刀直入に用件だけを伝えに来た。

 しかしその内容を聞き―――。

 

 

 

「岸波白夜君。君と私とで同盟の締結を申し出たい。―――互いに聖杯に手を伸ばす者同士、悪い話ではないと思うがね」

 

 

 今度こそ白夜は―――閉口せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 はい、というわけでどうも。十三です。前回はディルムッド君が仲間になってくれたところで締めましたね。
 プロット段階では腕試し的なアレでZero原作でもあった廃工場跡地でディルVSアルトリアの戦闘も書きたかったのですが、「お前ゲイ・ボウまで持ち出してアルトリアに何かあったら腕試しじゃ済まねぇだろ」という友人の尤もな進言があって却下になりました。

 璃正さんは個人的には嫌いじゃないけど、そこまで息子の心の迷いを見抜けないものですかね? 父親であるが故の盲目かな?
 そして時臣は最後の最後でとんでもない爆弾を投下しましたね。この期に及んでこれを言うか的な。
 まぁ、詳しくは次回で。




 そして、第六特異点 神聖円卓騎士団キャメロット。いやぁ、面白かった。
 ストーリーは重厚だし、戦闘も手応えありましたねぇ。あ、でもガウェインだけは死すべし。最初の正門での戦いは完全に負けゲーだと思った私は悪くない。
 
 特にハサンさんは良かった。静謐ちゃんが可愛すぎて悶えるかと思いましたが、呪腕さんが良い人過ぎて泣けるレベル。あ、勿論アーラシュ兄貴も忘れてませんよ? 三蔵ちゃんや藤太さんもお疲れっした。
 円卓の面々も、色々なところで意外な一面(という名の不祥事)を暴露されてるから、こういうシリアスしかない登場も中々乙なものでした。

 もし私がこの特異点の話をなぞって書くとしたら……最後の最後で青セイバー持って行きたいですね(願望)。槍トリアでも可。


 なにはともあれ、最高でした‼


PS:クリア後にピックアップガチャ引いたらオジマンディアス×2とランスロさんと静謐ちゃん出た。……まだだ、ニトクリス(と後欲を言えば白槍トリア)を引くまでは終われんよ‼

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