どうやら世界は、マッ缶のように甘くは出来ていないらしい   作:さめのひと

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プロット刷新につき入れる場所のなくなったTIPSや設定として作った話の中でTIPSにはなりそうだけど入れる場所が見当たらない、なんて話がちょいちょいあったりとか。

3月からまた忙しくなりそうです()


第13話

13

 

「…なんで風間隊と二宮隊の皆さんが俺の隊室に?」

「そんなことはどうでもいいんだけど?」

 

 やっべぇ、当たり前の疑問を三上が封殺してきた。三上ってこんな殺気出せるんだなぁ…

 

 ふと視線を彷徨わせると、ゆきちゃん以外が全力でドン引きしてるじゃん。ゆきちゃんは普通にいつもの笑顔のままだけど。

 

 風間さんや二宮さんさえ黙らせて視線を彷徨わせる程の殺気に「ひぅっ」とか声を出した俺は普通だ、正常な筈だ。

 

 おい朋也さんと犬飼先輩と菊地原、三上じゃなくて俺を見てドン引きしてるじゃねぇよ。

 

 ってかそろそろ三上さんが怖い。いや最初から怖いけど。

 とりあえず、話を進めなければ…

 

「み、三上さん…何をそんなに怒ってらっしゃるんですか?」

 

 風間さんや二宮さんを黙らせる殺気相手に、俺が敬語になるのも仕方ないことなんだ。

そう、仕方ないことなんだ…

 

 なんて考えていると三上がゆっくりと笑み(殺気)を浮かべて口を開いた。

 

「あのね比企谷くん。私はね、怒ってるわけじゃないんだよ?」

 

 いやあの三上さん!?

 笑み(殺気)を浮かべながら言われても説得力ないからね?

 

 

「とりあえず三上、言いたいことはなんとなくわかるが後回しだ。今回の件のミーティングのほうがよっぽど重要だろう」

 

 と、俺にとって最高のパスを出してくれたのは風間さんだった。

 

 てか風間さんは三上が何に怒ってるのか分かってるのね…

あとで教えてもらおう。

 

「それと比企谷、お前もそろそろ色々開示してもいい頃合いだろう。風間隊のことを気にしてるとか岡崎から聞いたが、そんな遠慮はいらん」

 

 と、俺にとって地獄のようなパスを出したのも、また風間さんだった。

 

 ってか朋也さん…風間さんは事情知ってるからまだいいけど、しれっと内情を流さないでほしいもんだ。

 

 なんて目を朋也さんに向けていると、朋也さんはバツの悪そうな顔をしてこちらを見返してきた。

 

 そんなやり取りのあと、しばらくした後に、さっき三上に若干引いてた二宮さんが神妙な面持ちで前に出てきた。

 

「まずは、俺の隊の隊員が不始末を起こしたこと、それと迷惑をかけたことを謝罪したい。済まなかった」

 

 といって頭を下げてきた。

 

 …まぁそりゃそうか。

 ここにいる二宮隊以外の全員が鳩原さんの所為で動かされてしまった人間だしな。

 あんま気にしてないけど。

 

「鳩原さんの行動の因果は鳩原さんが受けるべきでしょ。二宮さんが頭を下げるべきことじゃないと、俺は思うんですけど」

 

 二宮さんの謝罪から、いの一番に口を開いたのは朋也さんだった。

 

「ボーダーって組織としては何かしら咎は有るでしょうし、上に頭を下げる必要はあるとは思います。けど、俺も朋也さんと同じで、二宮さん達を責めるつもりは無いですよ」

 

 俺も朋也さんに続けとばかりに口を開いた。

 だって、空気重くなる前に発言したいし。

 

「私は…正直複雑です。二宮さんなら鳩原さんを止めれたんじゃないか、とやはり考えてしまいますし…」

 

 なんと意外なことにゆきちゃんが二宮さんに否定的な意見を出してきた。

 それもかなりの含みを持たせて。

 

 その意見自体は朋也さんや風間隊のメンバーから出るならまだしも、ゆきちゃんから出ることはあまり想像できなかったのが正直なところだ。

 

「そう言われても仕方はないのは分かってる。鳩原のそれは、正しく裏切り行為だからな」

 

 …どうやら二宮さんは此処で糾弾されるのを覚悟した上でこの場に立っているようだった。

 

 それもそうか。二宮隊の隊長は二宮さんだからな。

 思うところはあって然るべきなのかもしれない。

 

「あんま接することがなかったのも有るでしょうけど、普段から何考えてるかいまいちわからない人でしたよね」

「おい菊地原!」

 

 と菊地原と歌川。

 

 まぁ、オールラウンダーやアタッカーなら繋がりが薄いのも頷けるが、その所見はどうなんだ…

 歌川もめっちゃ困った顔してるじゃん…

 

 まぁ、そうは言っても菊地原の言うことは最もでもある。

 

 ボーダーの中でもポジションが違う隊員とは、あまり絡みがなくても不思議ではない。

 

 かくいう俺もアタッカーとシューターならまだしも、ガンナーやスナイパーといったポジションの人間との交友関係は元来のボッチ気質もあってかなり限られているからな。

 

 俺のことはさておき、鳩原さんもスナイパー以外のポジションの人と交流を積極的に行う人では無かったように思える。

 

 俺が知らんだけで交友を重ねてた線は無きにしもあらずだが…

 

「俺としては過ぎたことをどうこう言う気はない。隊長としての任命責任だの隊としての処遇だの後処理があるのも事実だが、それを決めるのは俺達じゃなくて上層部の仕事だ」

 

 と風間さんがバッサリ言い切る。

 

 ってか俺が言ったことと似てるくね?

 

 スコーピオン使いは思考が似るのかね?いや、ないわ。菊地原と思考が似てるだなんて絶対にありえない。

 

 絶対にだ。

 

「箝口令が出てるとは言えど、ここにいる面子は問題がないはずだし、比企谷ちゃん達や風間さん達にも何かわかれば情報提供はしますし、また逆も然りでお願いしたいっす。いいですよね、二宮さん?」

 

 と犬飼。

 

 それ、上層部が許可すんのかねぇ…

 

「それを決めるのは俺じゃなくて上だ。今ここでは何とも言えん」

 

 あ、やっぱりそうですよね。

 

 その二宮さんの発言からか話の流れは変わり、全員で情報交換をする流れになった。

 

 ちなみに辻は一言も喋ってなかった。

 

 氷見さん以外の女子が二人いるだけでタジタジなのね…

 

 南無三。

 

 

 

 

 

 

「ふむ…そうか」

 

 少し溜め気味にそう発言したのは城戸司令であった。

 

 ちなみにここは上層部用の会議室。

 

 上層部からは城戸司令、忍田本部長、鬼怒田さん、根付さん、唐沢さん、林道支部長に本部長付きとして沢村さんが出張っている。

 

 ちなみに隊員側からは比企谷隊、風間隊、二宮隊の3隊がフルメンバーで招集されている。

 

 頭の中でそんな状況を軽く整理していると、二宮さんが挙手して言葉を紡ぐ。

 

「この件を理由に俺の隊からボーダーからの除隊で責任を取れというのなら、俺だけにしてください。犬飼や辻、氷見はいくら”裏切り者のいた隊”にいたとしても、こいつらが責任を負う咎は無いはずです」

 

 …二宮さん、珍しく熱くなってるな。

 

 とはいえ二宮さんは勘違いされやすいが、冷徹無血な人ではない。

 

 一度心を開いた相手にはぶっきらぼうながらに相応の情を向ける人だ。

 

 まぁ、とは言えど俺も同じ状況になれば同じことを言ってただろうが…

 

 隊長はみんなこんなもんなのかね?

 

 他所様の事情は知る由もないが。

 

「流石にそこまで理不尽な処罰は下せない。二宮君、安心してくれて構わない」

「まぁ、とはいえ何かしらの処罰はある、ということですか?」

 

 忍田さんと唐沢さんが処罰の審議に入る…のかな?

 

「流石に理由を伏せたとしても何かしらの形で鳩原くんの除隊は勧告せねばなるまい。名目上は重要隊務規定違反による除隊、などにはなるだろうが…」

「流石にそこに対しては何かしらの処罰は必要かと思われますねぇ。それも今回のことは個人が起こしたこととはいえ、隊に対して監督責任を問いたいところでもありますし」

 

 城戸司令おっかねぇよ…

 あと根付さんは流石広報最高責任者。

 こういったイレギュラーへの対応や判断も素早い。

 

「まー、二宮隊は鳩原を除いてもボーダーの中で名うての戦力であることは間違いないわけだし、除隊のセンは考えられないでしょ。俺としてはB級への降格あたりが妥当なセンだと思いますけど?」

 

 …林道さん相変わらず飄々としてるけど、落としどころをさり気なく自分の意見として提案してるあたり、やはり上層部にいるべき人間なのだな、とは思う。

 

 シューターとしての、俺の指導をしてくれていたときのような覇気を一切見せることなく、はたまたレイジさんや小南たちとふざけてるときの雰囲気もなく…ただ静かに、凛と構えるその姿に俺は畏怖の念すら抱くまである。

 

 表裏をここまで使い分けれるあたり、流石上層部の末席とは言えど席を与えられているだけのことはある。

 

「確かに、戦力を落とさずに責任を取る、という意味では適切かもしれませんねぇ。それに二宮隊には申し訳ないですが、隊として責任を取ってもらうという意味では妥当な落としどころでもあるでしょうし、他の隊への示し、というところも付きやすいでしょうしなぁ」

 

 と根付さんが言うと、城戸司令と林道さん以外の一同が頷く。

 

「では、本日はひとまずこのあたりで締めさせてもらおう。結論としては、本件の箝口令は継続、先にも上がった捜査の話については本会議に出席してる者、並びに監査委員のみで執り行う。処罰についてだが、暫定的に鳩原隊員は重要隊務規定違反による除隊、そして二宮隊はその責としてB級への降格とする。尚、隊長責任としていくつか細かい処罰も盛り込むつもりではあるので、二宮くんはそのつもりでいてくれ」

「…はい」

 

 城戸司令が言い切り、二宮さんの力無き声が会議室に響く。

 

 こういう時のための責任役がA級の隊長には求められる。

 二宮さんには少し同情するが、こればかりは致し方ないことだ。

 それがボーダーのルールであるわけだし。

 

「忍田本部長、号令を」

「分かりました。では、解散」

 

 そして重苦しい雰囲気を残し、会議は終了した。

 

 

 

 

 

 

「で、比企谷君。ちゃんと説明してもらうよ?」

 

 …三上さん、あなたあの空気から立ち直るの早すぎじゃないですかね!?

 あと何気に氷見さんもいるし。

 

 ちなみにここは比企谷隊隊室。

 

 面子は比企谷隊のメンバーに風間さん、三上、氷見さんである。

 

「比企谷。話しづらいなら俺から話してやってもいいんだぞ?」

「やめてください風間さん。たぶん俺が憤死する説明の仕方するでしょ」

「…そんなことはない」

 

 じゃあ今の言葉の間はなんなんですかねぇ!?

 

 風間さんは意外とお茶目なところもあるから要警戒である。

 

 ってか小町がワクワクした目でこっち見てるし。

 

「…ちなみに氷見さん、なんで貴方もここに?」

「比企谷隊のシークレットの正体、気になるじゃない」

 

 さらりと言い切った。

 

 確かに割りとシークレットにしてた部分はあるけどさぁ…

 

「氷見さんここにいて大丈夫なのか…とりあえずなんで三上が怒ってるがわからんが…って朋也さんも風間さんも、え?氷見さんも??三人とも呆れた目で俺を見ないでくださいよ」

「って言われてもなぁ…」

 

 朋也さんは頭を掻きながら俺をジト目で見ることをやめなかった。

 尚、風間さんも氷見さんも同様である。

 

「えと…小町、比企谷隊のシークレットって言われてるんですか?」

「ええ。えっと…小町さん?貴方、ほぼ比企谷隊室の外で見かけないから、比企谷隊のオペレーターじゃないか?って噂もあれば、比企谷隊の隠し玉のアタッカー、それも太刀川さんクラスの…なんて噂もあったりとかするぐらいよ?」

 

 なんだその噂。

 

 太刀川さんクラスのアタッカーとか自隊にいるならもっと早くカードとして切ってるわ。

 

「…うん。太刀川さんと一緒にされるのは小町もすごく不名誉なのでお兄ちゃん、早く説明して?」

 

 小町がそう言うと三上と氷見さんが「へ?」と素っ頓狂な声を上げた。

 

 ってか太刀川さんェ…

 

「あー、うん。いまの小町の一言で分かるとおり、俺の妹の小町だ。ちなみにアタッカーじゃなくてオペレーターな。てか噂になってたのかよ…」

 

 秘匿作戦大失敗だな!

 そんな作戦立てた覚えもないけど。

 

「ども!ご紹介に預かりました通り、これの妹の小町です!以後お見知りおきを!」

「ちなみにシークレットにしてた理由は他人との交流に気を取られて仕事覚える時間が減ることを危惧してのことだ。んでもって小町の師匠にあたる国近先輩と宇佐美は小町のことは既に知ってる、って感じだな」

 

 あと小町、兄を”これ”扱いするのはやめなさい。

 兄としての威厳がかけらも感じられなくなるからほら。

 

 いや、実際に威厳なんてあってないようなものだけどさ…

 

「比企谷くん、妹いるって前言ってたけどボーダー関係者だったなんて…テカイモウトデヨカッタァ」

「随分可愛らしい妹さんなのね?良かったじゃない歌歩ちゃん」

「ちょ、ひゃみちゃん!」

 

 三上が氷見さんをぽこぽこ叩いてる。

 

 うん、それはもう愛くるしい様子で。

 

「…比企谷、それで終わりか?」

 

 風間さんがすっげぇジト目でこっち見てくる。

 

 え?風間隊の離隊理由迄話せってこと?

 

「それこそ話しづらいなら俺から話してもいいぞ」

「え、風間さん…まだ何かあるんですか?」

 

 寧ろ氷見さんのほうがイキイキしてるんですが…なんでなんですかねぇ。

 少し前まであなた男性恐怖症じゃなかったっけ?詳しく知らんけど。

 

 俺の隊って小町のこと以外は割りとオープン…でもなかったわ、うん。主に戦術とか。

 そんな俺の隊の気質が災いしてか、一個シークレットが暴かれたとなればそれに続けと言わんばかりに秘密を探りたくなるのは分かる。

 

 なんて考えてると、朋也さんが前に出て

 

「氷見、三上。比企谷は単にシスコンだってだけの話だぞ。風間隊抜けたのだって小町のためだし」

 

 と言い放った。

 

 …

 

 ……

 

 ………

 

 …………

 

 

「朋也さんあっさりバラしてんじゃねぇ!」

 

 と俺が叫ぶと朋也さんと小町が腹抱えて笑いだした。

 

 小町はともかく朋也さんは後でシバく。

 

 具体的に言うと模擬戦を仮想空間で行うだけの簡単なお仕事だ。

 だいたい200本ぐらい。

 

 ちなみにゆきちゃんはいつも通りニコニコ、三上と氷見さんは呆気に取られてる。

 

「まぁ朋也さんは後で処刑するとして「おい」異論反論は聞きませんのでそのつもりで。三上、いつぞや風間隊の連携についてけないって言い訳したとき、負い目抱かせて悪かったな。あのタイミングじゃまだ誰にも話すつもりがなかっただけに、その…いろいろとすまん」

 

 三上はなんというか、俺に対してジリジリと距離を詰めながらってか近い近い近い!

 詰め寄られた結果、人一人分の空きスペースしかないよ?ものすっごいパーソナルスペースにぐいぐい来るのね三上さんや…

 

「ほんとだよ…あのとき、比企谷君曖昧な返事しか返さないもんだから、私嫌われてるんじゃないかってすごく不安になったんだからね!」

「いやほら、朋也さんの暴露で一気に情報に価値がなくなったけど…ほら、あのときの俺の脱退理由のせいで三上や風間さんたちに迷惑かけれなかって痛てぇよ小町!」

 

 喋ってる途中に小町に蹴りを入れられた。

 解せぬ…

 

「女の子を不安にさせるなんて、小町的にポイント低いよ、ごみぃちゃん…」

 

 ガチでゴミを見るような目で俺を見ないでくれ愛しのマイシスターよ。

 

「歌歩さん、こんな愚兄ですが、仲良くしてあげてくださいね!」

「うん、小町ちゃんだっけ?お互い仲良くしよ!」

「はい!」

 

 なんか女子二人はいきなりテンション高くなったな。

 

 そしてそんな光景を一歩引いた立ち位置から見てるゆきちゃんや氷見さん。

 風間さんはなんというか、凛とした佇まいのままこちらに視線を向けてる。

 後朋也さんは知らん。あとで処刑するし。

 

 …さっきまで二宮隊や事後処理の兼ね合いでギクシャクしてたとは思えない光景に、俺は少し安堵を覚えるのだった。

 

 一昔前なら考えられなかったが、なんだかんだ言っても、俺はこんな空気が嫌いじゃないみたいだ。

 

 …ちなみに朋也さんはこの後解散した後に無事処刑しました。

 

 逃げようとしてた朋也さんの首ふん捕まえて自隊のブースに叩き込んできっちり200本戦いましたよ、ええ。

 




次回はTIPS&Side Story集(の予定)です。

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