うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~ 作:ガジャピン
普段は5000字前後で投稿するよう心掛けているのですが、今回は話の流れ上、少し短めになってしまっています。
雲一つない透き通るような青い空。
射命丸は妖怪の山を目指して、澄んだ空を切り裂くように
「う~ん、魔理沙さん絡みのこういう記事は本当に久しぶりですねー! 腕がなっちゃいますよー!」
射命丸は良いネタをいくつも手に入れて上機嫌だ。
楽し気な笑みで、どんどん目的地へと近付いていく。
しかしその道中、射命丸の行く先を遮るように妖怪たちが立ち塞がる。
「……せっかくの良い気分が台無しですよ。さては、あなた方も『あの力』を取り込んだのですか」
妖怪たちは何も答えない。ただ口を歪ませて
「答えませんか。では、さようなら」
目にも止まらぬ速さで、射命丸は妖怪たちの間を縫い、妖怪たちを通りすぎた。
妖怪たちは何が起きたか分からず困惑していたが、一拍置いた後、身体中が鋭利な刃で斬り裂かれたようにバラバラになった。
射命丸はため息をつく。
「こんな哀れになる程弱々しい妖怪が、私に喧嘩を売るなんてやっぱりおかしいですね。
まぁ、十中八九幻想郷に流れているこのおかしな力のせいでしょうけど」
射命丸は空から目を凝らした。
本当に微かだが、幻想郷の空気に何かの力が混じっている。
その何かの力を色で言うなら赤色かなと、射命丸はなんとなく思った。
この何かには、妖怪しか気付けないようだ。
おそらく妖力に近い力なのだろう。
別にこの力自体が悪いわけではない。純粋な力といってもいい。
問題は、その力を妖怪が己のものにできてしまうこと。
さっきの妖怪たちは、弱いくせに力を手に入れたことに酔い、好戦的になっていたのだ。
そこまで考えて、射命丸は一つ腑に落ちないことがあるのに気付く。
「私は争い事を好まない平和主義者の筈なんですが、なんで相手にしてしまったんでしょう?」
いつもなら、あんな相手にしたところで何のメリットもない奴らを倒さないだろう。
自分の速さは、幻想郷一だと自負している。
あんな雑魚妖怪をスルーすることなど朝飯前だ。
ふと射命丸は己の両手を見つめる。
「私も──好戦的になってる?」
千年生きている私が──こんな力の影響を受けている。
それはどうしようもなく屈辱的で、なのに嫌な気はしない。
妖力が身体中を縦横無尽に駆け巡る。幻想郷に身を置くだけで、妖力が際限なく上昇していく。
身体の奥底で熱が灯り、自分の身を燃やしている。
射命丸は自分の中にチリチリとした火種があることを自覚している。
「ああ……それでも、この高揚感は止められない」
目の前に無償で自分の力を高める力があったとして、一体どれだけの妖怪がそれを拒否出来るだろう。
おそらく拒否する妖怪なんていない。
射命丸には、この力が何かは分からない。
だが、この力の発生源は分かっていた。正確に言えば、魔理沙に会い外来人を見た瞬間に気付いた。
外来人は気付いていないようだが、彼の身体から幻想郷に漂う力と同じものが微かに漏れていた。
あんな力を垂れ流しながら妖怪の山にくれば、一瞬で危険人物とみなされ、妖怪の山にいる妖怪全てが排除しようとするだろう。
「──さて、魔理沙さんとナルトさんは博麗神社に向かっているようですね」
だとしたら、二人は博麗霊夢と出会うことになる。
彼女は人間だが、ナルトの力に気付くだろうか。
そして、この異変の原因が彼だとしたら、彼女は一体どんな選択をするのだろう。
ただ、一つだけ確信している事がある。
二人が出会うとき、平和だった幻想郷は終わりを告げ、異変が本格的になる。
「私は新聞記者。物事には直接介入せず、事の成り行きを見守るのが常。ですが、霊夢さんには色々お世話になってますからね。人里を襲う妖怪から、人里を守るくらいのことはしてあげますよ」
それに、人里には自分の新聞を読んでくれる読者もたくさんいるのだ。
「そうと決まれば、早く記事を書き上げないと──!」
射命丸は止めていた身体を動かし、妖怪の山に向かって飛翔する。
射命丸が通った後の軌跡は、僅かに赤色を帯びていた。
◆ ◆ ◆
ナルトと魔理沙は博麗神社目指して全力疾走で走っていた。
博麗神社の周辺の森には妖怪がいて、魔法の森と同じようにそれらの妖怪たちが束になって二人を襲ってきたからだ。
「これが普通なのか魔理沙!? こんなとこに本当に人が住んでるのか!?」
「住んでる! 魔法の森を抜けた時に、指差してあれが博麗神社だって言っただろ!」
「博麗神社は見たけどさぁ! こんなの人があそこに行けねェだろ!?」
ナルトの疑問はもっともである。
ナルトや魔理沙でなければ、たちまちに妖怪に追いつかれ、命を落としてしまうだろう。
「確かに人間がここに来たら、妖怪たちに襲われるかもしれない! だから、普通の人間は滅多にここに来ようとしないぜ! ただ、霊夢だけは例外だ! あいつは何故か妖怪に好かれるからな!」
魔理沙は箒に乗って低空飛行をしながら、後方を振り返る。
(けど……こんな風に妖怪が人を襲うなんて、やっぱおかしいぜ!
魔法の森の時といい、間違いなく幻想郷で何かが起こってるぞ!?)
そんな疑問を胸に、魔理沙はナルトとともに博麗神社の鳥居前の石段にたどり着いた。
ナルトたちを追いかけていた妖怪たちは、石段前にたどり着いた時にはいなくなっていた。
「さすがにこの場所までは、来ようと思わないようだな。安心したぜ。妖怪を引き連れて霊夢のところに行ったら、何て言われるか想像もしたくないからな」
「なんでこの場所には来ないんだ?」
ナルトは肩で息をしながら尋ねる。
「博麗神社に住んでる霊夢は、問答無用で妖怪を退治するときもあるからな。妖怪にとっては天敵みたいなもんだぜ。まぁそれで妖怪に好かれるんだから、不思議だけどな」
会話をしながら石段を上がっていく。
そして石段を登りきり鳥居をくぐった時、ナルトと魔理沙は霊夢を見つけた。
霊夢はナルトたちのほうに背を向けて、境内の掃除をしている。
「おーい霊夢! 魔理沙様が来てやったぞーッ!」
魔理沙が声を出しながら、霊夢に近付く。
「うるさいのが来た。一体何の用──」
鬱陶しそうにしながら魔理沙の方に振り向いて、霊夢は目を僅かに吊り上げた。
「……呆れたわ、魔理沙」
「え? ああ、いきなり来たのは悪いと思ったけど、こんなのいつもの──」
「そっちじゃないわ」
霊夢はナルトを睨んでいる。
「この男と一緒にいて、何も感じなかったの?」
「──え?」
「なんだ? オレってなんかおかしいのか?」
そう言ったナルトを霊夢は鼻で笑う。
「おかしい? あっきれた! あんた、自分が何をしているか分かってないの!?」
「……は?」
「あんたの身体から垂れ流してる変な力を止めろって言ってんのよ!」
霊夢にそう怒鳴られ、ナルトはハッとしながら周囲に意識を凝らす。
「──これって九尾のチャクラ? 漏れてるのか……?
なんでだ!? まさか、封印が──!」
ナルトは服を捲り上げる。
魔理沙から制止の声があがったが、ナルトの耳には入ってこなかった。
ナルトは自分の腹部にされている八卦封印を見る。
見た瞬間に、ナルトの顔から血の気が引いた。
「八卦封印が……少し
八卦封印の形はしっかりと残ってる。
だが八卦封印の術式は、墨で書かれたように真っ黒でなければおかしいのだ。
今の八卦封印は、僅かに白みがかっていた。
『九喇嘛!』
《ああ! ワシも今気付いたぜ! それくらい僅かな綻びだ! だが、ワシがその気になりゃぶっ壊せるくれぇに弱くなってんぞ!》
いつだ? いつ、八卦封印がおかしくなった?
《……もしかすると、金髪のガキの黒い螺旋丸が原因じゃねぇか?》
ナルトは黒い螺旋丸に当たった影分身の記憶を持っている。
その記憶を思い返す。
『あの黒い螺旋丸はオレの腹、ちょうど八卦封印があるところに当たってる! 間違いねェ!』
金髪の少女──フランドール・スカーレットと魔理沙が言っていた。
彼女は封印も壊せる力を持っているのか。
『九喇嘛! このチャクラどうにかできねェのか!?』
《無理だ! 八卦封印をし直すしか、このチャクラは止められねぇ》
「そういえば、まだ名乗ってなかったわね」
霊夢の声が響き、ナルトは九喇嘛との会話から現実へと意識を引き戻された。
「私の名前は、博麗霊夢。
博麗神社の巫女で──あんたみたいな幻想郷をおかしくする奴を懲らしめる異変解決を生業にしてるわ」
霊夢の手にはスペルカードが握られている。
「おい霊夢! いきなりそれはないぜ!」
「魔理沙、私の邪魔をしないで! これは──異変よ!」
こうして、九尾のチャクラが幻想郷を覆った異変。
後に『九尾異変』と呼ばれる異変が始まった。
さて、ようやく物語が本格的に動いていくと思います。
ここで1つオリジナル設定として、フランがナルトの影分身を能力の攻撃を与えて消した場合、影分身の情報にフランの能力も混ざり、本体にも影分身の受けたダメージの何分の一かが反映されるという設定があります。
なので、もし能力を喰らっていたのが本体だったら、完全に八卦封印は壊されて、九尾が幻想郷に解き放たれていました。
ここで次章の予告をしたいと思います。
九尾のチャクラが幻想郷を覆い、九尾のチャクラを得て好戦的になる妖怪たち。
その原因であるナルトを危険だと判断して、排除しようとする霊夢。
排除する以外の方法がある筈だと、真っ向から霊夢に対立する魔理沙。
幻想郷の変化と壊れてしまう危険性の狭間で揺れ動く紫。
なんとか八卦封印を元に戻そうと、奔走するナルト。
ナルトは八卦封印を元に戻すことができるのか!?
次章「九尾異変~Go berserk monster~」
もしかしたら次話から更新が遅くなるかもしれませんが、長い目で見て下さると嬉しいです。