うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~   作:ガジャピン

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自覚~Contradiction~

「魔理沙、オレってば聞きたい事があるんだけど──」

 

「なんだ?」

 

「ここは何処だ?」

 

「まあ分かっちゃいたけど、やっぱナルトは外来人だったか。とりあえず、どうやってこの世界に来たのか教えてくれないか」

 

 ナルトはこの世界に来た状況と、その後の紅魔館での出来事を魔理沙に話した。

 自分は無数の目が浮かんでいる裂け目に落ちてここに来たこと。

 どれだけ待っても術者からのコンタクトがなかったこと。

 周辺を探索して、赤い館と湖を見つけたこと。

 赤い館に行き、翼の生えた金髪の少女と『弾幕ごっこ』というものをして、重傷を負ったこと。

 その館の一人から、八雲紫という人物が自分をここに連れてきた奴だと言われたこと。

 魔理沙はその話を聞いて、小さく笑った。

 

「くっくっ……ナルト、運が良いぜお前は。紅魔館に喧嘩売って死ななかったからな。それと、ナルトをここに連れてきたのは間違いなく八雲紫だな。あいつの使うスキマには、無数の目が浮かんでるんだ」

 

「その八雲紫って奴は危ねェ奴なのか? オレがいた元の場所の奴らを、オレみたいにここに連れ込んだり、殺したりしないか」

 

 ナルトは祈るような気持ちで尋ねる。

 

「紫は何の理由もなく、そんな事はしないぜ。だからナルトの世界の奴らは大丈夫だ」

 

 魔理沙の言葉に、ナルトはとりあえず安堵した。

 そのすぐ後、疑問が浮かびあがる。

 

「……ん? オレの世界?」

 

「そう! ナルトが今いるこの世界は『幻想郷』といって、ナルトのいた世界とは全く異なる世界なんだぜ! つまり、ナルトは異世界に来ちまってるんだ!!」

 

 ナルトは口をぱくぱくと動かす。

 そして、数秒かけて内容を理解した。

 今いるここは異空間ではなく、異世界。

 

「ええええぇぇぇぇええええ!!」

 

 ナルトの絶叫が辺りに木霊した。 

 

「いや~、そんな良いリアクションされると、私も力強く言った甲斐があるぜ!」

 

 魔理沙はグッとガッツポーズをした。

 

「いやいやいや、なんでこっちはショック受けてんのに楽しそうなんだよ!?

お前ちょっと性格悪いぞ!?」

 

 魔理沙はナルトの言葉に、心外だと言わんばかりにムッとする。

 

「私の性格の悪さはちょっとどころじゃないぜ! そこんとこよろしく!」

 

(だ……駄目だこいつ……早くなんとかしないと……)

 

 ナルトは思わず頭を抱えた。

 

(魔理沙のペースに呑まれたらダメだ)

 

 ナルトは深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 

「それで、その紫って奴には何処に行けば会えるんだ?」

 

「何処に行っても会えないぜ。あいつは引きこもりだからあ”あ”あ”あ”!」

 

 魔理沙の頭上に腕が現れ、帽子の上から拳骨をした。

 魔理沙は頭を両手で抱えて地面を転がり回っている。

 魔理沙はやっとの思いで立ち上がり、右拳を握りしめた。

 

「いきなり何するんだぜッ! このバ──」

 

 今度は魔理沙の腹部のすぐ近くに腕が現れ、魔理沙の鳩尾(みぞおち)を殴った。

 

「ぐおおぉぉぉぉ!」

 

 魔理沙はお腹を抱えるようにうずくまった。

 

「お、おい魔理沙、もう余計な事言うの止めろよ……」

 

 ナルトの声は僅かに震えている。

 

(たかがちょっと気に入らない事言われただけなのに、この容赦のなさは何だよ。こんなの異常だ)

 

「いい加減にしろよ、この覗き魔が……!」

 

 魔理沙の目は据わっていた。

 その手にはスペルカードが握られている。

 

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 

 魔理沙の周囲に、色とりどりの星形の弾幕が張られた。

 

「わったったっ──!」

 

 ナルトは必死にそれらを回避した。

 魔理沙は意識を周りの弾幕に集中させる。

 その弾幕の中で一部分だけ、何かの影響で弾幕が消えているところがあった。

 すかさず、もう一枚スペルカードを取り出す。

 

「彗星『ブレイジングスター』!」

 

 魔理沙は箒に乗り、マスタースパークをミニ八卦炉で後方に発射しながら、その推進力を利用して、猛スピードで弾幕が消えている場所に突っ込む。

 充分に加速したところでミニ八卦炉を手放して、一度スカートの中に左手を入れる。

 そしてスキマの中へ左手を伸ばし、逃げようとしていた紫の右腕を掴む。

 だがその手はすぐに払いのけられ、魔理沙の左手はスキマの外に弾きだされる。

 魔理沙の左手が弾きだされた瞬間、紫のスキマは完全に閉じた。

 そして、それからスキマが出てくることはなくなった。

 魔理沙は箒から飛び降り、再び箒を背負う。

 気まずい空気がナルトと魔理沙の間に流れた。

 

「魔理沙……その、残念だったな」

 

 ナルトは魔理沙を傷付けないよう、慎重に言葉を選びながら話しかけた。

 

「…………」

 

 魔理沙は無言で肩を震わしている。

 よっぽど悔しいんだろうなと、ナルトは思った。

 

「くくっ……あっはっはっはっ! 勝った──! この私が、あの大妖怪に勝ったぞ!」

 

 魔理沙は高笑いして、勝利に浸っている。

 

「勝ったって……紫って奴には逃げられたんじゃ──」

 

 ナルトは困惑していた。

 勝ったといえる要素は何一つとしてない。

 魔理沙と紫の闘いを思い返してみる。

 最終的に、紫は魔理沙から逃げていった。

 別の角度から見たら、それは勝ったといえるのではないだろうか。

 しかし、魔理沙の意味する勝利はナルトの考えの斜め上の結末だった。

 

「紫は逃げたさ、その右腕に『起爆札』を付けて……。今頃紫は、スキマの中でドカーンだぜ!」

 

「え?」

 

 ナルトは唖然とした。

 『起爆札』を付けて……?

 『起爆札』を人体に直接付けたまま爆発させれば、その身体は粉々に吹き飛ぶだろう。

 

「魔理沙! オレは言ったぞ! 絶対に人には直接付けるなって! 威力がどれくらいあるかも説明しただろ!」 

 

 ナルトは目を吊り上げて、魔理沙を叱る。

 だが、魔理沙は別に何とも思っていないようで、自分の服に付いた埃や土を両手で払っていた。

 

「私は人には付けてないぜ。それに、あんな札一枚の爆発で死ぬほど、紫はやわじゃない。ああ見えて紫は、千年以上生きてる大妖怪だからな」

 

「千年以上生きてる大妖怪?」

 

 紫の腕らしいものを見たが、人間そのものの腕だった。

 

「ああ……まだナルトには言ってなかったな。

この幻想郷は人間の他にも妖怪、妖精、幽霊、神とかが入り交じって暮らしている世界なんだぜ。ナルトが紅魔館で闘った金髪はフランドール・スカーレットっていう名前で、吸血鬼だ。ああ見えて五百年くらい生きてる」

 

「……マジかよ」

 

 ナルトは面食らいながら呟いた。

 ナルトには吸血鬼が何か分からなかったが、五百年生きてると聞いただけで人外だと分かる。

 そういう存在を妖怪と呼ぶのだろう。

 

「けどっ──! たとえ人じゃねェにしても、『起爆札』を付けるなんて駄目だ!」

 

「何で駄目なんだ? ただ大怪我するだけだぜ。

それに、ナルトは矛盾してるぜ」

 

 魔理沙はスカートの中から、一枚の『起爆札』を取りだし、スペルカードのように指に挟んでナルトに見せる。

 

「この道具の用途目的は相手を殺すためだろ。そんなこと、ナルトに言われなくても分かる。道具を用途目的通りに使って何が悪いんだ?」

 

「何が悪いって……紫って奴を大怪我させるほど嫌いだったのか?」

 

 ナルトは絶句した。

 

「別にそこまで嫌いじゃないぜ。こんなのいつもの事さ。それに、これは人間を殺す道具だぜ。妖怪は殺せない。だから私は、躊躇うことなく使えた。これからも妖怪相手なら躊躇うことなく、私は『起爆札』を使うぜ」

 

 魔理沙は平然とそう言ってのけた。

 ズレがある。

 この幻想郷に住む者と自分のズレ。

 大して嫌いでない者でも、大怪我を負わせる攻撃を躊躇せずにできる。

 

(いや……オレも同じか)

 

 ナルトは自分の右手を見つめる。

 今まで螺旋丸で一体何人大怪我させただろう?

 いや、螺旋丸だけじゃない。

 忍者学校(アカデミー)を卒業して初めての中忍試験の時、大して嫌いじゃないキバをボコボコにしたっけ。

 

 ――成る程な。

 

 自分は大怪我させたことに怒っているわけじゃない。

 『起爆札』を身体に貼り付けるという非人道的な行為に怒っているのだ。

 もし魔理沙が『起爆札』を使わずに、紫を大怪我させていたとしたら、自分はここまで頭にきただろうか。 

 きっと怒るどころか、良かったなと勝利を祝福していただろう。

 闘いの勝負で無傷で決着なんてあり得ないから、怪我をさせても気にならない。

 だからこれは、自分と魔理沙の考え方の違いだ。

 過程も含めて勝利を決めるか、過程を一切無視して、ただ結果だけを見て勝利を決めるか。

 ただそれだけの違いなのだ。

 

 ──オレの言ってる事は矛盾してる……か。けっこうくるもんがあるぜ。

 

「ナルト、お前みたいな外来人が真っ先に行くところがある。紫を頼るのは、それ以外の選択肢が無くなってからでも遅くないぜ」

 

 魔理沙は帽子を被り直しながら、ナルトに向けて右手の人差し指を立てた。

 

「何処に行けばいい?」

 

「博麗神社。そこには巫女? がいて、外界とこの世界を隔てている博麗大結界を維持しているんだぜ」

 

 魔理沙が言うには、そこに行けば紫の力を借りなくても元の世界に帰れる可能性があるらしい。

 

「どうやって行けばいいんだ?」

 

「私が案内してやるよ。ナルトは友達だからな」

 

 魔理沙がナルトに向かってウインクした。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆     

 

 

 

 とある神社の鳥居の場所からは、幻想郷が一望できた。

 その鳥居のちょうど真下に、箒を手にした少女がいる。

 その少女の容姿は、肩と脇を露出させた赤い巫女服を着て、後頭部に大きな赤いリボンを結んでいる。

 少女の名は博麗霊夢。

 博麗神社の巫女であり、幻想郷で起こった数々の異変を解決してきた実力者でもある。

 その少女は、森の方をまっすぐ睨むように見ていた。

 

「さっきの光は、魔理沙の『マスタースパーク』の光よね」

 

 だが、闘っている感じは全くしなかった。どちらかといえば、見せびらかすような――。

 霊夢は舌打ちした。

 

「魔理沙……そんな事してなんにも起きないほど、幻想郷は大人しくないわよ。けど、どうでもいいわね。自分で蒔いた種なんだから、自業自得よ」

 

 霊夢は止めていた手を動かして、神社の境内の掃除を再開した。

 

「あーお賽銭(参拝客)が全然こないわー、お金貯まんないわー」

 

 呪文のように呟きながら、境内の掃除を着実に終わらしていく。

 霊夢は嫌な予感がしていた。

 見せびらかすということは、『マスタースパーク』を知らない者が魔理沙の傍にいた可能性が高い。

 だが、幻想郷にいる者で『マスタースパーク』を知らない者など、ごく少数だろう。

 つまり、魔理沙の近くには外来人がいる可能性が高い。

 霊夢はため息をつく。

 

「外来人なんて、この世界に来なければいいのに……」

 

 出会わなければ、別れる時の寂しさも哀しさも切なさも何一つ感じないのに。

 しかしその考えは、全てを受け入れる幻想郷を否定する。

 

「ああ、もうッ! めんどくさいわねッ!」

 

 霊夢は思考を振り払うように、境内の掃除に没頭した。




東方キャラも、若干性格や考え方が違います。
なんでそういう性格や考え方になったかは、いずれ作品内の話で明らかにしようと思っています。

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