うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~ 作:ガジャピン
ナルトは目を閉じたまま、覚醒する。
『九喇嘛……ここは何処だ? オレは今、何処に寝かされてる?』
《お前の造った家の床の布団の上》
『九喇嘛、冗談は止めてくれ。
確かに家は造ったけど、布団なんて持ってきた覚えも準備した覚えもねェ』
《そうだな。だから、嬢ちゃんには感謝しろよ。
嬢ちゃんが自分の家からここまで布団を持って来て、二日間看病してくれたんだからな》
『二日!? オレは二日間まるまる寝てたのか!?』
《正確にいやぁ二日半だがな》
『で、その嬢ちゃんってのは誰だってばよ』
《
嬢ちゃんと一緒に別の女がここに来た。医者みてぇだったその女が、嬢ちゃんのことをマリサと呼んだ。そして、嬢ちゃんはその女をエーリンと呼んだ。その医者が言うには、お前の胃が損傷していたんだと。だから吐血してたって話らしいぞ》
胃の損傷。
ナルトは思案顔になる。
影分身の腹部に、金髪の少女の黒い螺旋丸が当たった。
まさかあの黒い螺旋丸は、分身体の物理的ダメージを本体にも反映させる事ができる術なのか。
だとすれば、あの少女の前で影分身は使えない。
《ナルト、お前も薄々気付いてるんじゃねぇか。この場所が異空間じゃねぇってことに》
術者の意図が全く読めない空間、翼のある少女、見たことのない術、そして『弾幕ごっこ』という言葉。
自分の中の常識や知識が、全く意味をなさないこの空間。
『けど、だったらここは何だってんだ!? それ以外の可能性はねェだろ!』
《確かにそうだ、ワシらん中ではな》
『どういう意味だよ』
《ワシらの常識や知識が当てにならんと言ってんだよ。
お前も一旦木の葉の連中は忘れて、友好的にここの奴らと話した方が、結果的にここが何処かを知れると思うが──》
『木の葉のみんなを忘れるなんてできねェ。それに、ここは敵に連れてこられた場所だ。警戒しながら話して損はねェ』
《ナルト、お前の言う通りだ。
だがな、お前を二日間必死に看病してくれたマリサってやつにも、そういう態度をとるのか。だったら、ワシはお前を見損なうぜ。これから一人で頑張れよ。ワシは力を貸さんからな》
ナルトははっとした表情で九喇嘛を見た。
九喇嘛の言う通りだ。
敵なら看病なんてしないし、よしんば看病したとしても、身体を拘束しないわけがない。
けど、オレの手足に拘束具らしい感触はねェし、もし拘束具をされていたら、九喇嘛がこんなに大人しい筈がねぇ。
『わりぃ、九喇嘛。頭に血が上り過ぎてたみてェだ。
受けた恩を仇で返すのは良くねェよな。そのマリサって奴にはお前の言う通り、始めから信じて接する。
九喇嘛、ありがとな。それと、心配かけてゴメン』
《……フンッ、次はあんなガキに遅れをとるな。いくら疲労がたまってて、普段の実力が全然出せてなかったとしても、さすがにあのザマはねぇぞ』
『だからわりぃって言ってんだろ。で、そのマリサってのは今何してる? なんかぶつぶつと声は聞こえんだけど』
《そいつなら、今イチャイチャパラダイス音読してるぞ》
『マジで!?』
リボンの付いた黒い三角帽を被り、黒いドレスと白いエプロンを足したような服を着て、背に箒を背負った金髪の少女が、本を声に出して食い入るように読んでいた。
その顔は、僅かに赤くなっている。
「──その時じゅんこは言った。
『あーあたし、あなたを見失いそう』
この本内容はちょっぴりエロいけど、なかなか面白いな」
「そいつは良かったってばよ」
「えっ!?」
魔理沙は後ろを勢い良く振り返る。
魔理沙のすぐ後ろに、ナルトがいた。
「そ、そういう目的で読んだわけじゃないからな!
ただ、本を見ると読みたくなる一種の条件反射みたいな──と、とにかく好んで読んだわけじゃないんだぜ!」
魔理沙は顔を真っ赤にしながら、あたふたしている。
その姿に、ナルトは吹き出した。
「ははっ、分かってるって! その本、けっこー女の読者もいるんだぜ。映画化だってしたしな。
お前がオレをここに寝かせてくれたんだろ? サンキューな!
オレの名前はうずまきナルト! 火の国木の葉隠れの里上忍及び、忍連合軍四番隊切り込み隊長を任されてるってばよ!」
「ナルトか。私は霧雨魔理沙、魔法使いだぜ!」
「魔理沙って呼べばいいか? てか、魔法使いって何だ?」
ナルトは首を傾げた。
魔法使いなんて言葉は聞いたことがない。
やはり、ここは自分の常識が通じない場所なんだと、ナルトは再認識した。
「そのままの意味さ。魔法を使う者のことを言うんだぜ。魔法っていうのは、魔力を使った技だって思ってくれればいい」
「魔力?」
再びナルトは首を傾げる。
魔理沙は深く息を吐き出した。
「……これじゃ話が進まないぜ……。ナルト、とりあえず今は気にしなくていい。説明が必要になったら、その時私が教えてやる。
それよりも、だ。ナルト、私は倒れていたお前を一生懸命背負って近くの家まで運び、布団と調理道具と食材を自分の家から持ってきて、その後、薬師を連れてきてお前の傷を治し、それから今までずっとお前の看病をしてた。
ここまでは理解できたか?」
「……お、おう」
ナルトはとりあえず頷く。
「つまり、私がいなかったらナルトは今頃死んでたかもしれない。そう考えれば、私はナルトの命の恩人になるわけだよな?」
ナルトは無言で頷く。
確かにそうなるだろう。
だが、ここまではっきりと自分から言えるのは凄い。
「物分かりが良くて助かるぜ。だから、お前を助けたお礼が欲しいんだよ。お金は要らない。
ただ、お前の持ってる持ち物で、私が欲しいと思ったやつをくれないか?」
ナルトは腕組みをする。
自分が持っている持ち物は、自分専用のマーキングが入っている以外は別に珍しくない忍具ばかりだ。
木の葉の里に帰れば、すぐにまた準備できるだろう。
「いいぜ、お前にやっても。それに、そうやって貸し借りなしにした方が話しやすいしな」
「そうそう! 話の分かる奴は好きだぜ! とりあえず、お前に持ち物返すぜ」
魔理沙は目を輝かせ、ナルトの方に忍具が入っていたポーチを渡す。
「おーっ、サンキューって──」
ポーチを持った瞬間、違和感があった。
あきらかに軽くなっている。
ナルトはポーチを開けて中を確認する。
中にはクナイ二本、イチャイチャパラダイス一冊──以上。
「すくなっ!」
ナルトは思わず声をあげた。
「魔理沙、お前これ、さすがにやり過ぎだろ!? バカでも盗られたことに気付くってばよ!」
「盗ってないぜ。借りたんだ、私が死ぬまでな」
「一緒だってェの!
で、盗ったはいいが、使い方や効果が分からない。だから、オレから説明してもらおうと持ち物が欲しいなんて言ったんだな?」
「お前……天才か!」
魔理沙は目を大きく見開いた。
「いや、誰でも分かるって」
この先この少女に振り回されるような嫌な想像がナルトの頭を駆け巡り、脱力感に襲われたナルトは大きくため息をついた。
「──それにしても、なんでイチャイチャパラダイスは盗らなかったんだ? まだ読んでる途中だっただろ?」
ナルトがそう尋ねると、魔理沙はニカッと笑った。
「お前に読みたいって言えば、読ませてくれるだろ? それは私が持ってるのと一緒なんだぜ」
◆ ◆ ◆
紅魔館の地下には、大図書館と呼ばれる見渡す限り書物を保管している部屋がある。
そして、そのさらに下には地下室があった。
つい最近まで、フランドール・スカーレットが監禁されていた部屋だ。
フランはその部屋の隅で体育座りをしていた。
フランの表情は、親に叱られた小さな子供のようにしゅんとしている。
フランがこうなっている原因は、ナルトと弾幕ごっこをした日まで遡る。
「……お姉様」
ナルトとの弾幕ごっこが終わった後、フランはレミリアの部屋に行った。
レミリアはフランの方に向き、フランの言葉を待つ。
「また、やっちゃった」
フランはうつむいている。
その表情は、レミリアからは見えない。
しかし、きっと悲しい表情をしているんだろうなと、なんとなく分かった。
「能力は全然使う気なかったんだよ。ただ、あの技を真似てみようと妖力を右手に集中させただけなの。
なのに、ぶつける直前に能力が発動しちゃった。能力なんて、使おうと思ってないのに──」
フランは両手で顔を覆う。
「私、怖いんだよ。お姉様と手を繋いでいる時、美鈴と遊んでいる時、自分以外の誰かと触れ合っている時、能力が勝手に発動して壊しちゃうんじゃないかって」
「大丈夫よフラン。あなたは優しいから、絶対にそうはならないわ」
レミリアはそう言って、フランの両手をとろうと手を伸ばす。
だが、フランは怯えながらその手を払いのけた。
「……あ、ご、ごめんなさい、お姉様。私、地下室に行ってくるね。ちょっと懐かしくなっちゃったから」
フランは逃げるようにレミリアの部屋から出ていった。
レミリアは払われた手を軽くさする。
「──もう少し待ってて、フラン。私が必ず、能力を制御できるようにしてあげるわ。たとえ、どんな犠牲を払ってでも」
それがきっと、私がフランにしたことに対する罪滅ぼしになるのだ。
◆ ◆ ◆
「へぇ~、成る程な。なら、これとこれとこれは要らないか」
魔理沙はナルトから忍具の説明を聞き、クナイ六本とマーキング付きクナイ十本、そして、マーキング札四枚をナルトに返した。
ナルトと魔理沙は今、家の外にいる。
「ん? マーキング札が一枚足らねぇぞ」
「ああ、それはな──こうするためだぜ!」
魔理沙は勢いよく背負っていた箒を取り、箒の柄の一番先端と遠い場所にマーキング札を貼り付けた。
「これで、ナルトはいつでも私のところに来れるわけだ。
もし私の身が危なくなったら、空に向けて『マスタースパーク』を放つ。それを見たら、必ず来てくれよ」
「『マスタースパーク』ってどういうのだ?」
ナルトの問いに、魔理沙は得意気な表情をした。
「いいぜ。今日はナルトと友達になった日だ。特別に見せてやるぜ」
「……友達?」
ナルトは呆然とした表情で呟いた。
「違うのか? だったら、私は少し傷つくぜ」
魔理沙は拗ねたようにそっぽを向いた。
──ああ、そうか。
ナルトは気付いた。気付いてしまった。
──オレは一人だったんだ。
九喇嘛がいてくれたから、その事に気付かなかった。
ここには、自分を知ってる人は誰もいない。
もしかしたら、そんな孤独を心の底で感じてて、一刻も早く木の葉に帰らなくてはと焦っていたのかもしれない。
けど、それもこの瞬間までだ。
「いや、お前はオレの友達だ」
魔理沙は嬉しそうに笑った。
「これからよろしくな、ナルト」
「こっちこそよろしくな、魔理沙!」
二人は握手を交わす。
魔理沙の手には、スペルカードとミニ八卦炉が握られている。
そして、雲一つない青空に向けて、八卦炉を構えた。
「よしっ! よ~く見とけよ、ナルト! こいつが魔理沙様の──『マスタースパーク』だ!」
八卦炉に魔力が収束し、極太のレーザーが発射された。
天を突き破るんじゃないかと錯覚する勢いと威力。
しかし、太陽の光がレーザーをキラキラと彩るアクセントになっており、力強さと見る者を惹き付ける美しさを兼ね備えていた。
「ははっ、震えるってこんなの見せられたら──」
ナルトは我知らず笑みを浮かべていた。
「約束するぜ、魔理沙! この光が見えたら、必ずお前のとこに行く」
「ホントだな?」
どこか魔理沙の声が不安気になっている。
ナルトは満面の笑みで、魔理沙の頭を軽く撫でた。
「心配すんな! オレは約束を必ず守る忍だ!」
いや~、なんかレミリアさんが恐いですね。