うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~   作:ガジャピン

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ナルトは木の葉の里のみんなが心配で、少し強引というか好戦的になってます。





弾幕ごっこ~First time of combat~

 紅魔館の門の向こう、姿形は見えなくとも、咲夜と美鈴は人がいることを確信していた。

 この館全体に向けて放たれている殺気と敵意。肌を刺すようなピリピリとした感覚。

 これは警告。死にたくなければ降参しろという脅し。

 

「う~ん、ここまで敵意を剥き出しにされると私、外の人のこと、守りたくなくなっちゃいます」

 

「これは予想外だったわ。普通に訪ねてくると思っていたのに」

 

 二人はそれに一切動じず、美鈴は面倒くさそうに頭を掻き、咲夜は呆れたように右手で軽く頭を抱えた。

 絶対に外にいる者は、ここがどういうところか、ここに喧嘩を売ってくるという行為が何を意味するか分かっていない。

 こんな事をしたら、妹様は──。

 二人はフランの方に視線をやる。

 フランはまるで新しい玩具を貰った子供のような笑みを浮かべ、今か今かと玩具(お客様)の到着を待ちわびている。

 フランにとって、この殺気は自分の気分を高めるスパイスでしかない。

 二人の脳裏にレミリアの言葉が浮かぶ。

 

 ──これから来るお客さんは、フランの好きなように遊んでいいから。

 

 この幻想郷に住んでいる者がこれを聞けば、誰もが両手を合掌し、哀れな生け贄のご冥福をお祈りするだろう。

 フランの方に二人は意識がいっていた。

 そんな二人の耳に、紅魔館の壁を蹴る音が飛び込む。

 そして、再び門の方に視線を戻すと、空から一人の男が落ちてきた。

 男は危なげなく着地し、こちらを睨んでいる。殺気や敵意も変わりない。

 

「紅魔館にようこそお出でくださいました。ご用件は何ですか?」

 

 咲夜は深々と一礼し問いかける。

 

「コウマカン? ──ああ、ここの名前か。

お前今、用件は何だって言ったな。とぼけんじゃねェよ! お前らか、お前らの仲間がオレをここに連れてきたのは間違いねェ!

オレがここに来た理由は、オレを元の場所に帰してもらうのと、オレを連れてきた理由を聞きに来たんだよ!」

 

 男は剣呑な目をして怒鳴った。

 

「何故、ここが自分がいた場所ではないと?」

 

「口寄せの術が失敗したからだ!」

 

 咲夜と美鈴は首を傾げる。

 クチヨセノジュツ──今まで聞いた事のない言葉だ。

 ノジュツはおそらくの術で正しいだろうが、クチヨセの意味が分からない。

 

「口寄せの術を知らねぇのか!? そんな訳──忍者学校(アカデミー)で名前くらい聞く筈だぞ! 契約した対象を術式の場所に呼び寄せる術だ。それが失敗したって事は、対象と同じ世界にいない何よりの根拠になるんだってばよ!」

 

 男の説明に咲夜と美鈴は、なるほどと頷いている。

 確かにそういう技が失敗したなら、ここが違う世界の場所だと確信するだろう。

 ここで二人と男の間に一つ、すれ違いが生まれる。

 咲夜と美鈴は、男が既にここが異世界だと気付いていると思った。

 しかし、男のいた世界では、別の空間に連れていかれる事は珍しい事ではあるが、無いわけではない。

 男は異世界ではなく、異空間だと考えている。

 つまり、男は男のいた世界の理屈で、ここが通ると思っているのだ。

 

「それで? オレを元の場所に帰すのか、それとも断るのかどっちだ? 返答次第じゃ少し痛い目にあってもらうぜ」

 

 男の殺気と敵意が更に大きくなった。

 咲夜と美鈴は目を合わせる。

 

 ──ここは正直に言った方が良い。

 

「申し訳ありませんが、それは無理です。でも、あなたをここに連れてきた人物には心当たりがあります」

 

「そいつの名は? 何処に行けば会えるんだ?」

 

「名前は八雲紫。何処で会えるかは私たちも知りません」

 

 男は顔を険しくした。

 だが、落ち着かせるように深呼吸をして、数秒の間、目を閉じ腕組みをする。

 咲夜と美鈴の目には、考えこんでいるように見えた。

 やがて男は目を開け、背を向ける。

 

「分かったってばよ。こんな夜更けに悪かったな」

 

 そして、紅魔館の門に向かって歩き出す。

 咲夜と美鈴はほっと息を吐いて安堵した。

 

 ──何とか最悪の事態を回避することができた。

 

「ちょっと待って、お兄さん」

 

 しかし、そんな二人の安心を打ち砕く一言が、フランから飛び出した。

 

「ここまで気分盛り上げといて、このままお預けなんて許すわけないじゃん!」

 

 男は振り返り、フランを見て息を呑む。

 フランの目は、獲物を前に舌舐めずりをする肉食動物に似た獰猛な輝きをしていた。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆     

 

 

 

 ナルトは目の前の金髪の少女に本能的な恐怖と、どこか懐かしさを感じていた。

 ナルトが大人しく紅魔館を去ろうと思ったのには、理由があった。

 その理由とは、彼女たちも自分と同じでここに連れて来られた被害者かもしれないと考えたからだ。

 口寄せの術を知らないのも、物心つく前にさらわれたと考えば説明がつく。

 館にいたのが少女ばかりというのも、ナルトの仮説に真実味を持たせた。

 こんな少女たちが自分を連れ去る理由が思いつかないし、自惚れかもしれないが、こんな少女たちにどうにかされるような自分じゃないとも考えていた。

 この異空間には、自分のいた世界のように様々な、いわゆる里のようなものがあり、自分のような被害者が寄り添って生きているのではないだろうか。

 ナルトはこう仮説を立て、とりあえずこの館は保留にして、この仮説が正しいかどうか、他に人がいそうな場所を探そうと結論づけた。

 それに──。

 

(女の子を痛めつけるなんて、できねェ)

 

 ナルトのイメージでは、人相の悪い男たちがいると思っていたのだ。

 なんせ、あの信じられない館の色のセンスをしている住人だ。

 だが、出てきたのは少女。自分に対して敵意も感じない。

 だから脅す振りだけして、情報を得たらとっとと去るつもりだった。

 

「ねぇ、『弾幕ごっこ』しようよ」 

 

 金髪の少女の言葉で、意識を外に戻された。

 

「『弾幕ごっこ』?」

 

 今度はナルトが首を傾げる番になった。

 金髪の少女は、うっかりしていたというように声をあげた。

 

「あっ、そういえば外来人なんだっけ。

『弾幕ごっこ』っていうのは、スペルカードっていう自分の技を閉じこめたカードを、カード名を言うのといっしょに発動して、「参った」とか「降参」って言わせれば勝ちだよ。自分だけが楽しまない、相手といっしょに楽しめる、それが『弾幕ごっこ』。

お兄さんは外来人で、弾幕もスペルカードも持っていないだろうから、好きに闘えばいいよ。その代わり、逃げまわるのだけは止めてね。そんな事したら、追いかけまわすのに夢中になって殺しちゃうかもしれないから」

 

「オレはお前と闘う気は──!」

 

「それじゃあ、行くよ! 禁忌『クランベリートラップ』!」

 

 いつの間にか少女の手にあったカードが光を放ち、少女の周囲に見たことのない陣が二つ召喚される。

 そして、その陣から赤と青の球体が次々と発射された。

 ナルトは咄嗟にそれらを避け、視界の端をよぎったものに一瞬息が止まった。

 陣が球体を発射しながら、自分の真横に動いていたのだ。

 挟み撃ちのかっこうになったナルトは跳躍して、後方の紅魔館の壁に足だけで張りつく。

 

「何だってばよ、アレ? あんな術見たことねェ……ん?」

 

 ナルトの視界が、緑色の帽子を被った少女がその場で構え、もう一人が包丁を小さくしたような物を持っているのを捉えた。

 ナルトは舌打ちする。

 

(あいつらも加わる気か!?)

 

 本当は、ナルトが危なくなったらいつでも救えるように二人は構えているだけだが、ナルトにその発想はなかった。

 

(仕方ねェ──! できりゃあ使いたくなかったけど)

 

 ナルトは上空に光玉を投げ、それにクナイを当てる事で光玉を割った。

 割れた瞬間、太陽に匹敵する光が上空で生まれ、一瞬昼間のような明るさを紅魔館は取り戻す。

 フランたち三人は咄嗟に手を翳し、光を遮った。

 

「何今の? 光を操る能力なの?」

 

「さぁ──っ!? 咲夜さん、後ろ!」

 

 美鈴は声をあげ、咲夜は声につられて顔だけ振り向き、後ろを見る。

 その眼前には、ここに来た男と全く同じ姿をした男が迫っていた。

 咲夜は持っていたナイフを手放し、男の伸ばしていた腕を両手で掴んで投げ飛ばした。

 どうやら美鈴の方も同じ状況だったらしく、美鈴は男の腕を右腕で払い、軽く踏み込んで両手で突き飛ばした。

 吹き飛んだ男は上手く空中で体勢を整え地面に着地。着地しても勢いを全ては殺せず、そのまま数メートル後ろにずり下がった。

 

「何ですかコレ!? 三つ子!? 今回は三つ子が幻想入りしたんですか!?」

 

「落ち着きなさい! そんな訳ないでしょう!?」

 

 咲夜が、突拍子のない事を言い出した美鈴を一喝した。

 やられたと、咲夜は下唇を噛んで出し抜かれた悔しさを堪えた。

 あれだけあからさまに殺気と敵意を放っていた理由。

 あれは自分に意識を向けさせるための囮だったのだ。

 そうやっている間に、どういう原理かは知らないが自分と全く同じ人間を紅魔館の屋根の上に潜ませ、合図と同時に突入させる。

 合図はさっきの光だったのだろう。

 でも──。

 咲夜は唇の端を吊り上げる。

 

 ──その程度の実力じゃ、私たちには勝てません。

 

「咲夜、美鈴……今、私の邪魔しようとした?」

 

 フランは顔をしかめて静かに問いかける。

 咲夜と美鈴は必死に首を横に振った。

 それを見て、フランは無邪気さを感じさせる笑顔になった。

 

「な~んだ。それならいいや。

お兄さん! この二人は手を出さないから気にしなくていいよ!

私、楽しくなってきちゃった! お兄さんも分身できるんだね!」

 

 ナルトは紅魔館の壁に張りついたまま、フランの言葉を聞いた。

 

(あの子の言葉を信じるなら、あの子だけに注意をはらえばいい。

それに、オレは危なくなっても大丈夫だ。

あの見たことねェ術。もっと色々見ておきてェ。

てかあの子、影分身が使えるのか?)

 

「禁忌『フォーオブアカインド』!」

 

 ナルトの思考はフランの声で中断された。

 フランの身体が光を放ち、光が収まった後には四人のフランがいた。

 

「やっぱ影分身使えるのか!? お前ら、こっち来い!」

 

 ナルトは分身たちに向けて声をあげる。

 

「いいよ呼ばないで。このまま闘えば」

 

 ナルトの方に向かおうとしていた分身たちに、四人のフランが攻撃を開始した。

 色とりどりの球体や、鋭く尖った赤色の玉が大量に撃ちだされ、二人の分身たちを包み込んだ。

 分身たちは避けきれず被弾し、大きい爆発とともに姿を消した。

 

「ヤられちゃったね~。これでまた、お兄さん一人だよ!

次はどんな面白いもの、見せてくれるのかな?

あ、分身はもう要らないや。一対一の方が楽しそうだし」

 

 フランの周囲にいた三人のフランは姿を消し、代わりにフランの手に一枚のカードが握られた。

 

(もう──あの子に負けを認めさせる以外に、これを終わらせる方法はねェみてぇだな)

 

 ナルトは一本のクナイをフラン目掛けて投げた。

 

「刃物? あははっ、そんなの当たんないよ~だっ!」

 

 フランはひらりとクナイを避けた。

 が、次の瞬間には右腕をとられて、ぐっと上から地面に押さえつけられる。

 クナイにつけていたマーキングに、ナルトは『飛雷神の術』で飛んだのだ。

 ナルトは素早くクナイをしまう。

 そして、フランの目に飛び込んだのは、渦を巻きながら青く輝く球体。

 

「螺旋──っ!」

 

(やっぱ直接当てるなんてできねぇ!)

 

「丸!」

 

 フランから離れるのと同時に、フランのすぐ横の地面に螺旋丸をぶつける。

 螺旋丸が地面にぶつかった時に生まれた爆風で、フランは紅魔館の壁に叩きつけられた。

 

「今のを直接ぶつけてたら、お前はボロボロになってた。お前の負けだ。まだやるってんなら、次は直接当てる」

 

(頼む……負けを認めてくれ──!)

 

「どうして?」

 

 フランはゆっくりと起き上がる。

 

「私、まだ全然動けるよ。それに、そんな面白いもの見せられて、ここで止めるとかそんなのもったいな過ぎるよ。

え~と……こんな感じ──だったかな?」

 

 フランが一瞬にしてナルトの背後に回り、左手でナルトを掴んだ。

 

「なっ──!」

 

(なんだ!? 速さが全然違うってばよ!)

 

 そして、ナルトはフランの右手を見て背筋が凍った。

 フランの右手には黒い球体が渦巻いていて、その中に目のようなものが見え隠れしている。

 それは、いうならば黒い螺旋丸。

 フランはそれを一切躊躇うことなく、ナルトへとぶつけた。

 

「うわぁぁああああ!」

 

 今度はナルトが紅魔館の壁に叩きつけられ、そして──消えた。

 本体だと思っていたナルトも分身体だったのだ。

 

「──あはっ、本当に面白いお兄さん! 今度はかくれんぼだね!」

 

 フランは狂気に満ちた笑みになった。

 

 

 紅魔館の屋根の上、ナルトの本体はそこにいた。

 

(これ以上長居する必要はねぇな。『飛雷神の術』で戻るってば──)

 

「かはっ──!」

 

 ナルトがいきなり口から血を吐き出した。

 

《ナルト、しっかりしろ! 一体何があった!?》

 

 九喇嘛の声を遠くに聞きながら、ナルトは紅魔館の屋根に両手をつく。

 

(なんでだ……? 影分身の物理的なダメージは、本体に反映されねぇ筈だぞ!?

いや、それより早くこの場から逃げねぇと、あの子が──!)

 

「み~つけたっ!」

 

 紅魔館の中で一番高い時計台の上、満月を背にしたフランが立っていた。

 集中しろ……集中──。

 

「苦しそ~だけど、だいじょ~ぶ? すぐに楽にしてあげるよ! その代わり、弾幕ごっこの決着はつけさせてね!」

 

 フランがナルト目掛けて一直線に襲いかかる。

 

「『飛雷神の……術』──!」

 

 フランの眼前から、ナルトの姿が消えた。

 辺りを見渡し、それらしい気配がないことが分かると、フランは地面に飛び降りた。

 

「まぁいいや。けっこー楽しめたから、今回は見逃してあげる。

でも、今度会ったらまた遊んでね、お兄さん!」

 

 

 

    ◆     ◆     ◆     

 

 

 

「がはっ……ごほっ──!」

 

 拠点に戻ってきたナルトは、マーキングクナイを手に握りしめ、口から血を吐き出す。

 吐き出した血は、地面に染みるように吸い込まれていく。

 そして、ナルトはゆっくりと地面に倒れこんだ。

 

《ナルト! おい、ナルト!?》

 

 意識が遠のき、視界が狭くなっていく。

 ナルトはすぐそばで、足音を聞いた気がした。

 

「こんなとこで無防備に寝るなんてな……手癖の悪い奴が来たらどうするんだぜ」

 

 ナルトは必死に声の主を見ようと頭を上げようとするが叶わず、僅かに見えたのは黒いスカート。

 それを見た後、ナルトは完全に意識を手放した。




フランの弾幕ごっこの説明には、スペルカードの回数制限を入れませんでした。
理由は、それだと闘いが単調になると考えたからです。
また、眼前の相手に合わせて次々にスペルカードを使用していくのが、作者的にカッコいい!と思ったからでもあります……描写出来る技量があるかどうかは置いといて。

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