うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~ 作:ガジャピン
ナルトはベッドから起き、窓にかかっているカーテンを開けた。
暖かな日の光が部屋に注ぎ込まれる。
ナルトは眩しそうに目を細めて、窓から空を見た。
「いい天気だ。人里に行くのに最適だな」
「ナルト~、起きてるか~」
無造作に扉を開け、魔理沙がナルトの部屋に入ってきた。
ナルトは魔理沙の方に視線を向ける。
ナルトの顔を見て、魔理沙は再び口を開いた。
「起きてるな。気分はどうだ?」
「もうバッチリ! いつでも行けるぜ!」
ナルトは魔理沙に笑みを返し、寝る前に用意しておいたポーチを身に付けた。
魔理沙は一度自分の帽子に手をやり、帽子を被り直すと勝ち気な笑みになる。
「よし! じゃ、いくか。人里に!」
「ああ! けど、レミリアからフランも一緒に連れてってくれって言われてんだ。だから、まずはフランを探さねェと」
「またレミリアか。それにフランを人里って、正気とは思えない頼み事だぜ」
魔理沙はうんざりしたように軽く息をついた。
ナルトはハッとした表情になる。
「あ、そっか。吸血鬼は日光に弱いんだった。これじゃ日が落ちるまで出掛けられねェな」
「……私が言いたかったのはそっちじゃないけどな。ナルト、安心していい。確かに吸血鬼は日光に弱いが、レミリアやフランみたいに強い力があれば日中でも動ける」
「へぇ、そうなんか。なら、大丈夫なんかな?」
「大丈夫だろ。大体、レミリアの奴が連れてってほしいって言ったんだし、それならこっちに合わせるくらいしてもらわないと」
「──そうだよ」
魔理沙の後ろから声が聞こえた。
フランが扉の陰から姿を表す。
魔理沙は振り返った。
「……フラン、本当にいいのか?」
「うん。魔理沙もいるし、多分平気。ほら、ちゃんと日傘もあるよ!」
フランは自分の手に持っている日傘を二人に見せた。
日光を浴びても動けるとはいえ、直接日光を浴びるのと、日傘で間接的に日光を浴びるのではかなり違ってくる。
ナルトと魔理沙は部屋を出て、フランを含めた三人で紅魔館の廊下を歩く。
しばらく歩いていると、少し離れたところの部屋の扉が開いた。
「あ~、酷い目にあったわ」
霊夢がそう呟きながら、廊下に出てきた。
霊夢はナルトたちに気付き、気まずそうに視線を逸らす。
魔理沙は気まずくなった空気を紛らわせるように口を開いた。
「……あ~、霊夢、その……なんというか、お前でもあんな情けない姿になる時があるんだな」
「……情け……ない……?」
魔理沙の言葉が刃となって、霊夢の心を突き刺した。
魔理沙はぶんぶんと手を振って、自分の言葉を訂正する。
「ち、ちがっ……! そういう悪い意味じゃなくてだな、そう! 霊夢にもか弱い女の子らしいところがあったんだっていう、新しい発見ができて私は嬉しかったぜ」
「……魔理沙……私は元々か弱い女の子よ」
「えっ?」
「……え?」
「あっ、いや……」
霊夢は怒りで身体を震わせる。
「これからは博麗神社に来てもタダでお茶菓子出さないから! 覚悟なさい!」
そう言うと、霊夢は廊下を走ってナルトたちの前から消えた。
ナルトは首を傾げる。
「……お茶菓子?」
「あんま気にしなくていいぜ。お茶はタダで出してくれるみたいだしな」
「魔理沙はもう少し気にした方がいいと思うなぁ」
三人は歩みを再開し、紅魔館のエントランスまで来た。
エントランスには咲夜とレミリアがいる。
「行くのね?」
レミリアがナルトに尋ねた。
ナルトは小さく頷く。
「……そう」
魔理沙が周囲をきょろきょろと見渡した。
「レミリア、霊夢が来なかったか?」
「来たわ。一言私に礼を言ったら、慌ただしく出ていったけどね」
「そうか」
フランがレミリアの前に進み出る。
レミリアはフランの顔を見た。
フランの表情は少し固くなっている。
レミリアはフランの両頬をつまんで無理矢理フランを笑顔にした。
「お、お姉様?」
「初めての人里でしょう? 楽しまないともったいないわよ」
「……うん!」
レミリアはフランの両頬から指を離した。
フランの表情から固さがとれ、フランは嬉しそうな笑みを浮かべる。
レミリアの傍に控えていた咲夜が軽く一礼した。
「妹様、ナルトさんも行ってらっしゃいませ。夕食の時間には帰ってきてくださいね」
「咲夜、私もいるんだが……」
「えっ? 魔理沙も帰ってくるの? 魔理沙には魔理沙の家があるじゃない」
「……ダメか?」
「お嬢様……」
咲夜はレミリアの方を向き、レミリアは少し考える素振りをすると、一つ頷いた。
「ま、部屋は余ってるし、フランの相手をしてくれるみたいだから、ナルトがいる間は滞在を許してあげる」
魔理沙の表情がパッと明るくなる。
「レミリア、ありがとうだぜ!」
「感謝はいいから、しっかりフランを楽しませてあげて」
「分かってるさ。二人とも行こうぜ」
魔理沙が玄関を開けて、一番最初に庭に出る。
ナルトとフランがその後に続いた。
フランは日傘を開き、直射日光を遮る。
紅魔館の門を開けて三人が外に出ると、門の隣に美鈴がいた。
門の壁にもたれかかり、目を閉じている。
ナルトが美鈴を注意深く観察。
美鈴の口からよだれが垂れていた。
「魔理沙、これって……」
「ああ、寝てるな」
「……ふえ!? ね、寝てませんよ! ディフェンスに定評のある私がサボるわけないじゃないですか!」
美鈴は勢いよく壁から離れ、口元をぬぐって直立不動の姿勢になった。
瞬きの間に、美鈴の前に咲夜が顕現する。
「あなたという妖怪は……」
「いえ、咲夜さん! 仕事! ちゃんと仕事してましたよ!」
「あら? でも口からよだれ垂れてるわよ」
「えっ、そんな……さっきしっかりぬぐった筈──はっ!」
美鈴は口元を再びぬぐい、そこで咲夜の狙いを悟った。
咲夜の顔が悪魔の笑みになる。
「ど・う・し・て、よだれを気にしたのかしら? 真面目に仕事していたら、わざわざ口をぬぐったりしないわよね?」
「……あ……ああ……」
美鈴は恐怖で身体を震わせている。
咲夜はそれに気付き、悪魔の笑みを天使の微笑に変化させた。
「あら? 安心して。今日はナイフで串刺しにはしないわ」
「ほ……本当ですか……?」
「ええ」
咲夜が右手の手の平を上に向けた。手の平の中にカードが積まれていく。
咲夜の顔から表情が消える。
「あなたのために、新しいお仕置きを考えたの。
速攻スペルカード発動! 狂符『バーサーカーソウル』!」
「え? そんなスペルカード聞いたことない……」
「このスペカはスペルカード以外のカードが出るまでカードを引き続け、引いたスペルカードは全て発動できる!
覚悟しなさい! 一枚目、ドロー! エターナルミーク!」
大量の丸い青色の光弾が美鈴に殺到し、美鈴は壁に叩きつけられた。
咲夜のお仕置きはまだ止まらない。
「二枚目、ドロー! エターナルミーク! 三枚目! エターナルミーク! 四枚目! エターナルミーク! 五枚──」
「きゃああああッ!!」
美鈴は絶叫とともに爆発に呑み込まれた。
ナルトたち三人はなんとなく美鈴の方に両手を合わせて合掌する。
数秒後、魔理沙は美鈴に背を向けた。
「さ、別れの挨拶もすんだ。人里に行こう」
「お、おう」
「美鈴のこと……私、絶対忘れないから」
「い、妹様~~……私、生きてますよ~……」
三人の背後から美鈴に似た声が聞こえた気がしたが、すぐに悲鳴がその声を掻き消した。
三人は同時に同じことを決意した。
仕事は真面目にやろう、と。
◆ ◆ ◆
人里への道中、チルノに絡まれたりしたが、それ以外は大した出来事もなく、人里に到着。
人里の入り口前にはたくさんの人が集まって周りを掃除していた。
幽香が蹂躙した妖怪の残骸を片付けているのだ。
ナルトは血の気が引いた表情でその光景を見た。
「なんだよ、これ……」
「多分、人里を襲おうとした妖怪たちだろうな。こんなエグい殺し方をする奴なんざ、一人しか思い付かないが」
掃除していた人の内の一人が、ナルトたちに気付いた。
フランの姿を見て顔を青くする。
「お、おい、あいつ、フランドール・スカーレットじゃないか?」
「な、なにぃ!? おい、全員逃げろおおおおッ!!」
掃除していた全員が掃除道具を放り出して、人里の中に逃げていった。
その場に残ったのはナルトたち三人だけである。
フランは暗い表情で顔を俯けた。
魔理沙は軽く舌打ちする。
「やっぱ私が心配した通りになったぜ」
「フランって人里初めてだろ? なんであんな風に周りから恐れられてるんだ?」
魔理沙はフランを一瞥する。
フランは心当たりがあるようで、暗い表情はしていても困惑した感じはない。
「人里は、外来人が大抵住み着くところだ。で、紅魔館に行ってフランにボコボコにされた外来人が人里に逃げ帰って、フランは人間が近付いたら玩具にされるだとか、なぶり殺されるとかいろいろ大げさに話した。
元々幻想郷に住んでる人間に、紅魔館に行こうなんて考える奴はいない。
外来人の話がそのまま人里の奴らに浸透したってわけだ」
「けど、そんな簡単に信じるもんか?」
「その話をした外来人は一人じゃなかったからな。多少の違いはあったが、大まかな部分はどの外来人の話にも当てはまった。私はフランはそんな奴じゃないって言ったんだが、外来人の話の信憑性を覆せなかった。
だから人里じゃ、フラン=超危険って認識になってる」
フランの表情はますます暗くなった。
ナルトはフランの頭の上に手を乗せ、優しく撫でる。
「フラン、大丈夫だ。人を傷付けないよう気を付けて行動すれば、きっといつか人里の人も分かってくれる」
「お兄さん……うん、ありがとう」
「気にすんな。お前のままでいればいい、そんだけの話だからよ」
フランの気は少し晴れたようで、表情に笑みが戻った。
ナルトも明るく笑った。
そこで、人里の方からこっちに駆けてくる足音が聞こえた。
三人が視線を人里の方に向ける。
長い銀髪で頭に帽子を乗せた女性。その女性は上下一体の青い服を着ていて、下部分は長めのスカート。
魔理沙はその女性を知っているらしく、げっと声を漏らした。
「あれは……慧音!?」
「人に危害を加えようとしているのはお前か!」
「ごふっ……!」
慧音が跳び、ナルトの腹に頭突きした。
いきなりの攻撃にナルトは対応できず、腹を押さえて数歩後ろに下がる。
「い、いきなり何すんだ!?」
「黙れ。人里を恐怖に陥れようとしている者に当然の報いを与えたまでだ」
「おい、慧音。人里の連中に何言われたか知らないが、人里を恐怖に陥れるつもりなら、いつまでも入り口で話してるわけないぜ」
「……むっ、それは……」
慧音は深呼吸し、自分を落ち着かせた後、ナルトとフランをまじまじと見る。
「そこの青年、一つ聞いてもいいだろうか?」
「なんだ?」
「人里には何の目的で来た?」
「日雇いの仕事がなんかないか探しに来た。オレの世界の金は幻想郷じゃ使えねェみてェだしな。それで、金を稼いだら服を買いてェ」
慧音はナルトの姿を見て、納得したように頷いた。
「成る程、外来人か。ふむ、見たことがない服装をしているし、嘘は言ってないようだな。
そっちの日傘を差してる子はフランドール・スカーレットで間違いないか?」
「う、うん」
慧音はフランと同じ目線まで持っていくと、表情を和らげた。
「百聞は一見にしかずとはよく言ったものだ。私が想像していたフランドール・スカーレットはもっと凶悪な見た目だったが、こうして見ると無邪気な子供にしか見えないな」
慧音は立ち上がり、ナルトの前で小さく頭を下げた。
「すまない。私の早とちりで嫌な思いをさせてしまった。まずは謝らせてほしい」
「別に気にしてねェから、頭を上げてくれ。分かってくれりゃ、それでいい」
慧音はふっと笑みを浮かべた。
「私は上白沢慧音。ここ人間の里で寺子屋を開いている」
「オレの名前はうずまきナルトだ。ナルトって呼んでくれ」
「分かった。ようこそ、人間の里へ。とりあえず人間の里にいる間は、私と行動を共にしてもらう。私と一緒なら、周りも人間の里から排除しようと考えない」
慧音は半人半妖であるが、人間を愛し、常に人間側に立って行動している。
そのため、人間からとても信頼されているのだ。
慧音と共に行動するとはつまり、人間の害にならないと証明したのと同義。
「さて、では人間の里を案内しよう」
慧音の後に続き、三人が慧音の後ろをついていく。
こうして慧音の人里案内が始まった。