うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~ 作:ガジャピン
ナルトは、途中に魔理沙たちが紅魔館の庭で暴れるアクシデントがありながらも、予定通りレミリアの部屋にいった。
ナルトの他には、息を切らした魔理沙、萃香、紫、咲夜がいる。
ナルトも驚いたのだが、ナルトが彼女らに一言「じゃあ、オレってばレミリアんとこ行ってくっから!」と声を張り上げて伝えたところ、紅魔館の庭で好き放題暴れまわっていた四人はピタリと争うのを止め、ナルトの側に帰ってきた。
要するに、彼女らが争うのに深い意味なんてないんだとナルトは悟った。
スペルカードを取りだし闘うのは、自分の世界でいうところの挨拶に近い感覚であり、遊びなのだろう。
だからといって、庭を台無しにしたのを許すほど、レミリアは甘くない。
レミリアはナルトに付いてきた四人を冷めた目で見ると、一言だけ口を開いた。
「あなたたちは、庭を元に戻してから来なさい」
魔理沙たちはがっくりとうなだれて、とぼとぼとレミリアの部屋から去っていった。
今回ばかりはレミリアが正しいため、誰も反論しなかった。
「──で、何の用?」
椅子に座っているレミリアの視線が、ナルトに向く。明らかに不機嫌そうな表情だった。
ナルトは苦笑する。
「機嫌悪そうだな」
「別に。もうそろそろ寝ようかなーってベットに寝転がったところで、激しい爆発音が聞こえてきて、それに驚いて目が冴えちゃったことなんて、私は全然気にしてないわ」
いや、気にしてんじゃねェかとナルトは思ったが、そこを指摘すると面倒なことになるのは火を見るより明らかだったため、触れないようにした。
「幻想郷を見て回りてェって思ってな。レミリアには世話になったから、礼を言いにきたんだ」
「まるで紅魔館を離れるみたいな言い方ね」
「紫は最低でも一ヶ月は幻想郷にいてほしいって言ってた。何の礼もできねェのに、あと一ヶ月も世話になるのは心苦しい。
紅魔館を出た後は、人里でどうすれば金が稼げるか訊いて、人里にある宿を一ヶ月間借りたいと思ってる。宿あるかどうか知らねェけど」
「私は別にあなたの滞在が迷惑なんて思ってないわ。
それに、今あなたは何の礼もできないと言ったけれど、とんでもない。あなたはパチェを治してくれた。
それだけで、あなたは一ヶ月どころか一生紅魔館にいてもいいくらいの礼をしてくれたのよ。
パチェの友人として、あなたをしっかりもてなさないと、私の気が収まらない」
「…………」
「な~んか、不満そうね?」
パチュリーの喘息は、永遠亭に住む凄腕薬師、八意永琳でも治せなかった。
それはつまり、幻想郷の誰もパチュリーを治せる者はいないということ。
だからこそ、ナルトがパチュリーを治してくれたことに対して、レミリアは感謝の念に堪えない。
だが、レミリアの言葉を聞いて、ナルトは苦い顔をしている。
レミリアには、それが理解できない。
何故、大いに感謝してしっかりもてなしたいと言っているのに、少しも嬉しそうな顔をしない?
「オレは別に礼が欲しくてパチュリーを治したわけじゃねェからな。それに、パチュリーを治した礼がしてェってんなら、九尾の再封印を手伝ってくれたことが、オレにとっちゃ礼みてェなもんだ」
「あなたを手伝ったのは、あなたの封印が壊れた原因に、私たちも関わっていたからよ。礼より償いの意味の方が強いわ」
「それでも、レミリアたちが協力してくれなかったら、今でも封印できずに幻想郷を走り回ってると思う。
だから、それでパチュリーの件はチャラだ」
成る程、とレミリアは一度頷いた。
ナルトは貸し借り無しの対等な関係を、レミリアたちに望んでいる。なら、話は簡単だ。
レミリアは唇の端を吊り上げる。
「あなたの言い分は分かったわ。なら、あなたを友人として紅魔館に招き入れるというのはどうかしら?
勿論、何かあなたにしてほしいことがあれば、あなたにじゃんじゃん協力してもらうわ」
ナルトは驚いた。
そして、観念したように笑った。
「こりゃあ、一本とられたな」
礼ではない。
友人をただ住まわせたいと言っているだけだ。何かあれば、遠慮無しに力を借りるとも言っている。
上下関係のない、ナルトの望む形。
上手い、と思った。
言葉遊びかもしれないが、しっかりとこちらの意見を聞き入れ、その上で自分の意見を通す。
ナルトとて、紅魔館が嫌いだから出ていきたいわけではない。むしろ幻想郷にいる間、紅魔館に滞在できた方が都合が良い。
不満だったのは、自分が紅魔館の面々に対して何も返せないことだった。それが解消できるなら、ナルトとしては何も問題ない。
それに、ここでレミリアの申し出を断るのは、それはそれで失礼な気がする。
そういうのも全て見通して、レミリアは言ったのだろう。レミリアの方が、ナルトより一枚上手だったのだ。
「決まりね。一つ訊きたいんだけど、あなたは幻想郷のことをどれくらい分かってるの?」
「魔理沙から色々教えてもらったけど、大まかなことしか分かんねェ」
「なら、幻想郷を巡る前に、幻想郷についてしっかり勉強していきなさい。今ならパチェが大図書館にいると思うから、パチェに頼んできて」
ナルトは勉強と聞いて、露骨に嫌そうな顔をした。
元来、彼は頭を使うより身体を使うほうが性に合っている。
レミリアはジト目になり、
「……勉強やらないなら、お昼ご飯抜きね」
「分かったよ、やるよ、やりゃあいいんだろ」
さすがに昼飯抜きはナルトでもこたえるようで、やけくそ混じりに言った。
「じゃあ、パチェによろしくね」
「おう」
その会話を最後に、ナルトはレミリアの部屋を出た。
◆ ◆ ◆
「ふーん、なるほどね」
事情を聞いたパチュリーは、読んでいた本を閉じた。
「……もしかして、今マズかったか? なら、しょうがねェな!」
言葉とは裏腹に、ナルトは嬉しそうな顔をした。
「いえ、全然。喜んでその役目、引き受けるわ。こあ、幻想郷について書かれてる本持ってきて!」
「はい、パチュリー様!」
目の前の机に、こあがどんどん本を積み上げていく。
ナルトはその本の多さに目眩がしそうになった。
パチュリーは何処に用意していたのか、眼鏡をかける。
パチュリーは形から入るタイプなんだなと、ナルトは現実逃避をするように思った。
「──さて、準備も整ったし、勉強始めるわよ」
「いや、準備整うの早すぎだろ!? まだ五分も経ってねェぞ!」
「善は急げっていうしね。はい、席に着く! これからパチュリー先生の授業を始めるんだから!」
「……うへぇ」
ナルトはため息をついた。
パチュリーのこの生き生きっぷりを見る限り、かなりハードな勉強になることは間違いない。
そして、あっという間に三時間という時が過ぎた。
時刻は正午近くになり、太陽が高く昇っている。暖かな陽光が幻想郷をあまねく照らしているが、地下にある大図書館までは届かない。三時間前と変わらぬ部屋の状態だ。机に突っ伏し、魂が出かかったナルトの姿を除けばだが。
昼食時になったので、その事を知らせようと咲夜が大図書館にやってきた。
「……うわぁ」
部屋の中を見て、咲夜はナルトの変わり果てた姿に思わず声が漏れた。
パチュリーは咲夜に気付くと、手に持っていた指示棒を机に置いた。
「あら、もうそんな時間なのね。ナルト、お昼ご飯の時間よ」
「昼飯ッ!?」
ナルトは突っ伏した状態から勢いよく身体を起こした。生気のなかった瞳に光が生じる。
素早く椅子から立ち上がって、ナルトは瞬く間に外へと走り去った。
それを唖然とした表情で、その場にいた三人は見送った。
「解放されたのが、よっぽど嬉しいみたいね。どんな勉強の教え方をしたのやら」
咲夜がパチュリーに視線を合わせながら言った。
パチュリーは少しムッとする。
「別に普通よ。ナルトもだらしないのね。知識を詰め込んでいくだけなのに」
「その詰め込む知識が尋常じゃない量あったんですが」
こあが高く積まれている本を横目に、ため息をつく。
いや、お前が本用意したんだろと、この場にナルトがいたら言っているだろう。
「大した量じゃないわ。そんなことより、私たちもご飯食べにいかないと。こあは、机に置いた本の整理お願いね」
「分かりました」
大図書館にこあを残して、パチュリーと咲夜の二人は大食堂に向かった。
◆ ◆ ◆
大食堂はその名に恥じず、広々とした部屋に長いテーブルと椅子が多数置かれている。
そのテーブルの上には、野菜をたっぷり使ったローストポークサラダに、じゃがいもやキャベツ、玉ねぎ、豚肉のつくねが入ったコンソメスープ、赤ワインを混ぜたトマトソースをかけたポークソテー、ちょうど良い焦げ色のついたクロワッサンが、座っている人数分分けられて置かれている。
「わ~、すっげェ!」
ナルトは見たことのない料理に目を輝かせ、歓声をあげた。
大食堂には既に魔理沙、美鈴、フランがいる。ナルトは上座と思われる場所から一番離れた椅子に座った。
「あれ? 紫と萃香はどうした?」
「あいつらなら、庭を片付けようとしたら急用を思い出したとか言って帰ったぜ。おかげで最初は私と咲夜の二人だけで掃除してた。途中から美鈴とフランが手伝ってくれたから助かったぜ」
「そうか。あの二人面倒な事嫌いそうだもんな。てか、紫が帰ったら霊夢はどうすんだ?」
「紫は明日また来るって言ってた。今日は丸一日霊夢は駄目だろうから、明日まで預かっててくれとも言ってたぜ」
「──まったく、いつも勝手なんだから」
咲夜とパチュリーが大食堂に来て、最後はレミリアが姿を現す。魔理沙の言葉を聞いて、レミリアが呆れたように吐き捨てた。
レミリアはテーブルの上に置かれた料理を見て、感心したように息を漏らした。
「今日は豪勢ね」
「宴会の料理の食材をたくさん買ったんですけど、思ったより使わなくて。その食材の余りです」
「へぇ~、じゃあ冷めないうちにいただきましょうか」
レミリアのその一言を合図に、昼食が始まった。
山のように盛られていた料理がどんどん少なくなっていく。
食事の途中、ナルトはフランの料理が自分のよりも赤いことに気付いた。
「なんかフランの料理、オレより赤くないか?」
ナルトの問いに答えたのは、料理を作った張本人である咲夜だ。
「お嬢さまと妹さまの料理は、特製ソースが使われておりますので──」
「……ああ、そうか」
ナルトは吸血鬼が何なのかを今日学んだ。そして、吸血鬼が何を主食にしているかも知った。
つまり、アレがソースの中に入っているということだ。
「その様子だと、勉強は順調みたいね」
「当然よ、私が教えたんだから」
パチュリーは胸を張った。そして、ナルトの方に顔を向ける。
「ナルト、幻想郷って何?」
「えーと……博霊大結界っつうので外の世界と隔てられてて、人や妖怪や神様や幽霊が住んでいる場所」
「吸血鬼って何?」
「人を襲ってその血を啜り、桁違いな身体能力をもっている妖怪」
「レミィの好きな食べ物は?」
「……納豆」
「レミィが紅茶を飲む理由は?」
「……偉そうだから」
「レミィの紅茶は大半を何が占めている?」
「…………B型の血液」
「ブラボー!」
レミリアは両手を叩いて拍手する。
「この調子で昼食後も頑張りなさいね、ナルト」
「まだ勉強しねェといけねェのかよ。オレってば退屈なのはきれェなんだ」
「今日だけだから我慢する! 知識を知ってるのと知らないのでは、天と地程の差があるから」
「私がナルトに付いてくから、心配ないと思うぜ」
魔理沙が口元をフキンで拭きながら、口を挟む。
「何何? 何の話?」
フランが興味津々といった表情で尋ねた。
「ナルトは幻想郷を巡りたいんだってさ。多分レミリアはそのための準備をしてるんだろ」
「何で幻想郷を巡りたいの?」
「ナルトに封印されてる力が漏れた影響がどうなっているか、確認しておきたいからだとさ。あと、幻想郷を混乱させて謝りたいからとも言ってたな」
「──ふーん、そうなんだ」
フランは何か考え事をしているような感じで俯いた。
そして昼食が終わり、パチュリーに引き摺られるようにナルトは大図書館に戻っていった。
今度は魔理沙もナルトに付いていき、大図書館でパチュリーと一緒になってナルトに幻想郷のことを教えたり、魔導書を読んだりした。
それから数時間が経過し、太陽も沈みかけた夕方。
ナルトはようやくパチュリーから解放され、魔理沙と二人で紅魔館の廊下を歩いていた。
「あ~、やっと終わった~」
ナルトはぐっと伸びをして、固くなった身体をほぐす。パキパキと関節が鳴った。
「明日から、幻想郷の各地に出掛けるのか?」
「そのつもりだけど」
「何処に行くとかは決めてるのか?」
「ああ。最初は人里に行ってみてェと思う。
いい加減このボロボロの服から着替えねェとマジぃだろ。金稼ぎを何よりも優先してやるつもりだ」
「確かにそうだな。ナルトなら労働力には最適だし、割りのいい仕事が見つかると思うぜ」
「おう。なんにせよ、明日だな。頭使いすぎて眠くて仕方ねェ」
あくびをしたナルトを見て、魔理沙は声を殺して笑った。
「ダウンする度に、パチュリーが持ってた棒で叩かれてたな」
「あれ、痛くはねェんだけどさ、反応して顔を上げると目の前に微笑したパチュリーがいて……あれはもうトラウマだってばよ。もうあの棒見ただけで冷や汗が出るようになっちまった」
ナルトと魔理沙は途中で別れ、ナルトは自室に戻った。
そして、シャワーを浴び終えてくつろいでいるところに、部屋の扉がノックされた。
「レミリアだけど、今大丈夫?」
「ああ、いいぜ」
ナルトの声を聞いて、レミリアが扉を開け、ナルトの部屋に入る。
「何の用だ?」
「あなたにお願いがあって来たの。あなたの幻想郷巡りに、フランも連れていってくれないかしら?」
レミリアの声は淡々としていて、その言葉にどんな感情が込められているか、ナルトには分からなかった。
しかし、何かを企んでいる。それだけは、ナルトの直感というべきものが、感じとっていた。
今回で書くのに一番大変だったのが、幻想郷の食事です。
海もないし、牛とかも調べた限りではいないっぽいんですよね。それどころか鶏もいなさそう。
最終的には、二次創作と割り切って深く考えないことにしました。