うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~   作:ガジャピン

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自惚れ~Tomorrow invisible~

 スキマの中で、紫はにやりと微笑した。

 

「完璧すぎるでしょ、わたし……!」

 

 自分のしたことは、非の打ち所がない完璧さだったと、紫は自信を持って言えた。

 まずは封筒を貼った場所。

 完璧だ。絶対に気付く目立つ場所。あそこに貼れば、早くて数分、遅くても数時間で相手の手に渡るだろう。

 次に写真。

 完璧だ。誰が見ても危険なんて考えない。周囲でピースしてる女の子たちも、それを裏付ける良いアクセントになっている。

 最後に手紙。

 完璧すぎる。もしかして、わたしには文才というものがあったのではないだろうか。

 まずナルトを返す具体的な期間を明示することで、こちら側はナルトを返す意思があると伝える。うん、スマートすぎる。

 そして、相手がそれまで落ち着いて安心して暮らせるよう、一言相手を気遣う言葉を入れる。これで相手はわたしに好印象を抱くだろう。この配慮がわたし的に完璧だわ。

 最後の締めに、ナルトの口癖の模倣。これをすることで、相手に自分はナルトと親しい仲だと、暗に示せる。

 相手はもうわたしを敵とは思えないだろう。ホームステイ先の家族みたいな印象に変わっている筈だ。

 完璧。完璧な流れにして散りばめられた技の数々。これを文才といわず何というのか。

 もうナルトの世界を見る必要もない。いや、見るまでもない。

 あとは期間内までナルトを幻想郷で暮らさせて、幻想郷にどんな変化があるのか見守って、最後にナルトを彼の世界に返せばいい。

 それにしても──。

 

「良いことした後って、気持ちいいわね~」

 

 紫はぐ~と伸びをした。

 紫がナルトの世界の人々に、姿を一切見せないのには理由がある。

 面倒な事になるからだ。

 姿を見せて、万が一相手が紫を捕まえる何かしらの(すべ)を持っていたら、ゲームオーバー。

 そこから先は拷問か解剖か実験体か、いずれにせよ考えたくもない未来が待っている。

 ならば、紫はリスクを一切冒す気はない。別に姿を見せなくても、事を為せる。

 それに、拐った相手の姿を見て相手が何かを知れば、更に動きが活発化するだろう。

 霧のように相手に実体を掴ませない方が、相手の戦意を削ぐのに都合がいい。

 

「それじゃあ、彼に元の世界はもう気にしなくていいって伝えてきましょうか」

 

 スキマの空間に割れ目が生まれ、紫はその中に消えていった。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 紅魔館のナルトに割り当てられた部屋のベッドの上、ナルトはぐったりしていた。

 

「頭いてェ……気持ちわりィ……」

 

 これが二日酔いか。成る程、忍の三禁に入るわけだ。こんな状態で任務なんてやる気が起きないし、そもそも速く身体を動かせない。

 もう二度と酒を浴びるほど飲まないと、ナルトは心に決めた。

 ナルトは自身の姿を軽く見て、変化の術が解けていないのを確認すると、一つ頷いた。

 

(こんな状態でもしっかり変化できてんじゃん。オレも成長したな~)

 

 以前なら、無意識下での変化の術の維持などできなかった。これもチャクラコントロールを極めたからこそできるようになった芸当だ。

 

「ナルト~生きてるか~」

 

 ナルトの部屋の扉を勢いよく開け、魔理沙が入ってきた。

 その時の音がナルトの頭を刺激し、頭痛が更に痛みを増した。

 

「イテテテテ、もう少し静かに来てくれよ」

 

「あっはっはっはっ! 大丈夫そうだな!」

 

「どこが!? ……っつぅ」

 

 反射的にツッコんだナルトは、頭に響く痛みに顔をしかめる。

 

「ツラそうだな。でももう安心! 困った時にヒーローが来るのはお約束だぜ! 萃香先生、お願いします!」

 

「うんうん、私に任せておけば万事解決さ」

 

 魔理沙の後ろから、萃香が酒を飲みながら現れた。

 フラフラとした足取りで、ナルトが寝ているベッドの横に立つ。

 

「ただの酔っ払いじゃねェか。お前も寝てろよ」

 

「ふふん、私は好きで酔っ払ってんだよ。ナルトみたいに酒に呑まれてるわけじゃあない」

 

「魔理沙、萃香は何を言ってんだ? 現在進行形で酒に呑まれてるよな?」

 

 グビグビと酒を飲む萃香を横目に、ナルトは魔理沙に視線を送る。

 

「こう見えて、やる時はやる奴なんだぜ」

 

「そうそう」

 

 萃香がナルトの身体に手を置く。

 

「いきなり何すんだっ──あれ? 頭痛くねェ、吐き気もしねェ……な、なんだ? 萃香、お前何したんだ?」

 

 萃香は得意気な表情で胸を張り、両手を横腹に置く。

 

「ナルトの身体の中にあった酒気を散らしたんだよ。スゴいだろ~」

 

「散らす?」

 

「萃香はありとあらゆるものを集めたり散らす能力をもってるんだ。身体を巨大化させたり、逆に霧状にしたりとか、色々反則的な能力だぜ」

 

 萃香の能力は、使い方次第では疑似ブラックホールの生成もできる、使い手の発想で化ける能力だ。

 

「そうか、サンキューな萃香。一気に楽になった」

 

「ま、無理やり飲ませちゃったからねぇ、そのお詫びみたいなもんだよ」

 

 ナルトはベッドから起き上がり、冷蔵庫から水をとってコップに注ぎ、一息で飲み干す。

 

「ふぅ……これからどうすっかな。できりゃ、オレの世界のみんなに無事ってことだけでも伝えてェけど」

 

「安心して、わたしがバッチリ伝えといたわ」

 

 ナルトの目の前の空間が割れた。

 そこからガッツポーズをした紫が、ひょこっと顔を出す。

 

「ってことは、オレの世界の連中は、オレが無事だって知ってんのか?」

 

「ええ、間違いなく知ってるわ。わたしが完璧すぎる伝え方をしたからね。

でもその内容の中に、ナルトはあと一ヶ月から二ヶ月の間に返すっていうのを勝手に決めちゃったの。

つまり、ナルトは最低でもあと一ヶ月くらい幻想郷にいてほしいんだけど……いい?」

 

「ちゃんと伝えてくれたんなら、いいぜ。オレも気になることがあったからな」

 

「なんだその気になることって?」

 

 魔理沙がナルトの方に近付き、訊いた。

 

「ほら、幻想郷中に九尾のチャクラが漏れただろ? だからさ、少し幻想郷を見て回りてェと思うんだ。何か問題はねェかって」

 

 幻想郷の世界に漏れた九尾のチャクラは、未だにそのままだ。

 妖怪が取り込んだ九尾のチャクラも消えていない。

 ナルトは幻想郷を見て回って、九尾のチャクラを誰がもっているか、害はないかを調べてみたかった。

 ナルトは悪意と呼ばれるものに敏感に反応できるため、会えば悪者かどうか分かる。

 

「幻想郷に迷惑かけちまったから、見て回るついでに謝りてェしな」

 

「わ、私も付いてっていいかな?」

 

「別にいいぜ。幻想郷に詳しい魔理沙がいてくれた方が、オレも心強いからな」

 

「決まりだな。これからもよろしく頼むぜ!」

 

「ああ」

 

 ナルトと魔理沙は軽く拳を合わせる。

 ナルトは部屋を出て、レミリアの部屋に向かう。その後ろを魔理沙、萃香、紫が付いていく。

 

「そういやぁ、霊夢とか勇儀はまだ紅魔館にいるのか?」

 

「勇儀は旧都に帰ったよ。霊夢は紅魔館にいるけど……」

 

「ナルト……霊夢はな、頑張ったんだよ。私たちにできるのは、霊夢を休ませてやることだけなんだ」

 

 萃香が身体を震わせながら顔を背け、魔理沙の両目は涙で滲んでいた。

 

「魔理沙、目薬見えてるぞ」

 

「えっ、マジで!?」

 

 ナルトは魔理沙が隠した目薬を見逃さなかった。

 というか、そんな演出をして何か意味あるのか? とナルトは疑問に思ったが、魔理沙は人をからかったりするのが好きらしいというのは薄々気付いていたため、イラッとはこなかった。

 

「今霊夢は全身筋肉痛で、磔にされているように、ベッドで大の字になって寝てるわ。

多分今霊夢を見に行ったら、マジギレするでしょうね。あの子ムダにプライド高いから、無様にベッドでダウンしてる姿なんか人に見られたくないでしょうし」

 

 紫がやれやれという感じに肩をすくめる。

 

「萃香、霊夢の痛みを散らしたりはできねェのか?」

 

「あ~、どうだろ? まぁ、できてもやらないけどねぇ」

 

「何でだ? 霊夢と仲わりぃのか?」

 

「いや、わたしは仲いいと思ってるよ。ただ、今の霊夢はなかなか見れないよ~。この機会に見とくべきだと思うねぇ。

さっきチラッと見たんだけどさ、『筋肉痛! 筋肉痛ナメてた! イタタタタ、もう絶対筋トレしない! してたまるかぁぁああああ!』って、ずっと言ってんだよ!? もう部屋の外で大爆笑しちゃってさ、普段とのあまりのギャップに」

 

「さっき身体震わしてたのは、笑いを堪えてたのかよ。

お前らけっこう容赦ねェっていうか、仲いい奴にもわりとヒドいことするよな?」

 

 ナルトは魔理沙と紫の喧嘩を思いだしていた。あれも結構容赦のない闘いだった。

 

「そんなことない。一種のコミュニケーションみたいなもんだぜ。なぁ、紫?」

 

「ええ、そうね。ところで魔理沙、今度そのコミュニケーションをしない? 別に殺さないから、心配しなくていいわよ」

 

 魔理沙の顔が青ざめる。

 魔理沙が思っている以上に、紫は魔理沙のしたことを根にもっているらしい。

 

「遠慮しておくぜ。お前とのコミュニケーションは十分とれてるからな」

 

「何を言ってるのかしら? わたしはあなたの頭をアフロにさえできれば満足なのよ」

 

「絶対イヤだああああ!」

 

 魔理沙が館内にもかかわらず箒に跨がり、低空飛行で紅魔館の廊下を移動する。

 その途中に窓を見つけた魔理沙は、窓の方に方向転換しつつ、ミニ八卦炉に魔力を集中させ、極細のマスタースパークで、窓ガラスを円形に切り抜く。

 そうしてできた窓の円の中に魔理沙は飛び込み、外へと消えていった。

 一切窓の割れた音をさせずに素早く外へと逃げる姿は、盗賊のプロそのもの。

 

「おい、ちょっと怖がらせすぎだろ」

 

 ナルトは呆れた目で紫を見る。

 てか、魔理沙の逃げる時のあの手際の良さは何なんだよ。

 

「てへっ!」

 

 紫は自分の頭をコツンと軽く叩いて舌を出した。

 

「……紫っていつもこんな感じなのか?」

 

「深く考えない方がいいよ。紫は無自覚で人をイラつかせる才能があるからね」

 

 ナルトと萃香は互いに顔を寄せあい、紫に会話を聴かれないよう小声で話す。

 ナルトたちは魔理沙が飛び出した窓から、魔理沙がどこに行ったか視線で探す。

 魔理沙はすぐに見つかった。紅魔館の庭を、箒で少し浮かんで静止している。

 魔理沙の周囲には、多数のナイフ。それら全ての刃先が魔理沙の方を向き、魔理沙の周囲を埋め尽くしている。

 

「あなたという人は……また窓ダメにしたわね!」

 

「咲夜、話を聞いてくれ! 私のサラサラフワフワヘアーに嫉妬した元アフロの覗き魔が、私をアフロにしようと襲ってくるんだ!」

 

「意味の分からないことを……つくならもっとマシなウソをつきなさい!」

 

「いやいやいや、これはウソじゃないんだ! これだけは本当なんだ、信じてくれ!」

 

「魔理沙、一つ言っておくけど、幻想郷にアフロはいないのよ」

 

 咲夜は人差し指を立てて、諭すように魔理沙に言う。

 

「いたもん……アフロが、ホントに……ホントにアフロがいたんだああああ!

恋符『マスタースパーク』!」

 

 魔理沙は涙目になりながら、正面にマスタースパークを放ち、正面のナイフを全て吹き飛ばした。

 そうしてできた逃げ道を、魔理沙は疾走。ナイフからの包囲を抜けた。

 

「ッ! ……まだまだッ! 奇術『エターナルミーク』!」

 

 魔理沙に多数の光弾が襲いかかる。

 

「当たるわけにはいかない! 私には、護りたいものがあるんだ!」

 

 魔理沙が宙を舞い、鮮やかにかわす。

 ナルトはその光景を見て、目を丸くしていた。

 

「何ですぐこういう展開になるんだ……」

 

 萃香はナルトの横で身体を震わしている。

 

「何楽しそうなことやってるんだ! 私も入れろー!」

 

 萃香は勢いよく窓に飛び込み、窓ガラスを割りながら外に出る。

 何で魔理沙が出ていった、窓ガラスのない部分から出ていかないんだよとナルトは思ったが、深く考えないことにした。

 

「ったく、しょうがねェな。紫、こういう時はどうやって止めて──いねェし」

 

 ナルトは紫がいた方に顔を向けたが、紫の姿は跡形もなく消えていた。

 

「魔理沙、随分好き勝手言ってくれたわね。あなたはもうアフロすら生ぬるい! モヒカンにしてあげるわ!」

 

「お前はいい加減にしろ! いいぜ、こい……こいよ紫! スキマなんか捨ててかかってこい!」

 

「いい度胸ね。言っとくけど、前みたいにはいかないわよ」

 

「私も前とは違うぜ! それに、今の私には護るべきものがある! 勝負だ紫!」

 

 魔理沙と紫が互いにスペルカードを取り出し、紅魔館の庭が様々な弾幕で埋め尽くされる。

 その二人の勝負に、途中から咲夜と萃香が参戦し、紅魔館の庭は、爆発音と閃光が絶えない戦場に早変わりした。

 

「えぇ……」

 

 ナルトは目の前の光景に絶句していた。

 なにこれ? なにこれ……。

 さっきまで普通に会話をしていた。これは間違いない。なのに、何故今こうなっている?

 そして、何故誰も止めようとしない? むしろ水を得た魚のように、生き生きと戦闘の渦中に飛び込んでいく。

 

『九喇嘛……オレ、幻想郷でやってけんのかなぁ』

 

《お前次第だろうよ。まぁ頑張れや》

 

 これから一ヶ月過ごすと決めた初日から、先行きが不安になったナルトであった。




第2章はシリアス少なめで、明るい話が多くなると思います。

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