うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~ 作:ガジャピン
情報~Information full of doubt~
火の国木の葉隠れの里。この里では今、緊急警備態勢を敷いている。
額宛をした忍たちが屋根を跳び回り、里内の街道をいくつかのチームで見回り、里周辺にも多数の忍たちが異常がないか目を光らしている。
数日前、正確にはうずまきナルトが行方不明となった時から、この警備態勢は続いている。
いつものように屋根を跳び回り、高いところから里を警備していた忍は、火影の家を視界に入れて首を傾げた。
火影の家には、火の文字が大きく書かれている。その火の文字が、何かに遮られていたからだ。
忍は不審に思い、火の文字のところまで近付く。
そこには封筒が貼り付けられていた。透明なテープを十字にして、風で飛んでいかないようしっかり固定されている。
その封筒の表面には、『この場所で一番偉い人に』と書かれていた。
忍は封筒を火の文字から剥がし、裏面を見る。
そこにあった文字は、『うずまきナルトを連れ去った者より』。
忍は慌てて地面へと飛び下り、火影の家へと入っていった。
その出来事から一時間後。
奈良シカマルと春野サクラは火影の家に呼び出されていた。二人の正面には六代目火影、はたけカカシが執務机を前に座っていて、そのすぐ隣には五代目火影を務めた綱手が立っている。
「……ナルトの情報が入ったって聞いたんすけど。里の連中も騒いでるし」
「彼には黙っててくれって言ったんだけどねェ」
カカシは呆れたように、軽く息をついた。
どうやら封筒をカカシに届けた忍は、自身がうずまきナルトの手掛かりを手に入れたことに対してかなり喜び、その喜びを自制できずに里の人に口を滑らしてしまったらしい。
里の人が、どれだけその情報を求めていたか知っているからこそ、口も軽くなってしまったのだろう。
「──ってことは、本当なんですか!? で、敵からの要求は!?」
サクラが執務机に両手をつき、カカシに詰め寄る。
ナルトは里に現れていない。ということは、ナルトを連れ去った相手はナルトを返したわけではなく、ナルトを使った取引を持ち掛けてきたのだろうとサクラは予想した。
シカマルもそう考えているようで、カカシの言葉を聞きのがすまいと強張った面持ちをしていた。
カカシは隣に立つ綱手と視線を交わす。
その二人の煮え切らない態度が、サクラとシカマルの表情を余計に硬くさせる。
それだけで敵からの手掛かりがあまり良くない内容だと察することができたからだ。
「要求はないよ。いや、あるといえばあるかもしれないが」
「どっちなんです?」
「ま、話すより見るほうが早いな」
カカシは執務机の上に封筒を置いた。火の文字の部分に貼られていた封筒だ。
それをサクラが手に取り、執務机の上に封筒の中身を並べる。
封筒の中身は、一枚ずつの写真と手紙だった。
まずは、一枚の写真。そこには、寝ているナルトの周囲にたくさんの女の子がピースしている光景が写し出されている。
次に、一枚の手紙。そこに書かれている内容は、『一ヶ月後から二ヶ月後の間に、うずまきナルトはお返しするってばYO! 安心して大人しく待っててほしいってばYO!』だった。
サクラとシカマルは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「何です、これ?」
「ま、そういう反応だろうね。俺も初めに見た時はそういう顔になった。
で、お前たちを呼んだ理由は、お前たちはナルトが連れ去られた瞬間まで傍にいたからだ。
その写真や手紙には不自然な点がいくつかある」
「そういうことっすか……」
シカマルは合点がいったように頷く。
サクラは二人のやり取りについていけず、困惑した表情になる。
「二人だけで話してないで、教えてよ」
「ったく、しょうがねぇな。まず、この写真に写ってるナルト。これが一番おかしい」
シカマルが写真に写ってるナルトを指差す。
「確かにナルトは敵に捕まってるのに、こんなに油断しきってるのはおかしいわね」
「ちげぇよ。問題なのはナルトの服だ」
そうシカマルに言われて、サクラは何を言いたいか理解した。
ナルトの服が綺麗すぎるのだ。まるで新品の服を着ているように。
ナルトが連れ去られた時、ナルトの服は汚くはなかったが、それでも少し汚れが滲んでいる箇所があった。
それが、この写真に写っているナルトの服にはない。
「ってことは……このナルトは偽者? 変化の術でナルトに化けてるってこと?」
「やっぱりそうだったかい」
綱手とカカシも、写真を見た時から同じ結論に達していた。
その結論に確信を持たせるために、ナルトと最後までいたサクラとシカマルが呼ばれたのだ。
綱手は拳を震わせている。
綱手からすれば、ナルトを使ってこっちをおちょくっている感じがするのだろう。
「けどねサクラ、これを偽者だと仮定すると納得できない点が幾つも出てくるんだよ」
まず、何故こんなにバレやすい変化をしたのか。
変化の術で、服の汚れも真似ればいい筈なのに、それを怠っている。
変化の術でただナルトに化ければ騙せるなどと、下忍でも考えない甘い考えを敵はしているのか。
むしろ、まるで気付いてくれと言わんばかりのあからさまさだ。
次に、何故わざわざ寝ているところを撮ったのか。
写真を見る限り、変化をした術者は間違いなく寝ている。
普通に起きているところを撮ればいいんじゃないだろうか。
安全だということを伝えたいのだとしても、それは起きた状態でも伝えられる。
その次に、周りを女の子で囲ませる理由。
一体何がしたいのか分からない。
それも翼や角がある女の子までいる。これは一体何を意味しているのだ?
ヒナタとナルトを仲違いさせるのが、この写真を送った理由なのか。
そして、手紙。
こっちはハッキリ言って写真より意味が分からない。
何故、返す期間をわざわざ伝える?
いや、それは百歩譲っていいとしても、大人しく待っていろというのが意味不明だ。
何か敵の手掛かりを少しでも掴んでいて、敵にとって都合が悪かったのなら、理解できる。
だが、カカシもシカマルも誰一人、今日までナルトを連れ去った相手の情報を、何一つ手に入れられなかった。
敵からすれば、こっちがどれだけ忙しく動いていようが、何の脅威も危険もない。その筈だ。なのに、大人しくしていろと言う。まるでこっちを案じているように。向こうがナルトを
「この一ヶ月から二ヶ月って期間はなんだと、シカマルは考える?」
「最悪なケースを考えるなら、ナルトから尾獣を抜くのに必要な時間がそれくらいかかるってことっすね。
まぁ一方的に相手が言ってきたことなんで、この期間自体が俺らの動きを鈍らせる罠って可能性もある。
なんにせよ、あんま信用しない方が良さそうっす」
「うむ、それは同感だな」
綱手が力強く頷いた。
そして、語尾の『ってばYO!』。
もう、絶対敵は遊んでる。木の葉の里をおちょくって、陰で笑っている。
そもそも、ナルトのあれは別にラップ調を意識しているわけではない。
「ま、一番の問題は敵から送られた封筒の内容じゃないんだけど」
カカシが真剣な表情で呟く。
その言葉には、サクラもシカマルも心から同意した。
今、木の葉の里、いや、他里も緊急警備態勢を敷き、ナルトの捜索と敵からの再襲撃に備えている。
木の葉の里内の感知結界も最大限まで感度を高め、多数の忍が目を光らせている。にも関わらず、火影の家の火の文字の部分という目立つ場所に、敵は忍たちの目を掻い潜り、封筒を貼ってみせたのだ。
つまり、どれだけこちらが警戒を高めようが無駄だという事実。
これが何よりも問題だ。敵の襲撃に対して、事前に対処することが極めて困難であると、今回の事で思い知らされたのだ。
「そこで私たちは、緊急警備態勢を解除する結論に達した。
そのかわり、常に
チームメイトには常時注意を払い、お互いの身を護衛し合う」
事前に対処できないなら、事後に素早く対処する方向に即切り替える。
木の葉の里の現火影と前火影の判断は、とてつもなく速かった。
写輪眼や白眼のように強力な、新しい特異体質の出現。
サクラの、ナルトを連れ去った空間の中に、無数の目が浮かんでいたという情報により、ナルトの世界の全員がこの懸念を抱いていた。
第四次忍界大戦の根幹に、万華鏡写輪眼による『月の眼計画』があり、そのせいで眼というものに対して、ナルトの世界の住人は敏感になってしまっている。
全員が固い面持ちで話し合っている中、ドタドタと廊下を走る音が、全員の耳に飛び込んできた。
慌ただしく扉が開けられ、長い黒髪をした女性が切羽詰まった表情で入ってくる。
「ナルトくんの情報が入ったって本当ですか!?」
「ヒナタ!?」
サクラが驚きの声を上げる。
ヒナタは執務机の上に置いてある一枚の写真に気付き、それを手にとって写真を確認した後──気を失ってそのまま真後ろに倒れた。
「おいヒナタ! しっかりしろ!」
「誰か! 医療忍者呼んできて!」
「落ち着きなサクラ! お前が医療忍者だろうが!」
「そうだった!」
とりあえずサクラは、落ち着ける場所にヒナタを移動させようとヒナタをおんぶして、火影の部屋を出ていく。
サクラは、ヒナタを火影の家にある使っていない部屋のソファーにゆっくり寝かせる。
その時の微かな衝撃の影響か、ヒナタは静かに目を開けた。
「あ、起こしちゃった?」
「大丈夫、ちょっとビックリしちゃっただけだから」
ヒナタはサクラを見て微笑む。
その笑顔を直視して、サクラは痛々しい気持ちになった。
「ナルトを拐った奴も酷いことするよね。ナルトに化けてあんな写真撮るなんてさ」
「サクラさん、あのナルトくんはナルトくんだよ。ナルトくんが下忍の時に、何度か見たことある寝顔だもん」
「えっ!?」
あの写真のナルトが本物なら、ヒナタ的にあの周りにいた女の子たちはどうなのだろうか。
サクラは悪いと思いつつも好奇心に勝てず、ヒナタに訊いた。
「あ~……ヒナタはあの写真どう思ってるの?」
「ちょっとだけ……嫉妬しちゃうかな。ナルトくんが少しだけかもしれないけど、昔のナルトくんに戻ってる気がするの」
サクラは顔を伏せる。
ナルトはいつからか、任務を多くこなすようになり、任務がない時は何かにとり憑かれたように修行に明け暮れていた。
しかし、張り詰めた糸が切れやすいように、削り過ぎた鉛筆の芯が折れやすいように、ナルトはいつ倒れてもおかしくない状態だった。
「私ね……このままだとナルトくんが壊れちゃうかもって不安だったんだ。でも、何言ってもナルトくんは笑って心配いらないって言うの」
ナルトのことをずっと昔から見てないと、ただ修行熱心だとしか思わないだろう。
だが、昔からナルトを知っている人間からすれば異常だった。
昔も、ナルトは修行をよくやっていたのは知っている。
問題なのは、何かに追い詰められているかのように、修行内容が過酷だったこと。
一刻も早く強くならなければという意志を、修行中のナルトから感じた。
サクラがあまり無理しないようにと言っても、へーきへーき大丈夫だってと笑って、修行を止めない。
「ナルトくんね、私のことしっかり見てくれないの。約束とかしたり、プレゼントとかは貰えるんだけど、デートしてもどこか上の空で、何かを考え込んでるみたいだった。
私にできたのは、ただナルトくんの隣にいて、ナルトくんが壊れないようにって願いながら、笑ってナルトくんに接することだけ。
だから──この女の子たちが私にできなかったことを、ナルトくんにしてくれたんだって思ったら、悔しくなっちゃって。本当は私がしてあげたかったのに」
「えっ、そういう嫉妬!? ナルトが、あの女の子たちの内の誰かに取られちゃうかもとか考えないの?」
サクラが驚きで目を見開く。
ヒナタは笑って頷いた。
「だって、ナルトくんが約束してくれたから。絶対に私のところに帰ってくるって。私はナルトくんを信じてるもの。ナルトくんが約束を破ったことなんて、今まで一回もないんだよ」
強いていえば、ナルトと付き合って一年の記念日にデートするという約束を破られたが、それはナルトではなく他の誰かのせいだ。ナルトは精一杯その約束を守ろうとしてくれた。
「ヒナタは本当に良い子だね。こんな良い子をほったらかして、ナルトの奴は!
……うん! ヒナタのこと、見た感じ大丈夫そうだから、私はカカシ先生のとこに戻るね」
「うん。ここまで運んでくれてありがとう」
「いいのよ別に、気にしないで。それじゃあね」
サクラは部屋から出ていき、扉を閉めた。
一人になった部屋で、ヒナタは両膝の上で両拳を握りしめる。
「……大丈夫だよね、ナルトくん。信じて――いいんだよね。でも、怖い……怖いよ、ナルトくん。
もしかしたら、もう二度とナルトくんには会えないかもしれない。それが怖いよ……」
ヒナタは堪えきれずに両手で顔を覆い、声を殺して泣いた。
そんなヒナタの言葉を、扉に身体をもたれさせながら、サクラが聞いていた。
サクラは扉から離れ、火影の部屋に向けて歩きだす。
いつもヒナタは、弱気なところを誰にも見せなかった。
でもきっとヒナタは、毎晩誰もいないところで泣いているのだろう。
「ナルト……絶対に帰ってきなさいよ」
もし、私がもっとしっかりしていたら、ナルトが連れ去られることなんてなかったかもしれない。
そんな後悔に胸が押し潰されそうになるけど、今それを考えても仕方ない。
「あんたが帰ってくるのを、みんな待ってるんだから」
ヒナタだけではない。誰もがそれを望んでいる。
この世界に住む誰もが、ナルトが行方不明になったことにショックを受けているのだ。
だから、早く戻ってきて安心させてほしい。
帰ってこないなんて許さない。
ナルトの世界は、紫の気紛れで大混乱に陥っていた。
ナルト世界の人から見たら、紫さんは大迷惑だよねという話。
特にヒナタさんは書いてて辛かったです。でも、圧倒的なヒロイン力を再確認できたので満足。
サクラの発言には結構気を使いました。
次は幻想郷に舞台を戻します。