うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~ 作:ガジャピン
ナルトは近場の木を足だけで木登りして、頂上から辺りを見渡す。
どうやら自分のいる所は森のようだった。見渡す限り似たような木が立ち並んでいる。
「見たことねェ場所だってばよ」
《ナルトォ、なんでさっきクナイ投げたんだ? ヒナタに渡したクナイや、里にあるマーキングに飛べばよかったじゃねぇか》
「…………あっ」
《おい、まさか忘れてたなんてことは──》
「忘れてましたああああ!!」
実はナルトは日向ヒナタと一年前から付き合っており、告白した時に飛雷神のマーキングが入ったクナイをプレゼントしていた。もし自分の身に何かあっても、ヒナタの所に帰ってこられるように。
だが、無数の目に意識がいってしまい、その事が頭から抜け落ちてしまったのだ。
九喇嘛はため息を吐く。
《おいおい、そんなザマじゃあ今日が何の日かも忘れちまってるんじゃねぇか》
「忘れるわけねェだろ。今日はヒナタと付き合い始めて丁度一年の記念日だ。だからカカシせんせ――じゃねぇ六代目火影の周りにたくさんの影分身を置いて、この日休ませてくれって頼んだんだ」
《世間じゃ脅迫っていうぞ、それ》
九喇嘛の指摘も、今のナルトには聞こえない。ナルトは度重なる任務の疲労と今日の計画が台無しになった事で、肉体的にも精神的にも限界にきていた。
「オレの計画はさぁ、あいつにちょっと修行をつけつつプレゼントは何がいいかそれとなく聞いて、プレゼントを買ってヒナタと夜デートって流れだったのにさぁ、こんなワケわかんねェとこに連れ出されて、帰れるかどうかも分からねェ。何でオレはこういつも上手くいかねェんだ」
頭を抱え自分の世界に閉じこもってしまったナルト。座り込んで、ブツブツと独り言を呟き続ける。
《ええい、鬱陶しい! 大の男が情けねぇ! へこむより先にやるべき事があるだろうが!》
九喇嘛の怒鳴り声に、ナルトは我に帰る。
「……そうだった。もし、オレをここに連れ込んだ奴が、木の葉の里のみんなも同じように連れ込み始めたら──!」
サクラもシカマルもあの気配に気付いていなかった。つまり、今のところナルト以外にあの気配を感知できる忍はいないということになる。
そうだとすれば、気配の主は木の葉の里の住人を殺すも、ナルトのように連れ出すのも簡単だ。
ナルトは両拳を力一杯握りしめる。
(ぜってぇそんなことさせねェ──!)
ナルトは立ち上がり、『多重影分身の術』を使う。
すると、ナルトの周りに五人のナルトが出現した。
「まずは此処が何処なのか調べねェとな。お前ら、頼んだぜ!」
「よっしゃあ、行くぜェ!」
ナルトの分身たちが、それぞれ違う方向に消えていく。
影分身は、術が解かれた時にそれまで分身体が得た情報や経験、感覚などが本体に受け継がれるという特徴を持っている。
ナルトはそれを利用して、短時間で周囲の情報収集をしようと考えたのだ。
「よし! オレもやるかっ!」
もちろん分身に全て任せて、自分は此処でただ待っているような事はしない。
此処が何処なのかを知るための方法は周囲の情報収集だけではないのだ。
ナルトは気合いを入れるため、両手で両頬をばちんと叩いた。
分身たちが戻ってくる頃には、すっかり日も暮れて、辺りは赤く染まっていた。
「う~ん……」
分身たちの情報を得たナルトは、あぐらをかいて腕組みしながら考えこんでいる。
ここは何処か。
可能性としては三通りあった。
可能性一、自分の住んでいる場所からとても遠い場所。
可能性二、この世界がうちはオビトの万華鏡写輪眼、『神威』で送られる時空間のような、術者が創り出した異空間。
可能性三、この世界自体が自分の脳内だけで展開している幻術。
とりあえずこの世界には、自分の知る木の葉の里や、他の里は存在しない。
何故なら、ナルトは『飛雷神の術』のマーキングを各里にしてあり、少なくともナルトの住んでいる大陸の端から端までは、『飛雷神の術』の有効範囲内だからだ。
それだけ広範囲のマーキングを感知する事ができないのは、此処が自分がいた大陸よりも遥かに遠い場所だという何よりの証拠になる。
もしかしたら自分がいた大陸とは別の大陸が存在したのかとも考えたが、その考えは『口寄せの術』が失敗した事により否定された。
『口寄せの術』に対象との距離は関係ない。対象と同じ世界にいれば、必ず術者の元に現れるのだ。
つまり、可能性一は完全に消えた。
可能性三に関しては、そもそも自分には『九喇嘛』がいるため、幻術にかかれば九喇嘛が解いてくれるし、周りにはサクラとシカマルがいた。
もう何時間も経っているのに、未だに幻術を解く事ができないのは、ナルトには考えられなかった。
てなわけで、消去法により可能性二の、ここは異空間という結論に達した。達したのだが、ナルトはすんなり納得ができなかった。
異空間と断ずるには違和感があるのだ。
違和感の正体、それは──。
(『無駄』な物が多すぎる)
異空間は術者が創り出した世界。
ならば、必ず目的がある。
閉じ込めるだけならば、殺風景で無機質な世界が広がっていなければおかしい。それ以外の物を用意する事は、術者の負担に繋がるからだ。
閉じ込める相手のために、わざわざ自分の負担を大きくする術者などいないだろう。
しかし、分身たちの情報によれば、木々の他にも広い湖や、真っ赤な
ナルトはこの世界を創り出した術者の真意が掴めない。
だからこそ、考えてしまったのだ。
まるで元々あった別の世界に放り込まれたみたいだ、と。
ナルトは首を振って、そのバカげた妄想を振り払う。
別の世界なんてあり得ない。
この世界を創った術者が変わっていただけだ。
《これからどうする》
『真っ赤な館に行こうと思う。此処に連れて来た奴がいそうだからな』
行く前に、今自分が所持している忍具を確認する。
場合によっては戦闘もあり得るからだ。
「え~と……クナイ八本、マーキング付きクナイ十本、マーキング札五枚、起爆札三枚、煙玉二個、光玉二個、兵糧丸七個、イチャイチャパラダイス一冊」
《最後のは忍具にいれねぇでいいだろ》
九喇嘛のツッコミを黙殺して、ナルトは地面にマーキング付きクナイを突き刺す。
数時間かけて、ナルトは此処に簡素な木の家を造った。
当てができるまでは、この場所を拠点にして行動するつもりなのだ。
「これで、なんかあっても此処に帰ってこれるなぁ……よし! あの赤い家に行くってばよ、九喇嘛!」
ナルトは赤い家の方向に向かって、次々に木の枝に飛び移りながら移動を開始した。
もうすっかり辺りは暗くなり、月明かりだけが唯一の光源になっている。
ナルトが今頃動きだしたのにも理由があった。
その理由とは、此処に連れて来た術者がコンタクトを取りに来るんじゃないかと思ったからだ。
拠点が連れて来られた場所なのも、術者からのコンタクトを期待しているからである。
しかし、数時間動かなかったにも関わらず、一度も接触して来なかった。
そのため、自分から動こうという結論になり、夜ならば何かあっても逃げやすいだろうと考えて、日が完全に暮れるのを待った。
ナルトのその発想は正しい。
ナルトは攻める側であり、赤い館の主は守る側である。
ナルトは、此処に連れて来た相手と話し合いに行くわけではない。完膚なきまでに叩き潰して、自分を木の葉の里に戻すよう脅迫するために、赤い館に向かうのだ。
夜陰に紛れての奇襲は基本中の基本。基本であるが故に、安定的な結果を期待できる。
だが、ナルトは知らなかった。
赤い館に住まう住民たちにとって、夜こそが本領を発揮するホームだということに。
こうして、ナルトは吸血鬼の住まう館、紅魔館に行く事になった。
◆ ◆ ◆
「──咲夜、これからお客さんがここに来るわ」
月明かり以外の光源がない薄暗い部屋の中、背中に大きな翼が生えている少女が、ティーカップ片手にそう言った。
少女の名はレミリア・スカーレット。この紅魔館の主である。
「分かりました。もてなす準備を始めます」
咲夜と呼ばれたメイド服の少女は、レミリアの言葉を何一つ疑わず、レミリアに一礼して部屋を出ようと歩きだそうとする。
しかし、その行動をレミリアが片手で制した。
「お嬢様、お客様が来るのでは……?」
咲夜はレミリアの方を振り返り、僅かに戸惑いの表情になる。
「ええ。でも、もてなす必要はないわ。その代わり、フランにこう言ってきて欲しいの」
その後に続いたレミリアの言葉に、咲夜は絶句した。
「お嬢様、それはさすがに無理があります! 間違いなく、お客様は良くて生死をさまよう重傷を負うことに──!」
「そんなのどうでもいいから、早く行きなさい! 私を困らせたいの!?」
「……分かりました」
咲夜の姿は一瞬にして、その場から消えた。
一人になった無音の部屋で、レミリアはティーカップに上品に口をつける。流石にお嬢様と呼ばれるだけのことはあり、その姿はさながら貴族──。
ずずーっと紅茶をすする音が部屋に響き渡る。
貴族と肩を並べるくらいの上品さが──。
ガチャッと音を立てて、ティーカップがソーサーに置かれる。
どうやら周りに人がいないと、レミリアは見た目相応の振る舞いになるようだ。
レミリアはふぅと息をはく。
「これで──全てが変わるわ。フランの運命、ここに来る人間の運命、この幻想郷の運命、そしてこの──私の運命も」
レミリアの瞳に、悲しさとも寂しさともとれる感情が浮かんでいる。
ちらりと窓からの明かりが、視界の端によぎった。
レミリアは目を細める。
「今夜は一段と、月が綺麗ね」
◆ ◆ ◆
「え~! それ、お姉様が言ったのぉ!?」
「そうですよ、妹様」
レミリアと同じように、背中に翼がある金髪の少女が目を輝かせて嬉しそうにする。
少女の名はフランドール・スカーレット。レミリア・スカーレットの妹である。
その少女の横には、緑色の帽子を被った女性がいる。
彼女の名は紅美鈴。紅魔館の門番及び庭師を任されている。
彼女はフランとは対照的に、あんぐりと口を大きく開けていた。
今、彼女たちは紅魔館の庭にいる。
フランと美鈴が庭で遊んでいたところに咲夜が来て、レミリアの言葉を伝えたのだ。
「咲夜さん、死にますよ」
美鈴が口元に手を当て、小声で咲夜に話しかける。
「そうね。今までにもたくさんの外来人が来たけど、誰一人として妹様を満足させる事ができなかった。
だから、死ぬ前に私たちが止めるの」
咲夜と美鈴の間に、暫し沈黙の時間が流れる。
「…………マジですか?」
「美鈴、涙を拭きなさい。私たちにしかできないのよ」
滝のように涙している美鈴を、咲夜がたしなめる。
美鈴が涙している理由はただ一つ。
フランが暴走すると、こちらの言葉は一切通じず、文字通り命懸けで取り押さえないといけないからだ。
しかし、はっきり言ってフランの方が遥かに強い。死刑宣告を受けた囚人の気分を、彼女たちは今味わっているのだろう。
涙して嘆いていた美鈴だが、何かに気付いたように頭を上げて、涙を服の袖で拭い、キリッとした目になる。
「どうやら、お嬢様の言う“お客様”が到着されたようですね」
「──そのようね。ここまで殺気が伝わってくる」
二人の視線の先には、紅魔館の門があった。
次回から、本格的にクロスオーバーしていきます。