うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~   作:ガジャピン

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野心~Go berserk monster~

 意外だったのは、レミリアが紅魔館での宴会をすんなりOKしたことだ。

 ナルトが九喇嘛の再封印に成功し、紅魔館から九喇嘛の存在が消えてすぐ、天狗たちは妖怪の山に退いていった。

 九喇嘛が消えた以上、紅魔館を攻めるメリットはないと天狗たちは判断したのだろう。

 その後、萃香がレミリアに許可をもらい、近場に宴会をするという情報を流した。

 紅魔館には今、それなりの人数が集まっている。

 ナルト、霊夢や魔理沙、幽香と射名丸、勇儀と萃香が紅魔館の面々と一緒に、紅魔館の庭に敷かれたブルーシートの上に座っていた。

 幻想郷では、異変を解決すると後腐れないよう、異変を起こした相手も含めた宴会を行うことがお決まりだった。

 魔理沙は自分の両隣を交互に見て息をつく。

 魔理沙の両隣にはナルトと霊夢が座っている。そのどちらもばつが悪そうに、視線を合わそうとしない。

 

(な、何だぜ? この気まずい雰囲気は……)

 

 物凄く空気が重い。自分のいるところだけ、別世界のような錯覚をしてしまう。

 ナルトと霊夢がこうなっている理由は、間違いなく二人がした『弾幕ごっこ』が原因だろう。

 

「霊夢、あのさぁ、オレってばお前に一つ言いてェことがあるんだ」

 

 霊夢はビクリと身体を震わせた。

 幻想郷の外に無理やり出そうとした挙げ句、『弾幕ごっこ』で挑発的なことを散々やった。

 それは九尾のチャクラを取り込み、気分が昂っていたからこその行動ではあるが、確かに自分の意思で行った。

 ナルトが何を言いたいかなど、言われる前から分かっている。

 

「何よ?」

 

「『弾幕ごっこ』をした時のことなんだけどさ──」

 

(ほら、思った通りの言葉がきた。素直に謝るべき? でも、謝って──その後は?

私はこの男とどう接していけばいいの? 正直あまり親しく接するつもりはない。どうせ私のことなんか気にも留めずに、元の世界に帰っていくだろう。今までの外来人と同じように)

 

「勝負だってェのに、手ェ抜いて悪かった!」

 

「……え?」

 

 霊夢はこちらに向かって軽く頭を下げたナルトを唖然とした表情で見た。

 

 ──何故? 何故ナルトが私に謝っている?

 

 『弾幕ごっこ』の勝負に手を抜いていた。それは私も感じていたことだ。だから腹が立って、いつもみたいな『弾幕ごっこ』をしなかったのも事実。

 しかし、手を抜いた理由は私をバカにしていたからではなく、私を怪我させないようにと配慮したからだということも、冷静な頭になった今なら分かる。

 優しさからきた手加減だと分かっている。

 なのに、それを否定する。ということは、優しさなど捨てて全力で闘うべきだったと、そう言いたいのか?

 それは自分自身を否定するのと同義ではないのか?

 霊夢には分からなかった。責められるべきは自分の筈なのに、許しを求められているこの状況が。

 その理解不能さが、霊夢をイラつかせる。

 

「……なんでアンタが謝るのよ……素直に言えばいいじゃない! お前のせいで酷い目にあったって! 危うく別の世界に行かされるところだったって! なのに、なんでアンタが謝るのよ……」

 

 惨めだ。どうしようもなく、惨めだ。

 気を使われている。お前は悪くないと、別に気にしてないんだと、そう言外に言われているような気がするのだ。

 そう思って、素直にナルトの言葉を受け入れられない自分に腹が立つ。

 下唇を痛いくらいに噛み、両拳を強く握る。

 ナルトはそんな私を見て、困ったような笑みを浮かべた。

 

「なんでって……オレが霊夢の立場だったら腹立つなって思ったからだけど」

 

 霊夢は舌打ちをした。

 そういうのが、そういう言葉が私を惨めな気持ちにされるのだと、何故分からない!

 はっきりと相手の口から言われれば、私は素直に謝れる。私のした過ちを、過ちだって認められる。

 

「だから──今度オレと『弾幕ごっこ』をしてくれねェか? 次は本気で霊夢と勝負する」

 

「……は?」

 

「本気で勝負して、今度こそ白黒はっきりつけよう」

 

 熱くなっていた頭が、急速に冷静さを取り戻していく。

 それと同時に身体から力が抜けた。

 笑いが込み上げてくる。私が思っていたよりも、ナルトは器の大きい人間だった。

 それを今まで気付かず、普通の人間ならこう思ってるだろうと勝手に決めつけ、勝手に自分を追い込んでいた道化。

 『弾幕ごっこ』で生まれたわだかまりを、『弾幕ごっこ』で解消する。

 考えてみれば、これ以上ない仲直りの仕方だろう。

 霊夢は勝ち気な笑みを浮かべる。

 

「いいけど……私には絶対勝てないわよ?」

 

「勝つさ! 勝ってみせる!」

 

 ナルトが胸の前でぐっと拳を握りしめ、ニッと笑った。

 この人は人を惹き付ける魅力があると、霊夢は感じた。

 何故なら、ちょっと前のイライラはいつの間にかどこかにいってしまって、霊夢はとても晴れやかな気持ちになっているからだ。

 

「……ふふっ、そういえばまだ言ってなかったわね」

 

「──え?」

 

 霊夢が目の前にあるお酒を手に持ち、ナルトの方に向けた。

 

「幻想郷にようこそ、ナルト! 歓迎するわ……盛大にね!」

 

 霊夢は笑顔でウインクする。

 

 

(あ、オレの名前……)

 

 初めて、霊夢がオレを名前で呼んだ。

 たったそれだけなのに、嬉しさが込み上げる。

 オレを認めてくれた気がする。

 

「はいっ、それじゃあみんなお酒持って~」

 

 萃香が仕切り、全員がお酒を手に持つ。

 

「異変解決を祝して、それから新しい幻想郷の仲間に、かんぱ~い!」

 

「かんぱ~い!」

 

 全員がそれぞれそう口にし、各々のいれものに入ったお酒を飲み干す。

 

(忍にとって、酒はマズいけどなぁ) 

 

 ナルトは空になったコップを手で弄びながら、ため息をつく。

 忍の三禁の中に酒が入っている。

 少しくらいなら問題ないが、身体の動きが鈍るくらい飲むのは、忍としてやってはいけないことだ。

 

「兄ちゃんのいた世界はどういう世界だったんだい? おや、なんだいお酒がないじゃないか」

 

 ナルトの傍に勇儀が来て、ナルトのコップにお酒が、勇儀の手により注がれる。

 

「はっ!? いやいやオレは酒はもう十分だ! なんかジュースとかでいいから!」

 

「何言ってんだい? 今ジュースを注いだろ?」

 

「いや、どう見ても酒──」

 

「いいから! 騙されたと思って飲んでみな!」

 

 ナルトは渋々コップに口をつけ、飲む。

 

(酒じゃねェか)

 

 てか、酒めちゃめちゃつえェ。

 何で周りの奴らはこんなんグイグイ飲めんだ?

 顔が熱くなっていく自覚がある。けど、まだ大丈夫だ。まだ──。

 

「クスッ、そこの鬼のお酒は飲めて、私のお酒が飲めないってことないわよね?」

 

 幽香がナルトの目の前で酒瓶を左右に揺らしながら、悪意のある笑みをしている。

 ナルトは酒が苦手だと気付いたらしい。そこを攻めることに、幽香は快感を覚えているようだ。

 ナルトは顔に冷や汗を浮かべた。

 

「ほらっ、さっさと空けて……」

 

「……ぐっ」

 

 飲む、コップの酒を飲み干す、幽香から酒が注がれる。

 一応オレの歓迎会も兼ねていると、萃香が言っていた。だから断るのは悪いと感じて、飲まざるをえない。

 

(この酒は、ゆっくり飲もう、ゆっくり)

 

「あーっ! ズルいぜお前ら! ナルト、私のお酒も飲んでくれよ!」

 

「へっ!?」

 

「……私のお酒は嫌なのか?」

 

 魔理沙が不安気な表情で、ナルトの目を見つめている。

 

(くっそ……反則だろこれ)

 

 断ったら、とてつもない罪悪感に襲われそうだ。

 仕方なく、コップの酒を一気に飲む。飲み干し、魔理沙から酒が注がれる。

 

(今度こそ……今度こそ……)

 

「魔理沙の酒が飲めて、私の酒が飲めない……なんてこと、ないわよね?」

 

 霊夢の手に酒瓶。

 

「……モチロンデストモ」

 

 

 宴会が始まってから一時間後。

 

「ほい! 多重影分身の術! そんでもって変化の術!」

 

 大量のナルトが一斉に水着を着た金髪の美女になる。

 

「『ハーレムの術』つって、これを見たエビスって先生がさ! おもっきり鼻血出してぶっ倒れちまったんだよ!」

 

 ナルトが笑いながらそう言うと、そこにいた全員が吹き出した。

 

「あっはっはっはっ! そりゃこんだけの美女に囲まれたら鼻血も出るさ!」

 

「そうそう! それにしてもよくできてるね~! 他にもなんか変化できないの?」

 

「できるぜ! 変化!」

 

 萃香の言葉に多重影分身を消し、美女の姿のまま変化の術の印を結ぶ。

 美女の身体が煙に包まれ、煙が晴れると萃香と全く同じ姿をしたものが立っていた。

 

「私かい!? へぇ~、面白いもんだ!」

 

「ナルト、今度私の姿で、旧都の仕事をやってくれないかい?」

 

「こらっ!」

 

「冗談だよ冗談! だからそんな睨むなって」

 

 萃香に睨まれ、勇儀は肩をすくめる。

 

「わ~、お兄さん色々できるんだね~。そう言えば、目の前で消えたことがあったけど、あれは何?」

 

 フランの問いに、魔理沙が箒を手に持ち柄の部分をフランに向けて、その先に貼られたマーキング札を指差す。

 

「あれはだな~、ナルトはこのマーキングが入ったとこに瞬間移動できるんだぜ! 私のマスタースパークを見たら、私のとこに来てくれるって約束してたんだ!」

 

「へぇ~、その札って他にないのかな?」

 

「ほうほう! その話もっと詳しく聞かせてもらえませんか! いい記事書けそうなので!」

 

 魔理沙は後ろを見る。射名丸がメモ帳に何かを書きながら、目を輝かせている。

 

「お前には絶対何も話さない! 札なら、ナルトに言えば貰えると思うぜ!」

 

「そっか~、あれ? お姉さまがいない?」

 

 フランは辺りを見渡し、レミリアがいなくなっていることに気付く。

 

「そういやぁ、霊夢もいないな」

 

 魔理沙も周りを見渡し、霊夢の姿が見えないことに気付いた。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 紅魔館、館内のレミリアの部屋。

 月明かりしか光源がない部屋で、レミリアが椅子に座り、その正面に霊夢が立っている。

 

「こんな誰もいないとこに呼び出して、何の用?」

 

 レミリアが霊夢に尋ねる。

 宴会の最中、霊夢がレミリアに二人きりになれる場所で話したいと言ってきたのだ。

 

「今回の異変についてよ。魔理沙は、アンタがフランをナルトにけしかけたって言ってたわ。それは本当なの?」

 

「ええ、そうね」

 

「なら、私はこう考える。今回の異変の原因はナルトだったけど、元凶はアンタだって。

こうなることが分かっててけしかけたんでしょ? 私の勘がそう言ってるのよ」

 

 霊夢は鋭い眼光を暗い部屋の中で輝かせて、レミリアを見据える。

 

「……フフフ……」

 

 レミリアから笑い声が漏れた。

 

「流石は博麗の巫女。いい勘してるわね」

 

「じゃあ、やっぱり……!」

 

 霊夢は驚きで目を見開いた。

 レミリアは不敵な笑みをしている。

 

「でも、今更あなたが気付こうと、何かをしようと意味ないのよ」

 

「何ですって……?」

 

「タイムオーバーなのよ、博麗霊夢! あなたがどう足掻(あが)こうとも、動きだした運命を止められはしないわ! アハハハハッ!」

 

「レミリア! アンタ何をしようとしてるの!? 言いなさい!」

 

 霊夢はレミリアの胸ぐらを掴み、物凄い剣幕でレミリアの顔を睨む。

 レミリアは悪戯っぽい笑みで、ペロッと舌を出した。

 

「な~んてね、全部ウソよ。どう? 今の演技。黒幕っぽかった?」 

 

「……っ!」

 

 音が部屋中に響いた。霊夢がレミリアの頬を思いっきり平手打ちした音だ。

 

「私はアンタを本当に心配して、話そうと思ったのに」

 

 霊夢はレミリアが自分の想像していた以上の事態になって、内心落ち込んでいるのではないかと思った。

 だから、異変を起こしたことを認めたら、許してあげようと思っていた。

 しかし、その気持ちはレミリア自身により打ち砕かれた。

 霊夢は怒りに身を任せて、レミリアの部屋を出ていく。

 レミリア一人になった部屋。

 レミリアは平手打ちされた頬を軽くさする。

 

「ゴメンね霊夢。全部ウソっていうのがウソなのよ」

 

 もう賽は投げられてしまった。退路は断ってしまったのだ。なら私にできることは、私に課した役割を果たすだけ。

 レミリアは寂しそうに、霊夢が去っていった扉の方に視線をやった。

 

「あなたは……巻き込めない。あなたのこと、結構気に入ってるのよ、私」

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 霊夢が紅魔館の庭に戻ってきた。

 霊夢が見たものは、だらしない顔をしてビニールシートで寝ているナルトの姿。それを中心に、魔理沙や勇儀や萃香、咲夜、パチュリー、フラン、美鈴がピースしている。

 射名丸がカメラを構えているのを見ると、写真を撮るようだ。

 

「初潰れ記念らしいわよ」

 

 いつの間にか来ていた紫が、霊夢にそう言った。

 なんでもナルトは、今まで酔い潰れたことがないと言っていたようで、それを聞いた周りの連中が面白がって酒を飲まして、案の定ノックアウトしたと、そういう流れらしい。

 

「アホくさ……てか紫、髪戻ったのね」

 

「そうなのよ~、必死にブラッシングして、ようやく元の髪に戻すことができたの! もうアフロ紫なんて呼ばせないから!」

 

 紫はぐっとガッツポーズした。

 どうやら写真を撮り終わったようで、射名丸が霊夢の方にやってきた。

 

「あ、そうだ。今の写真、一枚くれない?」

 

 紫が射名丸に言う。

 

「いいですけど……一体何に使うんです?」

 

「ちょっとメッセージを添えて、彼の世界の人に届けてあげようと思って。この写真を見たら、彼の世界の人は少なくとも危険はないって思うでしょう」

 

「危険はないって思うかもしれないけど、恋人とかいたらどうするのよ? あの光景はちょっとヤバい気するんだけど……ナルトが元の世界に帰ったら大喧嘩するんじゃない?」 

 

「だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶ! ここは私を信じて!」

 

 こうして、紅魔館での宴会は終わった。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 紅魔館で宴会が行われていた同時刻、天魔は天魔の家で両腕に九尾のチャクラを集中させる。

 すると白い煙のようなものが傷口からたちのぼり、傷口がどんどん塞がっていった。

 

「そういえば、そろそろか」

 

 天魔は天魔の家を出て、天狗の住み処を歩く。

 暫く歩くと、ある天狗の家に着いた。

 天魔は家の扉をノックする。 

 

「はい? これは天魔様!? ささっ、どうぞ中に……」

 

 扉を開けた天狗が天魔に一礼して、手を家の中に向けた。

 天魔は無言で中に入り、扉が完全に閉められた後、眼前の天狗を見据える。

 

「二年前から今日まで、あの場所に行かせた天狗はいるか?」

 

「いいえ、いいえ! 今から天魔様が行かれるところには、私以外誰も行かせておりません!」

 

「そうか」

 

 天魔は天狗の案内を待たずに家の廊下を歩き、左手にある扉を開け、中に入る。

 そこは書庫のようで、多数の本が置かれていた。

 何とか足の踏み場があるような状態の部屋で、天魔はおもむろに本が散乱している床の一部分の本をどかし、床を持ち上げる。

 すると、木で造られた床の一枚の木の板が外れ、隠し階段が現れた。

 天魔はその階段を下り、洞窟のようになっている地下を歩き続ける。

 少し歩くと扉があった。その扉を天魔は開け、中に入る。

 その扉の先は上と同じく様々な本が大量に置いてあった。

 漫画や小説、学術書にビジネス書等がところ狭しと積みあがっている。

 だが、上と違う点が一つあった。

 

「おお~、よく来たなぁ大天狗」

 

 黒い翼の生えた女性。白い衣を羽織り、長くてまっすぐな黒髪を床につけて、寝転がりながら本を読んでいる。

 女の天狗がこの部屋で暮らしているのだ。

 しかし、今天魔を彼女は大天狗と言った。ここに大天狗がいたら激怒しているだろう。

 天魔は気分を害した様子はなく、むしろその場で(ひざまず)く。

 

「お久しぶりです、天魔様」

 

「うむ、それにしてももう二年経ったのか。時の流れは速いのう。どうだ? 幻想郷は変わりないか?」

 

「はい、天魔様がおられた頃と、寸分も違わず」

 

 女の天魔は起き上がって床に胡座をかく。

 

「大天狗よ、わらわの気紛れに付き合わせて悪いのう」

 

 女の天魔は、天狗たちを驚かそうと大天狗と一部の天狗たちに協力してもらい、三十年前からこの場所で暮らしていた。

 “外で暮らす”と書いた書き置きも、大天狗に天魔を任せると書いたのも、全てはこの女天魔が企てたことだ。

 数ヶ月姿を眩ましたことはあれど、さすがにこれだけ長い期間姿を眩ましたことはない。

 きっと姿を現したら、天狗たちは大層驚くだろう。その顔を想像するだけで、愉快な気分になる。

 

「それにしても大天狗……お主、変わった力を感じるぞ。幻想郷で、本当は何か起きているのではないか?」

 

 女天魔は、跪く天魔を探るような目で見る。

 天魔は女天魔の視線を真っ向から受け止め、首を横に振った。

 

「天魔様が気になさるようなことは何も──」

 

「……ウソだな。わらわを見くびるでない。この場所にも飽きたし、もう十分な時間が過ぎた。わらわはそろそろ外に出る」

 

 女天魔は立ち上がり、部屋から出ていこうと歩きだす。

 

「それはなりません」

 

 その行く先を、天魔が立って遮る。

 

「……何?」

 

「今、あなたに戻られては私が困るのですよ」

 

 天魔の圧力を伴った瞳に、女天魔は数歩後ずさる。

 敵意だ。明らかな敵意が、女天魔に向けられている。

 ここで女天魔は気付く。気付いてしまった。そして、自分はあまりにも浅はかで迂闊なことをやってしまったと悟る。

 

「貴様……天魔(わらわ)に成り代わるつもりか!?」

 

 女天魔から、莫大な妖力が迸る。

 右手を眼前の天魔に向け、妖力を掌に集中。

 

「縛ッ!」

 

 天魔が創った、九尾のチャクラを混ぜ合わせた妖力の縄が女天魔を拘束する。

 自由を奪われた女天魔はそのまま床に倒れた。

 

「バカな……貴様がわらわの力を上回る筈が……」

 

「あなたはそこで大人しくしていて下さい。私が天狗を指揮し、幻想郷にいる全ての妖怪たちを支配してみせます」

 

「愚かな……妖怪同士で殺し合う時代は終わったのだ! 何故それに気付かん! そんな未来に先はない!」

 

 天魔は動けず床に這いつくばる女天魔を見る。

 その目は確かな野望に燃えていた。

 

「あなたはそこで見届けるがいい。天狗が頂点に立ち、天魔であるこの俺が、幻想郷を支配するところを」

 

 天魔は振り返り、扉に手をかける。

 この扉は防音性が高く、閉めてしまえばこの部屋でどれだけ騒ごうとも音が外に漏れることはない。

 

「さようなら……元天魔」

 

「待っ──」

 

 天魔は扉を閉め、歩きだす。扉の方は一切振り向かない。

 上に出て、床と本を元通りにする。

 書庫を出て、この家に住む天狗の元に行く。

 

「これは天魔様、どうでした?」

 

「外に出ようとしたから、身動きとれなくした」

 

 天狗はそれを聞いても動じない。むしろ少し喜んでいるようにも見える。

 

「これからは、正真正銘の天魔様ですね!」

 

 この天狗は天魔の真実を知っていて、この天魔に心酔している天狗であった。

 天魔は天狗の胸ぐらを掴み、引き寄せた。

 

「貴様に言っておく。これまで通り、あの方にはしっかり食事を摂らせろ。

もし、あの方を殺したり、何か粗相をしたら、貴様を殺すからな」

 

 天狗は無言で何度も頷いた。

 それを見て、突き飛ばすように天狗を離し、天狗の家から出ていく。

 

 ──必ず、必ず俺が幻想郷を手に入れる。

 

 その野望を胸に秘め、天魔は天魔の家へと帰っていった。




この話で第1章最終話です。これまでの章は起承転結の内の起の部分ですね。ナルトの封印がおかしくなった出来事はプロローグに過ぎません。次から本編開始です。
次の章で承、転の部分を書き、その次の章で結の部分を書いて完結という流れを予定してます。

では、少しだけ次章の予告を……。



「少し幻想郷を見て回りてェと思うんだ」

ナルトのそんな一言から、物語は幻想郷全土へと広がっていく。
そのナルトの旅に、何故か付いていこうとするフランと魔理沙。
金髪3人が織り成す幻想郷での様々なストーリー。
旅の中で、幻想郷に住む者たちはある事を知る。

「まだだ、まだ力が足りぬ……」 

だが、その裏で密かに暗躍する影があった。
女天魔を拘束し、天魔に成り代わった天狗は、ある恐るべき方法で、九尾のチャクラを集めていく。

そして、天魔の準備が終了した時、レミリアが望んでいた運命が、ついにナルトたちの前にその形を見せる。

「ついに……この日が来たわ。
私が望んだ運命が、姿を現す日が――」

レミリアがずっと心にしまいこみ、抱えこんでいた真実。
それを知った時、ナルトはある決断をする。


次章「望んだ運命~Monster of darkness~」


この予告は作者のモチベーション上げのために書いてます。

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