うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~   作:ガジャピン

15 / 25
防衛~Dance in the red of the world~

 紅魔館の庭に、九つの尾をもつ狐が姿を現した。その体躯は山のように大きく、紅魔館の広い庭をもってしてギリギリおさまった程である。

 九喇嘛は体勢を低くして(うずくま)る。そうしてなるべく身体を縮こめ、ナルトやパチュリーの邪魔にならないようにした。

 初めて直に九尾を目にした幻想郷の面々は、あまりの常識はずれの大きさに目を見開いて絶句していた。

 

「これが──ナルトに封印されてたモノ」 

 

 地面に両手をついて魔力で結界を維持しているパチュリーがそう呟く。

 

「すごく……大きいです」

 

 冷や汗を浮かべながら、そう口にする美鈴。

 

「なんかすっごいピリピリする」

 

 フランは肌に直接刺さってくるような九尾のチャクラの奔流に、不快感を顕にする。肌を突き破って身体の内に無造作に入ってくる錯覚さえ、フランは覚えた。

 紅魔館の結界内を九尾のチャクラが暴れまわり、結界内部は紅い霧が出ているように真っ赤に染まっている。外の夕暮れと合わせて、まるで紅霧異変の再来だった。世界の全てが紅く染まっているような錯覚をしてしまう。

 

「早く封印を始めろ! お前にはもう時間がねェんだ!」

 

「わかっ……てんよ、九喇嘛ぁ!」

 

 ナルトはそう叫ぶも、苦しそうに息を切らし、顔には疲労感が充満していた。

 

(何だよ、これ? 身体が重い……身体中に鉛を付けられたみてぇだ)

 

 本体だけではない。影分身も本体と同様に苦しそうだった。都合よく本体だけが弱るわけではなく、影分身にも尾獣を抜かれた影響が表れている。その証拠に、影分身の八卦封印もいつの間にか消えていた。

 九喇嘛は舌打ちをする。

 

(クソッたれが……これは想定外だぜ)

 

 影分身のナルトはクナイで指を切って、血で本体の腹部にゆっくりとした速度で、八卦封印の術式を描いていく。

 始まった八卦封印の再封印。想定外の事態が結界内部で起こっているのを、外にいる魔理沙たちは知らない。

 

 

「お~、あれが九尾か。おっかないぜ」

 

 魔理沙は箒で空を飛び、紅魔館の上から結界越しに九尾を見た。

 確かにあんな巨大な存在の力ならば、弱小妖怪が恐れるのも無理はない。

 あの力を取り込んだ妖怪たちが強くなるのも分かる。

 

「魔理沙、後ろではなく、前を見据えなさい。このまま終わるなんてあり得ないから」

 

 レミリアも魔理沙同様に空に浮かび、緊張した面持ちで魔理沙の横に並ぶ。

 

「実を言うと、私はお前を疑ってたんだぜ。お前がわざとナルトの封印を壊して、幻想郷を混乱させようとしてるんじゃないかって」

 

 レミリアは未来を知る力を持っている。だから、最初からこうなることが分かっていたうえで、フランをけしかけたんじゃないかと、魔理沙はずっと思っていた。

 

「けど、お前はこうしてナルトの力になってくれてる。

これがお前の狙ったことなら、手伝ってくれるわけないもんな。だから疑って悪かった。それと、頑張ろうな」

 

 レミリアは驚いた様子で、魔理沙の顔を凝視した。

 

「魔理沙、あなたは無理しない方がいい」

 

 レミリアは顔を正面に戻し、その手にスペルカードが握られる。

 魔理沙がそのレミリアの動きに目を見開き、魔理沙もレミリアを倣って、スペルカードを取り出す。

 

「あなたはどうなるか分からないから」

 

「え? レミリア、今なんか言ったか?」

 

 レミリアが小さく呟いた声に、魔理沙が反応した。

 

「いいえ、なんでもない」

 

 レミリアはそう言うと、超スピードで前進。一気に魔理沙を置き去りにした。

 レミリアは正面を見据える。米粒ほどの大きさのものが空を埋めつくし、近付くにつれ大きくなっていく。

 それは天狗の軍勢であった。

 

「紅魔館にようこそ! これは挨拶代わりよ!

神罰『幼きデーモンロード』!」

 

 レミリアから球体型の光弾が大量に打ち出され、更に大量の光弾のいくつかが途中でレーザーに変化し、光弾と合わせて不規則な弾幕となり、天狗たちの前に展開される。

 天狗たちは全員散開し、周囲を埋め尽くす光弾やレーザーをそれぞれ高速でかわして、レミリアの弾幕を抜けた。

 

「さすがに天狗か、速い!」

 

 レミリアの元に、多数の天狗が殺到する。

 

「どけェ吸血鬼! お前に用はねェ!」

 

「紅符『スカーレットマイスタ』!」

 

 レミリアに天狗たちの爪が触れる直前、レミリアから全方向に大小入り交じった球体の光弾が、大量にばらまかれた。

 至近距離にいた天狗たちは、流石に避けられず被弾。地面へと次々に墜ちていく。

 

「甘いのよ、誘い込まれたことにも気付かないなんて」

 

 それでも墜とせたのは数羽。距離があった天狗たちは回避に成功した。

 レミリアは不意に身体を捻らせる。レミリアの身体があった一瞬前の場所を槍が突いた。

 レミリアは身体を捻った力を殺さず、そのまま回転して槍を突いてきた大天狗の横腹を蹴り飛ばす。

 大天狗は空中を滑るように数メートル後退した。

 

「紅魔館に何の用? 天狗から嫌われるようなことをした覚えはないわよ」

 

「貴様に用などないッ! 用があるのは──アレよ!」

 

 大天狗は首を紅魔館の方に向けた。正確には、その中にいる九つの尾をした獣の方に。

 

「あれは外来人のものよ。私たちが手を出すべきではない」

 

「ハッ、何を勘違いしている。我々は外来人を保護しにきたのだ。

他の妖怪たちから襲われないようにするためにな!」

 

 レミリアは怪訝そうに大天狗を見る。

 同族以外は排他的な天狗が、よそ者でかつ人間を保護など不自然極まりない。

 明らかに嘘をついている。

 

「残念だわ。私は天狗(あなたたち)に少なからず敬意を払っていたのよ……同じ妖怪として。

それが今や、楽に力を手に入れられる道に逃げ、人さらいなんて下らないことをしようとしてる。本当に残念よ」

 

 レミリアは哀れみにも近い表情で、本当に悲しそうに言った。

 天狗は本来このようなことをする妖怪ではない。自尊心は高いがそれ故に、ある一定の矜持を持っている誇り高い種族だ。

 その誇りを捨てても構わないと思ってしまえる魅力的な九尾のチャクラが、彼らを狂わせている。

 

「クックックッ……オレもずっとお前たちに言いたいことがあった。

なんでスペルカード(そんなもの)を使っている? 己の力を制限して、わざわざ弱い力に変えて。

人間の口車にのせられた愚か者め! 牙を抜かれた吸血鬼が、天狗(我ら)に勝てる筈がなかろう!」

 

 妖怪の本質は力! 力こそ妖怪の価値そのもの! その価値を下げるスペルカードなど、妖怪には不要!

 レミリアの周囲を、数羽の天狗たちが少し距離をとって囲む。

 

「フンッ、暫くそいつらと『弾幕ごっこ』とやらで遊んでいろ。オレはその間にアレを頂く」

 

 大天狗はそう言い残し、多数の天狗たちと紅魔館の方へと向かった。

 吸血鬼といえど、日光のある中であの数を同時に相手どるのは骨が折れるだろう。これでかなりの時間が稼げる。

 そう考えた瞬間、大天狗の後方で大きな爆発音と、赤い光が明滅する。

 そして、大天狗の前に小さな影が躍り出た。

 

「……バカな……我ら天狗が一瞬で──」

 

 驚愕の表情を浮かべる大天狗を、涼しい顔でレミリアが見据える。

 

「スペルカードは妖怪の力を制限するだけではない。私にとって、スペルカードは私の牙そのもの。

貴様らは天狗としての矜持だけでなく、妖怪としての矜持も無くしたようね。誇りのない今の貴様らなど、束になっても私には遠く及ばない!

私はレミリア・スカーレット! 人呼んで『スカーレットデビル(紅い悪魔)』!

こんなに世界も紅いから、本気で殺すわよ」

 

「……これだけの天狗を相手に、本当にどうにかできると思っているのか?

自惚れるな! 日の光もある中で、大言壮語も甚だしい!」

 

 吸血鬼にとって日光は弱点であり、日光を浴びると弱体化してしまうのだ。

 レミリアも例外ではなく、今の彼女の実力は普段の実力から程遠い。

 

「大言壮語かどうか、試してみたら?」

 

 天狗たちが紅い空を駆け、レミリアがまた新たにスペルカードを取り出す。

 空では爆発の光輪が次々に生まれ、爆風が幻想郷を揺るがした。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆     

 

 

 

 紅魔館を襲撃してきたのは、天狗だけではなかった。

 魔法の森の方角から、多数の下等妖怪が群れをなして紅魔館に迫ってきていたのだ。

 

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 

 大量の星形の光弾が、下等妖怪の群れに撃ちだされる。それらは全て下等妖怪たちに当たり、大爆発を起こした。爆音で地が震え、爆煙が立ち昇って妖怪たちの姿を隠す。

 

「やったか!?」

 

 魔理沙が爆風で帽子が飛びそうになるのを左手で押さえて、期待した瞳で爆煙を注視する。しかし残念ながら、その期待は裏切られた。

 爆煙の幕を突き破り、先ほどと変わらない姿をした下等妖怪たちが、魔理沙の方に襲いかかってきた。

 魔理沙はすかさずミニ八卦炉を手に持つ。

 

「恋符『マスタースパーク』!」

 

 極太の青い光が正面の妖怪たちを呑み込み、遥か後方へと吹き飛ばす。

 だが正面以外のところにいた妖怪たちに、『マスタースパーク』は意味がなく、魔理沙の正面を除いた全ての方向から、妖怪たちの爪と牙が殺到する。

 魔理沙は箒を持ち上げ、真上に高速で急上昇。妖怪たちの包囲を抜けた。空を飛べる妖怪がいないようで、妖怪たちは地上から魔理沙を見上げて歯ぎしりしている。

 

「奇術『エターナルミーク』!」

 

 魔理沙に気を取られていた妖怪たちに、大量の青色の丸い光弾が高速かつ連続で撃ち込まれ、妖怪たちは後ろに下がり続ける。その弾幕はまるでマシンガン。

 

「私もいるってことをお忘れなく」

 

 この弾幕は、十六夜咲夜のスペルカードによるものだった。

 咲夜は本来ならば、レミリアの援護に向かいたい。しかし、レミリアが相手にしているのは多数の天狗。天狗相手に人の身である咲夜の攻撃では火力不足であるのを自覚していた。下手すれば、援護にいったつもりが逆に足を引っ張る事態に……なんてことにもなりかねない。

 故に彼女はレミリアを信じ、自分は魔理沙とともに門の守りに専念することを決めた。

 

「サンキュー、咲夜!」

 

 魔理沙は咲夜に礼を言い、後ろに下がった妖怪たちを見る。

 妖怪たちには、所々に弾幕でできた傷があった。しかし奴らは、気にせず再び前進。

 九尾の力を手に入れる前はこうじゃなかった。

 咲夜のスペルカード、『エターナルミーク』の前に放った魔理沙の『スターダストレヴァリエ』で、奴らは確実に戦闘不能になっていた。それくらい、奴らは弱い存在だった。

 だが今は?

 『スターダストレヴァリエ』で戦闘不能になるどころか、咲夜の『エターナルミーク』をくらってなお、前に進む力があるではないか!

 九尾の力が奴らに力を与えているのは、間違いない事実。

 人間の彼女たちは、既にパワーランクで下位の位置づけになってしまっており、生半可な攻撃では妖怪たちを戦闘不能に追いやれない。

 つまり一向に妖怪を減らせず、ひたすら後方に吹き飛ばす長期戦になるのは必然。封印が完了するまでの我慢比べを、魔理沙と咲夜は強要される。

 

(ナルトから貰った兵糧丸はあと六つ……)

 

 どうする? 今ここで一つ使うか?

 魔理沙は遠くにいる妖怪から視線を外さず、逡巡する。

 仮に今魔理沙が兵糧丸を使えば、一時的とはいえ、一撃で妖怪たちを戦闘不能にする力が手に入る。

 だが何が起こるか分からない状況で所詮、奴らは雑魚妖怪。考えられる状況の中で、一番楽な相手。

 そんな相手をパワーアップアイテムに頼って倒すようなザマでは、その更に上の存在に易々と門まで突破されてしまう。

 長い目で見れば、この場は兵糧丸を使わずに乗り切るのが理想。兵糧丸は、本当にヤバい相手の切り札にとっておくべきだ。

 

「──って考える時間はないか!」

 

 妖怪たちは魔理沙のすぐ下まで来ていて、今咲夜が再び『エターナルミーク』で後方に押さえ込もうとしている。

 しかし奴らも学習したのか、まとまって進むのではなく、バラバラになって進み始めた。これでは一部は押さえられても、全てを押さえることはできない。

 魔理沙は箒を加速させて急降下。咲夜の隣に移動し、箒から降りた。

 魔理沙の両手に、ミニ八卦炉が一つずつ握られる。

 

「恋心『ダブルスパーク』!」

 

 二つの極太の青いレーザーが妖怪たちを呑み込み、咲夜が押さえられていなかった妖怪たちを吹き飛ばした。それでも全ての妖怪は押さえられず、咲夜と魔理沙に襲いかかってくる。

 

「クソッ、これじゃじり貧だぜ!」

 

 魔理沙と咲夜は周囲の妖怪の攻撃を掻い潜りながら、攻撃してきた妖怪をカウンターでそれぞれ蹴散らしていく。

 だが、妖怪たちの攻撃は止まらない。彼女らが今の妖怪に対応している間に、吹き飛ばした妖怪が彼女らに追い付いてくるからだ。

 魔理沙は必死に周囲の妖怪と闘っている最中、視界の端で紅白の巫女服を着た少女が、空を飛んでこっちに向かって来ているのを捉えた。

 

「このタイミングで霊夢か!? くそッ、最悪だぜ」

 

 霊夢はナルトを幻想郷の外に出したがってる。

 雑魚妖怪がまだまだ多数いる中では、霊夢の方に戦力を()けず、霊夢がノーマークになってしまう。

 結界内には美鈴とフランがいるが、霊夢ならどうにかできてしまえそうだ。

 

「どうする咲夜!?」

 

「どうするって言われても、正直どうにもできないんですが……」

 

 時間を止めて、霊夢の前に立ち塞がるのならできるだろう。だがそれだけだ。どれだけスペルカードを使おうが、以前見切られている技が今通じるかと聞かれれば、答えはノー。むしろ前より早く攻略されるだろう。

 それに、その場合は雑魚妖怪の群れの方が疎かになり、雑魚妖怪の群れも門まで到達できてしまう可能性がある。

 今彼女たちにできるのは、美鈴とフランが霊夢を止めてくれるのを信じて、雑魚妖怪の群れを食い止める。それしかない。

 

「霊符『夢想封印』!」

 

 魔理沙と咲夜の頭上から、色とりどりの光弾が大量に降り注ぐ。

 その光景はとても幻想的だった。夕日と紅い空という最高の背景に、神の光を地上に与えている女神のような姿。のほほんとずっと鑑賞していたくなる、そんな魅力的な光景だ。

 しかし魔理沙と咲夜の視点でこの光景を見た場合は、印象が異なる。彼女たちからすれば、悪魔が彼女たちを地獄に突き落とそうとする光景に見えている。

 どんどんと自分たちに近付いてくる多数の光。それらに呑み込まれる未来を想像して、彼女たちは身体を硬直させた。

 そしてそれらの光は魔理沙と咲夜の脇を通りすぎ、雑魚妖怪たちを正確に捉えて爆発する。

 魔理沙と咲夜の周囲にいた妖怪たちは全て戦闘不能になり、地面に転がった。

 魔理沙と咲夜があんぐりと口を開け絶句。そんな二人のすぐ前に霊夢は着地。

 

「手こずってるようね、手を貸すわ」

 

 この瞬間、ナルトたちは強力な味方を手に入れた。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆     

 

 

 

 霊夢の加入により、一気に戦況が好転した魔理沙たち。

 その遥か後方から、紅魔館を眺めている者がいた。

 

「上が随分騒がしいと思って来てみたら、なかなか面白いことをしてるじゃないかい」

 

 その人物は、左手に持っている盃に注がれていた酒を一口飲んだ。

 

「私も参加させてもらおうかな」

 

 その人物は楽しげな微笑を浮かべて、悠然と紅魔館に向けて歩を進め始める。まるでパーティーにでも行くように。




霊夢「決まった……」

魔理沙「いや、その一言で台無しだぞ」


八卦封印を解除したら、影分身も影響を受けるというのは私のオリジナル設定です。本体が封印解けてるのに、影分身は封印があるっていうのが私には想像できなくて。
そして最後にチラッと現れた人物……一体誰なんだー(棒)

 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。