うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~   作:ガジャピン

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オリジナルキャラをタグに追加しました。
理由は後書きで書きます。


開始~Malicious wake up~

 フランは今、ナルトに与えられた薄暗い部屋にあったテーブルの椅子に、少し暗い表情で座っている。ナルトの部屋は窓が一つだけで明かりがなく、部屋の明るさは完全に日の光頼りになっているのだ。

 ナルトは部屋にあったコップに水差しの水を入れて、コップをフランの正面に置いた。

 フランが目をぱちくりさせて最初にコップを見、次にナルトの顔を覗き込むように見た。ナルトはフランの一連の動きに苦笑する。

 

「そんな驚かなくてもいいだろ。お前はオレからすりゃ客なんだから」

 

 フランはナルトから視線を外し、僅かに顔をうつむけた。

 

「どうして? 私のせいで大変なことになっちゃったんでしょ?

美鈴に聞いたよ、能力を使った最後の攻撃でお兄さんの封印を壊しそうになったって。なのに、どうして優しくしてくれるの?」

 

 フランの声は震えていた。

 ナルトはフランに対しての怒りなど微塵もない。わざとじゃないことくらい、攻撃をくらったナルト自身が一番分かっている。

 その感覚は、フランの声を聞いて確信に変わった。

 フランは悔いている、あの日の最後の攻撃を。だからこうしてナルトの部屋に訪れ、謝るタイミングを窺っている。

 

「お前を見りゃ分かる。あの攻撃が狙ってやったことじゃねぇくれェ。それに、優しくすんのに理由なんていらねェだろ」

 

「優しくするのに、理由はいらない」

 

 フランはナルトの言葉を小さな声で反復すると、微笑した。

 

「お兄さんって不思議な人ね。さっきまでの憂鬱な気持ちがどっかいっちゃった。

あ、まだ自己紹介してなかったね。私の名前はフランドール・スカーレット。この紅魔館の主、レミリア・スカーレットの妹で吸血鬼だよ。

フランって呼んでくれればいいから」

 

「オレはうずまきナルトだ。

暗い気分が消えたんなら、良かった。ほら、お菓子もあるから食べてけよ。元々お前ん家のモンだけどな、ははっ!」

 

 ナルトが笑いながら、テーブルの上にお菓子が沢山のった皿を置いた。

 フランは目を丸くして、山盛りにされたお菓子を眺める。数秒間じっとそのまま動かずにお菓子を凝視。

 その後、盛大に吹き出した。

 

「……ぷっ……くくっ……あははははッ! あー、おかしー! 私を子供扱いするなんて、やっぱりお兄さんは変わってるよ!」

 

 フランドール・スカーレットは吸血鬼である。

 人間を襲い、人間の血液を(すす)る、人間にとって忌避するのが当然の化け物。

 吸血鬼のもつ力は岩をも砕き、速さは人間の里を瞬く間に駆け抜ける。身体も指折りの頑丈さであり、仮に身体を損傷させることができたとしても、蝙蝠一匹分さえ残れば、即再生させられる。魔法力も桁外れで、一声掛ければ大量の悪魔たちを召喚し、思うままに操る事ができる。

 そんな存在を優しくする人間なんて、変わっていると言う以外、どう表現すればいい。

 悪魔の妹と呼ばれ、幻想郷中から恐れられている彼女からすれば、ナルトの接し方は新鮮であり、同時に幸福だった。また一人、自分の力を知りながらも、自分と接してくれる相手を見つけたのだから。 

 これまでも多くの外来人がフランに出会ってきた。そして、『弾幕ごっこ』をする前の彼らはフランを見た目通りに扱い、『弾幕ごっこ』をした後は怯えた表情でよそよそしく、身体を恐怖で震わせながら接するようになった。

 まだ接してくれるなら良い方だ。大抵はすぐに紅魔館から去ってゆく。

 去ってゆく背中に一抹の寂しさを感じながらも、フランは仕方ないとその度に自分に言い聞かせてきた。

 自分を恐れるのは人間の本能であり、どうしようもないこと。もっといえば、吸血鬼にとって人間は食糧であり、対等ではない。友達のような関係になること自体が異常であり、それが実現したなら奇跡と呼んでいい程の出来事だろう。

 フランは山盛りのお菓子の一番上にあった、包み紙の左右を捻って包まれた棒状の飴を左手で1つ取り、椅子から立ち上がった。

 

「お兄さんのジャマしちゃってごめんね。私、もう行くから」

 

「そうか……またいつでも来いよ!」

 

 扉に向かったフランの背に、ナルトから明るい声が掛けられた。

 フランは扉に手をかけ、肩越しにナルトの方を緩ませた顔で見て、飴を持った左手を見せつけるように顔の近くまで上げる。

 

「飴、ありがとう。また来るね」

 

 ──酷い目にあわせたのに、友好的に私と接してくれてありがとう。おかげで、重かった身体が軽くなったよ。

 

 心の中で、フランは二つ目のお礼を言う。口に出して言うのは少し照れくさかったし、封印を壊しかけたことをなるべく触れないようにしてくれてるナルトの気持ちを台無しにするみたいで嫌だったから、言えなかった。

 フランは扉の外に出て、レミリアの部屋へと足を向けた。

 

「お兄さんの力に、私もなるよ」

 

 紅魔館の廊下を歩くフランの顔は、決意に満ちた表情をしていた。

 

 

 

 

《ええい、遅いわッ! もっと速く描けんのか!?》

 

「無茶言うなよ! まだやり始めたばっかなんだからさぁ!」

 

 フランが部屋を去った後、ナルトは部屋にあった紙と筆ペンを使い、八卦封印の術式をせっせと描いていた。

 封印を解いた後は、再び腹部に八卦封印の術式を描かねばならず、ナルトはよりスピーディーかつ正確に術式を描く練習をしているのだ。

 最初にお手本として、ナルトの身体を借りた九喇嘛が八卦封印の術式を描き、ナルトはそれを見てひたすら模写していく。

 しかし、当然のことながらやり始めてすぐに成果が上げられるわけもなく、一枚描く度に九喇嘛からお叱りの言葉を頂戴している。

 ナルトの周りには既に十数枚の術式が描かれた紙が放置されており、部屋にある白紙も少なくなっている。

 レミリアのところに行って白紙を貰ってこなくちゃなぁと考えながら描いていたら、崩れまくった術式になってしまった。

 九喇嘛は額に青筋を浮かばせて、ふっと笑う。対するナルトは身体中から冷や汗。

 

「あのー……九喇嘛さん、ゴメンナサイ」

 

《やる気が感じられねぇなァ、ナルトォ。そんなザマで封印しようなんざワシをナメてんだろ!? いっとくが、そんじょそこらの術式じゃ封印される気になんねェからな!》

 

「いや、そこは封印されてくれよ! 封印の最中にダメ出しとか勘弁だからな!?」

 

《だからそうならねぇように、こうして練習してんだろうがっ!

一枚一枚魂入れて描けや、このたわけ!》

 

「くっそ~、見てろよ九喇嘛! 思わず動きが止まるような、渾身の術式をぜってェ描いてやっからな!」

 

 ナルトのバックで炎がゴオゴオと燃えながら、猛スピードで次々と術式を描いていく。

 こういう時、ナルトの負けず嫌いな性格は良い方向へと向かう。無論九喇嘛はそれを分かってるからこそ、ナルトに厳しくあたるのだ。

 

(扱いやすい奴)

 

 九喇嘛は微かに笑った。先ほどのような怒りを滲ませた笑みではなく、少しだけ優しく。

 封印に向けての準備は着実に進んでいた。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆     

 

 

 

 妖怪の山の内部には大きな空洞があり、天狗たちはそこを住み処にしていた。

 山の内部ということで薄暗いイメージを抱くのが普通だが、どこからか日の光が届いているらしく、外と変わらない明るさになっている。

 そこは、天狗たちが住んでいると思われる木製の家がずらりと並んでいるだけでなく、工場のような建物も存在しており、幻想郷に住む人間がここに来たら、まるで未来にいるかのような錯覚を起こすだろう。

 それらの建物の中で、一際大きな家。その家は妖怪の山を治めている天魔の家であり、今現在多数の天狗たちがその家に集まっていた。

 

「この力──この力があれば、このような山の長で終わらず、この幻想郷全てを手中にすることができよう」

 

 己の両手を見つめ、周りの天狗たちが注目している中、天魔は静かに呟いた。

 周りからゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。

 天魔の容姿は短い銀髪をオールバックにして、爛々とした銀の瞳。背中に大きな黒い翼があり、黒い着物を着ている。

 隆々とした肉体は歴戦の戦士を思わせ、力の弱い者は対峙するだけで逃げ出すだろう。

 

「最近やって来た外来人の力だと射命丸は言っていたが、人の身でこの力は身に余るものだ」

 

 力を取り込み、改めて凄まじい力だと感じる。これ程の力を脆弱な人間ごときが手にしていて許される筈がない。

 我々天狗のような優れた妖怪にこそ、この力は相応しい!

 天魔の周りにいた内の一人がおずおずと天魔の前に出る。

 

「今話に出た射命丸ですが、天魔様に報告した後、慌てた様子で再び外に出ていきました。

(もみじ)の報告では、人間の里の方に飛び去ったと」

 

 椛は哨戒天狗であり、千里先まで見通す程度の能力を有している。周囲の動向を知るのにこれ程適した存在はいない。

 

「私が思うに、天魔様が外来人を生け捕りにすると言われてから、目の色が変わったように見えます。

もしかしたら我々を裏切るやもしれません。今の内に始末するべきでは──」

 

 その先の言葉は出てこなかった。天魔が周りを圧倒する威圧感を醸し出し、話していた天狗がそれに呑まれたからだ。

 

「射命丸は少々異端ではあるが、それでも我々と同胞よ。軽々しく始末などという言葉を出すな。そういう事は表立って裏切った時に考えればいい」

 

 射命丸は他の天狗たちと違い、様々な種族との交流を積極的にしている。

 仲間意識が高く、同族以外に対して排他的な天狗からすれば、射命丸は異端の存在と言っても不思議ではない。

 

「何はともあれ、まずすべきはこの力を持つ外来人の生け捕りだ。せっかく我々が力を得ても、他の妖怪も同様に力を手にいれていては意味がない。

この力は我ら天狗のものだ! 我らだけが、この力を享受するに足る妖怪である!」

 

 力強い天魔の声に、周りから雄叫びに似た叫びがあがる。

 幻想郷の覇権争い。幻想郷を支配することが可能になるかもしれない力。

 幻想郷を支配し、いずれは我らを下に見る憎き鬼どもの悉くを蹂躙してやろう。そして思う存分堪能した後は、我らが鬼を従える存在になるのだ。

 

「行け大天狗! 椛から外来人の現在地を聞き出し、多数の天狗を連れて生け捕りにしてくるのだ!」

 

「……承知つかまつりましたッ!」

 

 大天狗は天魔に仰々しく頭を下げ、周りにいた天狗たちを引き連れて外へと出ていった。

 

「我が覇道、これが最初にして重要な一手となろうな」

 

 天魔は目に確かな野望の光を抱き、あぐらの上で頬杖をついた。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆     

 

 

 

 ナルトがレミリアと会ってから四時間が経過した。すでに空は赤くなっており、あと一時間もすれば完全に日は暮れて、漆黒の闇が幻想郷を覆うことになる。

 紅魔館の庭には、八本の蝋燭と石材でできた台座が置かれている。美鈴が台座を準備したらしく、その辺の岩を素手で加工したと言っていた。

 パチュリーの結界準備も完了しており、紅魔館の庭にはナルト、レミリア、フラン、パチュリー、咲夜、美鈴、魔理沙の七人が集合していた。

 後はナルトの一言で、いつでも再封印を行える状態だ。

 

「じゃあ、最後にもう一度確認するわね」

 

 レミリアが周りの顔を順々に見ながら言う。周りは静かに頷いた。

 

「まず門の外に出て、門と結界を守る役目を担うのが、私と咲夜と魔理沙の三人。

パチュリーは此処で結界の維持に努めて。

美鈴はもし門が破られた時のパチュリーの護衛。

フランは──」

 

 レミリアはそこで言葉を切り、フランを見る。

 

「大丈夫、元はといえば私のせいなんだから。私がしっかりお兄さんを護るよ」

 

 護る。壊すのではなく、護る。

 

「本当に大丈夫? まだ日はある。光がある中のあなたの世界は──」

 

 レミリアの過保護ともいうべき反応に、フランは苦笑してしまう。

 確かに私の世界は地獄だ。しかし、その地獄に身を置いても構わないと思える熱が、今自分を満たしている。

 

「平気だよ。外に出るようになって少しは慣れたから。それより今は、何もしない方がツラいの」

 

 自分で負うべき責任を他人に押し付けて、のうのうと館で待っていることなど、今のフランには許せないことだった。

 レミリアは諦めたように一つため息をついて、力のない笑みを浮かべた。

 

「分かった。フランはナルトの護衛。ナルトは封印に集中して」

 

「了解!」

 

 ナルトはビシッと敬礼した。そして、影分身の印を結ぶ。

 

「影分身の術!」

 

 ナルトの隣に、煙とともに同じ姿形をしたナルトが現れた。

 そして本体は上半身の服を脱ぎ、台座の上に横になる。

 ナルトはゆっくりと目を閉じた。

 ナルトの内の精神世界。

 ナルトは空中に浮かび上がり、九喇嘛を封じている檻に貼ってある封印札に手をかける。

 

(こえェ……)

 

 これを剥がせば、人柱力でなくなると同時に、自分の命の時間制限がつくことになる。

 失敗=死。やり直すことは二度とできない一発限りの大勝負。

 震える身体を必死に抑えつけ、ナルトの脳裏に周りにいた人たちがよぎった。

 

(けど、こんだけの奴らがオレに力を貸してくれてる。オレはそれに応えねぇとならねェんだ!)

 

 この異変を終わらせ、元通りにする。

 それこそが今考えるべきことである。自分の命の心配で躊躇している場合ではない。

 不意に九喇嘛と目が合う。

 九喇嘛は静かな眼差しで、しかしその内には強い闘志をみなぎらせている。

 

《心配すんな、テメェならできる。そうだろ?》

 

『……ああ!』

 

 不思議なことに、九喇嘛からそう言われた瞬間、震えが止まった。

 何故震えが止まったかなんて、今のナルトにはどうでもよかった。

 

 ──やれる! オレならぜってェできる! オレは四代目火影の息子だ! できねェでどうする!

 

 自分を奮い立たせる言葉を頭の中で叫びながら、封印札を一気に剥がした。

 

「再封印──開始!!」

 

 ナルトの言葉を合図に、パチュリーの結界が紅魔館を包み込む。

 これより、八卦封印の再封印が始まる。




この作品に出てくる天魔と大天狗は名前だけ借りたオリキャラです。大天狗もいずれは容姿を考えたいと思います。
この話で、この作品での明確な悪役が誰か皆様には分かったと思います。
その中でも天魔は親玉みたいな立ち位置なので、なんていうかピクシブにあるような可愛らしい女の姿だとイメージに合いませんでした。
だから、正反対の筋肉質な男に容姿を変えました。
天魔は可愛らしい女の人だと思う方は、この作品の天魔を先代天魔としてみてください。

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