うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~   作:ガジャピン

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分岐~Another future~

 ナルトたちは咲夜の案内で、レミリア・スカーレットの部屋の前に来ていた。

 ナルトはごくりと唾を飲み込む。

 いよいよナルトは紅魔館の主と顔を合わせるのだ。

 一体どういう見た目で人柄はどうかなど、今のナルトの頭の中はこれから会う相手の事でいっぱいだった。

 ナルトがこうも頭を悩ましているのは、ここに来るまでの会話のせいかもしれない。

 魔理沙が言うには、偉そうな話口調をするが、子供そのものの奴らしい。

 咲夜が言うには、目を離せないが一緒にいて楽しい仕えがいのある主らしい。

 パチュリーが言うには、何も考えていないようで実は色々考えている掴めない友人らしい。

 紅魔館の主に対する三人の意見は三者三様で、ナルトはこれだ! というイメージがピンとこなかったのである。

 そんなモヤモヤとした気分の中、何かを叩く音が耳に入った。

 咲夜がレミリアの部屋の扉をノックした音であった。

 

「入りなさい」

 

 凜とした声が扉越しから響く。

 ナルトはより一層緊張して身体を固くした。

 声を聞いただけだが、人を従える者ならではの力をその声は持っていた。ただ威圧するだけではない、水のように言葉が自分の身体に入ってくる浸透性。

 扉が開けられナルト、魔理沙、咲夜、パチュリーの四人がレミリアの部屋に入った。

 ちなみにこの場にいないこあは大図書館の仕事に戻り、美鈴は庭の手入れをしている。

 

「私が紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ。

話は咲夜から聞いたわ。結論からいうとその封印とやらに紅魔館は協力する」

 

 ナルトはレミリアの姿を見て度肝を抜かれていた。

 ナルトのイメージは定まっていなかったが、主というからには大人かそれに近い容姿の人物だと当たり前のように決めつけていた。

 だが、実際はどうか?

 ハッキリ言って子供である。公園の遊具で遊んでいても違和感は皆無だろう。

 前に『弾幕ごっこ』をしたフランと容姿的な年齢は変わらない。

 

「ありがてェ、恩に着るぜレミリア。オレの名前はうずまきナルトだ」

 

「いいのよ、礼なんて。気紛れだったとはいえ、ナルトの封印を壊しかけた原因は私にもあるし」

 

 眉一つ動かさず平然と爆弾発言したレミリアを、ナルトと魔理沙が唖然として見た。

 そんな二人の反応を見て、レミリアは何かに気付いたように手を叩く。

 

「フランに気紛れで言ったのよね、フランの好きに遊んでいいって。

まさかこんな事態になるとは夢にも思わなかったけど」

 

「フランは強い! それに手加減も苦手だ! 大抵の奴なら一方的に痛めつけられることぐらい分かるだろ! なんでそんな事言った!?」

 

 魔理沙がレミリアに詰め寄って、金色の瞳を怒りで輝かして問いただす。

 しかし、魔理沙の怒気を真っ向から受けてもレミリアは表情を変えず、少し首を傾けてナルトの方に視線を向けた。

 

「私には分かってた、ナルトがここに来るのが。それとナルトが強いのも」

 

「……運命を操る程度の能力」

 

「なんだよ、それ?」

 

 魔理沙が小さく呟き、ナルトが固い面持ちで問いかけた。

 

「ハッキリした事は分かってない。確かなのは未来予知ができる能力ってことぐらいさ」

 

 つまりレミリアは未来予知で自分の来訪を事前に知っていて、フランの相手になりそうだと判断し『弾幕ごっこ』をさせたということか。

 だが、ナルトには納得できない点があった。

 何故自分が強いと分かったのか。

 

「未来予知……私、その言葉嫌いなのよね。それに正確な表現じゃない。それなら私は『未来を知る程度の能力』って言われるわ。

運命は未来だけじゃない、過去からも形作られる。私はあなたがどういう人間なのかを知る力もあるの。

例えば、あなたに封印されているモノ──本当の名前は九喇嘛っていうんでしょ」

 

 レミリアはナルトを見据えて、ナルトの心を読んだようにそう口にした。

 ナルトの目が大きく見開かれる。

 幻想郷に来て以来、自分以外の誰かがいる時に九喇嘛という名前を出したことは一度もない。

 読心術が使えるか、ナルトの過去を知る力が無ければ、九喇嘛という名前は知りようがないのだ。

 ナルトの身体の奥から、ドクンと強い鼓動に似た衝撃が起きる。身体中が熱くなっていき、まるで血液が沸騰しているような錯覚。

 ナルトは息を荒くし、苦しそうに胸を左手で掴む。

 

「──その名前を……口に出すな」

 

 ナルトの今までに見たことのない眼光の鋭さに、その場にいたレミリア以外の面々は畏縮した。

 

「へぇ~意外ね。てっきりあなたは九尾じゃなくて九喇嘛って呼んでほしいと思っ──」

 

 レミリアの首を、ナルトの左手が締め上げた。

 周りにいる者たちは刹那の出来事に誰も反応できず、ナルトがレミリアの首を締め上げた時にようやく何が起きたか理解した。

 ナルトの身体は九尾の衣で覆われ、チャクラの尻尾が二本生えていた。

 

「言ったろォが、その名を口に出すなって」

 

 咲夜とパチュリーはレミリアを救おうとスペルカードを取り出そうとするが、レミリアを見てその動きを止めた。レミリアが二人の方に右手を向けていたからだ。まるで手を出すなと言ってるように。

 動きが止まった二人の横で、魔理沙はナルトの後ろ姿を呆然と見つめる。

 知らない、私はこんなナルトを知らない。

 ナルトはいつも明るくて、どうしようもないくらい優しくて、その優しさで自分の首を絞めることになっても他人のせいにしない、そんな奴だ。

 有無を言わさず首を絞め上げるような、短慮で乱暴なことをする奴じゃない。

 

「お前──ナルトじゃないな!? その手を離せ!」

 

 ナルトはレミリアを締め上げたまま、魔理沙の方をチラリと肩越しに一瞥する。

 その目を見て、魔理沙は驚愕の表情を浮かべた。

 

「瞳が……赤い!?」

 

 ナルトの目は、澄んだ青空のような綺麗な碧眼だ。だが、今のナルトの瞳は血のように赤くなっている。

 ナルトの左手がレミリアの首を離し、レミリアは苦しそうに咳き込んだ。

 

「ゴホッ……ゴホッ! 初めまして──というべきかしら、九尾さん」

 

「最初からそっちの名で呼べ。ワシはなぁ、きれェなんだよ九喇嘛と呼ばれるのが」

 

「そうだったの……知らなかったとはいえ、その名前で呼んでごめんなさい。

でも、あなたが表に出てきていいの? 漏れてる力が増してるわよ。それは、ナルトの心に反するんじゃない?」

 

 レミリアは九尾のもつ圧力を真っ向から受け止め、ナルトの目をじっと見た。

 ナルトの身体を借りた九尾はレミリアに感心したらしく、目の鋭さが少し和らいだ。

 

「けっ、なかなか言うじゃねェか。その度胸に免じて、今回はここまでにしといてやる……が、次はねェからな。よく覚えとけ」

 

 ナルトを覆っていた九尾の衣が消え、ナルトの身体から放たれていた息が詰まりそうになる程の威圧感も霧散した。

 ナルトはレミリアの前にあるテーブルに両手をつき、息を荒げる。もうナルトの瞳の色は元に戻っていた。

 

「すまねェレミリア。九尾を抑えきれなかった」

 

 封印が完全だった時は九喇嘛がどれだけ表に出てこようとしても、それを突っぱねることができていた。

 封印が壊れかけているから、九喇嘛に対しての制御が弱くなり、九喇嘛が激情のまま身体を借りるのを許した。

 漏れている力が九喇嘛の感情に左右され、九喇嘛が表に出てくることで増えるなら、一刻も早く八卦封印をして、この異常な状態を脱しなければならない。

 

「気にしなくていいわ。私にも非があるし。それで、具体的に私達は何をすればいいの?」

 

 レミリアはテーブルに頬杖をつき、ナルトの顔を真剣な表情で見た。

 

「八卦封印するために準備しねぇといけねぇモンがある。八本のろうそくと、オレが横になれるくれェの大きさの台座。まずはこれを準備してほしい。

で、次は封印を解いた時なんだけど、それをやると九尾が外に出てくる。この時に漏れる力を幻想郷に出さないために結界が必要になる。この紅魔館全てを包み込むくれェの結界が。

最後にオレが八卦封印してる時の護衛だな。ここに来るまでに何度も妖怪に襲われた。封印の最中に襲われたら、封印が失敗しちまう」

 

 レミリアに会う前に、ナルトは九喇嘛に八卦封印には何が必要か聞いていた。

 

「分かった。咲夜、ろうそくを八本と二メートルくらいの大きさの台座を準備してちょうだい。美鈴に準備させてもいいわ」

 

「分かりました」

 

 咲夜は一礼し、その場から消えた。

 

「レミィ、私は紅魔館を包む結界の下準備をしてくるから。多分三、四時間くらいかかると思う。

あ、あと喘息はナルトに治してもらったから、体力の心配はしなくていいわよ」

 

「喘息が……治った!?」

 

 レミリアの顔に初めてといっていい、明確な動揺がみられた。レミリアの瞳が揺れる。

 何かを堪えるような悲哀とも、嬉し涙が出そうなのを我慢している歓喜とも感じ取れる不明瞭な表情。

 パチュリーはそのレミリアの表情を歓喜ととらえたらしく、悪戯っぽい笑みでレミリアにピースした後、レミリアの部屋から去っていった。

 

「……そうね、あなたは奇跡を起こし世界を救った。あなたならもしかしたら──」

 

 レミリアの瞳に微かに光が灯った。だが、その灯った光を掻き消すように首を横に振り、その先の言葉を飲み込んだ。

 

「もしかしたら……何だ? それと一応言っとくけど、オレ一人の力じゃなくて、みんなの力があったからだからな」

 

 ナルトが訝しげな表情でレミリアを見ている。

 レミリアはばつがわるそうにナルトから視線を外した。

 

「そうよね、今言ったことは忘れて。

そんな事より、あなた達に部屋を用意させたわ。この部屋を出てすぐのところよ。扉の前に貼り紙がしてある筈だから、それを目印にして」

 

「ああ、それなら心配ねェ。来る途中に咲夜から教えてもらったからな」

 

 ナルトはこの部屋に辿り着くまでに、紅魔館の様々な部屋を咲夜とパチュリーから教えてもらっていた。

 周囲の把握は忍として当然のスキル。今のナルトなら、館内を全力疾走しても迷うことはない。

 

「なら安心ね。パチェの結界準備が終わらないと始められないから、それまで部屋で休んでいなさい」

 

 有無を言わさない響きが、そこにあった。これ以上は話したくないと言外に言われているような明らかな拒絶。

 ナルトと魔理沙は部屋から去るという選択肢しかなかった。

 

「レミリア、邪魔したな」

 

 魔理沙は少し険のある顔でそう言い、レミリアの部屋から出た。

 

「部屋、ありがとな。ありがたく使わせてもらう」

 

 ナルトもそれに続き、レミリアに背を向け部屋から出ていく。

 ナルトはこの時気付かなかった。

 レミリアが何かを訴えるような、期待と不安がごちゃ混ぜになった瞳で、去ってゆくナルトの背中を見ていたことを。

 もし、ここでナルトがレミリアの視線に気付き、レミリアの方に振り返っていたならば、あるいは別の未来が頭をもたげ、彼らの前に姿を現していたかもしれない。

 だが、その可能性はドアが閉じられる音とともに消えた。

 

 

 ナルトは与えられた部屋に入って変化の術を解き、ボロボロの服を脱いで、部屋に備えつけられていたシャワー室に入る。

 シャワーを浴びながら、ナルトは思考の海へと潜っていた。

 

(レミリア……あいつにオレの過去を知る力があるなら、あの事を知ってる筈だ。あの事を知ってるうえで九喇嘛と呼んだのか?

それとも、過去を知るといっても大まかにしか分からなくて、細かいとこまでは知れないのか?)

 

 

 第四次忍界大戦が終結して数ヵ月経った頃、オレが九尾を九喇嘛と呼んでいるのが、木の葉の里に住む人々に知れわたっていた。

 ある日、オレが任務を終え木の葉の里に帰って来た時、木の葉の里に住む一人の中忍がオレに言った。

 

「ナルト、お前あんま無理すんなよ! 九喇嘛もナルトのこと頼むな!」

 

 世界が凍った。

 九喇嘛からの激情が、世界が凍ったと錯覚させた。

 オレの身体から九喇嘛の殺気が迸り、九尾のチャクラが溢れて衣の形になろうとした時に、中忍は情けない悲鳴をあげて逃げていった。

 中忍が逃げた後は、九尾のチャクラが収まった。

 

『何でだ?』

 

 己の精神世界で、九喇嘛に問いかける。

 九喇嘛からの返事はなかった。不機嫌そうにそっぽを向いている。

 

『九喇嘛はお前の名前だろ? そっちで呼ばれた方がお前も喜ぶと思って──』

 

 オレは第四次忍界大戦が終わってから、九尾ではなく九喇嘛と呼び続けていた。

 

《……テメェの言う通り、九喇嘛はワシの名だ。ワシ自身の名なんだよ。

何故、ワシのことを力としかみてねぇ輩に、ワシ自身の名を呼ばれねぇといけねぇんだ! 気分が悪くなんだよ、力としかみてねぇくせに、表面上はいい顔して擦り寄ってきてよ!

ワシ自身のことを分かってる奴にしか、ワシはその名を呼ばれたくねぇんだ》

 

 その後、木の葉の里にはある決まりができた。

 九尾を九喇嘛と呼ぶことを禁ず。なお、うずまきナルトだけは例外とする。

 それ以来、九尾を九喇嘛と呼んでくる人はいなくなった。

 けど、とオレは思う。

 ずっとオレ以外から、力として、兵器としての名前で呼ばれ続ける。それはあまりにも寂しくないか。

 決めたことがある。九喇嘛がどういう奴か周りに伝えて、九喇嘛自身を見てもらおうと。

 力としてではなく、お前自身を見てもらおう。

 そうすればきっと、九喇嘛も名前で呼ばれることを許すから──。

 

 

 ナルトは濡れて両目に張りついた髪をかきあげた。

 

「……髪、うぜェ」

 

《なら、切りゃいいじゃねェか》

 

 愉快そうにクックッと笑う九喇嘛。

 もうさっきのことは気にしていないようだ。

 それが分かって、ナルトは安心したように静かに息をついた。

 

《何考えてたんだ?》

 

「九喇嘛、お前は言ったな。自分を見てねェ奴に、自分の名を呼ばれたくねェって」

 

《……ああ》

 

「なら、お前自身を見てる奴なら、たとえオレ以外でも九喇嘛と呼んでいいよな?」

 

《……ああ、いいぜ。ワシもそこまで心狭くねぇよ》

 

 やっぱりそうだとナルトは確信する。

 九喇嘛もホントは、自分の名でみんなから呼んでほしいのだと。

 ナルトはシャワーを浴び終え、再びボロボロの服に身を通し、右腕に包帯を巻く。

 シャワーで一息つけた影響か、ナルトは上機嫌になっていた。

 ベッドと呼ばれる寝床を興味津々といった表情でナルトが眺めていると、扉をノックする音が聞こえた。

 

「お兄さんがこの部屋にいるって聞いて来たんだけど──入っても大丈夫?」

 

 ナルトの部屋をノックした来訪者──その相手はナルトが初めて『弾幕ごっこ』をしたフランドール・スカーレットだった。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆     

 

 

 

 ナルトたちが去って一人になったレミリアの部屋。

 レミリアは息をつき、緊張が解けるのと同時に抑えていた恐怖が顔を出した。

 レミリアの顔に大量の汗が浮かぶ。レミリアはハンカチで顔の汗を拭った。

 レミリアは知っているのだ。九尾がその気になれば、自分など塵も残さずに消せることを。

 レミリアは身体の奥底に一瞬熱が灯ったような感覚を覚えた。それを気のせいと結論づけ、レミリアはさっきの事を思い浮かべた。

 

「あれが九尾……間違いなくうずまきナルトではない。

九尾の名前を呼べば、九尾が激昂するのは分かってたけど、リスクを冒した価値はあった」

 

 レミリアはテーブルに両肘をつき、顔をうつむける。

 

「霧雨魔理沙の存在……パチェの快復。どっちも私の選んだ運命には入っていない。少しずつ運命がズレてきているの?

でも、それ以外は私の望んだ通り。それにパチェの快復は、私にとって好都合」

 

 レミリアは下唇を噛み締める。

 レミリアの頭にナルトの姿が浮かんだ。

 

「何を迷ってるのよ、レミリア・スカーレット。もう──やるしかないのに」

 

 頭を振ってナルトの姿を脳内から消し、レミリアは悲しげな瞳で自分に言い聞かせるように呟いた。




原作の紅魔館の部屋に、シャワー室は多分ないと思いますが、この作品ではシャワー室ありでお願いします。

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