うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~   作:ガジャピン

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接触~World freezes~

 ナルトは傷付いた身体に鞭打ち、歯を食い縛りながら魔理沙とともに走っていた。

 現在ナルトたちは、博麗神社と人間の里のちょうど中間辺りにいる。その周りは木々が生い茂っていた。

 ナルトはチラリと後ろを見る。

 その目に映るは、様々な姿をした妖怪たち。

 それらが大口を開けて、ナルトには理解出来ない叫び声をあげていた。

 

「ったく! この展開にはもうウンザリだぜ!」

 

 魔理沙は苛立ちながら吐き捨てる。

 ナルトも心の底から同意し、何度も頷いた。

 ナルトは今までと違い、今は何故妖怪たちに襲われるのか、なんとなく理解している。

 

 ──多分オレがこえェんだろうな。

 

 妖怪たちは九尾の力を取り込めるからこそ、その力の持つ強大さや危険性が分かるのだろう。

 そして、こう結論する。その力を身に宿す存在が自分たちの敵になったらマズいと。

 だから妖怪同士団結して、敵になる前に排除してしまおうと考え、こうして襲いかかってくる。

 

「このまま人間の里に行くのはマズい! どうにかして、あいつらを追い払わないと!」

 

 魔理沙がスペルカードを手に持ち、妖怪たちに鋭い視線を送った。

 

「魔符『スターダス──」

 

 魔理沙がスペルカードを宣言しようとしたその瞬間、妖怪たちが横に吹き飛んだ。

 妖怪たちは互いの体躯に押し潰され、周りの木々を突き破りながら、奇声を発して倒れこむ。

 辺りに妖怪たちが倒れた轟音が響き、倒れた衝撃でナルトたちの周辺が震動する。

 

「「…………はい?」」

 

 ナルトと魔理沙は唖然としながらその光景を見た。

 魔理沙は妖怪たちを横から吹き飛ばした相手を見て、身体を震わした。

 癖のある緑色の髪をショートボブにした髪型。血の色を思わせる真紅の瞳。白いカッターシャツの上からチェック柄のベストを羽織り、同じくチェック柄のロングスカート。左手には日傘。

 

「風見……幽香」

 

「お前が助けてくれたんだな。ありが──」

 

 魔理沙は箒に飛び乗ってナルトの腕を掴み、そのまま脱兎のごとくその場から逃げ出した。

 

「っておい魔理沙! まだちゃんと礼を言えてな──イテテテテ!」

 

「ナルト……あいつだけは……あいつだけはヤバいんだぜ。

とにかく今は少しでも距離を──」

 

「距離が──何?」

 

 魔理沙の横を涼しい顔で幽香が並走していた。

 魔理沙は驚きその場で急停止。ナルトは慣性の法則によりつんのめった。

 幽香は魔理沙の正面に立つ。

 

「私の顔見た途端逃げ出すなんて、いくらなんでもヒドいじゃない?」

 

「妖怪たちとお楽しみ中だったように見えたから、邪魔しちゃ悪いと思って離れたんだぜ。別に逃げたわけじゃない」

 

 魔理沙の箒を握りしめる手は震えていた。

 それだけで、目の前にいる女の子が普通ではないとナルトは理解出来た。

 

「……へぇ」

 

 幽香の目に圧力が加わり、ナルトと魔理沙は言い知れぬ圧迫感と息苦しさを感じた。

 ナルトは意識して呼吸をすることで、自分を落ち着かせる。

 

「さっきは最後まで言えなかったけど、助けてくれてサンキューな」

 

「あら? そっちはちゃんと礼儀ってものを心得ているのね。良かったわね、白黒の魔法使い。彼がいなかったら、少し教育してたわ。次つまらない軽口を叩いたら……その箒を叩き折る」

 

 幽香は嘘じゃないと言わんばかりに近場の木を腕の力だけで殴り、根っこごと倒した。

 魔理沙の顔は青ざめ、ナルトは絶句する。

 幽香は倒した木に近付き、木を再び起こして元に戻そうとする。

 引っこ抜いた根っこを土でしっかり埋めて、木が死なないようにした。

 

「分かった、よく分かったよ。私はお前が恐かったから逃げた。助けてもらったのは感謝してるぜ」

 

 別に助けてもらわなくても私のスペルカードでなんとかなってたけどな、と警告される前は口にしただろうが、警告された今はそんな事を言う余裕がなかった。

 幽香は満足そうに笑みを深くする。

 

「それでよろしい」

 

 魔理沙はほっと息をついた。

 

「幽香、お前が何の理由もなくこんな事をする筈がない。ナルトに用があって来たんだろ?」

 

「ナルト……そう、あなたはナルトっていうのね。私は風見幽香、そこら辺にいる普通の妖怪よ。

あなたに会いに来た理由は、あなたのその力のせいで雑魚が調子に乗っちゃって、平気でお花畑に入ってくるからなの。なんとかしてもらえない?」

 

「今、なんとかするために紅魔館に向かってる。そこで解決策が見つかるまで、わりぃけど待っててくんねぇか」

 

 幽香から表情と呼べるものがすぅっと消えた。

 代わりに全身から発せられる強烈な殺気。

 ナルトたちの周囲の木々がざわめき、鳥たちが安全を確保しようと天を目指して一斉に飛び立った。

 魔理沙は咄嗟にスペルカードを取り出す。

 そのスペルカード名は彗星『ブレイジングスター』。

 幽香が何かしようとしたら、全速力で逃げ出す腹積もりなのだろう。

 ナルトは腹の辺りが冷たくなっていくのを感じた。

 できることならこの場から逃げ出したい。

 生物であれば必ず備わっている生存本能が必死に警鐘を鳴らす。

 だが、逃げることが許されるのか?

 幽香は怒っている。幽香にとってお花畑はとても大切なものなんだろう。

 大切なものを傷付ける原因に敵意を抱くのは当然だ。

 さらに、その原因に解決策が見つかるまで待てと言われれば、余計に腹が立つのも必然といえる。

 

(殺気に呑まれんじゃねェ。意志を強くもて)

 

 ナルトは掌を握りしめ、幽香の殺気を正面から受け止める。そして、幽香に向かって深く頭を下げた。

 幽香の顔に微かに驚きの色が入る。

 

「調子の良い事言ってんのは分かってる。けど頼む、オレを信じてくれねェか」

 

 数秒の静寂。幽香はじっとナルトを見ていた。

 

「うん、合格」

 

 幽香は一つ頷くと、放たれていた殺気を消した。

 

「私はただ確認したかったのよ。これを悪意があってやってるかどうかをね。それに、今の殺気は私の本気の殺気。大抵の奴は私から逃げようとするか、身体を強張らせてその場から動けなくなるかのどっちか。

殺気に打ち()つ事ができるのは強者の証。口先だけの弱者ではなく、意志を貫ける強者であることも分かった」

 

 幽香はナルトに向かって微笑む。

 

「あなたを信じてあげるわ、ナルト」

 

「おう! ありがとな!」

 

 ナルトは頭を上げて、ニカッと笑った。

 

「ところであなた、ケガしてるじゃない。良かったら、私が人間の里まで送っていくわ」

 

「へ?」

 

 ナルトの腕を幽香の右手が掴んだ。

 そして遠投でもするように力強く踏み込み、人間の里の方向にナルトを投げた。

 

「ええええぇぇぇぇ!」

 

 ナルトは絶叫しながら、遠くに離れていく。

 

「ナルトオオォォ!!」

 

 魔理沙は幽香を睨む。

 

「おい、ナルトはケガ人なんだ。もっと優しく扱えよ」

 

「あれで死ぬなら、その程度だったってだけよ。それに私の目に狂いがなければ、しっかり着地するわ。あなたも早くナルトのところに行きなさい」

 

 魔理沙は舌打ちしながら、箒に乗ってナルトが飛んでいった方向に飛び去っていった。

 幽香は日傘を差しながら、魔理沙が去っていった方向を見ている。

 

「まだよ……まだダメ……私にケガ人を苛める趣味はないわ。やるなら、ちゃんとケガが完治してから……それまでは我慢、我慢」

 

 幽香は身体中を震わして、今すぐにナルトと闘いたい衝動を必死に抑えている。

 幽香の近くで、さっき倒れた妖怪たちが身じろぎした。幽香に気付かれないことを願って息を殺し、ゆっくりと離れようとする。

 しかし木々が生い茂っている中、無音で逃げれるわけがない。ある妖怪の足が小枝を踏み、パキッと微かに音がでた。

 妖怪たちはそ~っと幽香の方を窺う。

 妖怪たちと幽香の目がバッチリ合った。

 

「──あなたたちがいたわ。あなたたちをグチャグチャにすれば、少しはこの疼きも収まるかもね」

 

 幽香の瞳に狂喜の光が宿り、口の端を吊り上げた。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆     

 

 

 

 投げ飛ばされたナルトは空中で一回転し、体勢を立て直して両手と両足同時に着地した。

 地面に着いた衝撃で、身体にある傷に痛みが響いた。

 

「いってぇ……けど、人間の里の入口前まで楽に来れたな。風見幽香か。いい奴なのかわりぃ奴なのか、よく分からねぇな」

 

「おーい、ナルトー! 無事かー!?」

 

 ナルトは声のする方を向くと、魔理沙が箒で空を飛んでこっちに近付いて来るのが見えた。

 ナルトは大丈夫と伝わるように、魔理沙に向けて手を振る。

 

(それにしても、魔理沙は平気な顔して空飛んでんな。そういやぁ、霊夢も空飛んでたっけ。幻想郷って場所は空飛ぶのが普通なんか?

けど、魔理沙はいつも箒に乗ってる。道具が浮かぶ力を持ってて、魔理沙と霊夢はそれを利用しているだけか?

霊夢はあの服が浮かぶ力を持ってんのかな)

 

 魔理沙が到着するまでの数十秒間、ナルトは暇潰しにそんな事を考える。

 魔理沙が眼前に降り立ったので、ナルトは思考を中断した。

 

「さて、ナルト。紅魔館に行く前にお前の衣服を買いたいと思ってるんだが、どうだ?

そんなボロボロの服じゃ、誰かとすれ違うたびに大騒ぎになっちゃうぜ」

 

「そうしてェのはやまやまだけど、オレ金持ってねェぞ」

 

 ナルトは倹約家であり、任務でがっぽり報酬を貰っていても、出かける時は最低限の金しか持たない。

 これはきっと以前師匠である自来也に、大切に貯めていたお金を一気に使われたトラウマからだろう。

 それともうすぐ木の葉の里だからと、道中の茶屋で残っていたお金を全て注ぎ込んだのが原因で、今のナルトは1文なしなのだ。

 魔理沙は顎に細い指をもっていく。

 

「それは誤算だったぜ。たいてい外来人は自分の世界の金を持参しているからな。その金が幻想郷じゃ結構な値がつくんだぜ。それとナルト、最初に言っとく。私は手は貸すけど、金は貸さないからな。というより、貸せるだけのお金を持っていないだけだけど」

 

「それは仕方ねェな。アレで乗り切るしかねェか」

 

 ナルトは印を結ぶ。

 

「変化の術!」

 

 ナルトの身体が煙に包まれた。

 そして煙が晴れた後には、ボロボロだった服が新品のような綺麗さになっている。

 魔理沙はあまりの衝撃に言葉が出てこないようで、何度も口をパクパクと動かした。

 

「な、な、な──! え……だって……えっ!? いやいやいや、おかしいおかしい、あり得ないぜ。そんなのはあり得ない。一瞬で服が新品になるなんて、そんなの魔法でもないぞ」

 

 ナルトは魔理沙のリアクションを新鮮に感じ、得意気な表情になる。

 

「今オレがしたのは変化の術っつって、色んなものに自分を変化させれるんだ。人だけじゃねェ、さっきオレが使ってたクナイとかにもなれる。

オレは新品の服を着た自分に変化した。強い衝撃を受けたりしたら、さっきのボロボロの服に戻っちまうけど、普通にしてれば一日くらいならこの状態を保てる」

 

 魔理沙はナルトの説明に目を輝かせた。

 

「ナルト、本当にちょっとだけでいいから解剖させてくれないか!? 物に変化している時の硬度はどうなってるかとか、色々実験したいこともある」

 

「目がギラギラしててこえェよ。解剖はさすがに許可できねェ。実験は……まぁ、死ぬ危険を感じなかったら付き合ってもいいぜ」

 

「それで十分だ。なんにしても、服を買う手間は省けたな。

お前も知ってるだろうが、紅魔館は魔法の森を抜けた先にある。さっさと抜けて、紅魔館に行こう」

 

 ナルトたちは人間の里に入らずに、魔法の森がある方に足を進めた。

 魔法の森をしばらく進むと、大きな湖のある場所にでた。

 

「ここを抜ければ紅魔館まですぐだぞ」

 

 魔理沙はナルトの横をふよふよと箒でゆっくり飛んでいる。

 

「知ってる。前紅魔館に行く時通った」

 

 ナルトは周囲に気を配りながら、歩いている。

 ついさっき妖怪たちをまとめて退治して警戒されているのか、今のところ妖怪には襲われていなかった。

 だが、またいつ襲われるか分からない。

 ナルトはふと肌寒さを感じ、両腕を擦る。

 

「魔理沙、なんか肌寒くねェか?」

 

「別に気にしなくていいぜ。この湖を越えたら暖かくなる、というか早く越えよう。面倒なのが来る前に」

 

「やい!」

 

 ナルトと魔理沙の上から声がした。

 ナルトは身体を擦りながら、魔理沙は心底嫌そうな顔をして声がした方を見る。

 声の主は湖の上空に浮かんでいた。

 髪は水色でセミショートヘアー。水面のような透き通った青い瞳。頭には大きな緑色のリボンを付けている。

 服は白のシャツの上から青いワンピースを着用し、首元には赤いリボン。

 ナルトは一目で人間じゃないと確信した。

 理由は、背中に氷で作られたような羽が六枚あったからだ。

 

「ところで、ケガの具合はどうだ?」

 

「えっ、ああ、大分良くなった」

 

 魔理沙は何事もなかったようにナルトに話しかけ、そのまま湖を抜けようとした。

 

「やいやいやい! このあたいを無視して、ここを通れると思ってるの!? この場所はあたいがリーダーなんだから!」

 

「……本当に面倒くさい奴だな、チルノ」

 

 二人の前に降りてきた羽のある少女を見て、魔理沙はため息をつく。

 

「違うわね、あたいはチルノじゃない」

 

 チルノは右手の親指で自分を差す。

 

「あたいは(スーパー)チルノよ!」

 

「いや、だからチルノだろ……」

 

 ナルトはチルノを注意深く見た。

 本当に僅かだが、九尾のチャクラを取り込んでいる。

 魔理沙はスペルカードを取り出した。

 

「悪いが急いでるんだ。邪魔するってんなら、いつもみたいにコテンパンにしてやるぜ」

 

 魔理沙の言葉に、チルノが不敵な笑みを浮かべる。

 

「ほーん……つまり、キミがあたいのウォーミングアップを手伝ってくれるのかな?」

 

 魔理沙とチルノは上昇して、湖の上空で対峙した。

 

「魔理沙ー! そのチルノって子、九尾のチャクラを取り込んでるぞー! いつもと同じだと思っちゃダメだ!」

 

 ナルトは魔理沙に聞こえるよう両手で筒をつくって口にもっていった。

 

「何!? スーパーってそういう意味かよ。てっきりスーパーマーケットをチルノが始めたかと思ってたぜ」

 

「あたいがそんなつまんなそうな事するわけないでしょ! ちゃんと頭使って話しなさいよ!」

 

「……多分お前以外ならここまでイラッとしないんだろうが、お前に言われると物凄くイラッとする。

いいぜ、見せてもらおうか。(スーパー)チルノの実力とやらを!」

 

 魔理沙はスペルカードを握りしめ、チルノの出方を待ち受けた。

 

「言われなくても! 氷苻『アイシクルフォース』」

 

 チルノの正面に多数の氷の弾丸が創られ、魔理沙目掛けて真っ直ぐ飛んでいく。

 

「なッ──! 正面に弾幕がある……だと!?」

 

 魔理沙は弾幕を避け、驚愕の表情になる。

 いつも正面だけは弾幕がなかったのに、今は正面に多数の弾幕がはられていた。

 

「あははっ、言ったでしょ! もう⑨なんて言わせない!」

 

「──ん?」

 

 魔理沙は弾幕を回避しながら首を傾げた。

 確かに正面は凄い氷弾の数だ。だが、その周りには一切氷弾がなかった。

 魔理沙は箒の速度を加速。チルノの正面から離脱し、半円を描くようにチルノの方に向かう。

 

「あッ、周りに弾幕はるの忘れてた! ふぎッ」

 

 チルノは頭上に魔理沙から拳骨をくらい、頭を両手で抱えるようにして下に落ちていった。

 

「確かにお前は(スーパー)になってたぜ、頭の方がな。今のお前にはスペルカードも必要なかった」

 

 ナルトはチルノが湖に落ちないようチルノの落下点に跳び両腕で受け止めて、あまりの冷たさに身体を震わした。

 

「なんだこの子、めちゃめちゃ冷てェ」

 

 急いで地面に着地し、ゆっくりと地面に寝かせる。

 すると、地面に生えていた草木が一気に凍りついていった。

 

「なッ!? くそッ、どうすりゃいいんだよ!?」

 

「ナルト、放っとけ。そいつには保護者みたいなのがいるから、そいつが何とかする。

それより、早く離れよう。離れないと凍傷になるぞ」

 

「ホントに大丈夫なんだな、このままにして!?」

 

「ああ、いつものことさ。すぐに元通りになる」

 

 周囲が一気に凍っていく。

 これが幻想郷の日常なのかと、ナルトは改めて幻想郷の異常さを認識した。

 二人はその場から走って湖を抜け、魔法の森を抜けた。

 そしてそれから少し走った今、ナルトと魔理沙の正面には紅魔館の門があった。




幽香さんがハンター×ハンターのヒソカみたいなポジションに……ナルト逃げて! 超逃げて!

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