うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~ 作:ガジャピン
『夢想封印』の光弾の弾幕で生まれた爆煙の中にナルトは倒れていた。
「……いってェ」
ナルトは顔をしかめる。
だが、思っていた程の痛みはない。すぐに起き上がれるくらい軽い痛みでもないが。
ナルトの衣服はボロボロになり、右手に巻かれている包帯も腕のところが少し破れていた。
『夢想封印』の爆煙が晴れ、その周囲を倒れながら見たナルトは苦笑いを浮かべる。
「これは……降参するしかねェな」
ナルトを囲むように『夢想封印』の光弾が置いてあった。
《降参するってこたぁ、あのガキの要求を呑むことになる。本当にいいのか?》
『勝負に負けちまったんだ、仕方ねェさ。次行く世界は、幻想郷みてェな世界じゃねェといいな』
そういう世界なら、九尾のチャクラが漏れていても懸念は少ない。
《ナルト、ワシがこう言うのもなんだが、今回の負けは当たり前の結果だぜ。はっきり言って手ぇ抜きすぎだ》
ナルトは下唇を噛んだ。
四代目に憧れ、修業を続けて強くなった代償というべきか、ナルトはどれくらいの強さで闘えばいいか分からなくなっていた。
ただもし四代目だったら、女の子を怪我させるのを是と思うだろうか。
《今の闘いは腕比べだ。無傷で終わらそうなんて虫のいい話はねぇ。きっと霊夢ってガキもその事を感じて、あんな挑発的に闘ったんだぜ》
『分からねェんだ。今の闘いの時、自分の中にもう一人の自分がいた。霊夢と真っ向から思いっきりぶつかりてェって思う自分。オレはそれを否定し続けた。怪我させたら、四代目らしくねェと思って』
《ナルト、テメェはミナトみてぇに頭で考えて動くタイプじゃねぇ。頭で考えるより早く身体が動く、そういう感覚的なタイプだ》
ナルトは精神世界で俯く。
『……そうやって動いたから、オレがオビトの神経を逆撫でするようなこと言ったから、ネジは死んじまった。もっと言い方を考えてたら、そうはならなかったかもしれねェ』
《ナルト、お前──》
『シカクのおっちゃんやいのの父ちゃんだって、あの時『飛雷神の術』をオレが使えていたら、本部に飛雷神のマーキングをして、十尾の尾獣玉を別のところに移動させることができたかもしれねェ』
ナルトは力強く両拳を握りしめる。
九喇嘛はナルトに気付かれないように嘆息した。
──重傷だな。
身体の方ではない。心の方だ。
第四次忍界大戦終了から数ヶ月後、世界に平和が戻り始めていた。
ナルトにとっては随分と久しぶりに得ることができた穏やかな時間。
今までのナルトは過去を見つめ直す余裕はなかった。やっと落ち着いた時間がとれ、ナルトは過去を見つめ直す余裕ができた。
そして、過去を見つめ直すうちに後悔が押し寄せてきたのだろう。
防げたかもしれない死。
もっと自分が冷静だったら、もっと自分に様々な術が使えていたら、もっと強かったら──。
そうやって自分を追い詰め、ナルトは波風ミナトを目指しだした。
ナルトにとって、助けてほしい時にいつも助けてくれたヒーロー。
ナルトはきっとこう思ったのだろう。
四代目のようになれたら、もう二度と大切な仲間を死なせることがなくなるんじゃないか。
九喇嘛はそれを止めようと思わなかった。
ナルトにとって、いいきっかけになると考えたからだ。
それからナルトは、四代目に追いつこうと今まで敬遠してきた術やチャクラコントロールの修業を必死で行い、今の実力を手に入れた。
別に悪いことではない。
あの人のようになりたいと、自分が苦手なものに手をつけるのはとても良いことである。
要するに大事なのはバランスなのだ。
ナルトは死んでしまった人たちから目を背けて、過去の背中に逃げた。
そうやって自分を高めている間は、何も考えずにいられる。
またナルトはこれでもかというくらい、任務をこなした。これも任務をしている間は任務のことだけ考えればいいからだろう。
(気付いてるか、ナルト)
テメェの心はズタズタなんだよ。
第四次忍界大戦の時、うちはイタチに言われただろう。
もっと周りを頼れ、一人で背負い込むなと。
しかし、今のナルトに下手なことは言えない。
その言葉が更にナルトを追い詰める可能性があるからだ。
ナルトと親しい者はみなそれに気付いている。
ナルトの心が壊れてしまわないように、平静を装いなるべく明るく振る舞った。
幻想郷に来る直前に会ったイルカもそうだ。
イルカはそれとなく四代目を目指す理由を聞いて、ナルトに自分を見つめ直す機会をつくった。結果としてみれば、効果なしだったが。
──皮肉なことだが、別の世界に来てよかったかもしれねぇ。
この世界に、ナルトを知る者はいない。
ナルトに対して変な気遣いをせず、自然体で接するだろう。
もしかしたら、ナルトの心の傷を癒せるかもしれない。
九喇嘛の脳内に、ナルトが六代目火影候補に選ばれた時の記憶がフラッシュバックした。
◆ ◆ ◆
「綱手のばあちゃん、今なんて!?」
ナルトは驚きで目を見開いていた。
「だ~か~ら、お前が六代目の候補にあがったって言ってんだよ! もう四度目だぞ!」
綱手は呆れたように息を吐く。しかし、すぐに笑みに変わった。
「いよいよお前も火影候補だぞ、嬉しいだろ! ずっとなりたいと願っているものに、手を伸ばせば届く距離にいけるのだからな」
「ああ、すげぇ嬉しい。けど……辞退させてくれねェか」
「ああそうだろう! お前なら二つ返事で受けると思って──は?」
綱手はナルトをじっと見る。
その視線を振り払うように、ナルトは軽く頭を掻いた。
「だってオレってばまだ下忍だし。なんつーか、下忍からいきなり火影になるとかズリーだろ。オレ以外にも火影を目指してる奴は大勢いるんだからさ、やっぱしっかり上忍になってから火影になるのがスジだとオレは思う」
綱手は残念そうな顔でそうかと言ってナルトの部屋から出ていった。
今にして思えば、綱手もナルトの危うさに気付いていたのだろう。
だから火影の候補にあげて、以前のようなナルトに戻そうとした。
(だがワシは気付いてたぞ、ナルト。下忍だ上忍だなんて本当はどうでもよかったんだろ。お前は火影になるのが、ただ怖かった)
火影になれば、自分の意思が木の葉の里全員の意思になる。
今までのように自分の心のままに突っ走れば、木の葉の里全員の命を危険にさらす可能性がある。
お前は不安だった。
自分の選ぶ選択が本当に正しいかどうか。
間違った選択肢を選んでしまった時、それを正しい選択にひっくり返す力があるかどうか。
そんなモン、考えるだけ無駄だということに気付かずに。
◆ ◆ ◆
《おい、ナルト!》
九喇嘛は俯いているナルトに声をかけた。
ナルトは顔をあげ、九喇嘛を見る。
《ネジやシカクのことを今更言ってもしゃあねぇだろ。
それより、テメェは真剣勝負に手を抜かれたらどう思う?》
『どうって……そりゃ腹立つけどさぁ』
九喇嘛の目付きが鋭くなる。
《そうだ、腹立つよなァ! テメェが女だから、ガキだからつって手ぇ抜いた。いくら女やガキでも、お前と同じ気持ちになるんだよ!》
『──ッ! けど、それで大ケガさせたらどうすんだ!?』
《信じろ》
ナルトは九喇嘛の言葉に目を丸くした。
『しん……じる? 何を?』
《自分と勝負する相手を信じろ。
こいつならこの技を避ける。
こいつならこの技を防ぐ。
こいつならこの技が当たっても最小限のダメージで抑える。
そうやって闘う相手を信頼してやれ》
『けど、もし殺しちまったら──!』
九喇嘛は口の端を吊り上げた。
《お前自身を信じろ。一流の忍だろ、お前は。対峙した時にだいたいの相手の実力を感じとれる筈だ。
勘違いすんなよ。ワシは全力で勝負しろって言ってんじゃねぇ。本気で勝負しろっつってんだよ。
手を抜くんじゃねぇ、力を抑えて本気で闘え》
ナルトはハッとした表情で九喇嘛を見た。
《テメェは女、子供を傷付けねぇことが優しさだと勘違いしてる。そんなモン、相手の気持ちをなんも考えてねぇ自己満足だ。
テメェは相手のことを考えてるようで、その実自分のことしか考えてねぇ。
本当の優しさってのは、相手の気持ちを思いやることだ。
たとえ相手が女、子供でも、本気で闘うのを願ってんなら本気で闘ってやんのが優しさなんだよ》
九喇嘛は歯ぎしりする。
《……分かってんだよナルト、テメェもわりぃ。分かってんだけどよ……どうしようもねぇんだ》
九喇嘛から殺気が迸る。
《お前のことをなんも知らねぇガキが、お前をコケにしやがった。挙げ句の果てに外に放り出すと──! ワシの許可なくワシのチャクラ使ってんのも気に入らねぇ!
ナルトォ、ちょっとワシに身体貸せ! あの澄ましたツラ、恐怖で歪めてやらァ!》
『九喇嘛落ち着け!! 今そうやって暴れたら、もっと印象が悪くなるだろ!』
《たわけが! この世界から追い出されんのに、印象なんざどうでもいいだろう!
この世界の奴ら、ムカつくぜ! こっちに協力しようとする奴がいねぇ! どうせ出ていくなら、全部ぶっ壊しちまおう!》
九喇嘛は怒鳴りながら、床を爪で引っ掻いていた。
しかし現実の世界を見て、その爪の動きが止まった。
九喇嘛の口元が笑う。
(そういやぁ一人だけ、ナルトに協力した奴がいたなァ)
霊夢は『夢想封印』を解き、ナルトの周りの光弾を消した。
「さてと、それじゃあ博麗大結界のとこまで来て──ッ!」
霊夢の背中に悪寒が走った。
ナルトの身体から、尋常ではない殺気が放たれている。
霊夢は冷や汗を浮かべた。
霊夢は己の勘がよく当たることを知っている。
そして、その勘が告げていた。逃げなければヤバいと。
しかし一人の人影が二人の間に入ると、ナルトから放たれていた殺気が収まった。
霊夢は我知らず息をつく。そうやって自分を落ち着かせた後、割って入ってきた人影を睨む。
「邪魔しないでくれる? 私が勝ったら、外に行ってもらう約束をしてるんだから」
「霊夢、私は幻滅した」
魔理沙は金色の瞳を怒りで輝かせている。
「は? 何をいきなり言い出すの?」
「霊夢、お前に一つ聞く。
お前は幻想郷に住んでる奴が異変を起こしてたから、異変を幻想郷で解決していたのか?
もし今までの異変も別の世界の奴だったら、外に放り出して解決したか?」
「そ、それは……」
「もういい。『弾幕ごっこ』しようぜ、博麗霊夢。私が勝ったら、ナルトとした約束はチャラだ」
「私に得がないじゃない」
「損得勘定で『弾幕ごっこ』はやるものか? それにあの博麗霊夢が、私に負けると思ってるんだな」
魔理沙の挑発的な言葉に、霊夢は顔をしかめた。
「普段の私に勝てないくせに、今の私に勝とうなんか百年早いのよ。
いいわよ。その勝負、受けて立つ」
霊夢は軽く後ろに跳んで、魔理沙から距離をとる。
「魔理沙、なんで……」
ナルトが地面に倒れながらも頭を上げ、前に立つ魔理沙を見上げた。
自分にその気はなかったとしても、幻想郷を混乱させてしまっているのは事実だ。
だとすれば、自分は幻想郷の敵。
なのに、どうして自分の味方をする?
魔理沙は肩越しにナルトを見る。
「私を見くびるなよ、ナルト。少しの時間だったとはいえ、お前と一緒に行動したんだ。お前が望んでコレをやったなんて思ってないぜ」
魔理沙がナルトに笑いかけた。
「それに、ナルトは友達だ」
ナルトは目を大きく見開いた。
「友達が困ってるなら、力を貸す。友達が助けを求めてるのに、それを見て見ぬ振りができる程、私は器用じゃないんだ。
心配しなくていいぜ。私が霊夢の約束をなかったことにしてやる」
魔理沙はそう言うと、霊夢の方に顔をもどした。
(ナルトォ、お前の目には何が見える?)
精神世界の九喇嘛がにやりと口を歪めた。
ナルトは魔理沙の後ろ姿を、身体を震わして凝視している。
ナルトの視界の中で、魔理沙の後ろ姿に昔の自分が重なった。
魔理沙は背負っていた箒を取り、それに跨がり宙に浮かんだ。
「ひさしぶりだぜ……こんなに腹が立ったのは」
魔理沙が霊夢を睨み付ける。
「霊夢、私が思い出させてやるよ! 博麗霊夢がどういう奴だったかをな!」
「御託はいいから、さっさと来なさいよ」
霊夢は苛立ちながら、スペルカードを手に持つ。
魔理沙も同様に、スペルカードを指に挟んだ。
「霊符『夢想封印』」
「魔符『スターダストレヴァリエ』!」
霊夢から放たれた多数の光弾が、魔理沙目掛けて突き進む。
それらを魔理沙は星形の光弾で迎撃。近付いて来た光弾を次々に相殺していく。
光弾と光弾がぶつかり合って空中で多数の爆発の花が咲き、二人の視界を塗り潰した。
「霊夢! さっきの『弾幕ごっこ』の闘い方はなんだ!? 闘う相手をおちょくるような真似をして……そんな闘い方がお前の創った『弾幕ごっこ』の闘い方か!?」
お互いに爆発で相手が見えない中、魔理沙の声が響く。
霊夢は顔を一瞬だけ歪めたが、すぐにその表情は消え、憎々しげに舌打ちした。
「あの外来人が悪いのよ! さっきの『弾幕ごっこ』……あの外来人は私の腕を掴む事しか考えてなかった。
その意味が分かる? この私をケガさせないように勝とうとしたのよ! まるで私のことなんか相手じゃないって言ってるみたいに! そんなの許せるわけないじゃない!」
霊夢は更に『夢想封印』の光弾を増やした。
魔理沙は箒で地面に急降下して、一枚のスペルカードを取り出す。
「儀符『オーレリーズサン』!」
魔理沙の周囲に四つの球体が現れ、魔理沙を中心に周回する。
それらが霊夢の光弾を阻む壁となり、霊夢の光弾は魔理沙には届かない。
──時間はかけない。一気にいくぜ!
ミニ八卦炉をスカートの中から取り、手から離す。魔力でミニ八卦炉は魔理沙のすぐ隣に浮かび、魔理沙からの意思を受信しているかのように、霊夢の弾幕を避けながら霊夢の頭上に移動した。
霊夢はそれに気をとられ刹那の間、魔理沙のことが意識の外へと弾き出される。
魔理沙は箒の速度を上げ、スペルカードを取り出しながら霊夢に肉薄した。
「星符『エスケープベロシティ』!」
魔理沙は霊夢の眼前で箒を縦にしながら急停止。代わりに大量の星形の光弾がショットガンのように霊夢に撃ち出され、魔理沙はそのまま一気に急上昇。その際霊夢の頭上にあったミニ八卦炉を回収。
その光景は、魔理沙が発射されたロケットを思わせ、下で起こっている弾幕の爆発が、ロケットから噴射された熱のように見えた。
「やったか!?」
魔理沙は爆発から遠ざかりながら、爆発を注視する。
「──そのセリフは言ったらダメなのよ、魔理沙」
霊夢は魔理沙より更に上に浮かび、魔理沙を見下ろしている。
「なッ──上!?」
魔理沙は上を見る。しかし霊夢の姿はなかった。
やられたと思った瞬間、魔理沙の真横に移動していた霊夢が一つ光弾を撃ち込み、魔理沙は被弾。そのまま横に吹っ飛ばされた。
「あんたもバカね。余計なことしなきゃ、そんな目に遭わなかったのに」
「余計なこと?」
空中で回転しながら吹っ飛んだ魔理沙は体勢を立て直し、箒を握りしめる。
「そうか。友達を見捨てるのが賢いのか。なら、私は一生バカでいいぜ! そんな生き方、私は御免だ!」
「……フンッ!」
霊夢は鼻を鳴らし、『夢想封印』を再び使用した。
魔理沙を獲物に定めた猛獣のごとく、魔理沙に一直線で光弾の群れが飛んでいく。
魔理沙はその群れを箒に乗って移動しながら回避。縦横無尽に動き回りながら、どこまでも追ってくる群れを避け続ける。
「くそっ! 魔符『スターダストレヴァリエ』!」
魔理沙は地面すれすれまで急降下して箒から飛び降り、いつまでも追ってくる弾幕に痺れを切らした。
再び星形の光弾で霊夢の弾幕を相殺。爆風が魔理沙の帽子と髪を襲い、魔理沙は帽子を右手で押さえた。
「やっぱこうしないとダメか」
未だ空中で静止している霊夢を、魔理沙は箒を背中に背負い直して睨む。
「私の知ってる霊夢はなぁ!
家で1日中ぐうたらして! なんでもめんどくさいって愚痴をこぼして! 修行とか一切せずに自分の才能にあぐらをかいて! 金がないつって香霖堂の代金をツケにしたり! 鬱陶しいからってその辺にいる妖怪を退治したり! 異変解決を生業とか言ってるくせに、自分に不都合がなければ、周りに言われるまで放っておいたり──!」
霊夢の顔は羞恥と怒りで真っ赤になった。
「うるさ──」
「──けどッ! どんな相手とも平等に接して、誰かを敵にしたりしない!
異変解決に実際に乗り出すまで遅い時もあるけれど、一度乗り出したら積極的に異変解決に動いて、解決するまで絶対に投げ出さない!
めんどくさいって口では言いながらも、救いを求める手を払いのけたりはしない!
『弾幕ごっこ』で相手を蔑むようなことはしない!」
魔理沙はミニ八卦炉とスペルカードを構える。
「私の知る博麗霊夢はッ! 力に溺れるような、弱い人間じゃないんだ!!
恋符『マスタースパーク』!!」
霊夢は迫って来た極太のレーザーへの対応が一瞬遅れ、右腕をレーザーがかする。
右腕の袖の一部分が、レーザーに呑まれて消えた。
魔理沙は霊夢のその一連の動きの間に、スカートの中からある丸薬を取りだし、口に含んで噛んだ。
「そらっ! もういっちょ!」
今度は今より更に太いレーザーが霊夢に迫る。
──身体から魔力が沸き上がってくるぜ。
魔理沙が今噛んだ丸薬は『兵糧丸』。非常食にできる程高カロリーで、そのうえナルトが使う力、チャクラというものを一時的に増幅させる効果がある。
ナルトから話を聞いた時は不安だったが、チャクラだけでなく魔力も一時的に増幅できるようだ。
(霊夢なら、きっと『マスタースパーク』を鬱陶しがって、発射台を潰そうとしてくる筈。ナルトが封印している奴の力を手に入れた霊夢なら尚更だ)
魔理沙は右手でミニ八卦炉を持って『マスタースパーク』を撃ち続けながら、再びスカートの中に左手を入れて周囲に意識を凝らす。
霊夢は魔理沙の『マスタースパーク』を縫うようにかわしつつ、魔理沙の左に躍り出た。
魔理沙はニカッと勝利を確信した笑みをした。
魔理沙の左手が握っていた光玉が、スカートの中で離される。
その光玉が地面に落ちた瞬間割れて、強烈な光が霊夢を襲った。
「しまっ──」
霊夢はその光をモロに見てしまい、視界が真っ白に染まる。
「悪いな霊夢。こういう勝ち方しか思いつかなくてさ!
『マスタースパーク』!」
魔理沙から放たれたレーザーが霊夢を直撃し、霊夢はレーザーに呑まれながら後方へと吹き飛ぶ。
霊夢は地面に三回身体を回転させてぶつかりながら、最後は仰向けで倒れた。
魔理沙は霊夢が倒れているところに走って近付き、霊夢に向けてミニ八卦炉を構える。
「まだやるか? 言っとくが『夢想天生』を使おうとしたら、このまま『マスタースパーク』を撃ちこむからな」
「……降参するわ……私の……負けよ」
魔理沙は勝ち気な笑みになり、ミニ八卦炉をスカートの中にしまった。
「そうか。なら、ナルトは連れてくぜ」
魔理沙はナルトのところへと歩く。
「どうだ、立てるか?」
「ああ、なんとか……その、ありがとう」
ナルトは息を整えながらゆっくりと起き上がり、魔理沙に頭を下げた。
魔理沙は笑顔のまま、軽く手を振る。
「いいって、礼なんて。これから私が行こうと考えている場所があるんだ」
「どこだ?」
「紅魔館。ナルトの封印がおかしくなったのは、フランのせいでもあるんだろ?
お前はフランを庇って、フランが原因でおかしくなったって言わなかったが、私には分かるぜ。だから紅魔館の連中にも責任をとらせてやるんだ」
ナルトと魔理沙は博麗神社から歩いて去っていき、残されたのは霊夢と紫の二人になった。
霊夢は未だに地面に横たわり、動こうとしない。
そんな霊夢に紫が近付く。
「初めて『弾幕ごっこ』で負けた感想はどう?」
「そうね、意外と悪くない気分だわ。頭の中がスッキリしてる」
紫からの問いを、霊夢は空を見ながら返す。
「これで、ナルトくんは幻想郷に留まることになったわけだけど、あなたはどうする?
また幻想郷の外に追い出そうとする? それとも、ナルトくんの封印に手を貸してあげるのかしら?」
霊夢は目を閉じた。
──誰かを敵にしたりしない!
──救いを求める手を払いのけたりしない!
霊夢の脳内で、魔理沙の力強い言葉が駆け抜ける。
「私は博麗霊夢よ。どっちを選ぶかなんて、分かりきってるわ」
霊夢は憑き物が落ちたような清々しい表情をしていた。
霊夢は紫に視線を送る。
「……ねぇ紫。あんた、私があの外来人を外に出そうとする直前に、止めに来るつもりだったでしょ」
「さぁて、どうかしら~」
紫は悪戯っぽい笑みになった。
霊夢は苦笑しながらため息をつく。
「ほんと……イヤな奴」
私に迷惑をかけるくせに、私のことを気にかける。
一方的に迷惑だけをかけてくるなら、こんな複雑な気持ちにはならない。
私を困らせ、私を助ける。
それが本当に迷惑だけど、嫌いじゃない自分がいる。
霊夢は身体を起こそうとする。その時、身体中に痛みがはしった。
「……つッ! 何よこの痛み、マスタースパークでもこうは──」
紫は扇子を取り出し、口元を隠した。
「あなたが使った力は、いわばドーピング。妖怪なら耐えれる負担かもしれないけど、普段修行を全くしなくて運動不足のあなたがそんな力を使えば、身体にガタがくるのは必然。多分明日辺り、全身筋肉痛になるわ」
霊夢の顔が青ざめていく。
「調子に乗るから、そういう反発が来るのよ。それと霊夢、言いにくいことがもう一つあるわ」
「何よ」
「博麗神社の境内、ぐちゃぐちゃ」
「私の今日一日の成果が!?」
霊夢は度重なるショックで、意識を失った。
◆ ◆ ◆
紅魔館の庭で、咲夜が興味津々といった様子で美鈴を見ていた。
「見てください咲夜さん! 尻尾が二本も生えてきましたよ~!」
美鈴の身体を、赤色のついた半透明の衣のようなものがまとわりついている。
そして、尻尾のような形になった力が二本生えてきた。ついさっきまでは一本しか生えていなかったところを考えると、力を取り込む量に応じて変動するようだ。
「スゴい力ですよコレ! 今なら咲夜さんに勝てるかも!」
そう美鈴が口にした時、美鈴の周囲がナイフに囲まれた。
「誰に勝てるって?」
「スイマセン、調子に乗りました」
彼女達は、もうすぐここにその力の大元が来ることを知らない。
この話でなんでナルトが四代目を目指すようになったか九喇嘛視点で書きました。
第4次忍界大戦で失った大切な人たちの死を気に病んで、がむしゃらに強くなろうとしているというオリジナル設定ですね。
原作のナルトはそういうのをしっかり受け止めて前に進みましたが、この作品のナルトは違います。
賛否両論あると思いますが、この作品は心の傷を負い自分を見失ったナルトが、幻想郷で自分自身を取り戻していくというストーリーが本筋にあります。