うずまきナルトが幻想入り~Story of light and darkness~ 作:ガジャピン
原作通りのナルトじゃなきゃ嫌だという方は、ご注意下さい。
招待~Welcome to new world ~
木の葉の里の門を一人の金髪の青年がくぐる。その青年の表情はどこか嬉しそうだ。
しかし、その表情をすぐさま消し、青年は真剣な表情になる。
普段感じている気配と違う気配を感知したからだ。
金髪の青年は辺りを見渡す。だが、周りに不自然なところは何ひとつない。
自分の気のせいかと、金髪の青年は結論付けた。
この金髪の青年の名はうずまきナルトという。ナルトは第四次忍界大戦終結の立て役者であり、その名前を知らぬ者はいない。
少し長めの金髪に青の瞳で、両頬には猫の髭をイメージさせるような三本線がある。その顔立ちは、この里にある四代目火影の顔岩に酷似していた。額には木の葉が彫られた額当てをして、オレンジ色の上着を身に纏い、僅かに見える右手は包帯で巻かれている。
《どうしたナルトォ?》
ナルトの中で尋ねる声がした。
『いや──なんかさっきから妙な気配を感じんだよなぁ。敵意はねーみてェなんだけどさ、なんていうかこう、まとわりついてくるってェの?』
ナルトはその声に同じように脳内で応える。
ナルトの中で声をかけたのは九尾といい、ナルトが産まれた時に、ナルトの父親に封印された強大な力を持つ化け物である。
だが、ナルトと長く関わる内にナルトと打ち解け、今では『
「はぁ、久しぶりの休みだってェのに、勘弁してほしいってばよ……」
ナルトは里の通りを歩きながらため息をつく。
ナルトの忍としての実力はトップクラスであり父、波風ミナトの『飛雷神の術』をも会得したナルトは、木の葉の里からだけでなく、他里からも引っ張りだこでどんどん任務がまいこみ、影分身を併用して、任務を並列に素早く処理していくのがナルトにとっての日常だった。
今日はナルトにとって、実に四十一日振りの休暇なのだ。だというのに、さっきからナルトの神経を逆撫でするかのように、違和感のある気配が現れては消え現れては消えを繰り返している。
《そんなに気になるなら九喇嘛モードやるか。ワシは構わんぞ》
その声に僅かに喜びの感情が入っている事に、長い付き合いのナルトは気付き苦笑する。
『いや、いきなり九喇嘛モードになったら周りにいるヤツらも驚くだろうし、今は気配を感じねェからなる必要ないってばよ』
《むぅ……本当にいらんか》
『ああ。でもそん時が来たら頼むぜ、九喇嘛!』
《任せとけ》
九喇嘛が残念そうな声を出し、ナルトが九喇嘛をフォローする。その甲斐あって九喇嘛は元気を取り戻した。
(まさか九喇嘛とこんな風になれるなんてなぁ。やっぱり諦めねェって大事だってばよ)
諦めなかったからこそ苦しい道を歩んだが、その苦難以上に大切なものをたくさん手に入れる事が出来た。今では本当に諦めなくて良かったと思っている。
「ナルトのお兄ちゃんおかえり~~」
「あ、ナルトさん帰って来てたんですね! また僕に修行つけてください」
「おっ、『戦場の太陽』が木の葉にご帰還だ。元気みたいだな」
ナルトの周りに人が集まってくる。
木の葉の里に帰った時はいつもこうだ。
ナルトは顔を綻ばせる。
自分が周りの人を大切に想っているのと同じように、周りの人も自分を大切に想ってくれている。その温かさが心地よかった。
「おうっ、ただいま! 修行はもうちょいしたらつけてやっから気合い入れとけよ~~。今日はおいろけの術を教えてやるってばよ!」
「え~~、螺旋丸が良いです。それにその術、全然使いどころないじゃないですかぁ!?」
「ばっかお前、この術はあの伝説の三忍といわれた自来也師匠すら骨抜きにした凄い術なんだぞ! 相手の隙をつくるのも忍には必要。その点において、この術の右に出る術はないとオレは思ってるってばよ!
更に更にこの術はオレがアカデミーにいた頃に編み出した術! 会得に必要なのはボンッ、キュッ、ボン! のイメージだけ! 簡単に会得できて格上の相手に勝てる可能性もある! 逆になんで拒むのか不思議だってばよ!!」
グッと拳を握りしめ力説するナルト。
周りからお~という声があがる。
「なんかよくわかんねぇけどすげぇぞナルト! ただのエロ忍術なのに!」
「確かに凄い術みたいに聞こえますね。ただのエロ忍術なのに」
「わ~~格好良い事言ってる~~。ただのエロ忍術なのに~」
「お前らいい加減に──っ!」
あまりの言いぐさに苦笑して一言言おうとしたナルトだが、さっきの気配を感じ、表情を引き締めその気配がした方をみる。しかし、さっきと同じで何もおかしいところはなかった。
(さっきから──一体何だってんだ!?)
「どうしたんです。も、もしかして気を悪くされたんですか」
稽古を頼んできた相手が申し訳なさそうな顔をしている。ちょっと言い過ぎたかもしれないと思っているのだろう。
「いや、お前はちっとも悪くねェよ。ちょっと気になる事があっただけだ」
そうナルトに言われ、ホッと胸を撫で下ろす稽古を頼んできた相手。
「それじゃあ、また後でな!」
ナルトはさっきの人たちと別れ、またしばらく歩くと後ろから声をかけられた。
「ナルト? ナルトじゃないか!」
「その声は──やっぱイルカせんせェ! 久し振りだってばよ!」
ナルトはイルカの顔を見た途端に満面の笑顔になった。
「頑張ってるみたいだな──そうだ! これから一楽に行こう。好きなだけラーメン奢ってやるぞ」
「やたーーー! ラーメン、ラーメン!」
「ったく……変わらないな、そういうところは」
ナルトの嬉しそうな表情に、イルカも笑みを浮かべる。
ラーメン屋一楽はカウンター席のみでテーブル席がないが、ラーメンの美味しさは木の葉一と言っても過言ではない。ナルトも子供の頃からよく食べに来るラーメン屋である。
昼時より少し早く来たせいか、店内にはナルトとイルカしかいなかった。
ずずーっと麺をすする音が店内に響く。
「それにしてもナルト、お前も成長したなぁ。いや、『戦場の太陽』って呼んだ方がいいか」
「んぐっ……イルカ先生までそれ言うのかよ。さっき里の人にも言われたけど、正直やめてほしいぜ」
「そんなにそう言われるのが嫌なのか」
「いや、そういうわけじゃねェけど、なんかこそばゆくてさ、へへ!」
ナルトは照れくさそうに軽く頭を掻く。
「そうか」
イルカは優しげな表情でナルトを見る。
第四次忍界対戦後、各里は著しく消耗していた。
そこを盗賊や暁を支持していた者たちが狙い、執拗に各里を襲ってきた。
里の復興に人員を割かなくてはならない状況の中、その襲撃はかなりの脅威でありまた、まだ平和は遠いのかと誰もが嫌になった。
ナルトは各里に救援に行き、被害を最小限に抑えたのと同時に襲撃してきた者たちと話し、改心させた。
そして、ナルトと一緒の戦場にいた誰かが言ったのだ──『戦場の太陽』と。
太陽のように輝いて戦場を駆け、周りにいる人たちに暖かく希望を与える存在だと。
その名前が周りに広がり、ナルトの通り名は自然と『戦場の太陽』になった。
「それはそうとお前、髪を伸ばしているんだな。四代目の顔岩にそっくりだ。何で四代目みたいにするんだ?」
「『四代目がどういう忍だった?』って聞くと、みんなこう答えんだ。
『誰よりも強くて、優しくて、カッコいい忍だった』って。
俺もそう言われる忍になりてェ。四代目は俺の父ちゃんだから、頑張ればきっと俺だって四代目みてェに成れると思うんだ! で、まずは形からってことで、父ちゃんみてェな見た目にしてみようって思ってさ」
ナルトはラーメンのスープを器を持って飲み干し、空になったラーメンの器を見ながら言った。
「あっ、もうこんな時間だ! わりぃイルカ先生、ちょっと行くとこあるからもう行くってばよ!」
ナルトは慌ただしく一楽を出て、少し走った後振り返った。
「イルカ先生ラーメンあんがと! また一緒にラーメン食べような!」
「ああ、約束する! 何処に行くか知らないが、気をつけてな」
「相変わらず心配性だなぁイルカ先生は! じゃ、行ってくる!」
笑顔で手を振り、太陽の光の中へと走り出して消えていくナルトの背中を見て、イルカは何故か嫌な予感がした。もうナルトとは会えないような、そんな予感。
(ナルトは誰よりも強くなった。絶対に大丈夫だ)
イルカは嫌な想像を振り払うように、そう自分に言い聞かせた。
ナルトは火影の部屋を目指して走っていた。
里に入ってから感じる奇妙な気配。それを火影にだけは伝えておいた方がいいと判断したからである。
その途中に見知っている二人の後ろ姿を見つけた。
「サクラちゃん! シカマル!」
ナルトは顔を綻ばせ、二人の名を呼ぶ。
「おっ、ナルトじゃねぇか! 久しぶりだな!」
「おかえり、ナルト!」
サクラとシカマルは振り向いて笑みを浮かべた。
◆ ◆ ◆
(さっきからスキマを繋ごうとすると感づかれる。なんで分かるのかしら)
見た目は金髪のロングヘアーで、毛先をいくつか束にして赤いリボンで結んでいる金眼の少女が思案顔をする。
その少女の服装は紫色でフリルのついたドレスを身に纏い、白い手袋を着用している。
それだけなら普通の少女だが、少女の周りには無数の目があり、少女自身も当たり前のように空間に浮かんでいることが、少女が特別な存在であることを教えていた。
(人一人が入れるくらいの大きさのスキマを繋ごうとすれば気付かれるけど、覗く程度の本当に小さいスキマなら気付かれない。スキマを繋ぐのに使用する妖力の大小の問題? それともスキマ自体の大きさの問題? まぁ確かめる価値はある)
少女はナルトの頭上に覗く程度の小さいスキマを繋ぐ。ただし、普段より多くの妖力を込めて。それとは別にもう一つ、別の位置に普段のように小さい妖力で創ったスキマを繋ぐ。
結果として、ナルトは頭上のスキマの気配に気付いたが、別のスキマには気付かなかった。
(さっきまで気付けなかったのに、今のは気付いた。つまり妖力がある程度使われなければ気付けない。次はスキマ自体の大きさで気付くかどうか試す──って言いたいとこだけど、スキマ自体を大きくするためには妖力が不可欠。こればかりは確かめようがないわね)
少女はそう結論する。
確かめる事ができないと分かったのに、少女の顔はどこか楽しそうだ。まるで手頃な暇潰しの相手を見つけたように。
少女がナルトを見つけたのは偶然。どこかに幻想郷を面白くするための人材がいないかと、スキマを利用し探していた。
幻想郷を面白く出来る条件として、まずある程度の強さが必要。幻想郷には妖怪が多数存在するため、弱いとすぐに死んでしまう可能性があるし、性格だけで相手を認める程物分かりが良いわけでもない。
次に何かをやってくれそうな期待感。これは本当に直感だが、たとえ強くても自分だけにその力を使う者は真っ先に除外。そういうタイプは自分の中で世界が決まってしまっているため、幻想郷に対してそんなに影響が出てこないし、出たとしても自分が望む変化の方向性と外れる。
そして最後に一番重要な条件。幻想郷を壊す危険性がないこと。自分はもっと幻想郷を面白くしたいと思っているが、幻想郷をめちゃくちゃにしたいわけではない。いつまでも変わらない幻想郷に少し変化が欲しいだけなのだ。
それらの条件を満たしている者を、色々な世界で片っ端から幻想郷へ放り込んでは元の世界に帰しを繰り返ししているが、未だに幻想郷にそれらしい変化はない。
もうこんな事するのを止めようかと考えていた矢先、目についた金髪にほんの遊びで突っかかったら、なかなか面白そうな相手だった。そして、現在へと至る。
(この青年、頭上のスキマに気付いた時に周りの二人を守ろうとした。いや、さっきもそう。意識は私のスキマではなく、周りの人たちにいっていた)
少女は不敵な笑みを浮かべる。まるで勝ちを確信したかのように。
(この世界の人たちには悪いけど──そろそろ幻想郷に招待しないとね)
◆ ◆ ◆
(──え?)
ナルトにとって、それは予想外の事だった。
(なんでだ!? こいつはオレを狙ってたんじゃねェのか!?)
さっきから幾度となく感じた気配。その気配を感じたら周りの人を守るために意識を集中させた。しかし、いつも気配は自分のすぐ近くで、周りの人を無視していた。
ナルトは自分の中で結論を出した。
自分だけ狙ってくるなら、大した脅威じゃない。
もちろんナルトは現火影であるはたけカカシにこの事を伝えようと思っているが、それまでは自分の中で留めておく予定だった。
あの戦争から三年──まだ戦争でできた爪痕もたくさん残っており、忍の里同士もようやく今までのシステムから新しいシステムへと変われる前段取りを終えた。
今までの、一つの里だけで完結しているシステムから他里と手と手を取り合い協力し合うシステムへと。
そんな大切な時期に、説明もできない脅威を伝えたところで不安材料にしかならない。
しかし、状況は変わった。
今まで感じていた気配は標的を変えた。うずまきナルトから春野サクラへ。
ナルトは春野サクラの足元に、その気配を感じたのだ。
「危ないサクラちゃん!」
サクラを右手で突き飛ばし、サクラがいた位置にナルトが来る。
そして次の瞬間、ナルトの足元が割れ、ナルトはその割れ目の中に落ちていった。
ナルトが落ちる瞬間に見たものは無数の目。
(何だよ……これ)
「ナルトォォォ!!」
サクラの悲痛な叫びを聞きながら、ナルトは咄嗟に飛雷神のマーキングが入ったクナイを、割れ目に向かって放つ。が、割れ目を越える瞬間に割れ目が閉ざされ、飛雷神の術を使っても、無数の目がある空間から抜け出せなかった。
「くっそぉ……!」
クナイを握りしめ、悔しそうに身体を震わす。
そして、ナルトは地面に落ちた。
「ってて、なんでいきなり地面が──」
ぶつけた部分を軽くさすりながら、顔をあげる。
ナルトの目の前には、たくさんの木々が生い茂っていた。
「さっきの目はどこいったんだ? それに、一体ここは何処だってばよ……」
ナルトは困惑することしかできなかった。
ナルトの幻想入りは完全に紫さんのせいなので、紫さんの気まぐれが再発しない限り、幻想郷にナルト以外のNARUTOキャラは出てきません。