前回までは2000字程度でしたが、今回は少し長いです(;・∀・)
また視点変更が最後の方にありますが、なるべく分かりやすいようにしています(;・∀・)
最後になりましたが感想、お気に入り登録をして下さった方、ありがとうございます♪
これからもよろしくお願いします(^^)/
「プロデューサーさん。これは一体どういう状況なんでしょうか?」
トレーナーさんは2人を見て眉をぴくぴくさせながら言った。
「え、えっと……美希は寝転がって瞑想中で……萩原さんは穴掘って地下探索でもするのかな? あはは……」
「プロデューサーさん。ふざけてるんですか?」
おっと、冗談が通用しないほど怒っていらっしゃるようだ。始まってないのにレッスンが中止になりそうだ。
俺は慌てて2人の元へと駆け寄り、
「おい、美希。さっさと起きろ! ほら萩原さんもスコップ片付けてとっとと準備する!」
2人をトレーナーさんの前に無理やり整列させてから「よろしくお願いします」と改めてあいさつをする。
「はい。よろしくお願いします。今日からライブに向けてビシビシ指導していきますので、覚悟するように」
引きつった笑顔で言われると脅しにしか聞こえないんだが、残念ながらレッスンをするのは萩原さんと美希だ。
俺はチラリと横目で萩原さんを見ると、ビクビクと涙目になりながら震えていた。美希はそんなの関係ないって感じで大きなあくびをしていた。萩原さんもここまでしろと言わないがもう少し堂々としてほしいよな。
「じゃあ俺は隅っこで見てるんで、なにかあれば声かけてください」
「え? プロデューサーはレッスンしないの?」
「なんで俺がレッスンする必要があるんだよ……」
美希に軽くツッコミながら隅にちょうど置いてあった椅子に腰かける。
さて、初めての合同レッスン、じっくりと拝見させていただきますか。
「はいストップ! 萩原さん。今のところもう一度」
「は、はい!」
レッスン開始から約2時間が経過した。
萩原さんは【私はアイドル】の振り付けにかなり苦戦しているようだ。どうやらステップが少し遅れているらしい。
「はいストップ。萩原さん。もう一度やってみて」
「ううぅ……美希ちゃん何度もごめんね」
「雪歩どんまい! 気にしないの!」
とまぁ、こんな感じでトレーナーさんに止められて、萩原さんが美希に謝り、美希が励ますというのがずっと続いている。
萩原さんも同じところで何度も止められるのがさすがに苦痛になってきたのか、涙目になって今にでも泣きそうだ。
「はい。一旦休憩にしましょうか」
萩原さんが泣く5秒前まで差し迫ったところで、休憩が入る。
それを聞くなり萩原さんはふらふら〜と力なくその場に座り込む。
まあ何とか耐えきったが、2時間でこの調子だと後がもの凄く心配だな。美希は1人でさっきの振り付けを踊ってるし全然余裕そうだ。
ちょっと萩原さんに声かけてみるか……俺は椅子から立ち上がると、
「プロデューサーさん。少しよろしいでしょうか? できれば外で」
萩原さんのところに辿り着く前にトレーナーさんに呼び止められた。
すまん、萩原さん……後で必ず行くから。と心の中で謝り、トレーナーさんと共にレッスンスタジオを後にした。
「2人はどんな感じです?」
扉を閉めると、俺は真っ先にそう訊いた。
「美希ちゃんは今のところ問題ないです……ただ、萩原さんは少し心配ですね」
うーん。やはり萩原さんか……まあ、さっきの様子を見てなんとなく分かっていたが……
「プロデューサーさんは美希ちゃんのダンスを見るのは初めてですか?」
「ええまあ。俺は一応、萩原さんのプロデューサーですから、他の子のレッスンしてるところはまだ見たことないですね」
「そうですか……。私は美希ちゃんのレッスンを何度か担当したことがあるんですが、美希ちゃんは運動神経もいいし、一度指摘したところはすぐに直すことができてしまう子です」
確かにさっきのレッスンでも同じところで止められることはなかったな。意外に何でもできちゃうタイプの子なのか。
「もちろん萩原さんのレッスンも何度か担当しています。彼女は自分に自信が持てないせいか、何度も同じ失敗を繰り返す癖がありますね。さっきのレッスンもその悪い癖が出ていますが……今日のミスはそれだけじゃない気がします」
「え……他に何かあるんですか?」
訊いてはみるものの、俺にも一つ心当たりが……ずばりこのライブにあまり乗る気じゃないことだ。そりゃまあ、萩原さんの苦手な男ばっか来る場所でライブなんてしたくない気持ちは分かる。
けどレッスンも始まったことだしそろそろ覚悟を決めてほしいと俺は思う。が、萩原さんはそれができず、何度も失敗を繰り返してしまうのだろう……というのが俺の見解だ。
「美希ちゃんの存在です」
しかしトレーナーさんは意外な人物の名前を出した。
俺には美希の存在が萩原さんのレッスンにどう影響しているのかさっぱり分からん。
考えている間に、トレーナーさんは話を続ける。
「はっきり言いますが、実力では美希ちゃんの方が圧倒的に上です。同じ頃にデビューした萩原さんもそれはわかっていると思います。だからこそ、美希ちゃんの存在自体が萩原さんの重荷になっていると私は思うのです」
こんなダメダメな私が何でもできちゃう美希ちゃんと組んでいいんでしょうか……? なるほど、萩原さんが考えそうなことだ。
「足を引っ張りたくない思いが、余計に萩原さんを空回りさせてるんですね」
「はい。まさにそのとおりだと思います。それに、美希ちゃんも萩原さんがミスを繰り返すたびに、合わせるようになっています」
「つまりダンスの質自体が落ちてきていると…‥?」
「はい。このままではますます悪い方向へ向かう一方でしょうね……」
ふむ。トレーナーさんが言った通りだとしたら、このまま見過ごすわけにはいかないな。
けど2人の本心が分からない以上、推測だけでものを言うことはできない。ならちょっと時間を借りて2人に話でもするか。
「ちょっと俺に時間をいただけませんか?」
「わかりました。2人のことはプロデューサーさんにお任せします」
「ありがとうございます」と俺は頭を下げてからレッスンスタジオに入り、2人の元へと向かう。
……とりあえず萩原さんに話を聞いてみるか。
「萩原さん。ちょっといいか?」
「あ、はい。なんでしょう?」
休憩して少しは落ち着いたようだな。顔色もだいぶよくなっている。
「レッスン、どんな感じだ?」
萩原さんの隣に座り、まずは感想を聞いてみることにした。
「えっ……と、自分で言うのもあれなんですが、全体的にダメダメですね……良いところが一つもないです」
「そ、そうか。もしかして、美希と一緒にレッスンして緊張してるのか?」
「はい……こんなダメダメな私なんかと組んで、それに足まで引っ張って……美希ちゃんには申し訳ないですぅ」
まぁ、祭りに参加したいって言い出したのは美希だからそこまで気にする必要はないと思うが、やっぱりどうしても意識してしまうようだな。
「なるほどね。あ、ちなみに聞くが、ライブしたくないって思ってるとかない……よな?」
「ライブはしたいです。男の人がいっぱい集まってくるのはちょっと気になるけど……いつまでも逃げるわけにはいかないですから」
どうやらある程度は覚悟できているようだ。
それに苦手を克服しようとする前向きな姿勢もみられる……となると、やはりトレーナーさんが言ってたように、美希の存在が萩原さんに何らかの影響を出しているのか……
「でもレッスンが全然上手くいかないんで……ライブがちゃんとできるか心配です」
「まだ練習してから2時間しか経ってないし、これから良くなってくるさ」
「でも……美希ちゃんと比べるとちっとも良くないです。このままで本当に大丈夫なのかな? そもそも私が美希ちゃんと組むより、美希ちゃん1人でライブやった方がいいんじゃあ…‥? なんてことを考えてしまいますぅ〜」
おいおい。美希1人でライブなんてしたら意味ねぇじゃん。つか、やっぱかなり美希を意識してるな。
さっきから俺と話ながらもチラチラ美希の方見てるし。
「萩原さん。そこまで美希のことが気になるなら、一度別々で練習してみないか? それなら美希のこと気にしなくていいしな」
「え……? あ、はい。今はその方がちょっと良いかもしれないです」
「決まりだな。じゃあちょっと美希に話してくる」
そう言って俺は少し離れた場所でさっきの振り付けの練習をしている美希の元へと向かう。
「美希、調子はどうだ?」
美希に声をかけると「あ、プロデューサー。ミキは絶好調なのっ!」と、元気よく答えた。
萩原さんもこのくらい元気よく答えてくれるといいだがなぁ。
『プロデューサー殿! 萩原雪歩は今日も絶好調でありますっ!!』こんな感じか? いや、どこの軍人だよ。
「絶好調でなによりだ。ついでに聞くがさっきのレッスンはどうだった?」
「う〜ん。ミキ的には、実力の2割も出してないって感じかな? でも雪歩が頑張ってるからミキは雪歩のペースに合わそうって思ってるの」
……おぉ、トレーナーさん。あんた凄いよ。見事に的中してるぞ。
「いや、萩原さんのペースに合わせる必要はない。俺的には全力でやってもらいたいな」
「え? ミキが全力出したら……雪歩大丈夫かな?」
「ああ。その代わり、まずは1人ずつレッスンすることになる。だったら萩原さんに気を使わなくてもいいだろ?」
「なるほど、分かったの。じゃあ休憩が終わったらミキが先に練習するから、プロデューサーはちゃんと見ててね☆」
「分かったよ。じゃあ、そろそろレッスン再開するか」
俺はトレーナーさんに萩原さんと美希を一旦別々でレッスンしてほしいと提案すると、トレーナーさんは快く引き受けてくれた。
そして休憩が終わり、萩原さんと俺は振り付けの練習をする美希を互いに無口なまま、ただ美希が踊る姿だけを見ていた。
いや、無口っていうか、言葉が出なかった。
美希の才能溢れるダンスに、そして楽しそうに踊り続ける美希の姿は普段ダラダラしている美希とはまるで別人で、俺は言葉を失ってしまった。
「あ、美希ちゃん。ちょっと早いわね。もう一回」
ここでようやく美希がトレーナーさんに止めらた。
俺は見入ってしまった美希の姿から目を逸らし、隣で同じく無口なまま美希のことを見ていた萩原さんに目をやると、
「あ……」
「おぅ……」
同時に萩原さんも俺の方を見たのか、目がばっちり合ってしまった。
いや、別に気まずくはないんだけど……
「どうだ? 美希のダンスは?」
なので普通に感想を聞いてみた。
「その……何度か事務所のみんなとレッスンした時に見てますが……それでも言葉が出ないですぅ」
なるほど。俺も同意見だ。
「そうだな。今はそれでもいいが、いつかは美希をも超えるアイドルにならないとな」
「ええっ!? そんなの無理ですよぉ〜」
うるうると目に涙を溜めながらブンブンと首を振る萩原さん。
無理だと即答せすせめてもう少し……まぁ、無理もないか。
俺がもし萩原さんと同じ立場なら、美希を超えることなんか考えもしないだろうな。
「すぐにでも超えろって言ってるわけじゃない。けど、トップアイドルになるまでの目標として、考えてもいいんじゃないか?」
「目標ですか……でも、私にそんなことできるでしょうか……?」
「大丈夫だ。そのために俺がいるじゃないか」
そう言って俺は萩原さんの頭を優しく撫でる。
「プロデューサー……私、ダメダメですが、プロデューサーがいれば、大丈夫な気がしてきました」
「よし。その意気込みでレッスンもばっちり決めてこい」
「はいっ! 了解であります!」
おいおい。キャラ変わってるぞ。
「そろそろ交代しますが、そっちは大丈夫ですか?」
萩原さんと話している間に美希のレッスンが一段落したようだ。さて、いよいよ萩原さんの番だな。
「大丈夫です。萩原さん、行ってこい」
萩原さんは力強く頷くと、トレーナーさんの元へと向かった。
それからしばらく、萩原さんは苦戦しつつも何とか無事レッスンを終えたようだ。同じ失敗を繰り返すのもさっきと比べるとだいぶ少なくってきたし、今日はそれだけも大きな進歩だろう。
本番までまだ少し時間はある。焦らずしっかりやっていこう。
こうして1日目のレッスンが終わり、レッスンスタジオで解散した俺はそのまま事務所へと足を運んだ。
〜雪歩side〜
ライブに向けてのレッスンが終わり、私はトボトボと家に向かう。
今日は全然ダメだったなぁ。美希ちゃんの足を引っ張ってばかり、私の方が年上だからしっかりしないといけないのに……
ううん。年なんか関係ないよねぇ……だって美希ちゃんの方がダンスも歌も上手だし、身体もこんなちんちくりんな私なんかと比べると……
ううぅ。余計なこと考えてたらまた自信がなくなってきちゃったよ……どこか落ち着けるお店でも寄って気を紛らわせようかなぁ? まだそんなに遅くないよね。
「あ、あれ? ケータイ忘れてきちゃった?」
鞄の中にケータイがない。はううぅ〜、今日はついてないなぁ〜。
私は慌ててレッスンスタジオへと向かう。あ、良かった。まだ明かりが点いてるから中に誰か居る……
そぉ〜と、扉を開けて中を覗くと、
「えと……次のステップがこうで……あはっ、なんだかこっちの方がいいかも」
美希ちゃんが1人で残ってさっきの振り付けを練習してる……そういえば私がここを出るときももずっと練習していたよね。
「あれ? 雪歩? おかえりなさいなの」
「え、えへへ……ただいまです。ちょっと忘れ物しちゃって」
練習の邪魔しないようにそっと行こうと思ったんだけど、美希ちゃんに気づかれちゃった。
「ごめんね。練習の邪魔しちゃって」
「気にしなくていいの。ミキも眠くなってきたし、そろそろ帰ろうと思ってたところなの……あふぅ」
「ふふ。美希ちゃんって、いつも眠そうだよね。家でちゃんと寝てないの?」
「う〜ん。動画とかで他のアイドルの子がステージで踊ってるのを観てたりしたら、あっという間に時間が過ぎちゃうの」
「そうなんだ……美希ちゃんってそういうの観たりして勉強してるんだね」
「勉強っていうほどでもないけど、アイドルの子がキラキラしてるところを見たら、ミキもいつか大っきなステージでキラキラしたいなぁ〜って思うの。けど今はのんびり活動したいし、大っきなステージに立つのはまだ先でいいかなぁ? 雪歩はそういうのに憧れたりしないの?」
大きなステージか……いつかはそこで歌ってみたいって気がするけど、半年も活動してまともに活動ができてない私に、大きなステージで歌いたいなんておこがましいよね。
「私はまだ全然活動できてないから、そこまでは考えたことないかな? それに私なんかが大きなステージに立つことなんか、きっとこの先も無理だと思うし……」
「そうかな? ミキ的には雪歩もいつかは大きなステージで唄うことができるって思うな」
「無理だよぉ〜。こんなダメダメな私なんかのために来てくれるお客さんなんか居るわけないし……」
「そう言って、最初から諦めてたらなんにもできなくなっちゃうよ? ミキはもっともっとポジティブに考えた方がいいと思うの」
ポジティブに考える……いつもネガティブに思考になってしまうのは私の悪い癖って自分でもよく分かってるつもりだけど……
「それにね、ミキは自分だけ大っきなステージに立つんじゃなくて、雪歩と一緒にステージで唄ったり踊ったりしてみたいの。もちろん765プロのみんなも一緒にね☆」
「美希ちゃん……」
美希ちゃんがそんなことを考えてたなんて思ってもみなかった。それに私だって、765プロのみんなとステージに立つなんて考えたことなかったけど……いつかそんな日が来ると、私も嬉しい。きっと今より色んな経験ができて、楽しいこともいっぱい増えるよね。
だったら私は、ここで諦めたくない。
「ありがとう。私、明日からもっと頑張ってみる。美希ちゃんと同じぐらい踊れるように、私なりに努力するね!」
「あはっ。ミキも一緒に頑張るから、今度のライブ、絶対成功させようね」
「うん。また明日から、よろしくね。美希ちゃん」
美希ちゃんも一緒に頑張ってくれるなら、私にもできるよね? 今すぐには美希ちゃんに追いつくことなんかできないけど、これからもっと練習していけば、きっと大丈夫だよね。
「そういえば、雪歩。プロデューサーに頭撫でられてたよね〜?」
いきなり美希ちゃんがニヤニヤしながらそんなことを言ってきた。
「ええっ!? 美希ちゃん見てたの??」
「うん。ばっちり見てたの!」
「ううぅ……なんか急に恥ずかしくなってきちゃったよぉ〜」
今更だけど、プロデューサーに頭を撫でられたことに恥ずかしくなってきた私。
けど、あの大きな手はどこか優しくて、温かくて、まだ私の頭にはその温もりがほんの少し残っていた。