アイドルマスター@萩原雪歩   作:ゆきぽPさん

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2歩目:伝説のプロデューサー

 

「無理です」

 

 考えもせず俺は、はっきりそう言ってやった。

 

 まず第一に会ったばっかの奴に向かっていきなりプロデューサーになってほしいとか非常識すぎだ。

 

 いや、段階を踏んでいたとしても俺はプロデューサーになる気なんてない。

 

 3年前、俺はこう誓ったのだ。

 もう二度とプロデューサーなんてしないと。

 

「た、頼む! 765プロには12人のまだデビューして半年ぐらいのアイドルがいるわけだが。どうもパッとしなくてねぇ〜」

 

「いや、知りませんよここの事情なんて。俺はアイドルにもプロデューサーにも興味ありませんから……てか放してください!」

 

 俺の肩を力強く掴んだ手を引き剥がそうとするが……力強すぎだろ! 全然離れねぇ!

 

「765プロには君が必要なのだよ! 音無くん! 例のものを!」

「はいっ! 光の速さで素性を調べました!」

 

 バタン! と、ドアを蹴るように中に入ってきた女の人は社長に紙束を渡す。この人もグルだったのかよ! てかなんで俺の素性を勝手に調べてるんだよ!?

 

「ふむふむ……な、なんと! 彼は3年前にアイドルをプロデュースしているじゃないか!」

 

「はい社長! 彼は僅か半年で無名のアイドルをトップクラスのアイドルに育て上げた伝説のプロデューサーです! 突然業界から姿を消して音沙汰無しでしたが……彼はここにいるんですよ!」

 

「あ、あの……。俺はもうプロデューサーになんてならないんで」

「音無くん。さっそく契約書類を用意したまえ」

「はい社長!」

 

 駄目だ……取り付く島もないって感じだ。

 不本意にも素性がバレてしまったので、俺は観念したかのようにため息を吐くと、3年前に何があったのか話すことにした。

 

「3年前……俺は……」

 

「よし! ではさっそく我が765プロのプロデューサーとして働いてもらおうではないか!」

 

「聞けよ人の話!」

 

 まあまあと言いながら女の人に背中を押されて無理やりソファに座らされた俺には、めちゃくちゃすぎて抵抗する気力も完全に失せていた。

 

 もうどうにでもなれって感じだ。

 

「さて、さっそくだが君には765プロに所属する12人の女の子をプロデュースしてほしい……と言いたい所だが」

 

 向かいに座った社長は傍らに立っている女の人から何やら資料を受け取ると、それを俺の目の前にそっと置いた。

 

「君には雪歩くん専属のプロデューサーとして活動していただきたいのだよ」

 

「雪歩くん? もしかして手帳を落として行った人ですか?」

 

 資料の右上の顔写真は手帳に入っていた写真と同じ顔していた。

 なるほど……12人も居てこの子だけの専属プロデューサーになってほしいということは、それなりの事情があるわけだな。

 

「はい。手帳の持ち主の雪歩ちゃんはみんなと同じ頃にデビューしたんですが、雪歩ちゃんの弱気な性格もあってなかなか仕事が上手くできないんですよ。あ、今更ですが私、765プロで事務員をしている音無小鳥といいます。よろしくお願いしますねプロデューサーさん♪」

 

 今更すぎだが自己紹介をされ、さらにはプロデューサーさんと言われてもう逃げられないと俺は悟りましたとさ。

 

「私は765プロの社長。高木順二郎だ」

 

 と、さり気なく自己紹介する社長。

 もう順序がバラバラすぎてツッコむ気力がない俺。

 

「で、この萩原さんをプロデュースするからには落ちこぼれからトップアイドルにしろってことですよね」

 

「なかなか話がわかるじゃないか。そのとおりだよ。雪歩くんを君の手でトップアイドルに育て上げてほしい。君の腕を見込んでのお願いだ」

 

 そのお願いを断るとさっきみたいに強制的に萩原さんのプロデューサーにする気だろう。音無さんのニコニコしている顔がそれを物語っている気がしてならない。

 

「はぁ。わかりましたよ。約束はできませんが萩原さんをトップアイドルにします。但し一つだけ条件が……」

 

「本当か! いやぁ君なら絶対そう言うと思ったよ! さっそく明日から雪歩くんのプロデューサーとして一つ、よろしく頼むよ!」

 

 バンバンと俺の肩を叩きながら喜びの声を上げる社長。

 いやもう、あなたはもう少し人の話を聞くということを覚えて下さい。さっきから肝心なところを全部スルーする社長を見て俺は心からそう思いました。

 


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