アイドルマスター@萩原雪歩   作:ゆきぽPさん

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プロローグ

 

『本日のゲストは765プロダクション所属、天海春香さんです!』

 

『こ、こんばんわ! 天海春香といいます! 今日はよろしくお願いします!」

 

『はい。今日は期待の新人アイドル特集なので、天海さんにはこれからアイドルになったきっかけなど、色々なお話をしていただきます! 最後には歌も唄っていただたくのでみなさんも最後までお見逃しのないように!!』

 

 

 

 バイト帰りに毎週欠かさず観ている深夜の音楽番組。今週はどうやら新人アイドル特集らしい。

 

 カップ麺をすすりながら明らかに緊張している新人アイドルをボーっと眺める。

 

 トークも噛み噛み、司会の返しに上手く反応できていないところを見ると、この後の歌がどうなるんだと観てるこっちが心配になるぐらいひどい。

 

 ていうかよくこれで収録通ったな。放送していいレベルじゃないぞ。

 

 ま、この番組もなんで打ち切りにならないんだと疑ってしまうほどの雑な番組で、たまにそれなりに売れている歌手がゲストで出るぐらいしか魅力のない番組だが。

 

『はい。天海さんの魅力をたっぷり聞けたところで、そろそろ歌行ってみましょうか!』

 

『は、はい! どうかよろしく……ってきぁぁぁああ!?』

 

『あ、天海さん!? 大丈夫で……』

 

 新人アイドルが派手に転び司会者が慌てて駆け寄ったところで俺はテレビの電源を切り、布団に入る。

 

 明日は朝からバイトだ。こんなグダグダな番組のせいで遅刻するわけにはいかない。

 

 ま、それでも毎週観てしまうのは元はこの業界で働いたせいでもあるわけで、その名残りで少し気になってしまうからだ。

 

「プロデューサー」

 

 3年前、俺はアイドルの子にそう呼ばれていた時代もあったわけだが、今は誰も俺のことを『プロデューサー』なんて呼ぶ人はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プロデューサーを辞めてから俺は定職に付けず、バイトで生計を立てる毎日が続いた。

 

 コンビニでレジの前に立ってたまに会計をする簡単な仕事だ。

 

「150円になります。このままでもよろしいですか?」

「ひぃ、あ、あの……。ふ、袋に……」

「え、すいません。よく聞こえないのですが……??」

 

 今レジの前に立っている客は何故かビクビクと怯え、顔も下向いて声も小さい。

 俺は普通に対応しているはずなんだが……。てか、さっさと決めてくれ、後ろで待っている奴がめっちゃ不機嫌そうだ。

 

「あ、あの……。このままお渡ししますね」

 

 しびれを切らした俺はシールだけ貼って客に渡そうとしたが、

 

「ひぃぃ! ご、ごめんなさあぁぁい!!」

 

 差し出したお茶を無視して客は、脱兎の如く店から出て行った。

 

 その後ろ姿をポカーンと眺めるしかない俺。わけがわからん。俺が一体なにしたんだ?

 

「おい、早くしてくれ」

「あ、すいません。お預かりします」

 

 逃げた客の後ろで待っていた奴が急かし、俺は深く考える暇もなかった。

 

「ありがとうございました」

 

 一通り会計を済まし、逃げた客が残したお茶を手に取る。

 どうするんだよこれ。お金払ってなかったらこのまま元の場所に戻せるが、払ったとなると話は別だ。

 

「はぁ。とりあえず店長に相談するか」

 

 外でダラダラ掃除ばかりしている店長の元へ向おうとした時、ふと自動ドアの下で何かが挟まっているの物を発見し、手に取る。

 

 おいおい。落としの物もあるのかよ。拾った物はピンク色の手帳。まさかと思うがさっき逃げた奴が落としたわけじゃないだろうな。

 

 一応、中を開けて確認する。そして一番先に目に入ったのは『765プロダクション萩原雪歩』と書かれた名刺。そして、その名刺の後ろに挟まった顔写真を凝視する。

 

 ……さっきの子だ。下向いて顔をしっかり見ていないが、雰囲気がどこかこの子に似ているような気がする。

 

 俺は手帳を閉じ、お茶と共にレジのそばに置いた。

 この手帳を落としたことに向こうが気がつけば、そのうち取りに来るだろうと思ったからだ。

 

「それにしても、765プロダクションて……まさかな」

 


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