闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

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 お待たせしました。七話です。
 梁山泊式の修業描写は書いてて楽しいですね!
 「落第騎士の英雄譚」最新刊のおかげでストック全部ボツだよ! 一万文字近く書き直しだよ! やったね!


七話 大変! パパが来た!

「その組織ってのは……“闇”、そして“暗鶚衆”だ。」

 

「なんだってそんな……」

 

 “闇”、それは第二次世界大戦によって多くの武術の達人が失ったことから武術を失伝させないことを目的に創られた組織。武術の本質は“殺人”にあるとし、“活人”を掲げる梁山泊とは対極に位置する。その規模は大きく姿無き一国とまで言われている。

 そして“暗鶚衆”とは古くより優れた血統を掛け合わせ優秀な人間を作り出す。そのような事を現代まで続けてきた集団の名だ。歴史が動く時、必ずと言ってよいほどその名がささかれ、その実力はたった一人で数個師団に匹敵するとさえ言われている。

 梁山泊の達人、『風切り羽』の風林寺美羽もまた、この暗鶚の血を引いている。

 

 いずれにせよ表の世界に住んでいれば普通は関わることがないの組織だ。

 

「こうなったら、あの作戦で行くしか……」

「あの作戦?」

「昔、闇が動き出した時にうちの師匠達がたてた作戦だ」

「ほほう、どんな作戦なのか策士としては気になるところだな。何て言う作戦なんだ?」

「その名も……“なりゆきまかせ大作戦”だ!」

 

「それは最早作戦でもなんでもねえ!!」

 

=== 

 

 土曜日。ついに父さんが梁山泊に訪問する日がやってきた。

 

 ちらりと後ろを見てみると父さんが、前を見れば相変わらず異様な威圧感を放つ梁山泊の門がある。

 

 師匠はなるようになるって結構お気楽に考えてるみたいだけど……本当に大丈夫なのかな?

 

「優一、ここが?」

「うん、ここが梁山泊。僕が通っている道場だよ」

「なるほど、ここが…………」

「?」

「じゃあ、早速入らせてもらおうか」

 

 そう言って父さんは門に手をかける。

 

「あ、待って! 梁山泊の門は凄く重い……か、ら……」

「どうかしたかい?」

 

 かなり重たい筈の梁山泊の門、それを父さんは易々と開けた。

 信じられない。父さんは師匠達とは違う一般人の筈なのに。

 

「ううん、何でもない」

 

 そうだ、今日は僕が武術を続けることが出来るか出来なくなるかの分かれ道。しっかりしないと。

 

 

 いつものように道場に行くと師匠と大師匠達が待っていた。いつもにこやかにお出迎えしてくれるアパチャイさんがいないからどうしたのかなって思ってたけどそういうことだったんだ。

 

 入門したときみたいに道場の畳の上には机と座布団が置いてある。

 

「じゃ、僕は着替えてきます!」

 

 そう言って僕は道場の裏手に走っていった。

 

===

 

「はじめまして、優一に指南している白浜兼一です」

「どうも、優一の父の優蔵です」

 

 お互いに深々と頭を下げる。

 

「粗茶ですが」

「あぁ、ありがとうございます」

 

 お茶を運んできた美羽に礼を言い、兼一に向き直る。

 

「本日、ここを訪問させたいただいたのは他でもありません。ここ最近、優一がボロボロになって帰ってくるのです。その原因はこの道場での修業だとか……優一をただ痛め付けるだけのような修業なら止めさせようとも考えています」

 

「分かりました。お父様の前で特別授業などさせるつもりはありません。どうぞ、いつも通り(・・・・・)の修業を見てください」

 

「師匠ー、着替え終わりましたー!」

 

 視線を向けると新白のマークがついた道着を着た優一がいた。

 

「ちょうど良いタイミングだ。早速修業を始めようか。折角お父様が来ているんだし、手なんか抜けるわけが無いよね!」

「え?」

 

 目を光らせた兼一が一瞬で優一のすぐ目の前まで移動し、道着の襟を掴む。

 

「さ、まずは受け身からだよ!」

「ちょっとまだ心の準備がー!!」

「実戦では心の準備なんかする間は無いよ! ほら、横受け身!」

 

 回る世界、続く衝撃。

 回る世界、続く衝撃。

 何の前フリもなく突然始まった受け身の修業に優一は対応しきれず投げられて投げられて投げられまくった。

 

 それを見て目を点にする優蔵。

 だがこれはまだ序の口だった。

 

 

「ふんっぬぅうううう!!!」

 

 かれこれ千回以上投げられた後、次は投げだと『投げられ地蔵ぐれ~と』なる石の地蔵を投げる修業が始まった。人とほぼ同じ大きさの石を投げるのだ。そう簡単に投げられる筈がない。何度か足を滑らせて投げられ地蔵の下敷きになりながらも奮闘する。

 

 

「あの……これって何ですか」

「優一専用の強制基礎体力増強まっしーん、『走って走って落ちればジゴク2号』だよ。優一は運動神経は良いんだけど基礎体力は無いからね、基礎体力をつけるには走るのが一番!」

「1号は……?」

「………………それじゃ、いってみよー!」

 

 極めつけは兼一原案、設計秋雨、資金、材料提供新白連合の元作られた逆円錐形のナニか。

 これはアリジゴクの巣を模した形状をしており、その表面は回転するローラーが無数に付いている。その上を走ればローラーが回り、底の煮えたぎるお湯が入った金属製の風呂桶に滑り落ちるようになっている。

 しかもローラーの一つ一つが発電機になっていてお湯を沸かすガスも電気を必要ない優れものだ。

 ちなみに1号は試運転のときに爆発した。

 

「一番上まで行ったらおしまいだからね、がんばれ」

「熱! あつ、あっづい! な、何て言ったんですかー!」

 

 とはいえやる側としては大問題、ぐらぐらと煮えたぎるお湯で火傷したくないから常に斜面を走るしかない。だが、走れば走るほどローラーの回りは早くなり底に滑り落ちる。

 そしてついに……ドボンと足がついてしまう。

 

「ぎゃああああ!!!」

 

===

 

 壮絶な修業を見て放心していた優蔵だったがはっと意識を戻し、隣で『走って走って落ちればジゴク』の中で手足を使って斜面を駆け上がろうとしている優一を見ている兼一に(たず)ねる。

 

「優一は、何故このようなことを?」

「悪い奴等からみんなを守るため、自分が正しいと思ったことを成すために力がいる。そう言ってボクに弟子入りを懇願してきました。

 そしてボクはそれを受け入れた。今はまだ基礎の段階ですが、いずれはボクの持つすべてを伝えたい、そう思っています」

「そう、ですか……」

 

 優蔵は眼鏡を取り、呟く。

 

「優一が自ら進んで武の道を行くというなら止める理由は無いか。まさか叩いた門があの梁山泊だったとは驚きだが。

 本当は、優一にはこちら側には来てほしくなかったのだが……自分から来たのなら文句は言うまい」

 

 “こちら側”、この目の前の男は確かにそう言った。

 

「やはり貴方も……」

「ええ、詳しい話は修業が一段落ついてからで」

 

「ぐぐぉ……もう、少し、で……え? 何で端に油が塗ってあるんですかー! 熱ぅっ!?」

 

===

 

 なんとか『走って走って落ちればジゴク』から脱した優一が道場に用意された座布団に座る。

 道場は静かで、重い空気が満ちている。その空気の発生源はいわずもがな、梁山泊の豪傑達である。

 

 『無敵超人』風林寺隼人

 『哲学する柔術家』岬越寺秋雨

 『あらゆる中国拳法の達人』馬剣星

 『裏ムエタイの死神』アパチャイ・ホパチャイ

 『ケンカ百段の空手家』逆鬼 至緒

 『剣と兵器の申し子』 香坂 しぐれ

 『風斬り羽』風林寺美羽

 『一人多国籍軍』白浜兼一

 

 この八人の達人の前に優一とその父、青井優蔵、そして優一が座る。

 

「では、改めまして。私は優一の父、青井優蔵。そして“元”闇の達人、『剣皇武龍』と申します」

 

 優蔵が名乗るとざわっと空気が変わった。彼を見る目が変わったと言うべきか。

 優一にはこの意味が分からずキョキョロと首を動かして師や父を見るが誰も気に止めない。それどころでは無いのだから。

 

 兼一達が驚くのも当然だろう。『剣皇武龍』とは裏の世界ではあまりにも有名な、それこそ“闇”の『一影九拳』や『八王断罪刃』と並ぶほどの“真の伐刀者(ブレイザー)の達人”の名なのだから。





油       油
◯優↖     ◯
 ◯一↘   ◯
  ◯   ◯   ◯=ローラー
   熱♨湯
『走って走って落ちればジゴク』簡易図

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