闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

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 ジークとかが大暴走して収拾がつかなくなったので優一の新白連合訪問はまるっとカットです。
 今回から落第騎士要素が増えてきます。


六話 誕生! 新白連合の弟子!!

 

「それじゃあ今日から技の修業に入るよ」

「はい!」

 

 兼一の予定では優一の基礎鍛練に1ヶ月を費やすつもりだったのだが、優一が連合入りをしたことにより早急に技を身に付ける必要ができた。それに当たって予定を繰り上げて技の修業を始めることになったのだ。

 昨日見た隊長陣の弟子の修業に触発されたのもあるが。

 

「ボクが教えるのは空手、柔術、ムエタイ、中国拳法の4つの武術。今日はムエタイからいってみようか」

「ムエタイですか? 確か立ち技最強なんて言われてる武術ですよね」

「その通り、よく知ってるね」

「はい、弟子入りした時から師匠の武術について頑張って調べましたから!」

 

(本当に良い子だな、優一は)

 

 伐刀者(ブレイザー)という圧倒的強者がいるこの世界で剣術などの武器術ならともかく無手の武術について調べるのはそう易しくない。パソコンや本に噛り付いている様子を想像して口元がわずかに緩む。良い弟子を持ったと兼一は思うのであった。

 

「じゃあ成り立ちとかの話は大丈夫かな、早速基本の構えからやっていこうか」

「はい!」

 

===

 

「これでムエタイの基本的な技は全部だ。後はこれらの型をそれぞれ一千回やっていこうか」

「一千回⁉」

「ん? 少なかったかな? なら一万回でも……」

「いえ、やります。一千回」

「そう? じゃあボクは花壇に水をやってくるから何かあったら呼んでね」

「はい」

 

 そう言って兼一は花壇の方に歩いていく。彼が弟子時代から始めた梁山泊の花壇には四季折々の花が咲き誇り、梁山泊に来た客が思わずため息をついてしまうほどの美しさがある。最近はハーブ系にハマっているらしく花壇で採れたバジルなどが食卓に混じっていることもある。

 

 話が逸れた。

 

「シッ、シッ、シッ」

「脇と顔のガードが甘いんじゃな~い?」

 

 兼一に言われた突き(トイ)の形を意識しながら型を繰り返していると横合いから声をかけられた。

 

「あ、武田隊長。し~んぱく!」

「あ、あぁ……。昨日1日で随分と宇宙人に毒されたね……」

 

 声の主、新白連合の隊長の1人でありボクシングの達人。兼一の友人にしてライバル、『突きの武田』こと武田一基に足を肩幅に開き、左手を腰の後ろに回した状態で右手を体の前でぐるんと回した後左胸を叩き、ビシイッと前に突きだす新白連合の挨拶をする。昨日1日で新島直々に叩き込まれたそれの完成度は非常に高い。

 

「パンチをするときはもう少し脇を閉めて腰の回転を使って打つ! 顎は左肩でガードして右拳で顔面もガードするんだ」

「こうですか?」

 

 武田に言われた通りに突きを放つ。

 するとビュッと強く風を切り裂く音がした。

 

「そうそう、中々上手いじゃな~い」

「武田さん、それはボクシングの左ストレートじゃないですか。いつの間に……」

 

 水やりを終えて戻ってきた兼一が優一の突きを見て言う。

 

「やぁ兼一君。この子、中々筋が良いね。僕の弟子にしたいくらい」

「冗談は()してくださいよ」

 

「いや、冗談じゃなくて本気だよ」

 

 武田は真剣な眼差しで見つめる。相手の心を読む技を身に付けている兼一にはその目から武田が冗談で言っているのではなく本心であることを確信した。

 武田は兼一と肩を組み、耳元で言う

 

「別に彼を兼一君から盗ろうってわけじゃない、兼一君が教える空手、柔術、中国拳法、ムエタイの4つの武術に僕のボクシング、キサラちゃんのネコンドー、トールの実戦相撲、ジークの楽想記号の4つの武術も教えるんだ」

 

 つまり兼一が梁山泊最強の弟子なら優一を新白連合最強の弟子にするということか。

 

「待ってください、そんな八つもの武術を同時にするなんて」

 

「才能が全く無いにも関わらず、4つの武術を同時に学び、そして極めた君がそれを言うのかい?」

 

「それは……」

 

 何も言えない、言えるはずがない。何故なら自分が複数の武術を学び極めることが出来るということの証明そのものなのだから。

 

「…………」

 

 ちらりと優一の方を見る。

 

 新白連合最強の弟子、確かに興味が無いわけではない。だが、もしやるとなるとその修業は苛烈を極める。8つの武術、いや兼一が使える風林寺の我流や対武器用の技も合わせると10か。それだけの武術を身に付けるとなると修業の内容は最初から死んだ方がマシだと思えるようなものになるだろう。

 

 だが、それがどうした(・・・・・・・)。尊敬する師匠達はその程度のことで足を止めはしなかった。悩みはしなかった。

 

──難しいことは殴ってから考えろ!

 

 師匠の言葉が脳裏をよぎる。まずはやってみないことには始まらない。

 

「ボクもまだまだ未熟だなぁ」

 

 己の武術家としての未熟を感じながら呟いた。

 

「いいですよ、作りましょう。新白連合最強の弟子を」

 

===

 

「と、いうわけでこれから優一の師匠はボクと新白連合の隊長達になったから」

「はい! …………はい?」

「これから修業がちょっと厳しくなるから、覚悟しといてね」

 

(ちょっとじゃない、あの目は絶対ちょっとじゃない!)

 

 優一は達人の崖を転がり始めたばかり、目を光らせて笑う兼一に何も言えず、ただガタガタと震えることしかできなかった。

 

===

 

 翌日

 

 ここは新白連合の所有する建物の1つ、新白連合隊長の1人であり実戦相撲の達人、“発気用意”の4文字が特徴的な袖無しの浴衣を着た偉丈夫。『トール』こと千秋佑馬の相撲部屋。

 そこに、優一はいた。

 

「この世すべての太めの男性のためにぃ!」

 

「「どすこいっ!」」

 

 太い柱を張り手で突く。

 知らぬ間に新白連合に弟子入りしていた優一は現在進行形で相撲の修業中だ。

 「強くなりたい」その一心で兼一に弟子入りを申し込んだ優一はそれが師匠の選択なのならと文句を言うことなく兼一以外の師事を受けていた。

 

「張り手は拳のように潰れることは無い、故に全体重を乗せて放つことが出来る。腕だけの力で打ってはいかんぞ、優一!」

 

「はい!」

 

 トールは続けて優一とは別の“もう一人の弟子”に声をかける

 

「力がまだ地面に逃げている、伐刀絶技を使っているのであればそれで良いのだろうがそれでは実戦相撲は極められんぞ! 恋司!」

 

「はい! トール親方!」

 

 2メートルは軽く越えるであろう巨体の少年、北海道の禄存(ろくぞん)学園1年生。加我恋司(かがれんじ)だ。

 彼は全身を鋼鉄化する能力の伐刀者であり、千秋佑馬(トール)の一番弟子だ。彼の抱く理想に感銘を受け、また、ある男を倒すために実戦相撲を極めんと日々修業中だ。

 

「む、そろそろ時間か。優一、次はキサラのテコンドーだ。行ってこい」

「はぁ、はぁ、はい。ありがとうございました!」

「今度はおらの家で採れた野菜で作ったちゃんこを一緒に食べようか!」

「はい! 楽しみにしてますね!」

 

 豪放磊落(ごうほうらいらく)を形にしたようなトールと兄弟子の加我恋司とは相性が良かったのか、あっという間に仲良くなった。

 新しい友と師に見送られながら優一は相撲部屋を後にするのだった。

 

===

 

 新白連合本部最上階、総督室。

 

 そこに新白連合総督、新島春男はいた。

 本部の建物はアンテナがついたり一部リフォームがなされているがかつての廃墟を改築したもののままだ。現在ではこことは別に新本部とも呼べるビルがあるが隊長たち、連合の幹部が集まったりするときはこの元廃墟のビルが使われている。

この総督室はリフォームした部屋の1つで絨毯やデスクなどどれをとっても安物などない。壁には世界的な画家であるマリオ=ロッソの『偉大なる魔王』という題の絵画が飾られている。世界に名を轟かす大企業のトップに相応しい、格式の高い部屋になっている。

 

「入るぞ、新島」

 

 如何にも高そうな木の扉をノックもせずに開け、世界的大企業のトップ相手に敬意を払う様子も見せずズカズカと部屋の中に入る。この無礼としか言えない態度の人物に新島は大して気にした様子を見せずに軽く手を上げて迎え入れた。

 

「よう、兼一。待ってたぜ」

 

 無礼者、白浜兼一はこれまた高そうなソファーに腰掛ける。

 

「何のようだ、いきなりボクを呼び出して」

「お前を呼んだのは他でもない、お前の弟子、青井優一の事だ」

「やっぱり、お前の仕業か。武田さんが急にあんなこと言うはずないし」

「ヒャヒャヒャ、察しがいいじゃねぇか。その通り、優一を新白連合の弟子にする計画を発案したのは俺様だ」

「まったく……それで、優一がどうしたんだ」

「ラグナレクとの最終決戦の時に俺様が送ったメールを覚えてるか?」

「ああ、勿論。新島らしくも無かったからよく覚えてるよ」

 

 ラグナレク、兼一達が学生時代に戦っていた不良グループ。今は完全に解体されて主なメンバーはその時に新島によって新白連合に吸収、現在の隊長の半数以上は元ラグナレクのメンバーだ。

 

「ボクを中心に武術の総合団体を旗揚げして世の中の虫ケラ人間がどこまで変化できるかの実験場にしたい、だったか」

「その通り、そしてその計画の中心人物に弟子ができたらそれを使わない手はないよな?」

「……なるほど、優一はお前にとって(てい)のいいモルモットというわけか」

「そういうこと…………だったんだがな」

 

 愉快そうな顔から一転、新島の表情が曇る。

 普段温厚な兼一が宇宙人の皮を被った悪魔と評するこの男が自分の策を話している最中に表情を曇らせるなんておかしい。かれこれ15年近い付き合いになるがこんなことは初めてだ。

 

「どうしたんだ?」

「青井優一、アイツについて調べたらどうもきな臭い匂いがしやがる。これを見てくれ」

 

 バサッと兼一にグリップで止められた資料の束を投げ渡す。

 

「優一とその父親がこれまでに住んでいた国だ。一定期間を開けてあちこち移動している。

ドイツ、フランス、中国、ヴァーミリオン皇国、クレーデルラント、ティダード王国、日本、しかもその国の中も転々としてやがる」

「……確かに父親の仕事の関係で世界中を転々としていたとは聞いていたけどこれは流石におかしい」

「俺様もそう思って色々調べてみたんだが……とんでもないことが分かった。

アイツの父親、青井優蔵の戸籍は偽装だ。それに名前だって本名か怪しい」

「何だって⁉」

「それともう1つ、青井優蔵を調べていてある組織の名前が浮かび上がってきた」

「ある組織……?」

 

「お前も関係のない組織ってわけじゃねぇ。その組織ってのは……」

 

===

 

 梁山泊

 

「あら秋雨さん、何をしてますの?」

「ああ、美羽か。これはね、兼一くんに頼まれた“強制基礎体力増強まっし~ん”の設計図だよ」

 

 強制的に基礎体力を増強する。なんとも梁山泊らしい一品に美羽の口から乾いた笑いが出る。

 

「あはは……出来ればあんまり無茶な物にしないで、ですわ」

「兼一くんの要望を忠実に実装しているだけなのだがね……そういえは君はあの子のことをよく気にかけているようだが」

「ええ、まぁ……ちょっと気になることがありまして」

「気になること?」

 

 美羽は少し遠い目をして言う

 

「はい、あの子を見ていると……なんだか懐かしい感じがしますの」

 

===

 

 新島の口からその組織の名が言い放たれる

 

「“闇”、そして“暗鶚衆(くれみさごしゅう)”だ。」

 

 それは、平穏な日常に生きていた筈の優一とはかけ離れた存在の名だった。

 




 いかがでしたか?
 やっと落第騎士のキャラの名前が出てきました。落第騎士本編ではかませ扱いが多い彼ですが私は結構好きです。耕し関連でのっぺりさんも出したいです。

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