闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

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 大変お待たせしました。四話です。今回はオリキャラや我らが総督が登場します。
 し~ん、ぱぁくっ!


四話 新白連合!

“梁山泊”、スポーツ化した武術に馴染めない豪傑や武術を極めてしまった者達が集う場所。

 その梁山泊に住まう達人の一人、『一人多国籍軍』白浜兼一の元に弟子入りしてから一週間が経った。今日も今日とて修業で満身創痍になりながらも家に帰る。

 

「ただ……い、ま」

 

 靴も脱がず家に入ったその場でバタンと倒れる。すると家の奥からエプロンを着た丸眼鏡が特徴的な男性、優一の父親である青井優蔵が歩いてきた。

 

「おや、おかえり優一。そんなところで寝てたら風邪引くよ」

「……………………」

 

 返事がない、まるで屍のようだ。

 しかしこの優蔵、慌てることなく優一の靴を脱がせ、担いで風呂場に放り込む。

 

「しっかり泥と汗を流したら晩御飯にしよう」

「は~い」

 

===

 

 チャプン……と水滴が湯船に落ちる。

 

「いててて、体のあちこちがまだ痛いや」

 

 師匠曰くかなり優しい修業を始めて一週間、未だに技を教えてもらえず基礎トレーニングばかりの日々だけど師匠とその師匠(大師匠)方からは「素材は良い」と褒められた。何故か先生方は「兼一と違って」と連呼していたけど。

 

「はぁ~」

 

 父さんにはまだ弟子入りの話はしていない。過保護なとこがある父さんのことだ、あの修業を見れば卒倒した後で修業を止めさせられる。

 

「けどなぁ……父さんに隠し事はしたくないし」

 

 物心付く前から男手一つで育ててくれた父さんには隠し事もしたくないし嘘もつきたくない。

 どうしたらいいのかと湯船の中で考えていたらいきなり風呂の扉が開いた。

 

「あら、ユウちゃんいたの」

「あ、ねーさん久しぶり~」

 

 入ってきたのは僕が小さい頃から父さんと三人で暮らしいている白銀の髪が特徴的な年齢国籍不詳の(ひと)。あと名前も不明、でも小さいときからずっと「お姉ちゃん」って呼んでいるから別に困ったことは無い。最近は恥ずかしいから「ねーさん」と呼んでいる。ここのところ家に居ないことが増えてきた。

 

「ユウちゃん、背中流そうか?」

「じゃあお願いしまーす」

 

 ねーさんの方からスキンシップをとってくる時は拒否したら実力行使に移る、具体的には一瞬で抱き枕にされる。それはそれはとんでもない速さで逃げる間なんて与えてくれない。しかも文字通り音もなくだ。

 

「傷がたくさんあるけどケンカでもした?」

「いや、それは修業の……あ」

「修業……?」

 

 しまった、口が滑った。

 まずい、ねーさんから父さんにバレる。絶対バレる、今日の晩か明日の朝までには絶対バレる。

 

「…………そう、始めちゃったんだ“武術”。ユウちゃんにはあんまり戦ってほしくなかったんだけどな」

「ねーさん……?」

 

 それからはねーさんは何かを考えるように無口になってそのまま一緒にお風呂を上がった。

 

===

 

 翌日

 

 本日は月曜日。

いつものように学校から梁山泊に直行し、左胸に『新白』のマークが印刷された道着に着替えた優一は兼一を見るなり大きなため息をついた。

 

「はぁ~」

「ボクの顔を見たとたんため息をつくとはどういう了見なのかな?」

「実は……」

 

 優一は今朝の父とのやりとりを話した。

 

 

「優一、最近ボロボロになって帰ってくるけど“武術”を始めたんだって?」

(うぐっ、早速か……)

「うん、といってもまだ筋トレばっかだけど」

「来週の土曜、父さんも一緒に行く。どんな修業をやっているのか見てみたいからね」

 

 ゴゴゴゴゴを不穏な空気を放つ優蔵に優一は「もしウチの息子を痛め付けるだけの所なら止めさせてやる!」と言う龍を幻視した。

 

(だめだ、師匠のあの修業じゃ絶ッッ対に止めさせられてしまう!)

 

 回想終了。

 

 

「なんだ、そんなことか」

「そんなことかって、一大事ですよ!」

「大丈夫、なるようになるさ。じゃ、軽くウォーミングアップに町内を……」

「師匠?」

 

 突然、兼一は塀の上を睨む。優一も兼一と同じ方向を見てみるとソレはいた。

 黒いおかっぱ頭の横から生えたとんがり耳、上から生えた触角のようなナニか、ギラギラと光る目、先が裂けた舌、到底この地球のものとは思えない悪人面をしたナニかだ。

 

「何をしに来た、いや、何を企んでいる! 新島!」

 

 兼一が警戒心むき出しで問うとソレ、新島はケケケケと笑いながら答えた。

 

「決まってんじゃねぇか、おめぇが弟子をとったと聞いてな、俺様の手駒として使えるか見に来たんだよ。ケーケッケッケッケー!」

 

 あまりにも邪悪な笑い声に優一の背筋に寒気が全速力で走り抜けた。

 

「し、師匠、アレ何なんですか⁉」

「ヤツの名は新島春男、宇宙人の皮を被った悪魔で、非常に、ひっじょ~に不本意ながらもボクの悪友だ。いいかい優一、アイツには決して関わっちゃいけないよ、関わったら最後、骨の髄までしゃぶりつくされるから」

「は、はぁ」

 

 兼一の散々な説明にどう反応したらいいのか戸惑ってしまう。とりあえず危険な人物であることは理解した。

 

「そう誉めるなって、ヒャーハッハッハッハー!」

「すぅ……チェストォ!」

「ええええぇぇ⁉」

 

 兼一は新島に向けて正拳突きを放った。兼一の腕の長さでは当たるはずが無いのだが拳の先から衝撃波が発せられ、新島を吹き飛ばした。

 

「ちっ、浅かったか。けど、次は確実に仕留める」

「ちょっ、あの人師匠のお友だちなんですね! てか確実に仕留めるって何物騒な事言ってんですか⁉」

「え? 違うよ、アイツは悪友。それにアレは人間じゃないから殺しても活人的には問題無し!」

「そんなわけ無いでしょー!」

 

 「殺すな、殺されるな。人を活かしてこその活人拳だよ」と兼一から聞かされていたのにそれを真っ向から否定する行いに声を荒げてしまう。

 

「まあそうかっかするなって、何があってもそこの坊主の“新白連合”入りは決まってんだ。遅いか早いかの違いしかねぇ、なら早い方が良いに決まってんだろ。それに連合入りなら坊主の親父さんも悪い顔ほしないと思うぜ」

 

 兼一と優一が話す僅かな時間で門から堂々と歩いてくる新島が言う。怪我らしい怪我も見当たらず塀で隠れていて分からなかったいかにも高そうなスーツには汚れひとつ無い。兼一に吹っ飛ばされたことなど気にもしていないようだった。

 だが、それよりも気になる単語が優一の耳に届いた。

 

「新白連合入り⁉」

 

 『新白連合』とはここ数年で急激に頭角を示してきた財団法人で、若い伐刀者(ブレイザー)や非伐刀者の育成を主に行っており、その中には将来を期待されている者も多い。さらに化粧品やトレーニングウェア、トレーニング機器など幅広い分野で活躍しており、特に新白連合が独自に開発したスポーツドリンク『新白印のスペ~スドリンク』略して『スペドリ』は国際魔導騎士連盟から推奨されるほどで世界中の何処でも見ることができる超人気商品だ。

 そんな新白連合に所属したいという者は数知れず、新白連合入りとはそれだけでアドバンテージとなるのだ。

 

「確かにそうだけど……」

 

 兼一は顎に手を当てて少し考える。この地球外生命はやると言ったらやる男だ。最近妹との結婚話が見え隠れする親友がかつて、新島にあの手この手で勧誘され、本人の意思に関係なくいつの間にか新白連合に仲間入りしていたように。

 

 だが新白入りすることにはメリットもあればデメリットもある。

 メリットは“友”を得られることだ。新白連合には数多くの達人が所属し、その弟子もいる。達人になるには才能と無限の努力、そして好敵手の存在が必要だ。才能の無い兼一が達人に至れたのも友の存在が大きい。

 デメリットは単純明快、命が狙われる危険が増すからだ。

新白連合ナンバー2の白浜兼一の弟子だということは連合入りすれば確実に連合HPに上がり、“裏”の者たちにも広く知れ渡ることになる。そうなれば優一を倒して名を上げようとする者や兼一に恨みを持つ者が優一を捕らえて兼一を誘い出す餌に利用しようとする者などが現れるだろう。

 

「……まあ、遅かれ早かれこっちの世界にどっぷりつかるんだし些細な事か」

「僕、なんかすごく嫌な予感がするんですけど気のせいでしょうか?」

「なら決まりだな」

 

 そう言って新島は優一の腰に巻かれたロープに繋がっているタイヤに座る。それはもう当然のように。

 

「進路、新白連合本部。全速前進!」

「え? は、はい!」

 

 説明しよう!

これは『新島ヴォイス』

我らが総督の技の1つだ! この声で命令されると不思議と従ってしまうぞ!

 

 そうして新島ヴォイスに操られて優一は走り出した。

 

「優一、そっちは逆だよ」

 

 明後日の方向に向かって。

 




 優一のとーさんとねーさん登場。そして梁山泊訪問フラグが早くも立ちました。
 そして我らが新白連合総督、新島春男大明神様降臨! し~ん、ぱぁくっ!
 あ、次回予定していた新白連合訪問はグダグダになったので丸々カットです。まぁ、梁山泊初訪問みたいなことになったとだけ言っておきます。

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