闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

30 / 31
一年と四ヶ月ぶりだな!
ユキダルマキングのようなスピードで投稿は続けて行くぞ!


十話 潜入!?荒涼高校!

 第六訓練場。

 

『お待たせしました! これより本日の第一試合を開始いたします!

 注目のこの試合、一年の黒鉄一輝選手、三年の綾辻綾瀬選手はどちらも剣術一本で勝ち上がってきた強者同士! この戦い、目が離せません!』

 

 

===

 

 

「今頃、黒鉄さんと綾辻さんの試合やってるんだろうなぁ……」

 

 欄干に肘を乗せ、空を見上げながら呟く。

 うぁ~、めちゃくちゃ試合を見たい!

 

「ところで、何でここにいるんですか、宇春(ユーチェン)。ルームメートの綾辻さん、今頃試合でしょう? 見に行かなくていいんですか?」

 

 ため息を吐きながら振り向けば破軍学園三年生、中国人留学生の(イェン)宇春(ユーチェン)が風になびく黒髪のショートヘアを押さえていた。

 

「それがフラれちゃってね、来るなって言われたんだ。たぶん、反則をしちゃう自分を見られたくないんでしょ」

「ふーん」

 

 素っ気なく返しながらスマホと同等の役割をこなす生徒手帳を弄りながら欄干に背中を預ける。

 コトン、と踵が足元に置いてあった水に濡れたアタッシュケースに当たった。

 

 

 え、綾辻さんが反則!? 何でそんな事に、ってか黒鉄さん返事来ない! 大丈夫かな!? 大丈夫だよね!? でも綾辻さん強いし! うわああああぁぁんっ!? じぇろにも~!?

 

 

「あら、黒鉄一輝が心配じゃないの?」

 

 そんなことはない。内心大慌てです。

 でも僕は《静》の武術家だから、表面上は平常心なんです。

 

「別に、反則とってくるような相手でも負けはしないよ、あの(ひと)は」

「そう……凄いわね、そんなに相手の事を分かれるなんて。

 ……私には、あの娘が何かを抱えてるのが分かっていて踏み込めなかった。

 彼なら、彼女の抱えてるものをどうにか出来るのかな」

 

 宇春も彼女なりに悩んだのだろう。

 結果として何も出来なくて、会ったばかりにも関わらず綾辻さんが心を開いている黒鉄さんなら何か変えてくれるかもしれない、なんて希望を彼に押し付けてる。

 それがどうしようもなく情けない事だって分かってるんだ。

 宇春は後悔が滲む顔を隠すように下を向く。

 僕は彼女に背を向けて再び欄干に肘を乗せて空を見上げた。

 

 女の子に気を使うなんて繊細な事は出来ないので、絶賛師匠譲りの現実逃避続行中です。

 あ、UFOだ。

 

「……ん、ゴメンね、気を使わせちゃって」

「はっ……いえ、大丈夫です」

 

 短い現実逃避から戻り、何でもないように返す。

 ふと、鼻に馴染んだ臭いが風に乗ってやって来た。

 

「微かな火薬の香り……あちゃあ、ちょっと遅かったか」

「?」

「じゃあ僕はここで」

 

 そう言うやいなや臭いの先、私立荒涼高校に向かって走り出した。

 

「あっ、ちょっと!」

 

 

===

 

 

 私立荒涼高校。全校生徒1000人を擁するマンモス校であり、僕の師匠達の母校。そして、新島総督の勧めがなければ入学していたであろう学校でもある。

 

「優一、現着しました。鷹目さん、指示を」

 

 校舎が見渡せる位置にある民家の屋根に乗ってインカムを耳に付けて言った。

 

『位置情報受信……こちらでも確認しました。学校の様子は?』

 

 インカムから聞こえた声は女の人のもの。通信相手の名前は鷹目橙子。またの名を20号さん。

 

「校門は全部閉まってて、校庭には警備員らしき服装の人以外誰もいなくて……校舎のカーテンも全部閉まってて中の様子は見えません」

『了解、情報通りですね。川の中に隠しておいたケースは?』

「回収済みです」

『中にはロキ様謹製の新型ロッドと新型胴着が入ってます。役立てて』

「了解です。あっ」

『どうしました?』

「2人目のご懐妊おめでとうございます」

『…………っ!』

「ありゃ……切られちゃった」

 

 気を取り直してアタッシュケースを開ける。中には黒いボディスーツと胸元に白い糸で新白連合のマークが刺繍された黒い胴着、35センチほどの長さの棒こと新型ロッドが入っていた。

 

「うし、総督直伝! 新島式、超★早着替え!」

 

 シュババッと数秒で胴着に着替えて一緒に入っていた細長い4枚の布を手首と足首に結びつけ、確かめるようにロッドを振る。

 すると上下に伸び、3倍近い90センチまで伸びた。中心部にあるスイッチを押すとバチッと電気が走る。

 

「ロキさん謹製の伸縮自在の電気ロッド。また軽量化と伸縮性が上がってるなぁ……流石だ」

 

 ロッドを縮めて帯に挟むと、父さん直伝の暗鶚の体捌きによって音も無く屋根から飛び降りた。

 

「えーっと、師匠がくれた地図によると……え? なんでこの学校、抜け穴があるの……?」

 

 

===

 

 

 どういう意図で作られのか分からない抜け穴から学校の敷地内に侵入し、誰にも見つからないよう忍び足。

 

「こちら優一、無事校内に侵入」

「ねぇ、なんで他校に侵入してるの?」

 

 後ろを振り向くと宇春がいた。

 

「この学校がテロリストに占拠されちゃって、ここに通ってる要人が捕まってるんです。で、その救出とテロリストの鎮圧をしに」

「待って、私が後をつけてるって気付いてたよね、何で止めようとしなかったの?」

「いや、巻き込んじゃえって思って」

「……あなた、ブッ飛んでるわ。流石《問題児》」

 

 失敬な。

 

「で、何であなたが救出に? こういうのってこの国では警察とかの役目じゃないの?」

「まぁ、色々あって……」

 

 テロリストの目的は、この学校に通っているティダード王国の第一王子、ヨギ・ティダード・ルディ。

 ルディは寝ている間にジェイハン王の「日本へ行き、見聞を広めてくるのだ!」というメモと一緒にプライベートジェットで着の身着のまま日本に放りこまれた苦労人王子だ。

 ちなみに「生きる糧は自分で稼げ!」ということで仕送りは無し、「自分の身は自分で守れ!」ということで護衛、世話係は一切無しで、今はラーメン屋で住み込みのバイトをしながら下宿生活を送っているらしい。

 獅子は我が子を千尋の谷に落とす。とは言うけど、何も持たせずに我が子を異国に送り込むのは流石にやり過ぎだと思う。せめてパスポートとビザくらいは持たせるべきだ。

 

 とまぁ、そんなわけで。警察を動かせば一国の王子に危害が及んだ事が公になって(あの王様の事だから豪快に笑い飛ばすだけだろうけど)国際問題になりかねないし、魔導騎士を動かせば大事(おおごと)になるのは確実。

 そんな時に頼りになるのが、魔力を持たない(表面上は)一般人なのに武装した人間や伐刀者とやりあえる武術の達人を擁する新白連合の出番という訳だ。

 

 こういうのは結構あることで、トレーニング機器、スポーツ用品、化粧品その他諸々を開発、販売する新白連合のもう一つの顔として一部の警察や裏の人からの依頼が絶えない。依頼の内容によっては新白の弟子級が出たり、師匠達が出たりする。場合によっては梁山泊の大師匠達も出る。最後のは滅多に無いけど。

 今回は新白の弟子である僕に総督からの出撃指令が出た訳だ。

 

「む、人の気配」

 

 植え込みの陰に隠れて気配のした方を見る。

 校舎の近くを二人の男が歩いてきた。髪の長い人と赤い眼鏡に口髭が特徴的な人だ。見たところ、見回りかな?

 スーツを着て(はた)から見ればこの学校の先生に見えるようにしてるけど、スーツの下、左脇の下辺りが少し不自然に膨らんでる。ショルダーホルスターに銃を隠し持ってると見て間違い無さそうだ。前のボタンが外してあるのもすぐに銃を取り出せるように、かな。

 それに、なるほど。もし目撃者が出ても「髪の長い男」だったり「赤い眼鏡に口髭のある男」って証言されるような特徴をわざと付けているのか。あの長髪はカツラだから脱げば良いし、眼鏡とあの付け髭を取れば証言と一致しなくなる。

 よく考えたなぁ、あんなの。今度真似しよーっと。

 

 足下にあった小石を拾って二人組の後ろに投げる。

 カツン、と花壇のレンガに当たって音がした。

 

「ん?」

「なんだ?」

 

 二人揃って音のした方を向く。その一瞬の隙がこちらにとって最大のチャンス。ロキ印の新型スタンロッド、試させてもらいます!

 

 まずは赤眼鏡の人に向けて投擲。それと同時に駆け出す。

 

「あっ!?」

 

 当たると同時に電気が流れて瞬時に気絶する。

 

「な──」

 

 赤眼鏡の人に当たって落下中のロッドをキャッチすると軽く振る。それに合わせてロッドが伸びて長髪の人の体を軽く打てばすぐに電気が流れて瞬時に気絶させた。

 

「うっわぁ……触れただけで気絶させるレベルかぁ……こりゃ使い方によれば伐刀者にも通用するかも。

 ……いや、無理か」

 

 電気系の能力者とかだったらロッドの電気を操作してこっちに返すくらいはしそうだし、そもそも魔力の鎧を抜けない。

 ちょっと頭の中に浮かんだ対伐刀者用攻撃を振り払う。

 

「へぇ~、スッゴいねぇ。あれ? この人、ヨーロピアン? でもアジアンっぽくもある……」

 

 宇春が不思議そうに赤眼鏡の人の顔を見る。顔立ちから民族、そして国籍を推測しようとしたみたいだ。

 

「たぶん、その全部ですよ。捕まってもすぐに主犯の国籍が特定されないようにって、色んな所の血が混ざった人を使ってるんです」

「そうなの? 詳しいんだ」

「まぁ、色々ありましたから」

 

 国籍が特定されにくい。だからこの手の人達には需要がある。褒められた事じゃないけどビジネスとして誘拐とかは普通にある。

 小さい頃に一緒に誘拐された事があるからよーく覚えてる。あの時は誘拐だなんて思ってなかったけど。

 最終的に、ねーさんがその組織を壊滅させたらしい。

 

「えーっと、あったあった」

 

 脱がせた上着で手早く縛ってから銃を、そして目当ての通信機(スマホ)を回収する。

 

「死体漁りみたい」

 

 殺してはないから死体漁りではない。やってることは間違ってないけど。

 

「通信機は無線じゃなくてスマホかぁ。カモフラージュには最適だけど個人情報が……あ、これ通信しか出来ないのか。しかも履歴が見れないや」

「ちょっと待って、これ……ここをこうしたら……はい出来た」

 

 宇春がスマホを操作したら簡単に通話履歴が出てきた。うっわぁ……恥ずかしい。

 生徒手帳はメールと通話が出来るようにはなったけど、やっぱり機械関係は闘忠丸さんがいないとダメだなぁ……。

 

「通話履歴は全部番号ね。最後の通話相手は8……」

 

 数字かぁ……単純に考えれば1がリーダーだろうけど、この人達はテロ馴れしてる。1がリーダーとは限らないな。

 新型スタンロッドの威力が思ってたより強すぎてこの人達が目覚める気配は無いから聞き出すのは無理だし……。

 

「うーむ、お見事。ここまで情報を与えないとは。

 ……こうなったら強引に行くしかないか!」

 

 やっほう強行突破だー!

 

「何で楽しそうなの……」

 

 




次回、原作キャラのいない対テロ戦闘。
投稿予定は……未定!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。