闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

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 大変お待たせしました。四章八話でございます。
今度はプール回!
 久しぶりすぎてだいぶ文章が変わってると思います。こんな遅筆な私ですが、これからもどうぞよろしくお願いします。


八話 プールのマッスル&ビューティー

 窓から射す朝日に優一は目が覚めた。

 

「あれ……いつの間に部屋で寝たんだっけ?」

 

 むくりと上体を起こして、伸びをする。

 

「えっと……昨日彩音さんの所に行って……保健室から出て……あれ、そこから記憶が無いぞ?」

 

 首を傾げていると襖が開き、そこからお盆の上におにぎりとお茶を乗せた美羽が姿を見せた。

 

「あら、起きてましたの」

「美羽さん、おはようございます」

「はい、おはようございます。

 昨日は大変だったんですのよ、急に学校で倒れたなんて連絡が来たんですから」

「倒れた? 僕が?」

「ええ」

 

 頭を捻って昨日の記憶を引っ張り出す。倒れた原因はすぐに思い付いた。

 

「動の気を使ったからか……」

 

 武術家には大きく分けて二つのタイプがある。

 一つは常に心を静め、気を内側に凝縮させて冷静さを武器にして戦う“静”のタイプ。

 もう一つが怒りを爆発させ、気を外側に放出させてリミッターをはずして戦う“動”のタイプ。

 優一は前者の静の武術家だ。

 しかし、彩音との試合で優一は動の気を使った。動の気は一歩間違えれば人の道を踏み外す危険性が伴う。本来静の武術家である優一がそれを使うのはあまりにも危険だ。

 

「気のバランスが乱れていたので、もしかしたらと思っていましたが……やはりですか」

 

(あ、まずい。これはお説教コースだ)

 

 動の気の危険さは美羽から嫌というほど聞かされている。恐らく、また(・・)美羽が弟子時代にティダード王国であった話をされるのだろう。

 

「あっ! そうだ、今日は黒鉄さん達とプールに行く約束をしてるんでした!」

 

 布団から飛び起きる。

 

「総督直伝! 新島式、超★早着替え!」

 

 謎の宇宙ぱぅわ~によって発光。一秒と経たずに着替えを済ませる。なお、何故光るのかは科学的な根拠は不明。

 そして荷物を入れた愛用の大きめの巾着袋と美羽が持ってきたおにぎりを取って窓から飛び降りた。

 ちなみに優一が寝泊まりする部屋は離れの二階の隅にある。

 

「あっ、待ちなさい!」

「行ってきまーす!」

 

 すたっ、と着地。すぐに門ではなく塀に向かって走り、跳躍。塀を飛び越えて梁山泊の外へ。

 

「まったく……弟子は師に似るとは言いますが、あの梁山泊から脱出する行動力は確かに兼一さん譲りですわね」

 

 美羽はそれ以上追うこと無く、昔を思い出して微笑むのであった。

 

 

===

 

 

 一昨日、一輝が軽く10試合目を終えた後、優一にプールに行かないかと誘った。目的は違う環境での修業。水中でしか出来ない鍛練は確かに存在する。却下する理由も無いので一輝の案に賛同し、自らの持つコネを使ってとある屋内プールを1つ丸ごと貸し切りにした。

 

「おぉ……」

「でっけぇ……」

 

 一輝達寮生は距離があるとのことで優一が手配したバスに揺られて一時間弱。武術教室の生徒達は優一が貸し切りにしたという屋内プールに到着。

 優一だけが現地集合ということでまだ来ていない優一を待つ間、入り口前で一輝、ステラ、珠雫、アリスのいつもの4人で雑談を交わしていた。

 

「屋内プール1つを貸し切りにしたり、バスを手配したり……青井くんって何者なのかしら?」

「さあ? 何なんだろうね……本当に」

「おーい!」

「噂をすればなんとやら、ね」

 

 大きめの巾着袋を肩に担ぎ、大きく手を振りながら走ってこちらにやって来る優一の姿が見えた。

 

「遅いわよ」

「いやぁ、すみません。寝坊しました。

 あ、受付は僕がやっとくので皆さんは先にプールに行っててください」

 

 そう言って受付の方まで走っていく優一の背を見送りながら、一輝は生徒達を連れて更衣室に向かった。

 

 

===

 

 

 大きな競泳用プール!

 流れるプール!

 曲がりくねった滑り台!

 大量の水が落ちる滝!

 そして中心に立つ黄金の新島春男像!

 

 そう! ここは潰れかけだったマツエパークという屋内プールを新白連合総督、新島春男による資金提供、技術提供等々を受け、新しく生まれ変わった新★マツエパーク!

 豊富なアトラクションに加え、数々のトレーニング設備も兼ね備えたここはご老人から子供まで幅広い年齢層に親しまれている。今日はスポンサーである新白連合の権限で1日貸し切りにしている。

 つまり、他の客への迷惑を考慮せずにやりたい放題できるわけなのだ!

 

 さて、プールの紹介も終わったところで早速プールサイドを見てみよう。

 現在、一輝をはじめとした男性陣が水着姿で談笑していた。話の内容はプールの内装やまだ着替え中の女性陣の水着についてだ。普通ならば後者の話をしている方が多いのだろうが、何故か前者の方が圧倒的に多い。何故かといえば……。

 

「地蔵だ」

「しがみつき地蔵だ」

「おぶり仁王もあるぞ……」

「掴み地蔵ヘッドまで……」

 

 プールサイドにずらっと並んだどこかで見覚えのある石で出来た仏像が異様な空気を放っているからである。

 女子の水着そっちのけで優一の修業メニューの記憶が頭の中を支配する。

 ロードワーク中に投げられ、後ろから猛スピードで優一と共に迫ってくる仁王像、たまにミサイルのように飛んでくる地蔵。

 

「お待たせー!」

 

 そして追い討ちをかけるかのように優一声。ギギギ……と油の切れたロボットのようにそちらを見れば何かの受け皿を持った仁王像を担いだ褌姿の優一が。

 ドドンッ!カンッ!と太鼓の音が聞こえ、背景に波が見えたような気がした。

 

「ひっ」

 

 男性陣から短い悲鳴が上がる。あれで何をされるのか、想像するだけで恐ろしい。

 

(……服でよく分からなかったけど、こうして見ると物凄い体つきだ)

 

 一同の視線が仁王像に向く中、一輝だけが冷静に優一の体つきを観察していた。

 一見するとそこまで筋力が付いていないようにも見えるがそれは恐らく一ミリの無駄もなく絞りこまれているのだろう。信じられないことではあるが。

 そして異様な発達をしている大胸筋。パンチの威力に関わる重要な筋肉が他よりもよく鍛えられている。確かに、あれなら伐刀者の魔力防御を力ずくで押し通すことも可能だろう。

 

 そんな一輝のことなど野郎共には関係ない。

 折角のプールだというのにどんよりとした空気を取り払うかのように女子の声が聞こえた。

 反射的にそちらの方を向けば華奢で小柄な身体を可愛らしい薄い青のワンピースの水着を着た珠雫、それとは対象的に暴力的なまでのスタイルを隠しもしない黒い紐水着を着たステラ、スポーティーなセパレートの水着に身を包んだバランスのとれたスタイルの綾瀬など、男なら誰でも目でおってしまうような水着の美少女達がこちらに向かって来ていた。

 

「おお……!」

「これは……!」

「生きてて良かった……!」

「お師匠様に着いてきて良かった……!」

 

「そんな大袈裟な……」

 

 ハイレベルな女性陣の登場に感動で涙を流す者まで出る始末。

 

「よし、皆揃ったね!

 それじゃあ早速、修業に入ろうか!」

 

 しかし、女子の水着を堪能する間もなく優一が宣言する。

 

「はーい!」

「お、オッス!」

 

 男女入り交じって返事が返ってくる。なんだかんだで素直な良い生徒達である。

 

 今回の修業のメインは一輝が担当する。なので優一は生徒達の後ろまで下がって自分の修業の準備に取りかかり始めた。

 

 

 

(水中に漂って精神統一、孤独な水の中で己と向き合う……か)

 

 一輝達がいるプールとは少し離れたところにある流れるプールで流れに逆らって進みながら彼らを観察する。

 あれは己を律する感覚を養うことが目的なのだろう、優一も過去に経験したことがある。ただ、一輝ほど身に付けられているかと言われれば答えは否だ。己を完全に律し、一分の間に総てを使い尽くすなんてことは優一には出来ない。

 

「ふっ!」

 

 水中で前蹴りを放つ。足に付いたしがみつき地蔵と水流、水の重さがダイレクトにかかるがそれすらも振り切って五メートル近い水柱が上がった。

 

「あ……っ」

 

 突然の水柱が上がった事に驚いた生徒達が次々に水面から顔を出す。

 一輝が苦笑いを浮かべる。

 

「えーっと……休憩にしよっか」

「……すみません」

 

 

===

 

 

 休憩中にステラと一輝の間に何かあったらしいが特にトラブルも怪我もなく、無事にその日の修業を終えた。

 優一が手配しておいたバスでそのまま寮まで帰る組と公共の交通機関を利用することを前提に寄り道しながら帰る組、向上心の塊なのか走って帰る組の三つに分かれ、その場で現地解散とした。

 

「それじゃあ108号さん、皆をよろしくお願いします」

 

 少し小太りの若いバスの運転手にそう言うと彼はグッとサムズアップを返した。

 ちらりと車内を覗けば疲労ですでに眠りの世界に入っている者までいる。ちなみに珠雫とアリスはこの組だ。

 

「じゃあ、俺達もこれで」

「今日はありがとうございました!」

「また月曜日に!」

「はい、闇討ちに気を付けて下さいね!」

「「「青井さんが言うとシャレになってないっす!!」」」

「えぇ……」

 

 走って帰る組も見送る。彼らは優一が武術教室の先生になるきっかけとなった演舞の時に霊装を借りた者達だ。なんだかんだ文句を良いながら優一のぶっ飛んだ修業に食らい付いてくる根性の持ち主でもある。

 

「それじゃあ優一くん、僕らもこれで」

「あ、はい。黒鉄さん、ステラさん、綾辻さん、お疲れ様でした」

「ええ、お疲れ様」

「青井くん、今日はありがとうね」

 

 一輝達は寄り道組。何でもステラの腹が咆哮を上げたそうで外食してから帰るとの事だ。

 

 一輝達の背を見送ってから、うんっと背伸びを一つ。

 

「急にどうしたのさ、翼?」

 

 ちらり、と街灯に目を向ける。その上には黒いインナーシャツに白いライダースジャケット、デニムパンツを身に纏った艶のある黒髪の女性。闇の弟子集団、YOMIのリーダーにして優一の想い人、翼が立っていた。

 彼女はその場から飛び降り、トンと優一の目前に着地する。

 

「ふふ、デートのお誘い♪」




プール回とは一体……。
ケンイチ11巻に登場したマツエパーク、新島の手によって魔改造を施され、達人養成の基地にさせられました。なお、普段はちょっと変わってるけど設備豊富なレジャー施設の模様。


次回、翼とのデート()です!

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