闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

24 / 31
四章四話。「四」が並んで不吉な気がしないでもないですが本編は平常運転です。
今回、次回と続いて戦闘シーンが続きます。


四話 十回戦、退くは逃げるに非ず

 第3アリーナ、観客席。

 そこにはステラ、珠雫、絢瀬、アリス、宇春(ユーチェン)、そして一輝の武術教室の生徒達がいた。

 

 絢瀬が武術教室に参加してから早1週間。今日は休みも兼ねて試合の観戦をすることになっている。

 というのも武術教室の指導役の一輝と優一が選抜戦だからだ。しかも幸運なことに同じ第3アリーナで一輝が第一試合、優一が第二試合と連続している。

 「誰かの試合を見るのも立派な修業だよ」とは一輝の言葉だ。

 誰に教えられることもなく、見ることであらゆる技を自分のものにした一輝の言葉はかなりの説得力があり、誰も文句を言うことなくアリーナの客席に座った。

 

『さあ! いよいよ始まります10回戦!  実況は私、放送部3年の磯貝が、解説は柳田先生が担当させていただきます!

 さて、今残っている生徒は皆、強者(つわもの)揃い! 毎回白熱した戦いが繰り広げられています!

 今日はどんな戦いが繰り広げられるのか! それでは選手入場です!』

 

 実況を担当する磯貝のよく通る声が選手の紹介を始めた。

 

『まずは3年、Cランク。葉暮(はぐれ)桔梗(ききょう)選手!

 彼女の能力、《瞬間加速》から繰り出される槍の一撃はまさに神速! 今日はどんな試合を見せてくれるのでしょうか!?』

 

『続けて1年、Fランク。黒鉄一輝選手!

 昨年の七星剣舞祭出場者の《狩人》、そして校内序列第三位の《速度中毒(ランナーズハイ)》を倒し、破竹の勢いで連勝を続ける今大会のダークホース! 今日の試合でも黒鉄選手の巧みな剣技を見れるのか!?』

 

「うおー! 師匠ー! 頑張れー!」

「負けないでー! 黒鉄くーん!」

「やっちゃってください! 先生!」

 

 武術教室の生徒達が一斉に声援を送る。

 

「完全アウェーだった1回戦とは大違いね。彼には人を引き付ける才能でもあるのかしら」

 

 その様はアリスが言うようにほとんど味方がいなかった1回戦からは想像も出来ないほどの声援が一輝に降りかかっている。

 その事が嬉しくてステラ達はくすり、と口元が緩んだ。

 

 一輝と桔梗がお互いに開始戦に立ち、己の魂を顕現させる。

 一輝は黒い日本刀を、桔梗は槍を手に持ち、構える。

 

『両者、睨みあって……試合、開始です!』

 

《LET's GO AHEAD!》

 

「はああああああッ!」

 

 試合開始と同士に桔梗が突っ込む。

 彼女の能力、《瞬間加速》によってその速度は一瞬で亜音速に達する。

 目に見えないほどの速度での突き。しかしそれは一輝の制空圏に入った瞬間、穂先の進行方向が一輝から見て左に逸れた。

 一輝が《陰鉄》の剣先で進行方向をずらしたのだ。

 不可視だろうが亜音速だろうが関係無く、その領域に入った者の挙動に対応できる。それが一輝の制空圏だ。

 

 進行方向がずれたことで桔梗の体が僅かに左に流れた。

 一輝は続けて右手を逆手に持ち替え、《陰鉄》を反転。左の人差し指と中指で刀身を挟み込み、鍔を押さえると同時に左足を後ろにやる。

 

「ぐふぅっ……!」

 

 桔梗の勢いが止まる。

 彼女の鳩尾には《陰鉄》の柄頭(つかがしら)(柄の先端)があった。

 

「っ……」

 

 桔梗の体がその場に倒れた。

 

『し、試合終了ー! なんと、黒鉄選手の圧勝だー! 強い、強すぎる!

 もはや《落第騎士(ワーストワン)》とは言わせない! 《無冠の剣王(アナザーワン)》だぁッ!』

 

===

 

 一輝の勝利に武術教室の生徒達は喜び、一輝に称賛の言葉を送る中、今の試合を冷静に見ていた者がいた。

 

「そうか、退歩!」

 

 ステラや宇春を初めとする武術の心得を持つ者達である。

 

「タイホ? ユーチェンは一輝が使った技を知ってるの?」

 

 ステラが問う。

 

「退歩とは己の力を使わない高度な攻撃技よ。手を前に置いて片足を後ろに下げてつっかえ棒にすることで相手の勢いをそのまま攻撃として利用するの」

「つまり相手の娘はあの速度でお兄様という地面に固定された棒に突っ込んだというわけですね」

「その通り。退くは逃げるに(あら)ず。あえて下がることでより強力な力を得る高度な攻撃技よ。

 普通は掌底なんかでやるんだけど、それを刀首……あっ、日本刀は柄頭だっけ? そこでやるなんて普通考えつかないけどね」

 

 一輝は強くなるために剣術以外の武術を学んでいた。その中には弓術や槍術、徒手空拳も存在している。その中でこの退歩を知ったのだろう。

 

(やっぱり、イッキは凄いわね……)

 

 ステラは内心で呟いた。

 彼女も剣術の鍛練を怠ったつもりはない。だが鍛えていたのは剣術と魔術のみ。一輝のように剣術とは一見関係の無い武術を学んだことなど無い。

 彼女が心から尊敬し、愛する少年はどこまでも武に真剣で、どこまでも武に貪欲なのだと改めて実感した。

 

(その武に対する情熱を、少しでも私に向けてくれてもいいのに……)

 

===

 

 第一試合が終わり、次の試合が始まるまでの休憩時間に一輝が観客席に姿を見せた。

 

「お待たせ、優一くんの試合は?」

「お疲れ様、イッキ。ユウイチの試合ならまだよ」

 

 ステラと軽くやり取りをして席に着いた直後、アリーナのスピーカーから実況の声が響いた。

 

『さあ! 皆さん、お待たせしました! いよいよ、本日の第二試合が行われます!

 では早速参りましょう。選手入場です!

 まずは1年、Fランク。青井優一選手!

 職員室の常連、何か騒ぎが起きたら大体コイツのせいともっぱら評判の《問題児》! 最近は地蔵の生首をお手玉して女生徒を気絶させました!

 しかし武術の腕前は見事の一言! これまでの試合では相手に大きな外傷1つ与えることなく倒してきたその実力は本物です!』

 

「頑張れー! 青井さーん!」

「いつもみたいに投げてやってくださいよー!」

「馬鹿、青井くんは蹴りでしょ!」

「いや、突きだろ!」

 

『続いて2年、Dランク。伊藤彩音選手の入場です! 《笛吹く姫》の二つ名を持ち、その能力から七星剣舞祭代表有力候補とさえ言われています!』

 

 入場口から現れたのは艶のある黒髪を腰の少し上まで伸ばした背の低い少女だ。

 

「伊藤彩音さん……確か、彼女の能力って……」

「イッキ?」

 

 伊藤彩音を見て何か思うところがあるのか一輝は(あご)に指を当てて思考する。

 彼女の能力には大体把握している。自身と当たる可能性が高い伐刀者として認識していたからだ。

 続いて優一の性格を思い出す。

 伊藤彩音の能力と青井優一の性格。2つを考慮して導き出された結果は。

 

「マズイ……」

「どうしたの?」

 

『それでは! 試合、開始です!』

 

《LET's GO AHEAD!》

 

「伊藤彩音、彼女は優一くんの天敵だ」




優一が出ないだけでこんなに静か。

原作では七星剣舞祭代表に選ばれていた葉暮桔梗さん。まさかの十回戦敗退。原作にはいない優一の影響をモロに受けた結果こうなりました。桔梗ファンの方、ごめんなさい!

次回、異能VS武術!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。