闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

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ここまで異能バトル感のある戦闘シーンを書いていないことに気付きました。ブレイアです。


二話 ユウイチ、先生になる

「そぉれ! 早く走らないと死んじゃうかもだぞー!」

 

「ぎゃあああ!!」

「も、もうやめてー!」

 

「大丈夫、じきに慣れるよ!」

 

 僕、青井優一は現在進行形で人を追いかけ回していた。正確にはただのロードワークなんだけど傍から見ればそう見えるってだけだ。

 何故こんなことになっているのかと言えば話は三時間前に遡る。

 

===

 

 それは昼休みのこと。

 校内予選の期間中は午前授業のみで午後からは試合だ。

 試合も毎日連続で行われるわけではないので試合が無く、午後からの時間を持て余す者もいる。

 例えばそう、何のあてもなく校内をブラつく今の優一のように。

 

「はぁ……暇だ。帰っても修業は中止されてるし、師匠から出された課題も終わったし、試合も対戦相手の告知待ち……。

 やることが無いって、暇だ……ん? あれは……」

 

 中庭に差し掛かった時、優一の目に入ってきたのは霊装を持った五人の男子生徒に囲まれた一輝だった。

 Fランクなのに快勝を続ける一輝を妬んで襲いかかっている。という様子ではない。一輝はそういった輩を一々相手にするような人ではないし、もしそうなっても《陰鉄》まで出して事を荒げるようなことはしない。

 

「やあああ!」

 

 男子生徒の一人が剣を振り下ろす。が、それはむなしく空を切る。

 続けて槍使いが槍を突き出すがその穂先は一輝に触れる前に下へと曲がり、地面に突き刺さる。

 斧使いが一輝の背後から勢いよく斧を振り下ろすも途中で軌道がそれ、一輝の真横を空振りする。

 

(簡単な体術だけで攻撃を捌いている。演武か何かかな?)

 

 優一の考えは全くその通りであり、目の前で起こっているそれは一輝を囲んでいた男子生徒達が音を上げたところで終わった。

 

(……うん)

 

 演武が終わってすぐに優一は駆け出し、人垣を飛び越えて一輝と演武をしていた男子生徒の持っていた槍をひったくる。

 

「ちょっとお借りします!」

 

 槍をくるりと手元で回転。

 左手で前、右手で後ろの柄を持って槍の石突を一輝めがけて突く。

 

「わっ、ちょっ!」

 

 いきなりの事で驚きながらも一輝は《陰鉄》で突きをそらす。

 

 優一はそのまま槍の石突きを地面に叩きつけて柄から手を離し、反動で跳ね返った柄をキャッチ。最初よりも柄の中心に近い部分を持ち、今度は腰を低くして下から突き上げた。

 

 その突きは上体を後ろにそらされてギリギリのところで届かない。

 

 優一は手元で槍の柄を滑らせ槍の穂先に近い口金を右手で掴むことで石突きを更に前に押し出した。

 

 一輝も流石に危ないと感じたのか右に避けて《陰鉄》を正眼に構える。

 

 それに対してさっきまでの腰を低くした体勢から一転し、右脚を伸ばし、左脚を上げた片足立ちの体勢になると同時に、右手を上に挙げ、左手を下に下げて勢いよく穂先を振り下ろして石突に近い柄の先端で《陰鉄》の峰を押さえる。

 

「ふっ」

 

 短い呼吸と共に上げた左脚を前に踏み込み、同時に右手で石突を押し出して一輝の脚を狙った突きを打ち下ろす。

 

 一輝はその突きを跳躍でかわし、地面に石突が刺さったところで槍の柄の上に着地。足で槍を押さえつけて地面から抜けなくさせた。

 

 これに対して優一は柄を右足で蹴り上げる。鍛えられた足腰から放たれる蹴りは例え軽いものであっても棒の上に立つ人一人を浮かせるには十分な威力を持っていた。

 すぐさま槍から降りた一輝は一息で優一に接近。幻想形態の《陰鉄》で中段から斬り込む。

 

「っと、お借りします」

 

「あっ」

 

 優一は手元で柄を滑らせて槍の穂先を剣を持ったまま後ろから見ていた男子生徒の手元まで伸ばし、けら首を剣に引っかけて胴を軸に右手で槍を90度横に振る。それだけで容易く男子生徒手から剣を離れた。

 持ち主の手から離れた剣は真横に伸ばした優一の左手に収まる。

 剣を見ずに逆手でキャッチした優一はそのまま《陰鉄》の刃を受ける。

 

「槍、お返しします!」

 

 そう言って槍を持ち主に投げ返し、空いた右手を順手に持って両手で《陰鉄》を押し返す。

 左手を前に出し、剣を持つ右手を上に挙げ賢先を一輝に向け、左脚を上げる構えをとる。

 

(中国武術の槍術に剣術か。それにしても……)

 

 ちらりと周りを見ればそこには固唾を飲んで見守る生徒達がいる。

 突然始まったこの戦い。優一の目的は彼らに武器術を見せることで間違いないだろう。

 確かに、さっきの男子生徒五人を相手にした演武よりも演武として成り立っているし、一輝の剣術以外の武器術を見れる。

 彼らのレベルアップに繋がるはずだ。

 

「ふっ!」

 

 太極拳特有の円の動きから繰り出される遠心力と体重の乗った剣撃を危なげなく《陰鉄》で弾いていく。

 優一の攻撃はすべて基本的な型のみ、一輝にも避けやすく、かつ実際の戦いでよく使う防御方法で捌けるものばかり。それ故に“見る”稽古として申し分ない。

 

「せっ!」

 

 優一が左脚を上げ、左手を胸の前に、上体を前に倒して右手の剣を突き出す。

 それを《陰鉄》で受け、体の側面に流しながら前進。横一線に《陰鉄》を振るう。

 それを右脚を曲げてしゃがむことで回避。本来ならばそのまま足を斬り払うところだが、優一はその場を転がって剣を持ち主に返却。そして斧使いの生徒から斧を借りて立ち上がる。二人の距離はたった二歩で詰められる程度。

 

「ふっ!」

 

 柄を両手で持って一息で二歩の距離を詰める。

 間合いに入った瞬間に一輝は上段から《陰鉄》を振り下ろす。

 それの側面に斧の背を合わせ、体の側面に流し、すぐさま首を狙って振り上げ。

 一輝は後ろに飛んで回避し、今度は一輝の方から跳躍で開けた距離を詰める。

 

「やああああッ!」

 

 《陰鉄》を正眼に構えての突進。狙いは突きだが、それ以外の攻撃に移れる構えだ。

 優一は斧の柄で受け止める。木製の柄ならば一刀両断にされていただろう。しかし優一の持つ斧は魂の具現である霊装(デバイス)だ。そう簡単に折れはしない。

 刃を受け止めると刀身を軸に柄を回転させると同時に身体を反転させる。

 一瞬で優一は峰を上から押さえ、身体を一輝のすぐ前に潜り込んだ。

 

「せっ!」

 

 その体勢から肘打ち。一輝が顔をそらして回避した直後に優一に膝裏を蹴る。

 がくん、と膝が折れて体勢を崩したところでぴたり、と優一の首筋に《陰鉄》の峰が当てられた。

 

 むう、と声を漏らしながら立ち上がり、斧を左脇に挟むと右拳を左手で包む包拳礼(ほうけんれい)をとる。

 

「参りました。流石に武器術では黒鉄さんには敵いませんね」

 

 優一の礼に対して一輝も《陰鉄》を左手に持ち直して立礼をする。

 形に違いはあれど双方が礼をしたところで固唾を飲んで見守っていた生徒達が二人の元に押し寄せてきた。

 

「すごいすごいすごーい! さっきのと同じ武器だったのに全ッ然違う!」

「黒鉄くんも凄かったのに青井も凄かった! 思わず息が止まっちゃってたよ!」

「青井くんって武器も使えたんだ! 素手と地蔵しか使えないと思ってた!」

 

 男女あわせて総勢17人の生徒が口々にさっきの演武の感想を言う。そんな中。

 

「そう言えば黒鉄さん。これって何の集まりなんです?」

 

 と、斧を持ち主に返しながら優一が聞いてきた。

 突然襲いかかってくるのは毎度の事と最近割りきった一輝はさして驚く様子も見せずに答える。

 

「武術教室だよ。僕や優一くんの試合を見たクラスメイトに武術を教えてほしいって頼まれてね」

 

 なるほど、と納得する。大した能力の無いFランクの伐刀者が巧みな武術で格上を倒しているのだからそれを見た生徒達が武術に興味を持つのは仕方ない事だ。

 そして一輝に武術の教えを請うたのは単純に変人(・・)の優一よりも一輝の方が常識人(・・・)だったからだろう。納得いかない。

 

「青井くん、少し質問いいかな!」

 

「何ですか? えーっと」

 

 一眼レフのカメラを首から下げた眼鏡をかけた女子生徒がメモとペンを持ってずずいっと優一に詰め寄る。

 

「一年一組、破軍学園新聞部の日下部加々美です! 校内新聞の記事にネタ提供を‼」

 

「あ、はい。いいですよ」

 

 あまりにも熱のこもった気迫に気圧される。

 ふと、来日したばかりのステラもこんな感じだったのかなと思った。

 

「青井くんの霊装って手甲だよね、なのにどうしてあんなに武器の扱いが上手いの?」

 

「えっと、中国武術には武器の動きを徒手空拳に取り入れたものがあるんですよ。その武術を習うときに一緒にその元となった武器の扱いを習うんです」

 

「ほうほう、例えば?」

 

「例えば、詠春拳(えいしゅんけん)。これは剣の動きを元に作られています。八斬刀(バーチャントウ)っていう詠春の剣があるんですけど、その剣術の動きはそのまま徒手空拳に転用出来るんです。

 他には心意六合拳(しんいりくごうけん)。これは槍の動きを元にしてますね。左右の手が常に長物を持った位置にある動きをします」

 

「ふむふむ。あ、じゃあさっきのもそれですか?」

 

「うん。槍は八極拳、剣は太極長拳。斧は見様見真似だけどシラットっていう武術なんですけど……」

 

 加々美の質問攻めに一つ一つ丁寧に答えていく優一。普段なら知り得ない武術の話に周りの生徒達も聞き入っていく。

 いつの間にか優一の武術講義になっていった。

 そして……。

 

「青井さん! いや、青井先生!」

 

「はい?」

 

「「「「「俺達を弟子にしてくださいッ!!」」」」」

 

 横一列に並び、土下座して優一に頼み込んだのはさっき一輝と演武をしていた男子生徒だ。

 

「いや、でもこれって黒鉄さんの武術教室ですよね? 僕が先生をするわけには……」

 

 ちらりと一輝を見る。

 

「いや、優一くん。僕からも頼むよ。

 実際、一人じゃ手が足りないしね」

 

「むう、黒鉄さんがそう言うなら……。

 でも、先生は止めてください。僕はそこまで立派な武術家じゃないので」

 

「「「「「ありがとうございますッ!」」」」」

 

===

 

 回想終了。

 そして冒頭に戻る。

 

「武術の基本は足腰! そしてそれを鍛えるには走り込みが一番だよ!」

 

「だからって少しでも遅れたら投げるか普通!」

 

「はっはっは! 電気鞭で叩かれないし重りも無いからかなり優しい方だよ! それッ!」

 

「うわあぁぁあ!」

 

 師匠からの修業を中止させられているから一人稽古をするしかない。こうして彼らのトレーニングがてら僕もおぶり地蔵と抱きつき地蔵を背負って一緒に走っている。

 まずは軽く学校の敷地周りを3週。学園の面積は東京ドーム10個分らしいけど3週くらいすぐに走れるよね。

 

「止めときゃよかったあああ!!」

 

 ちなみに道中。僕を狙った刺客が二人、不意打ちをしかけてきた。

 なんとか撃退して理由を聞いてみたらどうやら僕にかけられている賞金がまた一桁上がったらしい。

 

 師匠の言ってた「修業を中止する」って「(ただし、その分刺客が増える)」ってことかぁ~!!

 

 




刺客さんの戦闘シーンは長くなったのでカット。
ちなみに三節棍使い&釵(サイ)使いの二人組。


原作を読み返すとケンイチもしぐれから武器術を教わっていたようなので剣星からも武器術を教わっているのでは?
という独自解釈の元、優一もある程度武器を扱えます。
ただ、基本は徒手空拳なので一輝のようにその道一筋の人には一歩劣りますが。

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