え?遅い?ま、まだ1月だからセーフ(震え声
さて、お待たせいたしました。今回から四章、校内予選編です。
一話 五回戦、ユウイチの可能性
『さぁ! 始まりました代表選抜戦五回戦! 本日の第二試合が始まろうとしています!
注目は一年の青井優一選手! 普段の問題行動が目立ちますがこれまでの試合をその身一つで勝ち抜いて来たその実力は本物です!』
優一が入場口から入るとワッと歓声が上がった。
その歓声のほとんどは優一と同じ一年三組のクラスメイトだ。彼らは普段から優一の突飛な行動の被害者ではあるがそれはより近くで優一を見ているということ。優一の修業を少なからず知っているのだ。
優一は観客席のクラスメイトに向けて拳を突き立てた。
『続いて二年生! 池田
池田選手の
今日も文字通り熱い試合が期待されます!』
優一の反対側、彼から見て正面から池田が入場する。
『解説の折木先生、この試合。どう見ますか?』
『そうだねー。二人とも、中遠距離の攻撃手段を持たない生粋のインファイター。接近戦が強いられるこの試合では炎というアドバンテージを持つ池田君の方が有利かな』
『なるほど! おっと、両者
《LET's GO AHEAD!》
『試合開始です!』
開始のブザーと共に池田がステップを取りながら距離を詰める。
対する優一もボクシングの構えをとり、同じように距離を詰めた。
両者の距離が手を伸ばせば届くほどにまで接近する。
「シッ!」
池田が右で軽いジャブを放つ。炎を纏うそれはジャブでも十分な殺傷能力を持っている。
優一はそれを髪を焦がしながらギリギリでかわし、一歩前に踏み込んだ。
「DSパンチ!」
放つは右のストレート。しかしただの右ストレートではない。傍目から見ても遅く、威力の無いパンチだ。池田は避けるまでもないと判断したのか次の攻撃に移る。
左アッパー。それを優一の顎めがけて放とうしとたときに優一の右ストレートが池田の右肩に当たる。
「ぐああっ!」
池田は攻撃を止めて右肩を押さえながら後ろに下がる。
右腕がダラン、と下がっていた。
『おぉーっと! これはどういうことでしょうか? 池田選手、追撃せずに肩を押さえて後退しました!』
『あれは脱臼してるね。この試合中は右腕は使用できないかな』
優一のボクシングの師、武田一基はかつて関節技を得意とする『
優一が使ったのはこの技だ。
この技は僅か二年でCランク伐刀者とほぼ互角に戦えるまでに強くなった優一の才能を持ってしても習得に1ヶ月、実戦で使えるようになるのにさらに1ヶ月を要するほどに難度の高い技だ。
『おーっと! 青井選手が動き始めました!
脱臼して防御の薄くなった右側から攻める攻める! 怒濤の突きの連続だぁ!』
肩関節を外したことで池田の取れる行動が激減した。今の彼は左腕一本で戦うしかないのだ。
その上で優一は池田が両腕を使えてやっと防げるようなパンチを連続で浴びせる。池田の防御は最早無いに等しく、サンドバッグ状態だ。
『怒濤の攻撃に池田選手、反撃に出られない! さあ、池田選手には反撃の糸口はあるのか!? かろうじて耐えております!』
ここで優一が始めて突き以外の攻撃をする。
放つはムエタイ技の一つ。この技を制するものは世界を制すとまで呼ばれた蹴り技。
「テッ・ラーン!」
連続パンチで執拗に上半身を殴ったことで上半身に意識が集中していたところに強烈な
「
両手を組み、隙が出来た池田の側頭部に打ち下ろす。池田にそれを防ぐ間など無く、魔力による防御を抜けた強烈な衝撃が伝わると同時に池田の意識は途絶えた。
「っと、危ない危ない」
意識を失った池田が頭から床に落ちる。
優一は足の甲で池田の頭を受け止め、そのままゆっくりと床につけた。
『試合終了ー! 勝者、青井選手!
息も吐かせぬ猛攻で《炎のボクサー》と呼ばれた池田選手を封殺しました! 強い、強すぎる! 青井選手といい、黒鉄選手といい、今年の一年Fランクは化け物か!?』
実況の言葉に内心で溜め息を吐きながら池田の上体を起こし。
「ちょーっと痛いです、よっ!」
外した右肩関節をはめた。
優一はDSパンチの修業と同時に関節をはめる技術を兼一から習っている。そのおげで関節の着脱はお手の物。ただし、嵌める方法は岬越寺秋雨考案の物のため、ちょっとどころかかなりの激痛を伴うが。
「後はお願いします」
いつものように医療班の者に気絶させた相手を渡す。
「おお、相変わらず絶妙な力加減。これなら夕方には目が覚めるでしょう」
「そうですか、なら良かったです」
池田を医療班が運んできた担架に乗せ、次の第三試合を早く行えるように早足で退場した。
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試合を終え、控え室に戻るとすぐに鞄の中からスペドリを取り戻して飲む。
「っはぁ……」
試合に勝利したが優一の表情は暗い。その原因は試合の前日の夜。昨夜の出来事にあった。
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「───優一。これからしばらく、修業を中断させる」
いつも通り、一通りの修業を終えると突然、兼一からそう言い渡された。
「え……なんで……」
「理由は優一が一番分かっている筈だ。今の優一には
「──っ!」
何となく、分かっていた。最近感じるようになった自分の体を縛る目に見えない鎖。誰かの能力などでは無い。何故ならその鎖は世界から伸びているのだから。
この世界における総魔力量は不変の物だ。魔力とは『世界に及ぼす影響力の大きさ』だ。魔力が大きければ大きいほど世界に及ぼす影響は強くなる。一国の皇女であるステラなどはその良い例だ。
この世界において、可能性とは無限のものでは無く、有限のもの。この世界に生まれ落ちた瞬間に限界は決まっているのだ。
そして優一はその限界に達した。優一の才能と
「じゃあ……僕はどうすれば」
「これはボク達がどうこうできる話じゃない。これは、君が越えるべき壁だ。
君が
「至った時……?」
「その時が来たら分かるさ。
それまでは修業は一時中止。一応、課題は出すけどそれ以上ボク達は干渉しない」
「そんな……」
「さ、もう遅い。明日は試合だったね、早く寝なさい」
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自分一人だけの控え室で両手を見つめる。
「うん、悩んでも仕方がないよね。僕バカだし、考えたところで答えなんて出る筈無いし」
荷物をまとめて立ち上がる。
「七星剣舞祭、日本の学生騎士の頂点を決める大会。その舞台なら、何か答えが見つかるかもしれない」
ようやく、七星剣舞祭にかける思いが出来た。
「さて。次の人も来るだろうし、早めに退散しよう」
そう言って控え室から出る優一の足取りはいつもよりしっかりとしたものだった。
優一の実力は妙手上位。準達人級の一、二歩手前くらい