闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

20 / 31
これにて三章は完。


八話 選抜戦、開始!

『さあ、始まりました! 本日の第四試合! 実況は第三試合に引き続き私、放送部一年の前川が、解説に井上先生がお送りします!』

 

『よろしく頼む』

 

『昨日のヴァーミリオン選手や黒鉄珠雫選手、有栖院選手といったルーキーが一回戦を勝利し、今年の一年生が注目を集めている中。別の意味で注目されている一年選手の入場です!』

 

 実況の声と客席の生徒の声が入り交じったリングに上がる。こういう騒がしい場での戦いは初めてじゃない。

 武田師匠に連れ回されての地下格闘場巡りやタイでの地下格闘場でもう慣れた。でも、何て言うか騒がしさの種類が違う。

 地下格闘場は罵詈雑言やら賭け金の値段やらが飛び交っているけどここはそういったものが無い。純粋に試合を楽しむ者、応援しに来る者、これから戦うかもしれない相手を観察する者。

 殺気とか、違法薬物の匂いとかそういった殺伐としたものが無くて何だか軽い、楽な空気だ。

 

『それでは、選手の紹介です!

 一年三組、青井優一選手! 出会い頭に飛び膝蹴りから始まり、仁王像や地蔵を背負って校門から走ってくる青井選手を見たことがないという生徒は少ないのではないでしょうか! 隣の井上先生が担任する生徒でもあります!

 現在、破軍学園の問題児リストのトップを飾るFランクながら今、最も悪い意味で注目されている選手です!』

 

『頼むからこの試合の後、また職員室に呼び出さずに済むような試合を期待している』

 

「ちょっと、何その紹介!?」

 

 問題児リストのトップって、何さ。

 僕、そんなに悪い事したっけなぁ?

 

『続きまして、二年四組、磯川和磨選手!

 どんな攻撃にも怯まない最硬(さいこう)の防御力を誇り、斧型霊装(デバイス)《レッドアクス》から放たれる強力な一撃はこれまでの公式戦で数多の敵を打ち倒して来ました! その戦いぶりから付けられた名は《赤き象》! 代表有力候補の一人でもあります!』

 

『磯川の能力は単純明快、肉体の硬質化だな。単純に硬く、その防御力に物を言わせた戦い方が特徴だ。だが、能力に頼りすぎている傾向がある。そこが勝負の分かれ目になるだろう』

 

「オオオオォォォッ!!」

 

 反対側の入場口から入ってきた二年の先輩は実況の人に紹介されるなり拳を突き上げて吠えた。

 すると客席の方からも大きな歓声が上がった。

 人気なんだろうなぁ、あの人。

 

『さあ、両者開始線に並びました!

 間も無く、試合開始です!』

 

 目の前に立った対戦相手を見る。名前は磯川和磨、だっけ?

 黒く焼けた肌に大きな体。ボディビルでもやってるのかな? 服の下から盛り上がった筋肉が目立つ。

 

「叩き潰せ、《レッドアクス》!」

 

 磯川先輩の手に斧が顕現する。片面は赤で反対が黒、持ち手が赤いカラーリング。

 大きさは片手で持てる程度のもの。刃は片刃で、戦斧というよりは薪割り斧に近い形状をしている。振り下ろす分には十分だ。

 

 僕も霊装を出して、ムエタイの基本の構え、タン・ガード・ムエイをとる。

 

「何だぁ? そのチンケな霊装は」

 

 試合前に磯川先輩が話しかけてくる。僕を格下と侮っていることがバレバレだ。

 

「見ての通り、手甲ですが?」

 

「はっ、それで? ソイツの()は何だ?

 どうせここで負けるんだ。その名前くらいは覚えといてやるよ」

 

「名前は無い。

 霊装とは魂を形にしたもの、つまり腕や足と同じ。先輩は自分の指一つ一つに名前を付けるんですか?」

 

 強いて言うなら《青井優一》、かな?

 霊装は僕にとって手や足と同じ、体そのものだ。

 

「へっ、そういう考え方もあるか」

 

『さあ! 両者、霊装を構えたところで……試合、開始です!』

 

《LET's GO AHEAD!》

 

 試合開始の合図が鳴る。それと同時に磯川先輩は両手を広げた。

 隙だらけだ。能力を発動させるための動作……という訳でもない。下手に近寄るのは危険か。

 

「いやぁ、ラッキーだ。なんせ相手はFランク。負ける要素がねぇ、一勝を貰ったようなもんだ。

 どうせここで終わるならよ、おめぇに思い出ってやつをくれてやるぜ」

 

 え? 何? どういうこと?

 いつもの戦いと違い過ぎてよく分からない。

 

「どうした? ぼーっと突っ立ってないで、来いよ。

 一発だけ好きなところを殴らせてやるよ」

 

「はぁ」

 

 あー、そういうこと。

 そっか、世間一般常識ではランクの差って大きいんだった。忘れてた。

 道理でこんな油断しきったことが出来るわけだ。Fランクに負けるはずが無いって思い込んでるんだ。

 最近はランク差があっても油断せずに襲ってくる相手ばっかりだったからこの感覚は久しぶりだなぁ。なんだか懐かしい。

 

「では、失礼して」

 

 まずは軽くボクシングから行ってみようか。武田師匠の“目が覚めてようやく殴られた事に気付く”《幻の左》程では無いにしろ、それなりのスピードが出る左ストレートから、

 

「ぐへっ」

 

 (いって)っ! 背中の傷がズキッてした!

 

 それより、すぐにムエタイ技に……あれ?

 なんで今ので伸びてるの? この人。

 

『勝負有りか。おい、前川』

 

『………………はっ!

 し、試合終了ー! 果たして、誰がこの結果を予想したでしょうか! なんと、なんと! 青井選手の一発KO勝ちだぁー!』

 

 

 一気に喧しくなる客席に実況。

 目の前には白目を向いて倒れる磯川先輩。

 

「おーい、せんぱーい。大丈夫ですかー?」

 

 近付いて脈をとる。良かった、生きてる。

 とりあえず、医務室だ。思っていた以上に脆かったみたいで手加減を間違えたかもしれない。

 倒れている先輩を抱き抱えてリングの外に出る。入退場口のところに医務班がいたから彼らに後を任せた。

 

 あ、勝手に退場しちゃったけど大丈夫なのかな?

 

===

 

 翌日、二人のFランク騎士が格上を倒したというニュースで学校は持ちきりになった。

 

 一人は黒鉄一輝。彼は昨年の七星剣舞祭代表を相手の《絶対価値観(アイデンティティ)》を暴き、完全に読むという離れ業でもって勝利した。

 

 もう一人は青井優一。彼は相手の油断はあったとはいえ防御に優れた能力を持つ相手をたった一発で倒し、1分と経たずに勝利した。

 

 当然、学園内にはこのニュースを(いぶか)しむ者もいる。現在を目の当たりにしてもその事実を信じようとしない者もいる。

 だが、彼らは知ることになるだろう。二人のFランク騎士の強さを、二人が示す人の可能性(・・・・・)に。

 

 英雄譚(キャバルリィ)は、これから始まるのだ。

 




一輝の戦いは原作とほぼ流れは同じなのでカットです。

次回から四章『校内予選編』になります。
書きたい戦闘シーンが多過ぎて投稿間隔は今まで以上に空くことになると思いますが、気長に待って頂けたら幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。