闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

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第一章『誕生! 史上最強の弟子ユウイチ』
一話 達人との出会い


 伐刀者(ブレイザー)、己の魂を固有霊装(デバイス)として顕現し、魔力によって伐刀絶技(ノウブルアーツ)という異能の力を発揮する千人に一人の存在。そんな人がこの世にはいるらしい。

 まあ、僕には関係の無い話だ。僕は1000人の中の999人。いわゆる非伐刀者と呼ばれる人種なのだから。

 

 僕の名前は青井優一。どこにでもいるちょっと平均より運動ができる程度の何処にでもいる普通の中学生だ。他と違うことなんて特に無い。あえて言うなら三歳のころに母親を亡くして13歳まで父親に育てられた父子家庭だということくらいか。

夢は悪いやつを片っ端から倒すヒーロー……分かってる。ヒーローになるだなんて端から見ればイタい夢だってことは。

 でも、この世には伐刀者という人でありながら常軌を逸した存在がいる。彼らは『魔導騎士』という国の許可と社会的地位を得てはじめて能力の使用を認められる。そのためには国の許可を得た専門学校を卒業する必要がある。多くの伐刀者は魔導騎士を志してその学校に入学する。

 そう、“多くの”だ。中には専門学校に入学しない者や魔導騎士を裏切り犯罪に手を染める者がいる。誰かを守れる力を犯罪なんかに利用するなんて僕は許せない。だから、僕らのような弱い人(非伐刀者)のために戦う、誰もが見て見ぬふりをする悪をかたっぱしからやっつけるヒーローになりたい!

 ……なんてね、分かってるさ、非伐刀者が伐刀者に勝てるはずが無いなんてこと。

 

 だから…………

 

 ダンッ!

 

 響く銃声、割れる蛍光灯。そして続く怒号。

 

「おい、てめぇら動くんじゃねえぞ! ブッ殺されてぇのか!」

 

 生意気言ってすみませんでしたッ! お願いだから神様、助けてくださいぃぃ!!

 

 

===

 

 

 中学一年の冬、優一は父と共に銀行に来ていた。

 

「ごめん、優一。車に忘れ物をしたみたいだ。取ってくるからここで待ってて」

 

 父が銀行の外に出たのを見たその時、急にシャッターが閉まった。何だろうと思った矢先、銃声と悲鳴が響く。銃声のした方を見たら銃を構えた男の人と仰向けに倒れて血を流した警備員がいた。

 

「俺らは《解放軍(リベリオン)》だ! てめぇら、動くんじゃねえぞ! この男みたいになりたくなければな!」

 

 悲鳴はすぐに恐怖で引っ込んだ。いつの間にかガラの悪そうな人が7人、優一らをぐるりと取り囲むように立っていた。 

 全員が武器を持っている。覆面をした男5人は何らかのルートで入手したであろう銃を持っている。そして残りの2人が持っているのはナイフ、両刃のロングソード(西洋剣)、一目でそれが固有霊装(デバイス)であると分かる……伐刀者だ。

 この場にいた全員が一ヶ所に集められた。

 

「おい、ここに金をすべて詰めろ。変なことをしてみろ、ここにいる全員がお前のせいで死ぬことになる」

「は、はい……」

 

 男の一人が人質となった優一たちに銃を向けて受付の女性に袋を渡した。

 

「警察へ連絡しろ、こいつらを使って身代金を要求する」

 

 リーダーと思われる西洋剣の固有霊装を持った男が銃を持った別の男に言った。

 

「旦那、サツが来るまでここのヤツら好きにしていいっすかね」

「殺すなよ、人質の価値が下がる」

「へへ、殺しはしませんよ」

 

 ナイフの固有霊装を持った男が人質の中から金髪の女性に迫る。その女性を無理矢理立たせてナイフを突きつけた。

 

「あなた達、どうなっても知りませんわよ」

 

「いい目してるじゃねぇか……その目がどこまで続くか、楽しみだ」

 

 ナイフを女性の顔に近づける。

男が何をするのか、優一には分らなかったが勝手に体が動いた。

 

===

 

「や、やめろぉ!」

 

 気付けばナイフの男に体当たりしていた。

 

「ってぇな、何しやがんだガキ!」

「さ、さぁ? な、何しやがってたんでしょう……僕」

 

(咄嗟に体が動いたとは言えテロリスト、それも伐刀者に歯向かうなんて何してんだろ……僕。足もガタガタ言ってるし寒気もする。正直立っているので精一杯だ。

 でも、僕はこの人たちを見過ごしたくない)

 

「下等人類の分際で選ばれた新人類であるこの俺に歯向かうか、なら俺たちの理想の未来にテメェは必要ない。ここで死ね!」

「っ……!」

 

 とてつもないプレッシャーが体にのしかかる。

 ナイフが青白く発光してバチバチと火花が飛ぶ。電気系の伐刀絶技(ノウブルアーツ)だ。

 

(怖い。震えも止まらない。でも、僕はこんなヤツに負けたくない、こんなところで死にたくない!)

 

「死ねェ! クソガキ!」

 

 咄嗟に両腕を交差させて顔を守る。

 

腕ごと焼き切られ、優一は死ぬ……筈だった。

 

 

ガキィン! と甲高い金属音、それからナイフの男の何かに驚愕する声、そして両腕にのしかかる重量感。

閉じていた目を開けると、いつの間にか優一の腕に漆黒の手甲が装着されていてそれがナイフを完全に受け止めていた。

 

「てめぇも伐刀者だったのか!」

「え……?」

 

伐刀者(ブレイザー)? 僕が? ありえない、魔力なんかこれっぽっちもないのに。僕が伐刀者だって!?)

 

 突然の事態に優一の頭がついていかない。そんなことはお構いなしにナイフの男は続けた。

 

「ちっ、そうとわかれば容赦はしねえ。今度こそ死ね!」

 

さらに激しく火花を散らすナイフを高々と振り上げる、今度こそ防げないと感じた瞬間。

 

「危ないじゃないか。刃物は刺さると痛いんだぞ」

 

 優一の後ろから、優しげな男性の声がした。

 

 目を開けるとナイフの男の手首を優一の頭越しに後ろから伸びた手がつかんでいた。

 

「て、てめえ! このガキの仲間か!」

 

 ナイフの男もすぐに飛び退いて切っ先を後ろの男の人に向ける。

 

「いや、違いますよ。ボクは銀行に用があって偶然ここに居合わせたただの善良な一般市民です」

「ふざけやがって! 何が一般市民だ! おめえら、この男をハチの巣にしちまいな!」

「あ、それは無理だと思いますよ」

「なにい!?」

「だって……」

 

 男性が指さした先には銀行の隅で山のように積み上げられた銃を持っていた五人の男の人が……

 

―――岬越寺(こうえつじ)責人自重山(せきじんじじゅうざん)

 

「なっ!?」

「みんな仲良く反省中ですから」

 

 にっこりと笑うこの一見人畜無害そうな男の笑みがこの人があの山を築いた張本人だと物語っていた。

 

「さ、次はあなたの番です」

「ば、バケモノめ!」

 

 ナイフの男がさっきの女性の首にナイフを突きつけた。

 

「そこから動くな! この女がどうなってもいいのか!」

「や、やめろ!」

 

「心配ご無用ですわ。勇敢な少年さん」

 

 優一にそう言うと女性はふわりと、風に舞う羽のような軽やかさでナイフの男の上に飛び、両足で頭を挟んでさらに後方宙返りをしてナイフの男の頭を天井に叩き付けた。

 

風林寺(ふうりんじ)霞隼(かすみはやぶさ)!」

 

 軽やかに着地した女性の前にどさっと気絶したナイフの男が落ちた。

 

「あ、ああああ……なんなんだ、お前らは!」

 

 最後に残ったリーダーと思わしき西洋剣の男が怯えたような目で他のテロリストを制圧した二人を見る。

 

「さっきも言ったじゃないか。ただの善良な一般市民さ」

「ですわ」

 

「そんなことを聞いてるんじゃねえ! 固有霊装(デバイス)を出さずに銃を持った部下を数秒で無力化し、Dランクの伐刀者(ブレイザー)も無傷で倒した! そんな化け物じみたことができる、お前たちはいったい何なんだ!」

 

「固有霊装を出さずにって言われても僕たちは非伐刀者だしなぁ……なら、こう答えようか。梁山泊『一人多国籍軍』、白浜兼一」

「同じく、『風斬り羽』の風林寺美羽ですわ」

 

「梁山泊……梁山泊だとぉ!? び、ビショウさんからはなんも聞いてねえぞ! 梁山泊の達人が、二人もここにいるなんて!」

 

 リーダーの男が急に顔を真っ青にして狼狽(ろうばい)し始めた。

 

「できれば戦いたくないので武器を手放して警察に自首してくれるとありがたいのですが……」

「あ、ああ。わ、わかった。自首する」

 

 それはよかった。と言って兼一はリーダーの男に背を向ける。その無防備な背中に男は口元に笑みを浮かべた。

 

(馬鹿め! いくら梁山泊でも油断させちまえばこっちのもんだ!)

 

 手にした西洋剣を握り直し、兼一の背中に突き立てようとする。

 優一はその男の挙動に気付き、声を上げようとしたその瞬間。兼一の体が横にずれ、その左真横を剣の切っ先が素通りする。

 

「……残念です。僕はあまり無益な戦いはしない主義ですが……あなたをここで放っておくわけにはいかなそうです」

 

 左横の刀身を掴み、振り返る。男は今度こそ顔を真っ青にし、全身から冷や汗を流す。

 

「ま、待ってくれ……」

「待ちません。悪いですけど…ボク、あなたに少し頭に来ました」

 

 ゆっくりと左手で持ち上げられる西洋剣の刀身、兼一の右手が手刀の形を作る。

 

「コオォォォ……チェェイィッ!!」

 

――――刃金斬り(はがねぎり)!!

 

 気合一閃。真横一文字に軌跡を描いた手刀は固有霊装を真っ二つにたたき切った。

 

「―――――!?!?」

 

 伐刀者にとって固有霊装は魂の結晶である。それを砕かれたことにより声を上げる間もなく男の意識が途切れ、その場に倒れた。

 

「ふうーー」

 

 意識が完全に断たれたことを確認した兼一は心の中で「やっぱり伐刀者は固有霊装を砕くのが一番物理的に気付付けなくて済むな」などと少しずれたことを思うのであった。

 

===

 

 

 それからしばらくして110番通報を受けて来た警察によって銀行強盗犯たちは全員おとなしく連れていかれた。

 

「やあ、大丈夫かい?」

「は、はい。あの、ありがとうございました。えっと……白浜…兼一、さん」

「いやいや、お礼を言うのはこっちだよ。君のおかげで奴らに一瞬の隙ができた。ありがとう。

……でも、これからはあんなことはやらないように。今回は僕たちがいたからよかったものの下手をすれば死んでいたかもしれないからね。」

「……はい」

 

「兼一さん、そろそろ帰りましょう。早くお夕飯を作らないとアパチャイさんが飢え死んでしまいますわ」

「あ、はーい! 美羽さん。じゃあね」

 

「あ、あの!」

 

 立ち去ろうとする兼一さんを無意識に呼び止めた。よくわからないけど、何かしないといけないと思った。

 

「あの……どうやったら、あなたみたいに強くなれますか…?」

「…………君に信念はあるかい?」

「え……?」

「僕は、僕の中にある信念を貫くために強さが必要だった。自分の信念を曲げないために、貫き通すために頑張っていたら、いつの間にかここまで来ていたよ」

「……自分の中の信念を……貫き通す……」

 

 信念……僕の中の信念って何だろう。

 いつの間にか兼一さんと、兼一さんと一緒にいた女の人、美羽さんの姿はどこにもなかった。

 




 第一話『達人との出会い』、いかがだったでしょうか。主人公、青井優一と達人、白浜兼一と風林寺美羽の出会い編でした。
 この小説では『===』を使って場面転換、一人称の修行も兼ねて一人称視点と三人称視点を使い分けたいなと考えています。

 ケンイチ時系列では一応原作終了時から大体十数年後をイメージしています。兼一と美羽は達人となり梁山泊の豪傑の一人に数えられるくらいには強くなっています。
 落第騎士時系列では原作開始の2~3年前、一輝が道場破りをして回っている時期です。

 兼一の二つ名には悩みました。『史上最強の弟子』や『梁山泊弟子一号』は達人となった兼一には似合わないような気がして他に何か名乗ったり呼ばれたりしたかなと原作を読み漁ったのですが

叶翔「虫」←うーん
ラデン・ジェイハン「革命者」←ちょっと違うかな……
築波「一人多国籍軍」←これだ!

 というわけでなんかしっくり来た『一人多国籍軍』が二つ名になりました。

 ちなみに美羽さんの『風切り羽』は『風を斬る羽』をちょろっといじったもので、こっちのほうが呼びやすいという個人的な理由です。

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