闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

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今回から代表選抜戦です!
優一が色々かき回します。



七話 残念です。

 《解放軍(リベリオン)》のショッピングモール占拠騒動の翌日。

 例え重火器で武装した大人十数人相手に大立ち回り しても普通に学校はある。

 

「うわぁ~! 遅刻だぁ~!」

 

 黒光りする地蔵を背負って全力疾走する不審者。もとい、優一。

 こんなんでも先日、テロの被害を最小限に押さえた立役者なのだ。

 

(ダメだ! このままじゃ廊下を渡ってちゃ間に合わない! ならっ!)

 

「とぉりゃあ!」

 

 高く跳躍。そのまま一年三組の教室に窓から飛び込んだ。

 

「セーフ……!」

 

「アウトだ馬鹿者。窓から飛び込むやつがあるか、後で職員室な」

 

「そんなぁ!」

 

 

「青井くん、また怒られてる」

 

「もうアイツの突飛な行動にも慣れたな」

 

「私、あのお地蔵様の顔を見なきゃ一日が始まったって気がしなくなったわ」

 

 ひそひそとクラスメイト達が話す。

 始業式の日からずっと行われる優一の奇行にクラスメイト達はすっかり慣れたようだ。

 井上に急かされ、優一は席につく。

 

「さて、今日から代表選抜のための校内予選が始まる。予選期間中は授業は午前まで、昼からは試合だ。各自、自分の試合に遅れないように注意すること」

 

 学生騎士最強を決める戦い、七星剣舞祭。その舞台に上がる切符を手にする為にはこの校内予選で結果を残さなければならない。

 近いうちに試合を控えている者がいるのだろう。試合に参加せず、観戦を楽しみにする者もいるのだろう。

 皆、それぞれに違う反応をとる。

 そんな中で、優一は平常心であった。

 

(選抜戦かぁ……)

 

 両手を握り、開いて掌を見る。

 七星剣舞祭にかける思いは無い。

 何故なら、優一の目指す先は最強ではなく極みの域。はなから学生騎士最強の座などには興味が無いからだ。

 

(でも、黒鉄さんは出るよね。ステラさんも……うん)

 

 拳を握る。

 

(ちょっと、楽しみかも)

 

===

 

 翌日、優一の試合は二日目の13時半から行われる。

 初めての公式戦、初めてのちゃんとしたルールのある中での戦いに優一の気ははやっていた。具体的には昨日は遅刻ギリギリだったくせに今日は日が昇り始めた頃に登校するくらいには。

 

 早く着きすぎたので勿論校舎は空いてない。どうしたものかとその場で正拳突きをしながら考えていると第一学生寮の方から足音が聞こえてきた。

 

(ん? こんな朝早くからジョギングかな?

 この足音……ああ)

 

「おはようございます。早いですね、黒鉄さん」

 

「はっ、はっ、あれ、優一くん?」

 

「ロードワークですか? 僕も付き合いますよ」

 

「いや、ただ早くに目が覚めちゃって、優一くんは?」

 

「僕も似たようなものです。ちゃんとしたルールの元で戦うなんて初めてなもので」

 

 意外だ、といった表情をする一輝に優一は苦笑して返す。

 

「ルール有りの戦いよりルール無用の戦いの方が多かったので」

 

 確かに、ショッピングモールでの戦いは手慣れていた。

 しかし、あれは選抜戦の試合ではすぐに失格になってしまう。そんな戦い方だ。

 初めて会った時のような戦いは彼の中では珍しい部類だったのだろう。

 

「まぁ、臨機応変に、その場その場に合った戦い方を選択して立ち回る。それが僕の戦い方(スタイル)です。そう簡単にやられるつもりはありませんよ。

 それよりも黒鉄さんはどうなんですか?」

 

「僕? 僕は大丈夫。相手は強敵だけど、攻略法は見えている。必ず勝つよ」

 

 一輝の力強い言葉を聞いた優一は何の脈絡も無く、一輝の横顔面めがけて右足で回し横蹴りを放った。

 一輝は咄嗟に左腕でガードするが、腕に当たった直後に膝を曲げ、防御を抜けて膝蹴りが顔面に迫る!

 しかし、優一の膝は一輝の鼻先から1ミリのところで停止した。

 

「な……っ」

 

 優一の突飛な行動はいつもの事だ。だが、これはあまりにも酷すぎる。

 当日に試合を控えている者相手に不意討ちなど、卑怯者以外の何でもない。

 一輝が文句を言おうと優一を睨もうとして、優一の酷く落胆した表情に言葉を詰まらせた。

 

「残念です。黒鉄さん」

 

「何を……」

 

「断言しますよ。今日の試合、今の黒鉄さんでは勝てません。

 今の貴方は見える筈のモノを見ていなくて(・・・・・・・・・・・・・・)見る必要の無いものを見ている(・・・・・・・・・・・・・・)。」

 

「──っ!」

 

 荒涼の丘にはためくは我らが新白連合旗~♪

 

「あ、すみません。電話です。

 

 はい、もしもし?

 …………へ? 今からですか? もうジーク師匠が向かってる? ちょっと待ってください! 今日試合なん「ラララ~~~! さぁー、我が弟子の元へ~~!」あぁ、観念しました」

 

 ズドンッ! と優一と一輝の間に何かが落下。

 

「ラッラ~~! お迎えに上がりましたよ! 我らが弟子よ! さぁ、我らが親愛なる魔王のために、悪党を蹴散らしに行きましょう!」

 

 突然降ってきた何か、その正体は優一の師匠の一人であるジークフリートだ。

 彼は優一をひょいと抱え、一輝を見た。

 

「おや、何やらエルネジコ(力強く)な響きのメロディーを奏でていますね。しかし、まるでボロボロの楽器で独奏しているようだ」

 

「貴方は……」

 

「おっと、失礼。私、急ぎますので。さらばっ!」

 

 ドンッ、と地面を凹ませて飛び上がる。一輝は追おうとしたが、すぐにその姿は消えて無くなっていた。

 

 

===

 

 

 当日、破軍学園。

 第4訓練場、選手控え室。

 

 数個のロッカーと長椅子、壁に貼り付けられた姿見と時計。殺風景なその部屋に、黒鉄一輝はいた。

 

(やっと、ここまで来たんだ)

 

 学生騎士なら誰もが憧れる学生騎士最強の座、七星剣王。

 そこに至るための戦いに、ようやく挑める。

 この場に来るために、多くの困難があった。多くのモノを失ってきた。

 これから戦う相手は強敵。去年七星剣舞祭の舞台に上がった桐原静矢。一輝の世代で最も優れた才能の持ち主だ。

 

(大丈夫、僕は負けない。負けられない)

 

──断言しますよ。今日の試合、今の黒鉄さんでは勝てません。

 

「───ッ!」

 

 今朝、優一に言われた言葉がフラッシュバックする。

 

 勝てない? そんな筈は無い。

 確かに、相手は七星剣舞祭代表選手に選ばれたこともある猛者ではある。

 だが、何のためにこれまで努力してきたのか、何のための一刀修羅か。

 一人ぼっちだった去年とは違う。今年は応援してくれる妹がいる。友人がいる。一人じゃない。

 

「大丈夫。必ず勝つ。勝って、七星の頂きに──」

 

 

『一年・黒鉄一輝君。二年・桐原静矢君。

 試合の時間になりましたので入場してください』

 

 

「っ!」

 

 立ち上がり、息を深く吸い、吐き出す。

 

(コンディションは万全。頭の中で何度もシュミレーションしてきた。桐原君の呼吸も、移動の傾向も、癖も、全て把握している)

 

 リングに繋がる扉に向かって歩き出す。

 

(絶対に勝つんだ。勝って、証明するんだ。僕の、黒鉄一輝の価値を──!)

 

 扉を、開いた。

 

 

===

 

 同時刻。破軍学園。

 第二練習場。選手控え室。

 

 そこに、優一はいた。

 

(黒鉄さん、大丈夫かな?)

 

 考えるのは目先の試合では無く、友の事。

 しかし、体は優一の思考とは関係無くシャドーボクシングをし、体を暖めている最中だ。

 

(わざわざ受け止める必要の無い寸止めを受けるなんて、黒鉄さんらしくない。

 いつもの調子なら寸止めであることを見極める事が出来た筈だ)

 

 しかし、一輝はそれをしなかった。それに、

 

(黒鉄さんが“絶対”って言葉を使うなんておかしい。そんな言葉を使う(ひと)じゃない)

 

 思考と完全に切り離された体が最後の仕上げに入る。

 左ジャブからの右フック。そのまま体を回して左肘での回転肘打ち(ソーク・クラブ)、脚を前に踏み込んで貼山靠(てんざんこう)と流れを絶やすこと無く、スムーズに他の武術の技に繋げていく。

 

(今までに黒鉄さんがどんな道を歩んできたのか、何があったのか、今日の黒鉄さんの対戦相手が誰なのか、何にも知らないけれど)

 

 テコンドーの踵落とし(チッキ)からの空手の横蹴りに繋ぎ、相撲の四股踏みで一連の動作を終える。

 

(頑張って下さい、黒鉄さん。貴方はこんなところで負けていい(ひと)じゃない)

 

 

『一年・青井優一君。二年・磯川和磨くん。

 試合の時間になりましたので入場してください』

 

 

 長椅子の上に置いていたスペドリを手に取り、一口飲む。

 

「ふぅ、よし。行くか」

 

 今日、ここに来る前に斬られた背中の傷が痛むがこの程度は日常茶飯事。

 優一はリングへと続く扉を開いた。

 

 




優一は一輝の過去を知りません。それどころか留年したことや落第騎士(ワーストワン)なんて呼び名すら知りません。
だからこそ、何のフィルターも無く、純粋に武術家としての一輝を見れる。そんな優一が一輝にどう影響を与えるのか、お楽しみに。

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