闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

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後編です。


六話 ショッピングモール占拠事件(後編)

 《解放軍(リベリオン)》に占拠されたショッピングモール。そのエレベーター内。

 

 そこには目出し帽をかぶり、武装した男が三人。

 説明するまでもなく、《解放軍》の構成員だ。

 

「人質はこれで全部か?」

 

「いや、まだいますよ」

 

 それはその場にいた三人の誰もが聞いたことの無い声。

 男たちはその声の主を見るより先に気を失った。

 

 チンッと、エレベーターの扉が開く。

 中から三人の男を抱えた優一が出てきた。

 

「これで18人目?」

 

「うん、後は一階にいるA班とC班、ビショウって伐刀者の13人だけだ」

 

 翼と言葉を交わしながらドサッと男達を降ろし、手早く服で手足を縛る。

 

 あの後、翼と優一で二階より上にいるD班とE班を制圧。

 B班は優一が倒した二人以外は闘忠丸が全滅させたらしい。

 これで、二階から上に《解放軍》のメンバーはいない。残るは一階で人質を監視するA班とC班のみだ。

 

「にしても……何? その仮面」

 

「ん?」

 

 そう、優一の顔には祭りの屋台などで売ってそうなヒーローの仮面が付けられている。

 普通の私服にヒーローの仮面。場所が場所だけに異様な格好だ。

 

「ふっふっふ、この仮面はあの我流Xに認められ、長老を通して我流Xから貰った仮面! これを付けた僕は僕では無い。その名も、我流ブルーだ!」

 

 ビシィッ!とポーズを決める優一もとい我流ブルー。

 

「はぁ……」

 

「何さ、頭を押さえてため息なんかついて」

 

「そりゃあ、ね。活人拳って変人しかいないのかしら」

 

 そんなことはない、と否定しようとして梁山泊に来たばかりの頃を思い出す。

 

(あれ? 否定できない?

 いや、そんな筈は……)

 

「そ、そんなことより! 一階をどう制圧するかだ」

 

「残りは一階にいるA班とC班の武装した非伐刀者が12人、ビショウって伐刀者が1人。その能力は不明……

 能力が不明ってのが難点ね」

 

「ふむぅ、人質に被害が及ばずに制圧する方法……あっ」

 

 いいこと思い付いたと、手を叩いた。

 

===

 

 場所は変わり、三階。

 吹き抜けになった一階、フードコートの広場を見渡せる場所。そこに一輝とアリスはいた。

 

「何かあったのかしら、彼らの様子がおかしいわね」

 

 彼らの眼下にある広場には人質が一ヶ所に集められている。

 もちろん、それを見張る《解放軍》のメンバーもだ。ただ、彼らの様子がおかしい。しきりに無線機に話しかけたり、うろうろと歩き回ったりと落ち着きが無くなっている。

 

「分からない。でも、今なら」

 

 チャキ、と顕現させた陰鉄を握り直す。彼らに隙が出来た瞬間に飛び込めるように、人質の中にいるステラと珠雫を助けに行けるようにその時を待つ。

 そして、その瞬間は思っていたより早く訪れた。

 

===

 

「ぐわぁぁああ!」

 

 ガッシャーンとガラスを壊す音と共に二階から一階のフードコートへと何者かが落ちる。よく見れるとそれは目出し帽を被った《解放軍》のメンバーだ。

 

 突然落ちてきた仲間に駆け寄る《解放軍》のメンバー達。

 その上に一人の少女が舞い降りた。

 

「なんだ!」

 

「はい、失礼」

 

 着地と同時に手刀を横一閃。

 たったそれだけで、彼らの持っていたアサルトライフルが切断され、着ていた防弾チョッキが裂ける。

 実際はもっと細かい動きをしていたのだろう。だが、早すぎて腕を横に振っただけにしか見えなかったのだ。

 今、このショッピングモールにいて、このような卓越した技を使える者はただ一人。

 

「レディに対してなってないよキミ達。後、顔を隠すならその下はイケメンにしてきなさい。がっかりさせないでよ」

 

 そう、翼である。

 

「なっ、テメェか! 俺達の仲間をやった我流ブルーってのは!」

 

「いや! コイツは仮面を付けていない! つまりコイツがU三兄弟だ!」

 

「いや! コイツは女だ! だったらコイツが謎の鎖鎌使いアオイだ!」

 

 男達の口から放たれるセンスの欠片の無いヘンテコネーム達。それを聞いて翼は納得する。

 

(ああ、なるほど。ゆーいちくんが一々変な格好をしたり違う名前を名乗っていたのは相手を混乱させるための策だったわけね)

 

 実際、無線から聞こえる「我流ブルー」だの「U三兄弟」だの「謎の鎖鎌使いアオイ」だのにやられる仲間の叫びは《解放軍》からしてみればこのモール内にかなりの使い手が複数いると思い込ませるには十分だった。

 だからこそ変に単独行動出来なくなったし、見えない強者に怯えもした。

 

 こうして翼が姿を見せたことで他の我流ブルーなる人物もやってくるのではとあちこちを警戒しだす。

 それは人質から意識がそれることに変わりはなく……。

 

「ふっ」

 

「がっ!?」

 

 その隙に翼が男達を倒すことなど容易い。

 瞬く間に10人いた《解放軍》のメンバーはの四人が無力化された。

 

「う、動くなぁ! 動けばこの人質がどう……なる、か……」

 

 人質に銃口を向けた瞬間、どこからか飛んできた投げ分銅によってその銃口が潰される。

 人質を挟んだ反対側なら翼もすぐには攻撃出来ないだろうと踏んでの行いはあっけなく何者かに踏みにじられたのだ。

 

「な……!」

 

 投げ分銅が飛んできた方に視線を向けると先ほど二階から落ちて来た仲間。

 彼は鎖鎌を持って人質の上を文字通り飛び越え、鎌を振り下ろした。

 

「がっ!」

 

 頭に走る衝撃は木の棒で叩かれたもの。直前に鎌をくるりと反転させたのだ。

 次の瞬間には男は意識を失っていた。

 

 翼にやられた筈の仲間が何故か鎖鎌を手に仲間を倒す。

 その事態に《解放軍》の中でさらに混乱が巻き起こる。

 

「な、何をする! お前は誰だ!」

 

 《解放軍》の一人が鎖鎌を持つ男に言った。

 

「ふっふっふ、誰だと聞かれたならば答えましょう!

 ある時は謎の鎖鎌使いアオイ! またある時はU三兄弟の末弟! 果たしてその正体は……」

 

 男が目出し帽を取ると、そこに現れたのは素顔ではなく───お面。

 

「世界の平和を守る我流Xの仲間! その名も───

 我流~~~ブルー!」

 

 

「「「………………」」」

 

 

「あれ、何この空気」

 

 あまりにもふざけた名乗りに微妙な空気が辺りを支配した。

 三階のほうで思わずズッコケた伐刀者が二名いたことも追記しておく。

 

「ポージングが悪かったのかな?

 ねぇ、どう思う?」

 

「知らない! さっさと戦え!」

 

 翼に聞いてみるが反応はかなり冷たい。

 へーい、と返事をして後ろから銃を構える男に鎖鎌を投げる。

 

「ひっ!」

 

 鎖が男の体に巻き付き、鎌が防弾チョッキに軽く刺さって止まる。顔面スレスレを刃物が通ったショックで男は気絶する。

 

「そぅれ、どうぞ!」

 

 ぐい、と鎖を引いて男を手元に引き寄せると巻き付けた鎖鎌ごと別の《解放軍》の男に投げ渡す。

 

「なっ、うわぁ!」

 

 突然のことで受け止めることなど出来ず、床に倒れる。成人男性一人分の重さを受け、追い討ちとばかりに分銅が頭を落ち、気絶した。

 

「くそっ、この卑怯者! 変装してあの女にやられた仲間のフリをしてやがったのか!」

 

「卑怯では無い!

 与えられた条件下で最良の状態を作り出して戦う」

 

 アサルトライフルを向けるも一回瞬きをする間に近付かれ、

 

「これぞ、立派な兵法(ひょうほう)だっ!」

 

 膝蹴りでアサルトライフルを破壊され、そのまま顎に衝撃を受けてブラックアウト。

 文字通りの瞬殺であった。

 

「後、二人!」

 

 次の狙いを定めようと視線を動かす。

 が、

 

「あ、ごめん。もうやっちゃった」

 

 翼が残りの二人を蹴り飛ばした後であった。

 

 僅か3分にも満たない時間の攻防。恐るべきは誰も発砲するどころかトリガーに指をかける前に倒されたことか。

 

 人質にされた者達から安堵の息が漏れる。

 

「いやぁ、見事見事。まさか武装した男10人を相手に圧倒するとはなぁ。

 だが、その救出劇もこれまで」

 

 下卑た声で現れたのは金の刺繍を施した黒い外套に身を包んみ、顔に入れ墨を入れた男だ。その両脇には武装した男が二人付き従っている。

 

「このビショウが直々にテメェら二人を殺してやる」

 

 そう言って懐に手を入れた瞬間、

 

「一刀修羅ァッ!」

 

 吹き抜けとなった上の方、三階から何かがとてつもない勢いで落下し、次の瞬間。

 ビショウと取り巻き二人が倒れた。

 

「──ふぅ」

 

「イッキ!」

 

「お兄様!」

 

 人質の中からステラと珠雫が飛び出し、ビショウ達を倒した人物、黒鉄一輝の元に駆け寄る。

 彼はビショウの意識が完全に優一達に向いている隙を突き、意識外から《幻想形態》の《陰鉄》で三人の首をはねたのだ。

 それも《一刀修羅》によって身体能力を強化して認識されても反撃が間に合わないスピードで。

 

「ありがとう、優一くん。いきなりメールで作戦が送られてきた時はびっくりしたけど、おかげで誰も傷付かずに済んで良かった」

 

「そんなことをしてたの?」

 

 1分で己の全てを使いきる《一刀修羅》、それを使った後のひどい疲労で倒れてしまいそうなところをステラに支えられた状態で優一に軽く頭を下げる。

 人質として捕まっていた間にそんなことしていたのかとステラと珠雫は驚いた表情を浮かべた。

 

「はい。黒鉄さんが上の階にいたことは分かってたので、ビショウが出て来たらサクッとお願いしますって。

 まさかこんなに上手く行くとは思ってませんでしたけどね」

 

「ゆーいちくんって、試合よりもこういう不意討ち、トラップ何でもござれな戦いの方が得意だもの。

 作戦立案に関しては私も一目置いてるんだから」

 

 だからこそ翼は本来は敵対関係である優一にどうするかを聞き、素直に指示に従っていたのだ。

 

 《解放軍》の伐刀者も倒され、優一達が普通に会話を始めたことで辺りの緊張がほどけ、人質にされた人々から歓喜の声が上がる。

 後はモールの外に出て家に帰るだけ。その前に助けてくれた彼らに礼を言おうと立ち上がろうとする者がいる中。

 突然、女性の悲鳴が上がった。

 

「ガキども、動くんじゃねぇ!

 余計ことをしたら、この女を殺す!」

 

 声のした方を見れば、OL風の格好をした女性が拳銃を中年女性のこめかみに突き付けていた。

 

「そんな、人質に隠れていたなんて!」

 

 ステラが女を睨み付ける。

 突然の逆転。終ったと思っていたよりステラ達は歯噛みする。

 しかし、優一、翼、一輝の三人に動揺の色は見えない。

 

「《影縫い(シャドウバインド)》」

 

「なっ、体が……⁉」

 

「はぁい、そこまでよ」

 

 するり、と影からアリスが姿を現す。

 アリスの能力は影を操る能力。霊装(デバイス)で影を縫い止めればその動きを封じることが出来、影の中を移動することも出来る。

 この能力で影の中に隠れて《解放軍》の女性の影を縫い止めたのだ。

 

「なん……でっ」

 

「予想済みだったからですよ。人質の中に隠れていることも。

 ですから貴女のような人が出て来やすいようにもう一人には隠れてもらってました」

 

「っ、くそ……!」

 

「ゆーいちくん、そのお面付けてたら何言ってもカッコ悪いよ」

 

「えぇ! そんなぁ!」

 

===

 

 《解放軍》の全身を取り押さえ、警察に引き渡す頃には翼の姿は無かった。

 

「突然現れて、突然いなくなったわね。あの子」

 

「次はいつ殺しに来る(会える)かなぁ……」

 

 いつの間にか日は暮れ始め、赤い夕日を眺めながら呟いた。

 

 

 

「そう言えば、あの鎖鎌ってどこから持って来たのかな?」

 

「服の下に隠してました。

 しぐれさん曰く「ふぁっしょんぽいんとは、さりげない鎖鎌……だ!」とのことです!」

 

(しぐれさんってのが誰かは分からないけど……普通の服装だと思って安心したのは早計だったかなぁ)

 

 やはり、優一には常識というものが通じないと実感する一輝であった。




ステラのストリップも無かったので一輝は原作より冷静にいられました。
なお、珠雫の苦労は文字通り水の泡だった模様。

じゃんけんの人? 前回で優一に殴られてますが何か?

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