前回お知らせした通り、今回から本作のタイトルは『闘拳伝ユウイチ』に変わります。
それでは、優一がやらかす第二話です。
破軍学園始業式の日。
優一は破軍学園の一年三組に振り分けられた。
教室に入ると既に二、三人ほどのグループが出来ていたり、一人で読書をしている者もいる。席は自由らしく、
しばらくすると担任の教師がやってきて教壇に立つ。
「皆さん、まずはご入学おめでとう。
私がこの一年三組の担任となる井上だ。伐刀者としてのランクはCだ。担当科目は世界史と日本史だが戦いの立ち回り方や剣の使い方などの質問も受け付ける。
今日は初日だ。何か私に質問がある人は挙手」
井上と名乗った眼鏡をかけた短髪の男性は気持ちの良いくらいキビキビとした態度で進めていく。
早速、生徒の一人が手を挙げた。
「先生は恋人居ますかー!」
「恋人は居ない。だが妻はいる。結婚一年目だ」
おぉ~、と教室がざわめく。厳しそうな見た目に反して意外と茶目っ気はあるらしい。
それならと思いきって優一も手を挙げてみた。
「はい、そこ」
「先生はどんな得物を使うんですか?」
これは井上を見たときから気になっていたことだ。優一はこれまでにあらゆる武術家と戦い、その中で様々な武器と出会い、戦ってきた。
伐刀者は個人によって霊装の形が異なるため、常に使用者の筋肉の発達具合や身のこなしからある程度、霊装の形状を予測を立てるようにしている。
現に優一は既にクラスメイト全員の大方の霊装の形状を把握している。
だが、この井上と名乗る教師の武器が分からない。いや、身のこなしから中華武器であることは予測できている。だが、スーツの下に隠した筋肉の発達が剣使いのようにも見えるが槍使いのようでもある。要するに優一が見たことの無い武器の使い手であるのだ。
「ふむ、皆は初めて聞くだろうが
「ぶふっ⁉」
クラス全員が始めて聞く武器の名に?マークを浮かべる中、優一が吹き出す。
「なんだ、知ってるのか」
「え、ええ。まぁ」
(そっかー、アレの使い手かー。そりゃ分からないよな)
龍頭大铡刀、その名の通り尖端に龍の頭を模したものが付いており、剣とも槍ともつかない非常に奇妙な形をした武器である。その特異すぎる形態から非常に分類が難しい武器だ。
優一はこれを昔に見たことがある。あれは兼一とその中国拳法の師の娘である馬連華の手伝いで中国に訪れた時のことだ。中国の歴史資料博物館の警備をした時に農具から発展した武器としてガラスケースの中にあったのを見たことがある。あの時は元となったと云われる農具とは似ても似つかない形状に苦笑いした覚えがある。
(あの後に何故か中国マフィアとの戦いになって博物館を滅茶苦茶にしちゃったっけ。大斧使いのCランク伐刀者を圧倒する連華さんの戦いの印象が強すぎて完全に忘れてた)
ちなみに博物館を滅茶苦茶にした主犯は連華と優一なのだが連華によって責任は中国マフィアの連中に擦り付けられた。
「他に何か質問は無いか? 無いなら自己紹介をしてもらう。出席番号と名前を言うから呼ばれたら返事をするように、その後に名前と何か位置1つ言ってくれ。
じゃあ行くぞ。出席番号1番、相崎」
そうこうしていく内にホームルームは終わりに近づき、最後の連絡事項に移る。
「最後に一つ。『七星剣舞祭代表選抜戦』についての連絡がある。
始業式で理事長先生が言っていたように破軍学園は今年から『能力値』で選手を決める『能力値選抜』を廃止し、『全校生徒参加の実践選抜』に制度が変わった。全校生徒から選抜戦を戦い抜いて成績上位者六名を七星剣舞祭代表選手として選抜する。ここまではいいか?」
「はぁーい」とクラスのあちこちから返事が聞こえる。
七星剣舞祭とは年に一度開かれる学生騎士最強を決める戦いだ。その注目度は高く、全世界にテレビ中継されるほどだ。
「よし、代表選抜戦の日程は生徒手帳に『選抜戦実行委員会』からメールで送られてくる。来ないと不戦敗になるので注意するように。
それと、棄権するときは実行委員会に直接連絡してくれ。棄権しても成績に影響は出ないが出来れば参加……皆、耳を塞げ!」
突然、井上が叫ぶ。咄嗟にクラスの全員が耳を塞ぐとすぐに爆発音が響き、校舎が揺れた。
悲鳴を上げる女子生徒、動揺を隠せない男子生徒が身を縮めて視線を泳がせる。
「皆、静かに! 私が様子を見てくる。指示があるまでこの場で待機だ!」
井上はそう指示を飛ばして駆け足で廊下に出る。それとほぼ同時に優一も廊下に出た。教室の一番後ろ、廊下側の出入口に最も近い席はこういう時に誰にも感知されずに抜け出せるから便利だ。
廊下に出るとすぐに爆発地点が分かった。一年一組の教室だ。すでに人混みが出来ている。
人混みの中の隙間を縫ってするすると前に出ると一目でこの爆発騒ぎの主犯と思われる人物が分かった。その内の一人には優一も見覚えがあった。
「まったく、初日そうそう何やってんだか」
入学手続きの日に空から降ってくるような輩には言われたく無い。
一人は燃えるような赤い髪が特徴的な異国のお姫様。Aランク学生騎士、ステラ・ヴァーミリオン。
もう一人は短い銀髪に淡い翡翠色の瞳が特徴的な少女だ。儚げな印象を与えるであろうその瞳には何故か怒りの炎が燃えている。
(あー、事件性も無さそうだし教室に戻るかな)
退散しようとして優一はある人物を見つけた。
「黒鉄さん!」
渦中にいた銀髪の少女と黒髪の青年が優一の方に振り返る。
「ん、うわっ!?」
振り向いた青年に飛びかかり、というかムエタイの
青年はすんでのところで左にかわし、すれ違い様に優一の顔面に右の掌底を放つ。優一はその掌底を右手で受けて、着地。
掌底とそれを受けた右手がちょうど握手の形になった。
「お久しぶりです! 黒鉄さん!」
「あ、うん。久しぶりだね、優一くん」
にっこりと人懐っこい笑みを浮かべる優一とは逆に不意討ちを仕掛けられた本人、黒鉄一輝は引きつった笑みを浮かべる。
昔、再会を誓いあったとはいえまさか不意討ちされるという形で再会するとは思わなかったらしい。
突然、優一の飛び膝蹴りから始まった二人の流れるような攻防に野次馬は黙り、一瞬の静寂が辺りに訪れる。
「いきなり何をやってるのよ!」
「いきなりお兄様に何をするんですか!」
静寂を破ったのは爆発犯の二人だ。それに対して優一は、
「え、不意討ちはいきなりやるものですよ?」
何言ってんだこの人達とばかりに言葉を返した。
「それは私の台詞だな。新学期早々、何をやってるんだお前たちは」
怒りのこもった声が爆発犯二名の後ろからする。
恐る恐る二人が振り返るとそこには般若と見間違うほどの形相をした、
「り、理事長先生……」
「詳しい話は理事長室で聞く。付いてこい」
この破軍学園の理事長、新宮寺黒乃はむんずと二人の制服の襟元を掴んで引きずりながら去っていった。
「わぁ、大変だなぁ」
「それは他人事ではないぞ、青井」
「あ、井上先生……」
「まったく、指示があるまで教室で待機するように言ったはずだぞ。教室から抜け出すだけならともかく、他の生徒に飛び膝蹴りなどもっての他だ。ホームルームが終わったら職員室で説教だ」
「じゃあ黒鉄さん、また放課後に~!」
優一も井上に襟元を掴まれ、ずるずると引き摺られながら一輝にひらひらと手を振りながら一年一組の教室を去っていった。
「あ、あんな人だっけ? 優一くんって」
何はともあれ、新学期早々爆発騒ぎを起こした新入生首席と次席に並んで久しぶりに再会した友人に膝蹴りをする変人としてあっという間に学園中に噂が広まったのであった。
今回出てきた中華武器、『龍頭大铡刀 』は実在する武器です。どのような武器かは見た方が早いです。参考にしたサイトのURLを貼っておきます。
希少奇器のブース
http://www.gaopu.com/666.html
YouTube演舞の映像
https://youtu.be/mfI2JoSiZH4