闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

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 毎度お待たせしました。三章の一話です!
 今回から原作に入ります。時系列はアニメ一話冒頭からスタートです!

 それとお知らせです。
 新章に入るにあたり思うところがあって次回投稿から作品タイトルを変更しようと思います。
 次回投稿から『闘拳伝ユウイチ』に変わります。


第三章「噂の新入生ユウイチ!」
一話 燃えよユウイチ!


 ビルが建ち並ぶ街、東京。その一角に人混みが出来ていた。

 人混みの中心に居るのは燃えるように赤い髪を持つ少女。ヴァーミリオン皇国の第二皇女、ステラ・ヴァーミリオン。

 彼女は今年から日本の伐刀者を育成するための高校、破軍学園に入学する。そのための来日だ。

 

 その人混みから500メートルほど離れた地点のビルの屋上に先の潰れたライフルに付いたスコープでステラを見る少年の姿があった。全身をピッチリと覆う黒いスーツを身に纏い、その上から道着を着た珍妙な格好をした少年だ。

 

『ターゲットが姿を見せた。そこから狙えるか?』

 

 少年の傍らに置いてあったトランシーバーから声が発せられた。彼は落ち着いた様子でそのトランシーバーを取り、落ち着いた口調で話しかける。

 

「もしもし、このトランシーバーの持ち主のスナイパーさんなら僕の後ろで寝てますよ?」

 

『なっ、誰だテメェ⁉』

 

「新白連合の青井優一です。ダメですよ、皇女暗殺なんて企てたら。せっかく入学手続きの日なのに散々な目にあった」

 

『チッ!』

 

「あり、切られちゃった。ま、いいか。闘忠丸さん、逆探知できました?」

 

 少年、優一が頭の上に乗ってサイコロほどの大きさの装置をいじっていたネズミ、闘忠丸に問いかける。

 

「ぢゅ、ぢゅ~!」

 

 闘忠丸は人間のように手で丸を作ると優一の頭から降り、ある一点を指差した。

 その指差した先をスコープで覗くとステラのいる人混みの近くの狭い路地に三人の男が居るのを確認できた。

 

「さっすがしぐれ大師匠の相棒さんだ。じゃ、行ってくるんであの人をよろしくお願いします」

 

「ぢゅ~!」

 

 優一の後ろで手足を服で拘束され、気絶している男のそばに懐から取り出した銀紙に包まれたチーズを置いて闘忠丸に言う。

 そして、屋上の上から跳び、隣のビルの屋上に難なく着地。それを繰り返してスコープで見た男たちのいた場所に向かった。

 

===

 

 師匠の元に弟子入りしてから約2年。今年の春から高校生になる。何度か死にそうになったけど武術家として大きく成長した。そんな僕が何故ビルの上を跳んでいるのかというと今から三時間前に遡る。

 事は新白連合にヴーミリオン皇国のある人物からの依頼が来たことから始まった。

 

 ステラ皇国殿下が賊に狙われている。隠密に済ませたいので内密に賊を倒してほしい。

 

 この依頼を新白連合総督、宇宙人の皮を被った悪魔こと新島春男は「ヴーミリオン皇国に貸しが作れるぜ! ひゃーはっはっはっは!」と、二つ返事で了承。ちょうど近くにいた兼一をステラの隠密護衛として派遣。ついでとばかりに兼一と一緒にいた優一も駆り出された。

 

 

「お、いたいた。うわっ、銃持ってる」

 

 そして今に至る。ビルの屋上から下を覗きこみ、スコープで確認した三人組の男達を観察する。

 一人は拳銃を、一人は小太刀を、一人は無手。それを確認した優一はその場から飛び降り、銃を持つ男の前に着地。

 

「こんにちは。失礼します!」

 

 男達が優一に気づくより早く優一の左ストレートが銃を持った男に決まった。

 一発KO。気を失ってドサッと倒れる。

 

「テメェ……!」

 

 小太刀を持った男がその切っ先を優一に向け、突きだす。

 が、優一は危なげ無くその突きをしゃがんでかわし、その状態から全身のバネを使ってカエルのように伸び上がり、男の顎に当たるインパクトの瞬間に拳をひねる。新白連合隊長、突きの武田こと武田一基直伝のボクシングの技を放つ。その名も。

 

「ジャイアントネコメガエルパンチ!」

 

「ぐおっ!」

 

 ドサッと男が仰向けに倒れた。

 即座に無手の男に攻撃しようとして一歩前に出た瞬間、優一の制空圏を何かが浸食したのを感じて身体を後ろに反らす。結果、優一の目元ギリギリを指が通り過ぎた。

 

(危なっ、目潰しか!)

 

 すぐさま後ろに跳び、距離を取る。

 

「やるじゃねえか、小僧」

 

 男は身体を半身にして、拳を握らず、右手を下げ、左手を型の高さにして構える。

 

「見事なもんだ。スナイパーを真っ先に落として仲間の連絡を傍聴。そして不意討ちでこちらに何もさせずに二人落とす。

 『戦いとはタイミング、戦術、そして欺きのゲームである。』とはよく言ったもんだな」

 

「それはどうも。ところでこんな風に呑気にお話してても良いんですか? ステラ殿下が車に乗り込んだら手出しは出来ませんよ? 何せ車の中には(世界時計)《ワールドクロック》が居ますから」

 

「知ってるよ。だから俺達の仕事は姫さんが車に乗るまでに暗殺すること……だったんだがな。お前さんのお陰で計画はおじゃんだ」

 

「それは良かった」

 

「こっちは良かねぇんだがな。ま、俺としてもここは尻尾巻いて逃げ出したいとこなんだが、そうもさせちゃくれそうにねぇな。とんでもねぇ気当たりの持ち主に睨まれてるようだし」

 

「ははは、このままお縄についてくれるとありがたいんですけど……無理そうですね」

 

「おうよ、目の前に手練れの武術家がいるんだ。どうせ逃げれねぇんなら同じ武術家として記念に手合わせ願いたいね」

 

「いいですよ。どうせそのつもりでしたし」

 

「ありがてぇ。なら、こちらから行かせてもらう!」

 

 男はステップを踏みながら距離を詰める。そして男と優一の制空圏が触れ合うギリギリの瞬間、下に下げられていた右手が優一の目を狙って最短距離で突き出される!

 

 優一はその突きを顔を後ろに反らすことで顔面スレスレで避けた。

 

「シッ!」

 

 間髪入れず、左手が首を狙って突き出されるがそれを腕を回転させ、敵の攻撃を無力化させる技、化剄で攻撃の軌道を反らす。すぐさま牽制に左ジャブを放つが空いている右手で防がれる。

 流れるような攻防が続き、二人の距離はより狭まっていく。

 

(くっ、なんてスピードだ。拳を握らずに攻撃してくるから抜き手か掌底か掴みかが判断しにくい! しかも目潰しや金的を容赦なく狙うから油断できない!)

 

(やるとは思っていたがここまでとは! このまま打ち続けても埒が空かねぇ、いっぺん仕切り直すか!)

 

 男が攻撃の手を止めて後ろに跳び、距離を空ける。

 

「なかなかやるじゃねえか」

 

「お兄さんもやりますね、あの鋭いフィンガージャブ、截拳道(ジークンドー)ですか」

 

「へぇ、今の打ち合いで分かったのか。技術もあれば知識もある。だったら俺もさらに本気を出さねぇとな。燃えよ! (ロン)!」

 

 男の両手が燃え、その炎が消えると赤いグローブが装着された。

 

伐刀者(ブレイザー)でしたか」

 

「おうよ、ついでに言えばさっきお前さんが倒した二人も伐刀者だ」

 

「やっぱりでしたか、何かされる前に倒せて良かった」

 

 そう言いながら優一も己の霊装(デバイス)である漆黒の手甲を顕現させる。

 

「お前さんも伐刀者かい」

 

「Fランクですけどね」

 

「なんだよ、ランクはDの俺より下かよ。でもま、あんたの腕ならランクなんてチンケなもんに感じるな。姫さんも行っちまったみたいだし、何の気兼ねもなくやり合えそうだ!」

 

 気付けば人混みから聞こえる様々な人間の声が混じった音がしない。どうやら無事に任務は完了できたらしい。

 気にする事が無くなり、霊装を装備した二人の武術家の、狭い路地での闘いが再び始まった。

 

(さっきとは違う構え、ボクシングじゃねぇな。中国拳法の化剄も使ってたし拳法か? いや、それにしては拳の位置が高い……ここは誘ってみるか)

 

 男は知らなかったようだが優一がとった構えはムエタイの基本的な構え、タン・ガード・ムエイである。狭い路地での闘いのため優一はボクシングを使っていたが相手が本気を出してきた以上、何度もパンチを当てて体力を削るボクシングではなく一撃で倒せる必殺技の宝庫で肘や膝を使う関係でリーチが短く、路地の狭さの影響を受けにくいムエタイに切り替えたのだ。

 

(顔のガードが甘い、誘いかな? よし、乗ってみるか!)

 

「今度はこちらから行きます!」

 

 日々の鍛練で鍛えられた強靭な足腰で一気に踏み出して距離を詰め、その勢いのまま跳び、膝蹴りを放つ!

 

「ティー・カウ・トロン!」

 

「っぶね!」

 

 男はとっさに両手で膝蹴りを受け止めるが勢いを殺しきれず、自身の手の甲で顔面を強打した。

 

「あぢっ!」

 

 普段はそこから別の武術の技に繋げるコンボ技を使うのだが男の霊装、(ロン)に触れた膝を反射的に引き、後ろに下がる。

 

「いってぇ……なんっつー足腰だ。能力によるがCランクの伐刀者でもあんな威力出せねぇぞ。くそ、誘うんじゃなかった」

 

「あっつぅ、あの霊装、常に燃えるような熱を発していたのか。触れるのは危険だな」

 

 三度(みたび)向き合う。

 

「次で決めようぜ」

 

「ええ、そうしましょう」

 

 どちらからともなく歩みより、どちらかが手を伸ばせば相手を殴れるだけの距離まで近づく。

 

「やり方は知ってるよな?」

 

「ええ、もちろん」

 

 そっと、お互いの右手の甲を合わせる。

 

「シッ!」

 

 先に動いたのは優一だ。手首を返して素早く男の手首を掴み、左で突きを放つ。

 男はスウェーで回避しながら蹴りを優一の右膝に放つが優一が膝を曲げて避けたことで宙を蹴った。

 優一はすかさず掴んだ手首を引き、相手の体勢を崩す。

 

「くっ、なんて膂力だ!」

 

「ぜぁあっ! 裡門頂肘(りもんちょうちゅう)!」

 

 浮いた右足を地面につけるとすぐにそれを軸にして体を入れ替え、左で震脚。肘を下から突き上げるようにして男の胸を打った。

 

「がふっ!」

 

 続けて顔面目掛けて連続肘打ちを放つ。

 

「ティー・ソーク・ボーン!

 ティー・ソーク・ラーン!

 ウルトラボロパンチ!」

 

 右肘での打ち下ろし、左肘での打ち上げとムエタイの多彩な肘打ちを放ち、打ち上げの勢いのまま腕を回転させてアッパー気味のパンチを続けざまに叩き込む。

 

「優一版最強ショートコンボ(かっこ)変則型(かっことじ)ィ!」

 

 強烈な打撃を食らった男は後ろによろめき、膝をついた。

 

「うっ、ぐ…………見事」

 

 男は優一を見上げて笑みを浮かべた。

 

「あんた……青井優一って言ってたな。こんなに清々しく負けたのは何年ぶりだ、おかげで最後のシャバで良い思い出が出来たぜ。ありがとよ」

 

「……どういたしまして。

 いつか、また逢いましょう」

 

「へ、最後まで変わった奴だな。あんたは」

 

 

===

 

 

「凄いな、これみんな君がやっつけたのかい」

 

「まぁ、はい」

 

 倒した暗殺者達を知り合いの刑事に引き渡す。僕は遭遇しなかったけど達人級(マスタークラス)が三人来ていたらしい。師匠が倒したそうだ。

 ふと、刑事さんの腕時計に目が行った。

 

「あっ!」

 

「どうした⁉」

 

「刑事さん、ちょっと時計見せて下さい!」

 

 そう言って刑事さんの腕を掴んで腕時計を見る。入学手続きの受付はもう始まっていた。

 

「まずい! 今から走っても間に合わない! どーしよー!」

 

 截拳道使いの人との闘いに夢中で完全に忘れてた!

 その場に頭を抱えてしゃがみこむ。周りからの目なんて知ったこっちゃない。

 そんな僕に師匠が優しく声をかけた。

 

「それなら問題ないよ、優一」

 

「へ?」

 

「ラッラ~♪ 総督直々の命により迎えに来ましたぞ我が弟子よ!」

 

 頭上からヘリの音と一緒に聞こえる綺麗な男性の歌声、この歌声は間違いない。新白連合の隊長の一人にして僕の師匠の一人。我流、変則カウンターの使い手。『不死身の作曲家』ジークフリート。

 

「じ、ジーク師匠⁉」

 

 ベタンッ、と受け身もとらずに地面に激突。しかし何もなかったかのようにむくりと立ち上がり一瞬で僕を抱える。

 あぁ、嫌な予感しかしない。

 

「さぁ~私のヘリで破軍学園まで一直線で~す♪ ララララ~~!」

 

 そのまま跳躍。僕みたいに壁を使ったりせずにただの跳躍だけでヘリの飛ぶ高さまで跳び、乗り込む。

 

「おお! 浮かびます、浮かびますよ~! 弟子との再会のメロディーが!」

 

 一心不乱に五線譜に楽譜を書いている隣で窓の外を眺める。一面青い空と白い雲だけの世界。

 多分、今回()この高さからパラシュート無しのスカイダイビングで降ろされるんだろうな~。

 

===

 

 この日、破軍学園に空から落ちてくる謎の生徒が目撃され、新たな学園七不思議が生まれたのであった。




 この話のために『燃えよドラゴン』『ドラゴン怒りの鉄拳』など、ブルース・リー主演の映画を見て来ました。戦闘シーンにその影響が強く出てると思います。

 ブルース・リー先生の突き速すぎです。遅くしてアレとか凄いです。

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