闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

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 はい、お待たせしました。四話です。
 今回は前話の仕合後の話、優一と一輝の語り合いです。


四話 二人の劣等者

「う、っ…………はっ!」

 

 とてつもない異臭と喉が焼けるような感覚に一輝が眼を覚ますと真っ先に見覚えの無い天井が目に入った。

 

「ここは梁山泊の裏にある接骨院だよ。それより、気分は大丈夫かい?」

 

「────僕は、負けたんですね」

 

 訊くまでもない、最後の記憶は無いが体の痛みが、そしてここに寝かされていることが自分が敗北したことを物語っていた。

 

===

 

「あ、眼が覚めたんですか?」

 

 ドアを開ける音がしてすぐに優一が一輝の前に現れた。

 

「すみません。勝った人が負けた人に声をかけるものじゃないとは分かってるんですけど、どうしても訊きたいことがあって」

 

「道場破りにそんな気遣いは無用ですよ。なんでも訊いてください」

 

 そっと、二人に気付かれないように気配を消して兼一は部屋を出る。二人の若い武術家同士の話の場に彼がいるのは不粋だ。

 

「彼なら優一の良い好敵手(ライバル)になってくれそうだな」

 

 兼一が気配を消したことで優一も一輝も彼が居なくなったことに全く気付いた様子は無かった。

 

「では……最後の技、あれはかなり危険なものですよね。戦った後、呼吸もかなり危なくなってました。どうしてあんな技を」

 

「…………凡人と天才の差を埋めるには、凡人が天才に勝つには修羅になるほかない。ならたった一分でいい。その先は無くていいからその一分だけは誰にも負けないように、誰だって倒せるようになろう。それが最弱()最強(天才)に勝つために出した答えです」

 

「…………分かりました。あの技は貴方の持つ信念を貫くための刃なんですね。だったら止めません。貴方の気持ちは、分かりますから」

 

「……?」

 

「僕もFランクなんですよ」

 

 優一が同じFランクである。それを聞いた一輝は目を丸くする。最強と言われる梁山泊の弟子はやはり魔術も武術も才能豊かな者なのだろうと思っていたからだ。

 

「そんなに意外ですか?」

 

「あ、いや……すみません」

 

「謝らなくていいですよ。魔術の才能が無いってのは散々言われてますし、慣れました」

 

 そう言ってからからと笑い、それに……と続けた。

 

「諦めずに努力すれば、魔術が使えなくたって伐刀者(ブレイザー)に勝てるって知ってますから」

 

 凡人は天才に勝てない。誰もが認めるこの世界の常識をあっけらかんと否定した優一の言葉に一輝はハッと顔を上げる。

 優一が言葉にしたことは一輝が目指す目標だったのだ。

 

「僕の師匠、『一人多国籍軍』白浜兼一は魔術の才能はおろか武術の才能も無い一般人だったそうです。それが今じゃ伐刀者を圧倒するくらい強くなった。師匠が言うには「諦めなかったから強くなれた」らしいです」

 

「諦めない……」

 

 一輝の脳裏に真冬の日にかけてもらったある老人の、自分を救ってくれた言葉が蘇る。

 

 

───「いいか、小僧。今はまだ小さな小僧。お前が大人になったとき、連中みたいな才能なんてちっぽけなもんで満足する小せぇ大人になるな。分相応なんて聞こえのいい諦めで大人ぶるつまらねえ大人になるな。そんなもん歯牙に掛けないでっかい大人になれ。──諦めない気持ちさえあれば人間は何だってできる。なにしろ人間ってやつは翼も無いのに月まで行った生き物なんだからな」

 

 

 決して忘れたことの無い、一輝の行き方を変えた言葉。

 

 つう、と熱い涙が一輝の頬を伝った。

 

「わあっ! ごめんなさい! 僕、何か泣かせてしまうような事言いました⁉」

 

「いや、違うんだ。ただ、少し嬉しくてね」

 

 『諦めない』というのは誰でも口にできるが誰でも実行できる事ではない。多くの人は何かを諦めているものだ。一輝は何度も「諦めろ」と、そう言われてきた。彼の父からも、親戚からも、これまでに行った道場の者からも。

 だがこの梁山泊では否定され続けてきた一輝の生き方を肯定してくれた。諦めなければ伐刀者にも負けないくらい強くなれる。一輝の目指すそれを成した者がいると言うのだ。 

「僕も、行けるかな? その領域に」

 

「どうでしょう? 師匠曰く何度も死ぬ目を見て、諦めずに努力して、ようやく辿り着ける領域らしいですけど……」

 

 にやりと、優一が笑う。

 

「行けるんじゃないですか? こうして話ながらも僕の一挙一動を観察して何かを得ようとするくらい強さに貪欲な黒鉄さんなら」

 

「あっ」

 

 一輝は少し申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「良いんですよ。昔から武術には見稽古なんてものもありますし、僕もよくやりますから」

 

 優一はにっこりと笑って手を差し出す。

 

「改めて、僕の名前は青井優一。『一人多国籍軍』白浜兼一、そして新白連合隊長の弟子です」

 

 一輝は優一の手を見て、優一の顔を見て、優一と同じように笑ってその手を握る。

 

「僕の名前は一輝、黒鉄一輝だ」

 

「貴方がこれからも武の道を進むなら、また何処かで逢うでしょう。一輝さん」

 

「そうだね。その時は、また」

 

「はい、また」

 

 この日を境に青井優一と黒鉄一輝の二人は飛躍的に実力を上げていく。二人の剣士(拳士)が再開するのはこれから2年後の話……。

 

 

===

 

「そういえば目が覚める時に変な臭いがしたんだけど……」

 

「あ、それはうちの馬大師父秘伝の漢方ですね。臭いと味は最悪ですけど死人も踊り出すとか言われてます。僕も何度も三途の川から引き戻してもら(お 世 話 に な)ってます」 

 

「……それ、何で出来てるの?」

 

「……いつも聞かない方がいいって言われます」

 

二章 完




 本当は二章でもう少し色々やりたかったのですが次回から三章に入ります。ぶっちゃけ三章以降の話にあんまり関わらない事ですし。ネタだけならこの後活動報告に乗せるので原作開始までに優一がどんな目に遭ったのか気になる方はどうぞ。

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