闘拳伝ユウイチ   作:ブレイアッ

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 大変お待たせしました!
 車の免許を取るために自動車学校に通いつめて執筆に時間が取れず間隔がかなり空いてしまいましたがもう大丈夫です。無事に免許を取れましたので。
 それでは、かなり難産だった三話です。どうぞ!


三話 道場破りが来た!

 

「YOMIのエンブレムか、懐かしいな」

 

 翼に渡されたエンブレム、それを兼一に見せるとそんな答えが帰って来た。YOMIという聞き慣れない単語に聞き返す。

 

「YOMIってなんですか?」

「“闇”については知ってるよね?」

「はい、父さんが昔いたっていう組織ですよね。たしか殺人こそ武術の真髄なりって言っている」

「そう、そして“闇”は武術の伝承にとって最も重要な弟子を大事にする。YOMIとは“闇”の弟子育成機関なんだ」

「へ~……ん? それとこれとがどう関係するんですか?」

「関係大ありだよ、このエンブレムは闇の無手組の幹部、一影九拳の弟子が持つエンブレムだ。

 これを相手に渡して次に会うときに殺して奪い返す。つまりYOMIの決闘状というわけだ」

「…………ってことは翼は“闇”の人⁉ また会いましょうってそういうこと⁉ ただでさえ刺客に狙われる日々だっていうのに~~!」

 

 ちなみに優一、梁山泊に帰るまでに二人の刺客に襲われたところだ。

 頭を抱えて(うずくま)る優一を見てあんな時代もあったな~と懐かしむ。

 さて、と兼一は手を叩きエンブレムを優一に返す。

 

「嘆くのはいいけどそろそろ修業を始めようか」

「あぅ、やっぱりキツイくなりますか」

「うん。いつもの十割増しは」

 

(今日死ぬかもしれない……)

 

 この後、いつもの倍の悲鳴が町中に響き渡ったとか。

 

 

===

 

 

(ここが、梁山泊……)

 

 一人の少年が梁山泊の門の前に立つ。

 年は15、6辺りだろうか。体のあちこちにアザや切り傷が目立つ。

 彼はごくりと唾を飲み込み、決意と覚悟に満ちた顔で梁山泊の門を叩こうとした瞬間。

 

 ドッカァン! と大きな音を立ててすぐ横の塀が爆発し、人が飛んできた。言わずもがな、優一だ。

 

「…………は?」

 

 あまりの出来事に目が点になる少年を気にすることなく優一が起き上がる。

 

「いったたた……あれ、お客さん? 梁山泊に何か?」

「え、あ、道場破りに」

 

 もっと言い方があるだろうと思ったが言葉が出てこない。何せ優一がアスファルトの道路に若干頭をめり込ませたまま頭で全体重を支える頭倒立と呼ばれる体勢のまま話しかけてからだ。無理もない。

 

「あ、そうですか! ささ、どうぞどうぞ、中に」

「あ、はい」

 

===

 

「どうぞ、粗茶ですが」

「あ、ありがとうございます」

「それと、これに名前と住所、流派を書いてください。あとこれ、梁山泊の長老さんからの注意事項です。

 今から師匠を呼んでくるのでちょっと待っててくださいね」

 

 そう言って優一は道場を後にする。

 

(今までの道場破りとは違いすぎてなんか調子狂うな……)

 

 この少年、これまでにも数多くの道場を巡っていたらしく優一の態度に戸惑う。

 普通の道場なら道場破りを断ったり袋叩きにしたりして追い返すだろう。きちんと受けて立つ方が(まれ)だ。実際に彼もそういったことを受けたことは多々ある。

 だからだろうか、この歓迎されているような対応に戸惑ってしまう。だがそれは壁越しに聞こえた優一の声によって解けた。

 

「師匠ー! また(・・)道場破りが来ましたー!」

 

 どうやら、道場破りは初めてではないらしい、というか馴れているようだ。

 

 

 しばらくして優一が兼一を連れて戻ってきた。

 兼一が少年の書いた紙を手に取り、読む。

 

「名前は黒鉄一輝くん、流派は……無し?」

「はい、今まで誰かに剣術を習ったことはありません」

「ふむ、何か(わけ)ありのようだね、見たところ中学生か……普通なら道場破り料として一万円貰うところだけど今日はボクと優一しかいないし、別にいいか」

「いえ、そういうわけには行きません。きちんとお支払いします」

 

 そう言って一輝は鞄の中から小銭で膨れた道場破り代と書かれた封筒を兼一に渡した。

 この梁山泊に道場破りをするには道場破り代一万円がかかるということは知っていた。最強と名高い梁山泊に挑むのにその決まりを守るのは道場破りとして当然の事だと考えた一輝はこの日のためにきっちりとお金を用意してきたのだ。

 

「そういうことなら仕方がないか……優一、相手よろしく」

「え、師匠がやるんじゃないんですか?

 いつも僕は見るだけなのに」

「何事も経験だよ、見たところ彼と優一の実力は近そうだし丁度いいんじゃないかな」

「分かりました。では、お願いしますね。えーっと、白金(しろがね)さん」

黒鉄(くろがね)です」

 

===

 

 梁山泊の道場にて、優一と一輝が向かい合う。

 

「来てくれ、陰鉄」

 

 一輝が己の魂、霊装(デバイス)を顕現し、構える。

 対する優一も息を深く吐いて手甲型の霊装を顕現させ、ムエタイの基本的な構え、タン・ガード・ムエイをとる。

 

(相手の霊装は手甲、攻撃手段は無手といったところか……でも油断してはダメだ。ムエタイは戦場で生まれた対人、対武器に特化した武術。それにここは梁山泊、どんな攻撃が飛び出してくるか分からない)

 

(やっぱり……伐刀者(ブレイザー)か。でも見たところ武器使いや伐刀者にありがちな慢心も油断もない。気を引きしめないと)

 

「準備はいいね、それじゃあ……」

 

 兼一が二人の間に立ち、手刀を振り下ろした。

 

「……始めっ!」

 

 二人の間に突風が起こり、それが開始の合図となった。

 

「ッハアアァァァ!」

 

 先手をとったのは一輝だ。開幕速攻、素早い踏み込みから放たれた胴を狙った横一閃。並の人間なら避けるのも間に合わない速度での斬撃を……優一は肘と膝で刀身を挟んで受け止めるという荒業で防いだ。

 

「なっ……!」

 

 予想外の対応に一輝が目を見開く。その僅かな瞬間に優一は片方の腕で一輝の頭を抱え、顔面に膝蹴りを放つ。

 

「空中カウ・ロイ!」

「っ!」

 

 咄嗟に陰鉄から手を放し、両手で膝蹴りを受け止め、防御する。

 膝を受け止められた瞬間、優一は陰鉄を放して投げに繋げる。

 

「空中巴投げ!」

「うわっ!」

 

 足が地面に着いていない状態での流れるようなコンボに対応できず、一輝は畳に投げつけられた。

 

「ぐっ! あっ」

「チッキィ!」

 

 畳の上に倒れる一輝の顔面を狙っての踵落とし、それを何とか転がることで回避し、すぐに立ち上がる。

 

「山突き!」

 

 そこに間髪入れずに顔面と腹部を狙った上下諸手突き、だがそれは一輝に当たる前に軌道が逸れ、優一は即座に距離をとった。

 優一の視線の先には陰鉄を構える一輝の姿があった。

 手放したはずの陰鉄が一輝の手元にあるのか、タネは簡単だ。手放した陰鉄を再び手元に顕現させただけなのだから。

 

(まさかあんな受け方をするなんて……流石は梁山泊、弟子でもこの実力か!)

 

(なんて鋭い攻撃だ、制空圏を身に付けてなかったら防御が間に合わなかった。さっきはなんとか受けれたけどそう何度も出来るような事じゃない)

 

 再び睨み合い、じりじりと距離を詰める。

 間合いの広さでは陰鉄のある一輝に有利。だが技の多さ、手数では優一に分がある。斬り込んだ瞬間、徒手空拳の間合いにまで詰められてさっきのように一方的な戦いになるだろう。

 

(けど、それを恐がっていては先に進めない!)

 

「おおおお!」

 

 再び、一輝が駆ける。狙いは優一の胸、放つは一輝の編み出したオリジナルの剣技、未だ未完成ながらも後に《毒蛾の太刀》と名付けられるそれは対人に特化した毒の如き太刀。先のように挟んで受け止めようが当たればただでは済まない一撃だ。

 だが……

 

「流水制空圏」

 

 毒蛾が川に落ちれば何もできないように、一輝の起死回生を狙う一撃は受け流されてしまった。

 

(何が起こった……⁉)

 

 ある程度の武術家になれば(おの)ずと見えてくる自分の攻撃、防御ができる範囲を制空圏という。多くの武術家が戦いに取り入れるその技を究極まで突き詰めた技こそ、一輝の攻撃をさばいた技、《流水制空圏》なのである。

 

(っ! 《流水制空圏》を一瞬で破った⁉ なんて攻撃だ!)

 

 《流水制空圏》はその技の難易度から使えるものは少ない。全世界の、今までの歴史の中でこの技を使える武術家は片手で数えるほどしかいない。

 

 未完成とはいえそれを一輝は破った。それは一輝のこれまでに積み上げてきたものの大きさを物語っていた。

 

(焦るな、落ち着いて、制空圏を)

 

「くっ、おおおお!」

 

 再び斬り込む一輝、袈裟斬り、逆袈裟斬り、唐竹、手を変え技を変え、激流のように激しく攻め立てる。

 優一は制空圏に入ってきたそれらを避け、流し、手甲で受ける。一つ一つに冷静に対処し、十を超える攻防が続いた。しかし、それは一輝が後ろに下がることで終わった。

 

「は……はは」

「? 何がおかしいんです?」

 

 攻撃の手を止め、笑いだした一輝に優一はその理由を訊いた。

 

「いや、ここまで攻撃を流されたのは初めてだから……なんだか楽しくなって」

 

 それに優一は口元を緩ませて答えた。

 

「たしかに、黒鉄さんは新白の同門やいつもの刺客と違う感じがしてなんか良いです」

「うん、でもそろそろ終わりにしよう」

 

 一輝は己の中にある総てをかき集め、目の前の少年に意識を集中させる。

 

(戦ってみて分かった。この人はFランクと侮ったりしていない。この僕を格上と思って全力で相手をしてくれている)

 

 だから、全力をぶつけたい。

 自分の持てる魔力も、体力も、気力も、その総てを一気に解き放つ。

 

(あれを、使うしかない!)

 

 自分でもうまく制御できない未完成な技。後先考えない荒業で実戦に使うことは初めてだが躊躇いはなかった。

 

 深く息を吸う。これから一輝は

 

 

───修羅となる。

 

 

「っ!」

 

 一輝の身体から蒼い光が吹き上がる。

 

 次の瞬間、優一は全力で後ろに飛び退く。さっきまで優一がいたところには陰鉄を振り抜いた姿勢の一輝がいた。

 

伐刀絶技(ノウブルアーツ)か……!!」

 

 正真正銘の“全力”、なりふり構わず自分を一分という短い時間に使い尽くす。後に彼の代名詞となる《一刀修羅》という技だ。

 今は出力にムラがあるがそれでも一分の間は彼の身体能力がはね上がり、速さ、力は優一よりも上を行く。

 

「おおおおぉぉっ!!!」

 

 一瞬で跳躍し、道場の天井を蹴り破り、完全な視覚である頭上から斬りかかる!

 全魔力、全脚力、全体重、己の持つ(すべ)ての力を出し切った一刀を放つ瞬間、優一と眼が合った。

 

「やっと、捉えた!」

 

 だが一輝は攻撃の軌道を変えようにも最早変えることは出来ない。いや、変えるつもりなど無い!

 

(これが、僕の全力だ!)

 

「おおおおおおっ!」

 

 陰鉄を握る手に更に力が入る。斬撃の速度は一輝がこれまで出したことが無いほどに加速する!

 

 対する優一も負けてはいない。突然相手の動きが変わったことに動揺したがすぐに切り替えた。一輝が振り下ろす陰鉄に合わせて拳を撃ち放った!

 

 (けん)(けん)が打ち合う瞬間───

 

 ───そこで、一輝の意識は途絶えた。




 はい、原作主人公が出てきたおかげで一気に落第騎士っぽくなりましたね。中学時代の一輝くんは道場破りをして回ってたらしいので梁山泊に突撃させました。
 頭倒立で平然と話かける優一はすでに達人の世界に染まりつつあります。達人の子供なので当然っちゃ当然ですが。

 色々やりたい事はありましたけど二章はあと三話程度で終わらせて三章、つまり落第騎士の原作に入る予定です。

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