OVER PRINCE   作:神埼 黒音

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OVER PRINCE

―――新大陸 アの国

 

 

アの国、それは広大な新大陸の中央に存在する―――そこには肥沃な大地があり、大きな都市もまた存在する。一次産業だけでなく、二次産業もそれなりに盛んであり、人口も三百万を下らない。

だが、この国の雰囲気は何処か暗い。決定的に、暗いのだ。

それは国の南方に位置する、広大な大平原(戦跡)が齎す負のオーラのためであるかも知れなかった。

 

その大平原はまるで大陸の“ヘソ”のような場所にあり、諸国が戦争をするのに格好の場所であったのだ。「どうせ他国の土地よ」と、その大平原では遠慮なく幾度も戦争が行われ、それらが生み出した遺体や死者の怨念が蔓延する、呪われた地と化していった。

 

 

地獄の門。黄泉地。アの国送り。アンデッドの聖地。

大平原につけられた忌まわしい名称は数え切れない。当然、その“聖地”では定期的にアンデッドが発生し、アの国に甚大な被害を齎していた。

アの国は懸命に聖地の清浄化に努めていたが、その浄化には軽く千年を要するであろう。

 

しかも、どれだけ清浄化に努めても諸国は争いを繰り返している為、聖地を覆う死の気配は増していくばかり―――何処の世界でも繰り返される悲劇である。

今日もアの国では女王が愚痴を溢し、大臣に当たり散らしていた。

 

 

「もう嫌っ!こんな国の女王なんて罰ゲームじゃない!」

 

「罰ゲーム状態の女王に仕えている私が一番悲惨です」

 

 

短い髪に小さな王冠を乗せた、少女とも言える女王が叫ぶ。その隣には女王とは打って変わり、優に腰まで届く長い髪を持った、これまた美少女が立っており、本を片手に気だるげに応えた。

二人は共に―――目の覚めるような青い髪をしている。

 

 

「周りの馬鹿ども……あいつら、この国を死体置き場と思ってるんじゃないの!?」

 

「ゴミを捨てても掃除してくれるんですから、適度に感謝してくれてますよきっと」

 

 

そう、捨てても適当に処理してくれる者が居るので、周りも遠慮なく捨てる。捨てられた方も、まさか放置している訳にも行かないので、結局は嫌々ながらも掃除せざるを得ない。

まさに、無限ループである。

アの国と周辺諸国には隔絶した軍事力の差があり、苦情を言っても鼻で笑われるだけであった。

 

 

「ぁ、一つだけ良い噂がありました。何処からかとんでもない美形の王子が現れて、アンデッドを次々に従えているとか」

 

「何よっ、その馬鹿っぽい噂は!生者に恨みを持つアンデッドが人に従う訳ないでしょッ!」

 

「他にも、背景に流星が見えるとか、七色の光を放つとか、色んな噂が」

 

「バッカじゃないの!夢でも見てんの!?スケルトンの骨でも齧ってなさいよっ!」

 

 

女王が遂に頭から王冠を投げ捨てたが、王冠はまるでヨーヨーのように頭へと戻った。王冠には特別な魔法が込められており、正統を継いだ女王の頭から離れないという効果があるのだ。

まるで王冠が「絶対に逃がさない」と言っているようであり、そんな所も罰ゲームっぽい様相を呈していた。

 

 

「もう嫌っ!誰か助けてよー!ヤダヤダヤダもうヤダもん!」

 

 

遂に女王が玉座から立ち上がり、赤い絨毯の上で寝転がるようにジタバタと暴れ出した。

 

 

「女王が他力本願とか……それ以上駄々を捏ねるなら聖地に投げ込みますよ?」

 

 

詰んだ、としか言いようの無いアの国であったが、まさか噂が本当であるなど思いもしない。

その流星の王子は目覚めて暴れ出しそうになっている遺体や、怨念の集合体へスキルを使って自らの指揮下へと収め、それらを何と、“労働力”として巨大な何かを作ろうとしているのだ。

 

 

 

 

 

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―――新大陸中央 アンデッドの聖地

 

 

常人には恐ろしくて立ち入れないであろう場所に、モモンガとイビルアイが居た。

その周りにはスケルトンを始めとするアンデッドが無数に蠢いていたが、彼らは誰を襲うでもなく皆一様に土を掘り、掘った土を離れた場所へ一纏めに固めたりしている。

生者を恨み、果てまで彷徨うアンデッドが取る行動ではない。ありえない光景であった。

 

 

「アンデッドを労働力にするとは、やはり私の悟は世界一の男だな!」

 

「もう、褒めすぎですよ。でも、こう見えてダンジョン製作には一家言あるんです!」

 

「あぁ、悟なら世界一……いや、神話一のモノが作れるさ。私はそう信じている」

 

「キーノ……」

 

 

二人の影が少しずつ近付き、やがて、その影が一つに重なった―――

 

 

見ての通り恋とは―――二人して愚かになる事である。

まさに、その典型例がここにあるのだから。

 

 

 

 

 

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Epilogue―――モモンガ(鈴木悟)

 

 

「以前のダンジョンは恐怖の象徴だったし……今度は“エンターテイメント”にしようかな」

 

 

新天地にてダンジョン製作を始め、その主となる。

ダンジョンに「ナザリック地下大墳墓MARKⅡ」という名称を付け、ネーミングセンスの無さを、周囲にこれでもかと見せ付ける結果となった。

後年の事になるが、ダンジョンは24時間365日のフル稼働、フル拡張を続け、世界一の規模を誇るダンジョンとなっていく。

 

何せ、彼らの時間は無限であり、アンデッドは疲れ知らずである。

二つの無制限が重なり、世界一という奇跡を作り上げていく下地となった。

 

時は流れ―――ダンジョンには財宝を求める冒険者が世界中から訪れる事となるが、強力なモンスターや過激な罠に悩まされた。そのあまりの難関っぷりに冒険者達は苦戦に苦戦を重ね、アンデッドもかくやという呪詛を吐き散らすことになる。

 

ちなみに、モモンガはダンジョンへの侵入者に致命的な大怪我を負わせたり、殺すような事はしなかったが、しっかりとペナルティを与える事は忘れなかった。

エンターテイメントとはスリルと興奮、そして得るか失うかの“大冒険”こそが本質であろう。

 

 

 

その名に反して、単なるモンスター駆除の作業員と化し、夢のないこの世界の冒険者へ―――

 

モモンガは、本当の意味での“冒険”を与えたのだ。

 

 

 

そしてモモンガは、某プリンセスが笑顔で出してきた提案を受け、それを採用。

彼女の考案したペナルティとは―――一定以上の階層へ侵入してきた者は身包みを剥ぎ、所持品は没収するというもの。捕獲された者も、一定の金額を払えば解放した。

 

この世界においては、ありえない程の有情であろう。

ちなみに、某プリンセスは適度にダンジョン内へ財貨を撒き、時にはそれらを持ち帰らせ、たっぷりと甘い汁を吸わせる事も忘れなかった。

そして、“先へ進みたくなる”ような心憎い演出や、仕掛けを置く事も忘れない。

 

人間という生き物は一度美味しい思いをすれば中々、忘れられない生き物である。

………いやはや、これ以上は何も言うまい。

 

さて、そろそろページを進めよう。

彼のその後については―――きっと、自然に語る事になるだろうから。

 

 

 

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Epilogue―――イビルアイ(キーノ・ファスリス・インベルン)

 

ダンジョンの主に永久就職。

完全に乙女に戻ったのか「一億年ぐらいは子供を作らず、新婚で居たい」などと意味不明の供述をしており、周囲からブリザードのような視線を送られている。

 

ダンジョンでは時に迎撃要員として出撃し、その可憐な姿に冒険者達の一部からマニアックな支持を受ける事となった。付けられた渾名は―――リトル・ヴァンパイア・プリンセス。

彼女に相応しい名称であった。

 

ちなみに、流れ星の指輪に残された奇跡は後一つだが、

ダンジョンの主はきっと―――――その一つを彼女の為に使うだろう。

 

 

 

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Epilogue―――ガガーラン

 

ダンジョンの主に永久就職……はしなかった。

ダンジョンの主が王国に戻った際、彼から至高の童貞臭が消えていたからだ。彼女はそれを大いに嘆いたが、そのお陰もあってか面倒見の良い姉御として接していく事になる。

 

怨念と憎悪に囚われ、暴発寸前となっているアンデッドを救い、周囲へ被害を出さぬよう、それらと共に家(ダンジョン)を作るという一石三鳥の考えに賛同。

ダンジョン創設期の現場監督として、第一線で指揮を執り続けた。

 

 

「どうせ作るなら世界一」

 

「世界中の馬鹿野郎どもが挑んでくる場所にしようじゃねぇか」

 

 

などと、太い笑みを浮かべながら提案し、それらは後年、本気で実行されていく事となる。

創設期には514人の男達を従え、ダンジョン製作のみならず、発掘作業の指揮もとった。

手付かずの聖地から、彼らが掘り出す様々な鉱石や原石はダンジョン創設期の大きな財源となり、怒涛とも言える製作スピードの原動力となっていったのだ。

 

後年、「力試し」と称してダンジョンへの挑戦者となるが、その面倒見の良さと漢気、圧倒的な力量から、瞬く間に周囲の冒険者達から姉御として持ち上げられる事となる。

114人の冒険者連合と、514人の鉱夫集団が時に彼女を巡って熾烈な争いを繰り広げる事となり、主の頭を大いに悩ませる事となっていく。

 

 

 

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Epilogue―――ティア&ティナ

 

 

「モモンガのベッドが私の聖地」

 

「性地とも言う」

 

 

後に、ダンジョンの主に永久就職。

彼女らの仕事は多岐に渡り、ダンジョン内では捕縛や罠の設置などに従事していたが、某プリンセスが訪れてからは更に仕事が激増。

周辺諸国の動向を探る諜報活動や、流言飛語の類を飛ばしたり、何でもござれの有様となった。

完全にダンジョンの裏仕事人である。

 

私生活では主へのストーカー行為を趣味としており、主を最も狼狽させる存在。

後年、冒険者のみならず周辺諸国もダンジョンに対して動き出す事となるが、彼女達が事前に作り上げていた情報網が大いに役立つ事となった。

 

他者には至ってクールで無反応な二人であったが、主に対してはダメ男製造機となり、骨まで溶かすような際限のない甘やかしを続けていく。

 

 

 

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Epilogue―――ラキュース

 

後に、ダンジョンの主に永久就職。

後年、遂に例の鎧を脱ぐ事となった彼女は、漆黒の鎧を身に纏う。

ノリノリで闇の化身「ダーク・ラキュース」と名乗り、愛の巣を守る為に活躍。

その美貌から冒険者のみならず、周辺諸国にまで名が広がり、ダンジョンのスーパーアイドルとして凄まじい客寄せパンダとなった。

 

本人的には「怖れられたかったのに!」と不満そうだが、侵入者―――もとい、挑戦者の3割は彼女目当てとも言われており、無くてはならない存在であった。後年、諸国が動き出した時には政治・外交の面でも主を支え、万能の名に相応しい活躍を見せていく。

 

私生活では「毎年、結婚式を挙げましょう」とスイーツ全開であり、主の懐に大きな痛手を与えたりもしたが、彼女の齎すプラスの方が遥かに大きい為、主は黙って従うしかなかったようだ……。

がんばれ、あるじさま。

 

 

 

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Epilogue―――フールーダ・パラダイン

 

念願の師と巡り合い、一秒でダンジョンへ就職。

彼は尊き師から、大きな仕事を頼まれる事となった。

 

 

師は問う―――「お前は対価に何を求める?」と。

 

彼は言う―――「ただ、老いのみが恐ろしい」と。

 

 

 

師は軽く笑い、答えた―――「私にとって、時間とは不可逆なものではない」と。

 

 

 

その瞬間、彼の周囲に運命の輪が現れ、その輪が消えた時―――“老人”の姿が消えた。

言われるがままに鏡の前に立つと、そこには20歳の頃の彼が居るではないか。彼は頭の中が真っ白になったように呆然としていたが、一声雄叫びをあげたかと思うと、師の足元へと這い蹲った。

 

彼は師の靴を舐め回そうとしたが、忍者二人に「流石にそれは無い」と首根っこを引っ張られ、師の靴を舐める事に失敗。彼なりの“忠誠の儀”を行う事は出来なかった。

 

どういう訳か、忍者二人はこの偉大すぎる魔法詠唱者にも遠慮なしであり、ガガーランもそうであったが、その遠慮の無さを彼本人は悪く思っていなかったらしく、彼女達と居る時だけは魔法を忘れ、時にワインを飲みながら四方山の話を語った。

 

彼は俗に「フールーダ閥」と呼ばれる勢力の頂点であったが、見ての通り、蒼の薔薇とも懇意であった為、派閥の長とは名ばかりであり、その実態はやはり良き教師であったと言える。

 

全知全能の尊き師と、可能性溢れる弟子達、そして全てが未知の新大陸。

彼の哄笑はもう、止まらない。

 

 

念願の若返りを果たした彼は、狂信的なまでの忠誠を師へと捧げ―――

見事に、師の望みを叶える事に成功する。

 

 

 

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Epilogue―――ニニャ&ツアレ

 

後に、ダンジョンの主に永久就職。

彼女が女性であると知った時、主は玉座から転げ落ちた。だが、「恩人」を大切にする主の姿勢は首尾一貫しており、彼女の扱いは丁重を極めた。

フールーダの下で魔法の才を次々と開花させていく一方、フールーダ閥を作り上げ、公私に渡って強力な蒼の薔薇と対抗していく。

 

特にラキュースとは相性が悪いらしく、よくぶつかり合う姿が見られたが、最近では「いつもの事」と周りも好きにさせている。

主との関係は至って良好であり、主は「会社にこんな後輩が欲しかったなぁ」と可愛がっているが、可愛がられている方の目は完全に雌豹のそれであった。

 

 

彼女の姉であるツアレもまた、後にダンジョンの主へと永久就職……しなかった。

妹に遠慮しているのか、受けた恩が大きすぎたのか、彼女の心境は本人にしか分からない。

彼女の仕事は生活区画の担当であったが、後に戦争孤児達である10名の子供にメイドとしての教育を施し、そのリーダーへと就任した。

 

主の部屋だけは余人を入れず、清掃を担当するのは常に彼女一人である。

彼女の辛い過去を知っている主は、彼女に対し、特別ともいえる優しい態度で接しており、二人の関係がどうなっていくのかは誰にも分からない。

何せ、主の前では時間などただの数値でしかなく、幾らでも巻き戻す事が出来るからだ。

 

 

 

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Epilogue―――アルシェ&クーデリカとウレイリカ

 

後に、ダンジョンの主に永久就職。

フールーダの下で魔法を学びなおしつつ、ようやく妹二人との平穏な暮らしを手に入れた。愚かな両親から離れ、修行に専念出来る環境となった事で、より多くの魔法を習得していく事となる。

 

その才はニニャには及ばなかったが、実戦で鍛えてきた本能と勘は蒼の薔薇にも劣るものではない。無限とも言える時間の中で、彼女が自らの“限界”を突破する日も来るだろう。

 

私生活においては一見、大人しい彼女だが、フールーダ譲りの頑固さと強引さも併せ持っており、主に関する事では一歩も引かぬ態度であった。

ニニャの良い相棒であったと言えるだろう。

 

最近では、妹達が成長していくにつれ、主へと向ける目が変化してきている事に頭を痛めている。

がんばれ、アルシェ。

主のロリコン疑惑を払拭出来るのは、君しか居ない。

 

 

 

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Epilogue―――レイナース

 

 

「マイロード、次はサイン……です」

 

「これ、婚姻届じゃないですかっ!」

 

 

後に、ダンジョンの主へと永久就職。

その仕事は主の身辺を守護する、ロイヤル・ガードである。

騎士であった彼女には天職であったと言えるが、24時間365日の身辺警護は当然、やりすぎであった。もっと言えば、主は守る必要など皆無の強さである。

 

おはようからおやすみまで、暮らしを見つめるレイナースであったが、主の心境は如何ばかりであったか。とは言え、彼女の壮絶な半生を聞いた主は「これも一種の自業自得か……」と諦め顔であった。

 

そう、彼女を呪いから解放し、人生を大きく変えてしまったのは主なのだ。

良くも悪くも、主はその責任を取らなければならない。

絶世の美女である彼女に対し、責任を取る―――世の男性からすれば、首を絞めたくなる程に羨ましい責任でしかない。

 

主はそろそろ、爆発するべきだろう。

 

 

 

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Epilogue―――カジット

 

一枚のスクロールが齎した奇跡に驚愕、次に号泣し、その場で蹲ってしまった。

カジットの母は大人になった息子を見て、当初こそ何が起こったのか分からずに困惑していたが、やがては何かを察したのか、彼を優しく抱き締めた。

 

その後―――二人はダンジョンに招かれ、仲睦まじく暮らすようになる。

そう、ダンジョンの主はカジットにまだ“用”があったのだ。

主は蘇生や居場所を用意するだけでなく、カジットの姿を母親の記憶にある姿にまで若返らせた。まるで至れり尽くせりであったが、主は別に聖人君子でも何でもない。

 

それ程に、主の“求めるもの”が大きかったのだ。

彼は主へ狂信を捧げる闇の少年使徒と化し、その望みを叶える事に尽力していく。

 

 

 

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Epilogue―――ンフィーレア

 

ポーション職人として、祖母を超える名声を得ていく。

材料を集めるのに便利だから、と見え見えの言い訳をしながら、カルネ村にもう一つの工房を建て、意中の彼女へプロポーズ。見事にYESの返事を貰う事に成功する。

その後のカルネ村は、薬草や薬効のある植物を植える事が多くなり、医の村へと様変わりしていく事となった。単純に工房が高い値段で買ってくれる、という理由もある。

 

 

時代は激動し、周囲は連合国として地図の色を変えていく―――

 

 

小さな村が吸収され、時には廃村となり、地図が目まぐるしく変わる中、“医の村”という存在は法国の上層部からは素朴な好意を持たれ、周辺の小さな村々の合併地点となった。

カルネ村の人口は次第に増えていき、医の村から、医の街へ。

一人の人間を基点として、街が出来上がる―――彼もまた、一人の英雄であったのかも知れない。

 

後年、一人の記者が組合より古い資料を発掘。

かの“大英雄”と、“大魔獣”を結び付けた立役者として多くの注目を集める事となった。

数多の作家や記者が彼の下を訪れ、その取材によって在りし日の大英雄の姿が判明。それらを元に、多くの歌劇やオペラ、吟遊詩人の詩などが作られる事となっていく。

 

人類未踏の地で行われた、森の賢王と大英雄の壮絶な一騎打ちはオペラなどで鉄板の公演となり、多くの人から長く愛されるロングセラーとなった。

 

 

 

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Epilogue―――漆黒の剣

 

エ・ランテルでの戦いにより、金級へと昇格を果たした彼らであったが、そこが限界であった。

壁を感じた彼らは危険な冒険者稼業からは足を洗い、薬草採集の護衛で知り合う事となったンフィーレアの誘いに乗ってカルネ村の自警団を務める事に。

 

同じく、伸び悩んでいた赤髪の冒険者も自警団へと誘い、村の発展に大きく寄与した。

遠い新大陸に旅立った仲間を応援しつつ、最近では其々が嫁探しを真剣に考え出したようだ。

 

 

 

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Epilogue―――リザードマン&トードマン&ゴブリン

 

トブの大森林は大英雄の聖地であり、法国の上層部は長らくそこに足を踏み入れる事を躊躇していたが、破滅の竜王の消滅を確認する為に、遂に調査団を送り込んだ。

そこには地形が変わる程の激戦の痕が残されており、調査団の誰もが顔色を変えた。

とてもではないが、それは人が為しうるような戦跡ではなかったからだ。

 

他にも、調査団は大森林の各地に多くの亜人種が居る事を発見し、上層部へと報告。

その報告書の最後に「彼らは下手ながらも神の像を建て、崇めている様子である」との一文が記され、それによって法国は彼らへの攻撃を断念した。

 

その後、「神は大変な魚好きである」「素材には一切の妥協をせず、トブの湖から獲れる極上の魚しか口にされない」などと、様々な食に関する話が多く流れた為、ごく少量ではあるが一部と取引が始まり、リザードマンは脂の乗った魚を出し、人は酒を出して取引を行う事となった。

魚は無論、遥か遠くへと去った神に捧げる、大切なものである。疎かに出来る筈もない。

 

彼らは“地獄の王”の言い付けを堅く守り、森からは出ずに平穏な時を過ごす。

言い付けは正しかったのだ。

幾ら法国の上層部が“お目こぼし”をしても、彼らが集団として外に出てきたら、法国としては何らかの対応をせざるを得なかったであろうから。

 

 

 

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Epilogue―――ヘッケラン&イミーナ

 

 

「それじゃ、久しぶりにエ・ランテルの様子を見てくるから」

 

「あぁ、ロバーデイクによろしく!」

 

 

英雄ガゼフ・ストロノーフの執拗とも言える誘いを断りきれず、とうとう戦士団へと入団。

元々の高い実力もあり、めきめきと頭角を現す。

結婚後、イミーナは引退し、ヘッケランは戦士団の副団長を務める事となった。その後も英雄が出世して行く度に引き上げられ、文字通り英雄の右腕となっていく。

 

 

それが、後世―――彼の悲劇となった。

 

 

余りにも長く英雄と居すぎた影響か、その姿は七変化とも言える改変を受ける事となったのだ。

後世ではいつのまにか双剣使いの美少女となっており、英雄ガゼフ・ストロノーフと、剣聖ブレイン・アングラウスとの間で、恋に揺れる姿が定番となってしまった。

一部からクソビッチなどと罵倒される事もあるが、英雄の物語では必ず登場してくるキャラクターであり、その知名度は抜群である。

 

 

歴史に名を残すような存在に―――そう、彼の願いは叶った(強弁)

 

 

 

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Epilogue―――ロバーデイク

 

魔神戦争後、エ・ランテルで共同墓地の清浄化に励む。

このご時勢に馬鹿げた“無償の奉仕”を行い、徐々に清浄化の中心人物となっていく。その後は医の村となったカルネ村と、エ・ランテルを往復し、表向きは「医者」として多くの治療を行った。

 

長年に渡る無償の奉仕と、大英雄に縁の人物とあって、神殿はあくまで個人で、それも一代限りという条件で彼の行動を黙認。酷い言い方をすれば、彼を終生“居ない人間”として扱った。

“存在すらしない者”を処罰する事は出来ない、と言う屁理屈だ。

 

彼は死後、「聖人」と贈名され、エ・ランテルに埋葬されたが、今も献花に訪れる者は多い。

多くの人々から敬愛されていた証であろう。

 

 

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Epilogue―――ランポッサ

 

スレイン法国と同盟を締結、エ・ランテルの“割譲”を行う。

これに伴い、即位以来の頭痛の種であった帝国の矢面に立つ事はなくなった。

気付けば八本指は夢のように消えており、大英雄の登場と、レエブン侯の退場によって派閥間の争いも嘘のように縮小化していく―――争っている場合ではなくなったからだ。

 

人民に対し、許し難い罪を働いていた貴族への―――法国の激しい追及である。

それらに反抗しようにも武力では到底敵う相手ではなく、結果、彼らの殆どが帝国や周辺へと亡命していく事となった。

 

それらの指揮や法国との折衝はラナーが全て行っていた為、ランポッサの晩年は実に穏やかとも言えるものであり、一人の老人として余生を過ごした。

2年後には長男が即位し、次男は宰相となったが、大英雄の登城後は彼らの毒気も消え果て、法国との緩やかな合併を推し進めていく事となった。

 

 

 

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Epilogue―――レエブン候

 

辺境領へと赴き、領主として善政を敷いていく。

彼は貴族としては開明的であり、平民であっても才があれば次々と抜擢した。引退した元冒険者も貪欲に集め、武力の確保や情報収集にも余念がなかった。

 

当然、息子への溺愛っぷりは言うまでも無い。

とは言え、彼の配下は優秀な者が多いので心配は要らないだろう。

 

肝心の評議国は辺境領に対し、何のリアクションも起こさなかった。元々人間がいた領土であり、そこの頭が挿げ替わっただけの事である。

他人の犬小屋に付けられている名札が変わったところで、誰も気に留めはしない。

それがポチだろうが、タマだろうが、何の影響もないのだから。

 

後の連合国も、辺境領に対しては一切、手も口も出す事はなかった。

大切な“堤防”を自分の手で壊す者など居る筈もない。

評議国からも、連合国からも、まるで関知されない土地―――それは天国と呼ぶべきであろう。

時代が激動していく中でも、辺境領の平穏が揺らぐ事はなかった。

 

 

「野心を持つな。他領に目を向けるな。現状を堅く維持せよ」

 

 

レエブンの残した遺言は―――三本の守勢の矢。

激動の時代を乗り切った、貴族らしいものである。

 

 

 

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Epilogue―――ジェット

 

肖像画を描き終えた後、彼の生活は荒れに荒れた。

著名なレストランや宿屋を渡り歩き、時には人気の吟遊詩人を自宅へと招き、派手なギャンブルにも手を出した。まさに、絵に描いたような“破滅男”である。

 

―――だが、彼の資金が尽きる事はない。

いつの時代も、著名な芸術家や芸能に携わる人間には必ずスポンサーが付くのだ。たとえ絵を描かずとも、有名人を囲っている、という事がスポンサーにとっては鼻が高いのであろう。

 

彼は時折、王侯貴族のごとくオペラを貸し切って観劇する事すらあり、まるで社交界の華であるように持て囃された。贅を極め、どれだけ散財しても、その富が尽きる事はない。

だが、これだけの生活をしながらも、彼が笑う事はなかった。その顔は常に何かに耐えているような苦渋に満ちており、その姿は気難しい芸術家そのものである。

 

彼は毎晩、一人になると体の奥底から突き上げてくる耐え難い無力感に人知れず泣いた。

何をどうしても、手が動かないのだ。

何を見ても、何をしても、感動も震えも何もない。

かつて“頂”を掴んだ手は、もはや草木すら描けそうもなかった。

 

 

時は流れ―――時代が激動していく中、一つの転機が訪れる。

 

 

とある戦いから凱旋した英雄ガゼフ・ストロノーフの姿を見た時、彼の脳内に久しぶりに“光”が差したのだ。彼は逸る足を押さえながら自宅へと戻り、数十年ぶりに筆を手にした。

椅子に座った途端、まるで用意されていたかのように絵の具が並べられた。驚き横を見ると、生意気な使用人が笑っていた。

 

彼女の髪には、白いものが混じっている。

長い年月が過ぎた、という事もあるだろうが、彼の所為で多くの気苦労もあったのだろう。

だが、彼は謝罪などしない。彼は、そんな殊勝な男ではなかった。

 

 

 

「………後悔はさせん。我輩は天才なのだからな」

 

 

使用人が笑ったのと同時に、ジェットの時間が再び動き始めた―――

 

 

 

彼が筆を手にした、という事はそれだけでニュースとなり、国に買い取られぬよう、即日大々的なオークション会場が用意されるという大騒ぎとなった。

彼は一ヶ月という時間を掛け、一枚の絵を完成させる。

それは―――大魔獣に騎乗し、華々しく凱旋する大英雄の姿であった。

 

オークションには多くの大商会のみならず、大人気ないとも言える態度で連合国の息のかかった者も送り込まれる算段となっていたが、彼の絵を手にしたのは予想外の人物。

 

 

帝国皇帝―――ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス、その人であった。

 

 

皇帝はオークションの前夜、お忍びで彼の邸宅を訪れ、一枚の黄銅板を出したのだ。

それを彼の目の前で真っ二つに切り、その片割れを代金であると放り投げた。

 

 

「私にとって―――――その絵の男など、黄銅板の価値もない」

 

 

皇帝の言葉に彼は狂ったように大笑いし、快く絵を譲り渡した。

彼は皇帝が立ち去った後も笑い続け、そして―――泣き続けた。数十年、身を覆っていた何かから解き放たれたのであろう。

 

いや、本当に泣きたかったのは連合国であったかも知れない。

彼に直接怒りをぶつけ、またヘソを曲げられたら大変である。ここからまた、数十年の空白などが出来てしまったら泣くに泣けない。

 

翌日、連合国はやり場のない怒りをぶつけるように帝国への激烈な抗議を行ったが、皇帝は鼻で笑うばかりであった。連合国は遂に「一戦も辞さず」とまで言い放ったが、皇帝の切り返しは見事なものであり、一言を以って連合国を沈黙させた。

 

 

「君達の言う神とは―――――地に剣と戦争を贈りにきたのかね?」

 

 

連合国はその言葉に地団駄を踏み、皇帝を呪ったが、遂には言い返す事が出来ず、涙を呑んだ。

皇帝ジルクニフ―――鮮やかな勝利である。

 

 

その後、彼は使用人と共に旅へ出た。旅先で幾つかの作品を残したが、それは紙に落書きしたような物であったり、感銘を受けたレストランの壁に衝動的に何かを描いたり、時には精緻を極めた大英雄の絵をそこらの子供にあげたりと、自由奔放であった。

 

彼の死後、聖遺物と称されるそれらを、多くの冒険者やトレジャーハンターと呼ばれる者達が追う事となったが、その全容は未だに明らかにされていない。

 

彼と使用人は結婚する事こそなかったが、終生を共に過ごし、同じ墓へと入った。

世界でただ一人、「大英雄の描き手」と呼ばれる事となる彼だが、後世の研究では何らかのタレントを所有していたと推測されている。

 

激動していく時代の中、彼は何の武力も持たず、無力な存在でしかなかった。

しかし、「力でも魔法でもなく、芸術こそが後世に残る物なのだ」と信じて止まなかった彼は、その信念を自身の作品によって証明したとも言える。

 

 

 

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Epilogue―――皇帝ジルクニフ

 

 

法国と王国が一つとなり、連合国となっていく中―――時代に抗い続けた。

圧倒的なカリスマで国内を纏め上げ、知略の限りを尽くし、敵陣営の切り崩しへと動いたのだ。

法国が描いていた最終的な計画は、王国と帝国の両国を併合し、人類の一大国家を築き上げる事であったが、“彼一人”の存在によって、計画に百年以上の遅れが生じた、とも言われている。

 

 

帝国から見れば史上稀なる名君であり―――法国から見れば最早、“人類の敵”であった。

 

 

その一代において、帝国は寸土も侵される事なく、次世代へと命脈を繋いだ。

二代、三代と名君が生まれたものの、四代目の暗君が国を傾け、五代目に入り、遂に連合国へと降伏。連合国は早速、絵を回収するべく動いたが、額縁の裏には驚くべき言葉が残されていた。

 

 

「私がこの人物と出会っていれば、世界など望まず、“友”となっていたであろう」と。

 

 

実際、彼が神と出会っていたらどうなっていたのか?

神に纏わるifは事欠かないが、その中でも興味深いifである。

他にも額縁の裏には「二、三は強勢、四に傾き、五で潰える」とまるで予言のようなものまで書き記されており、次第にその評価は見直される事となっていく。

 

何故か遥か後世の書籍では、大英雄と戦場で一騎打ちを繰り広げたり、手に汗握る謀略戦を戦わせたりと、一度も会った事がないのにライバルとして登場してくる事が多い。

それだけ、彼の存在が大きかったという事であろう。

 

 

 

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Epilogue―――ラナー&クライム

 

後に、ダンジョンの主へと永久就職。

およそ2年で王国の道筋をつけ、クライムと共に新大陸へと渡った。

そこからの彼女の活躍は、まさに八面六臂というものである。多くの物資の調達や、周辺諸国の調査、ダンジョン内のルールや掟の制定、仕掛けの発案など、とても数え切れない。

 

主が所持していた兆単位の金貨の一部を一旦溶かし、新たな刻印を刻んだ新金貨を作り出したのも彼女の発案である。元々、一枚で軽く金貨二枚分の含有量がある金貨であったが、完成した新金貨は芸術品としての側面も高く、当初は金貨三枚分と謡われるものであったそれが、何時の間にか一枚で金貨五枚分の価値を持つようになっていった。

 

無論、それらの噂を大々的に流し、時に金貨の流通を絞り、収集家達を煽りに煽り、意図的に価値を高めていったのは、彼女の謀略である。これによって新大陸での物資調達が容易になっていき、更にダンジョンの製作スピードは増していった。

 

今、彼女が一番夢中になっているのは、ダンジョンの運営。

数々の罠を発案し、それらの前で繰り広げられる喜劇を見るのが大のお気に入りなのだ。

仲間割れを誘う卑劣な仕掛けや、思わず先に進みたくなるような仕掛けや、豪華な宝箱の前に落とし穴など、彼女の考案していく罠は、既に114514を超えるとも言われている。

 

主の前では何処までも素直で可愛らしい黄金のプリンセスであったが、ダンジョンへの挑戦者からすれば、地獄の鬼以上の存在であったに違いない。

とは言え、愛しい王子の為に懸命に働く姿はやはり―――――プリンセスであったであろう。

 

 

クライムはラナーの護衛として新大陸へと渡ったが、自分の力量の低さを嘆き、日常の殆どを鍛錬に費やす日々となった。何せ、ここは教師には事欠かない。

当初はガガーランに教わっていたが、彼女は多忙でもあり、途中からはハムスケやデコスケと鍛錬をする事が多くなった。

 

彼は何故か両者から気に入られ、日々を過ごしていく中、確実に強さを積み重ねていく事となる。

城にいた頃は同僚から冷たく扱われていた彼だが、世間からは“怪物”と称される両者にこれほど気に入られたのは不思議な程であった。

彼はもしかすると―――――“異形から愛される才能”を持っていたのかも知れない。

 

彼はラナーだけでなく、憧れの塊でもある、ダンジョンの主に忠烈無比の忠誠心を抱いており、その命令が下れば易々と火の中にも飛び込んだであろう。

主も貴重な男子である彼に対し、温かく接した。

 

時には二人だけで酒を飲んだり、彼の仕事を褒め称えたり、その姿は「ホワイトな良き上司」でありたいという、主の願いであったのかも知れない。

しかし、主は甘い顔ばかりしていた訳ではなく、湧き上がる幸福感に突き動かされるまま、時間を忘れて仕事と鍛錬に集中する彼へ、主は「週休二日」という無慈悲な勅命を下した。

 

彼の嘆きと絶望は、察するに余りある―――

しかし、そんな事など夢にも思わない主は自室に戻り、誇らしくそれを想った。

 

 

 

「休日は大切だもんなぁ……クライム君も泣いて喜んでたし!俺って良い上司じゃん!」

 

 

 

主と、その他の人物との価値観が埋まる時は来るのだろうか……。

 

 

 

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Epilogue―――カイレ

 

時代が動いていく中、法国の中では穏健派として、両国の橋渡しをする存在となった。

その私生活は清貧そのものであり、多くの会議でも居るだけで場を引き締める重鎮として、その重みを増していく。但し、大英雄が絡む事柄だけは人が変わったように、時に般若と化した。

 

その逆鱗に触れた者は明日の太陽を拝む事は出来ない、とまで称される豹変っぷりであったが、それ以外は好々爺ならぬ、好々婆(?)といった具合であり、多くの者から慕われる人物であった。

 

しかし、上層部の面々がとある少女を強烈にプッシュする中、カイレのみはクレマンティーヌを推薦し、その時ばかりは周囲の顔色を変えさせたが、カイレの意思は固く、クレマンティーヌ本人は知らぬまま、彼女がいつ出奔しても良いように環境を整えていくのであった。

 

その生涯を法国の為に尽くしたカイレであったが、元々が高齢である。休む暇もない激務の中、遂に体調を崩し、そのまま帰らぬ人となった。

葬儀には両国から多くの者が訪れたが、クレマンティーヌのみは「あばよ、クソばばぁ。私はモモちゃんと楽しく暮らすから~」と言いたい放題の有様である。

 

 

その瞬間、棺の蓋が吹き飛び―――

 

 

死んだ筈のカイレが飛び上がってクレマンティーヌの頭をしこたまに痛打した。

不意の殴打にクレマンティーヌは気を失い、カイレもまた、そのままの姿で絶命していた。

混乱の中、葬儀こそ行われたが、彼女が本当に死んだのかどうかは歴史の謎である。

 

 

 

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Epilogue―――クレマンティーヌ

 

後に、ダンジョンの主へと永久就職。

主が作ってくれた“居場所”へどっぷりハマり、主にもどっぷりハマった。

何をするにも24時間甘えっぱなしであり、主の前では限度を超えた幼児化っぷりを見せていたが、突然現れた、国をも傾けそうな美女がその頭を痛打した。

 

 

その美女が何者であったのか―――

歴史は黙し、何も語らない。

 

 

只一つ、分かる事は―――その美女は、彼女と非常に仲が悪かったという事だ。

いや、仲が悪いと言うよりも、それは“教育”であったのかも知れない。

主はその日から平穏を取り戻し、美女の手を取って感謝した。

 

 

 

「ババァ、しつけぇんだよ!さっさと地獄に逝けや!何ならいま逝くか、コラ!」

 

「ヌシの目はガラス玉かぇ。何処に“ババァ”が居るんぢゃ?」

 

 

 

ダンジョンは今日も、内に外に騒がしい―――――

 

 

 

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Epilogue―――ニグン

 

竜王国での死闘が終わり、すぐさまダンジョンへ行……かなかった。

遥か遠くに去った神の業績が忘れ去られる事を恐れ、後世に書を残すべく執筆を始めたのだ。

それは竜王国で起こった奇跡が記された「審判の日」と名付けられた書。

 

実際に竜王国で長年に渡る死闘を繰り広げてきた彼の書だからこそ、そこには説得力とリアリティが生まれ、たちまち大ベストセラーとなった。

続けて、請われるがままに数冊の本を記したが、そこには神(大英雄)への賛美が満ちており、自分が如何に神と近しい間柄であるかが、これでもかと強調されていた。

 

反面、ガゼフ・ストロノーフに言及する部分では「不遜な男」「神に対し、あの馴れ馴れしい態度を改めるべき」「恐るべき粗忽者」「神の慈愛に付け込む棒振り」「神をも怖れぬ剣術屋」など、罵詈雑言の嵐である。

 

尤も、読者の方も手慣れたもので「またニグン先生の病気が始まったよ(笑)」と生暖かい目で見られ、程好いジョークとなっていた。

本のお陰か、彼は「光の使徒」と呼ばれるようになり、内心満更ではなかったらしい。

 

 

その後、彼は売り上げの全てを孤児院へと寄付し、身一つで新大陸へと渡る。

本当の意味で、「光の使徒」となる時が来たのだ。

主としては内心、大人の男性が「女性陣の諍い」を静めてくれると期待していたが、その方面では彼は全く役に立たなかった。

 

全ての女性陣に対し、「一刻も早く神と結婚し、その子を成すべきであるッ!」と力説して回り、むしろ、主の周りが絢爛豪華な華に包まれて行く一助となったのだ。

女性陣からすれば、実に頼りになる男であり、彼は后達から相談があれば、たとえ明け方であろうと深夜であろうと快く迎え、悩みがあればそれらを解決すべく尽力した。

 

その昔、日本には「大奥」などと呼ばれるものが存在していたが―――

彼は自然、そこを取り仕切る存在となっていく。

 

実際、彼が居なければ諍いがどう発展していったかを想像すると、彼の存在は何処までも貴重で、不可欠であった。本来なら主を補佐しなければならないフールーダなどは、奥向きの事にはまるで興味がなかったのだから。

 

下手を打っていれば、ありえたかも知れない“内部崩壊”をサラリと解決し、大小問わず奥のトラブルを収めていく姿は―――確かに“光の使徒”であった。

ダンジョンの主こそ、彼に頭を下げて感謝しなければならないであろう。

この光の使徒が、バラ撒いた多くの騒乱を一手に纏め、強固な奥体制を作り上げたのだから。

 

 

 

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Epilogue―――絶死絶命(ゼットン)

 

後に、ダンジョンの主へ永久就職。

時代が動いていく中、連合国は遂に帝国をも飲み込み、巨大な一大国家となった。

それまでの間、彼女は休日になると“居場所”へと赴いていたのだが、その日を本格的な引越しの日と定めた。

 

神様の膝がお気に入りらしく、そこに座るとテコでも動かない。

意外な事に、もう彼女は戦いに自分を見出す事はなかった。望むモノが手に入った以上、最早、彼女にとって戦いなど、弱い者苛めでしかなくなったからだ。

 

他の女性陣との関係は至って良好であり、これは法国の「才ある者は多く子を」という方針が思考に根付いていたからだとも言えるし、彼女もその方針に賛成であったからとも言える。

 

後に周辺諸国が動き出した時、一度だけ興味を示す敵が現れたが……。

その敵も、主の前では木偶の坊でしかなく、瞬時にその身を沈める事となった。

彼女の鎌が振るわれる時は、もう無いだろう―――

 

 

ちなみに、法国のダンジョンに対する公式見解は中々に面白いものである。

人々に夢と希望を与え、あまつさえ人類を鍛えてくれている、という斜め上のものであった。

実際、そういった作用があった事は否定しないが……いや、もう何も言うまい。

 

 

 

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Epilogue―――スレイン法国

 

 

辺境領(実質の独立国)を挟み、評議国との軋轢を無くしながら王国を併合。

後に帝国領も併合し、人類の一大国家を作り上げた。

 

彼らが掲げるのは―――六大神。

 

その事に変化はない。

変化があるとすれば、最奥の神殿に一つ像が追加された事だ。

それは、“地に光を齎す至高神”と名付けられた神。

世間では「大英雄」と呼ばれる人物であった。

 

彼らは今日も六大神の像を磨き、祈りを捧げる。そして、もう一つの像へ深々と頭を下げ、熱心に祈りを捧げた後、極上の魚を恭しく献上した。

神は聖地:トブの湖で獲れる、極上の中の極上の魚しか口にされないのだ。

彼らはそれへ捧げる魚に、一切の妥協をしない。リザードマンが養殖を試行錯誤しているとの話を聞き、陰ながらではあるが、それらに対するアドバイスも行っている。

 

全ては至高神の為に。

世界の地図を見よ。

人類の生存圏を見よ。

あの方は―――――地に大きな平穏と、救いの光を齎してくれた。

 

彼らはリザードマンとの接触を通し―――

“亜人”という存在に対して、緩やかな変化が訪れつつあるようだ。

 

 

 

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Epilogue―――デコスケ

 

トブの大森林を駆け回り、遍く異形種を従えた地獄の王であったが、偉大なる創造主の前では正に犬猫であった。

子作りを強く勧めるのは忠誠であったのか、何なのか。

彼個人としては創造主に対し、ラキュースを強く推し、ラキュースからも「可愛い!」といつのまにか可愛がられるようになっていったようだ。

 

デコスケの見た目も、能力も―――彼女が好む“闇の存在”であった事も大きかったであろう。

 

ダンジョンでは時に死の騎士と、ダーク・ラキュースがセットで現れ、挑戦者を容赦なくぶちのめす事になっていくが、両者のタッグはほぼ無敵であった。

 

 

 

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Epilogue―――ハムスケ

 

ダンジョンの主に、忠誠を捧げる大魔獣。

その姿は“旧大陸”で様々に謡われ、遂には“聖獣”である、とまで言われるようになっていく。

多くの場面で大英雄と行動を共にしており、特に王都での動乱の際、デス・ナイトと死闘を繰り広げた姿が多くの人間の目を惹き付け過ぎたのだ。

 

新大陸へ赴いてからも主に対する過保護は留まる事を知らず、四六時中世話を焼きたがった。

主もハムスケに対してだけは異常なまでに心を開いており、時にはその口調が荒くなったり、時には甘えるような態度になったりと、主従と言うより夫婦に近かったのかも知れない。

 

主としては伴侶を探してあげたいという気持ちもあるようだが、別段焦ってはいなかった。

この主従にとって、時間などは只の数値でしかないのだから。

今後も主は、ハムスケの前ではだらけた姿を晒し、情けない姿も晒すだろう。

 

 

 

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Epilogue―――???

 

 

―――竜王国 戦場

 

 

そこは端的に言えば、地獄であった。

先の大侵攻から10年、遂にビーストマンが満を持して再侵攻を開始したのだ。

 

 

―――その数、およそ8万。

 

 

すぐさま竜王国は陣営を整え、法国のみならず、王国にも援軍を求めた。

この一角が破られる事になれば、周辺諸国にも地獄が訪れる。その事を、今では王国もしっかり理解していたが故に、迅速に援軍を用意したのだ。

 

 

王国から出された援軍、それを率いるのは英雄ガゼフ・ストロノーフであった。

だが、左右を見ても、そこには懐かしい僚友の姿はない。

ニグンは新大陸へと去り、ゼットンと呼ばれた少女の姿も無く、当然、大英雄の姿もなく。

ここには、ガゼフ・ストロノーフという英雄の姿だけがあった。

 

8万にも及ぶ軍勢は好き放題に竜王国の領内を荒らし、思うがままに人を喰らった。それを止める事など、誰にも出来はしない―――英雄ガゼフであっても。

彼がどれだけの英雄であろうと、剣豪であろうと、8万もの数を前に何が出来るであろう。

戦線は次々と破られ、その箇所では地獄の宴が繰り広げられる事となった。

 

 

後世、ガゼフ・ストロノーフの“三大難戦”と謡われる戦いの一つである。

 

 

一つ目は言うまでも無く、ブレイン・アングラウスとの死闘であった。

二つ目は竜王国で行われた獣将との一騎打ち。

最後が、この絶望的な戦いである。

 

長い戦いを通じ、彼は多くの将兵の心を掴んでいったが、数ばかりは如何ともし難い。今も左翼と右翼が食い破られ、既に彼が率いる中央以外はズタボロの状態である。

 

ガゼフは中央の陣を押し進め、殿を務めるべく動き出したが、既に左右の陣は壊乱と言って良い有様であり、逃げ遅れれば“喰われる”地獄となっていた。

ガゼフは500の軽騎兵を率い、何度も突撃を繰り返したが、その度に自軍の数が磨り減り、遂には敵陣の中で彼一人が孤立する有様へと陥った。

無理もない事である。彼と力量を同じくする者など、この戦場にはもう居ないのだから。

 

もしここに、ニグンが率いる一軍がいたとすれば、ガゼフの空けた穴にすぐさま多数の天使を切り込ませ、魔法を次々に叩き込み、遂には敵陣を木っ端微塵に打ち砕いたであろう。

そして、その後―――ニグンは憎まれ口を叩いたに違いない。

 

 

「所詮は剣術屋。全くもって、情けない男よ―――己の無力さを神に詫びよ」と。

 

「相変わらず、手厳しい事だ」と、彼は答えたであろう。

 

 

だが、戦場に「もし」は無い。

ガゼフの奮戦虚しく、全戦線が崩壊する瞬間―――――()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――でかくなったな、小僧」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガゼフがその声に導かれるように空を見上げれば、そこには漆黒の巨馬に跨った武人がいた。

その身は黒い全身鎧に包まれており、その背には燃えるような紅蓮のマントが翻っている。

だが、何よりの驚きは―――その身が、“完全に人間”であった事だ。

 

 

「あ、貴方、は………」

 

 

ガゼフの喉が枯れ、心臓が破裂するような鼓動をあげた。

忘れる筈も無い。忘れられる訳が無い―――その声、その身に纏った圧倒的な強者のオーラ。

 

 

「ま、魔神……!あ、貴方は消滅した筈では………」

 

「ガゼフ・ストロノーフ―――我が“偉大なる王”に、不可能など無いと知れ」

 

 

漆黒の巨馬に跨った武人―――いや、ペイルライダーが轟音を響かせながら地へと舞い降りる。

8万にも及ぶビーストマンも、その足を止めていた。

いや、違う―――――動けないのだ。

 

 

ペイルライダーが両手を広げ、その先の空間へ黒き瘴気が満ちていく。

そして、ビーストマンにとって終生忘れられぬ、史上最悪の存在が舞い降りた。

それは二体の《魂喰らい/ソウルイーター》と呼ばれる伝説のアンデッド。かつて三体のソウルイーターがビーストマンの都市に現れた時、10万人にも及ぶビーストマンが殺戮されたのだ。

 

―――それが、二体。

 

ビーストマンは恐怖に慄いたが、彼らはまだ知らない。

それらを従える騎兵の方が、軽くその数億倍は恐ろしい存在である事を―――――その証拠に、黒き騎兵が口を開いた瞬間、ソウルイーターは恐怖に耐えかねるように全身を震わせた。

 

 

 

 

 

「ソウルイーターよ、分かってはおるだろうが、我が偉大なる王の顔に、泥を塗るような真似は許さん。我が王を不快にさせる―――――“虫ケラ”の悉くを“塵殺”せぃッッッ!」

 

 

 

 

 

ペイルライダーが天から稲妻を落とすような大喝を発し、ソウルイーターが全速力で走り出す。

もはや、目の前の敵を一匹でも逃せば、自分達の命がないと本能で察したのであろう。ソウルイーターは始めから全力全開でビーストマンの群れへと突っ込んだ。

 

広範囲のアタックスキルを連発し、その度にソウルイーターの攻撃力が跳ね上がっていく。敵陣営がまるで砂糖のように溶けていき、遂にはペイルライダーが天高く飛翔した。

 

 

「我が偉大なる王は貴様らに―――――既に死を与えていたのだッ!」

 

 

ガゼフが言葉を失う中、ペイルライダーの両手から黒き衝撃波が放たれ、まるで悪い冗談のように、数千体にも及ぶビーストマンの体が宙へと舞った。

その後の戦場など、語るまでも無い。二度の壊滅を味わったビーストマンはこれ以降、二度と竜王国の版図に足を踏み入れる事は無くなった。

 

 

その後、賢明なる竜王国の女王は連合国の従属国となる事を申し伝え、国の安寧を守る事となる。

かつて偉大なる王、大英雄に仕えし武人―――魔神伝説はこの戦いにおいて不朽の存在となった。

その偉容、その言動、その無慈悲までの圧倒的な武力。

 

 

彼の存在が、時に両英雄すら超える、不朽の存在となったのも止むを得ない事であった。

 

 

 

 

 

《青褪めた乗り手/ペイルライダー》

死の宝珠を核とし、再召喚した存在。

逸脱者フールーダ・パラダインと、稀代のネクロマンサーであるカジットが協力し、最後にはダンジョンの主の莫大な魔力を注ぎ込む大儀式を通し、10年の時間をかけて甦った。

死の宝珠に彼の力が残されていたからこそ、この大儀式はからくも成功したと言える。

 

死の宝珠を核としている為、大きなペナルティを受け、今のペイルライダーの強さは40lv程度。

但し、奇跡とも言える第二形態を実装していた。

第二形態は死霊ではなく、完全に人間の姿となり、78lv相当の強さへと戻る。第二形態で居られる時間は、第一形態で過ごす時間に左右され、最長でも3日。

宝珠を核としている為、ある程度のアンデッドを召喚し、駆使する事も可能。

 

 

―――――ダンジョンの主は再会した彼に対し、何も言わずに抱擁した。

 

 

感激に打ち震える彼に対し、主は得意気にドイツ語で《SCHWARZ LANZENREITER/黒色槍騎兵》と名付けたが、周りから呼び難い、分かり難い、と不評であり、結局は元の名へ戻った。

 

主はこれ以降、暇があればペイルライダーの許を訪れ、時には二人で外出し、未知を楽しむように冒険へと出掛けた。騒ぎを起こさぬよう、二人は非実体化して各地を見て回ったが………

当然、歩く核爆弾のような二人の冒険が平穏である筈もなく、様々な大騒動を生んでいくのだ。

 

 

 

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Epilogue―――ガゼフ・ストロノーフ

 

彼のその後については、殆ど語る事はない。

多くの妻から愛され、多くの部下からも愛され、あらゆる国民から愛された。

英雄と呼ばれる存在の、その全てを彼は過不足無く備えていた。否、備えすぎていた。

 

多くの功績によって次々と抜擢され、法国の上層部からも憎まれる事もなく、一時は聖典の数を一つ増やし、彼に隊長を任せようという案も出た程だ。

 

長らく彼は将軍という地位にいたが、その晩年には王国軍の元帥へと抜擢された。

しかし、彼が元帥という地位にいた期間はそれ程長くはない。

度重なる死戦を超え、彼の肉体は年齢以上に衰えが目立つようになっていたのだ。

 

その晩年は目も霞み、剣を持ち上げる事も出来ぬ程に衰えたが、彼の許には毎日のように多くの部下が訪れ、その賑やかさは毎日が宴のようであった。

彼は生前から妻達に「アングラウスの隣に埋葬してくれ」と頼んでいたが、遂にその日を迎える。

 

 

 

彼はその日、震える手足を叩き付け、王国の四宝を身に纏ったのだ。

 

往年とは違い、その姿に雄々しさはない。

 

しかし、そこには激動の時代を生き抜いた一人の“英雄”の姿があった。

 

 

 

彼はその姿を「大英雄の描き手」に頼み、一枚の肖像画を描かせたのだ。

その絵は老いの清らかさと、人生というものを感じさせる、不思議な余韻を残すものであった。

彼はその絵を一瞥し―――万感の想いを込めて呟く。

 

 

 

「―――――素晴らしい時代に生きた」

 

 

 

ガゼフ・ストロノーフの最後の言葉である。

彼の遺体は希望通りにブレイン・アングラウスの隣へ埋葬され、二つ並んだ墓石は、およそ剣を志す者ならば一度は訪れる名所となった。

 

 

 

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Epilogue―――???

 

 

連日のように曇り空が広がり、その日も朝から激しい雨が降り続いている。

こんな日はたとえ「英雄」の墓であっても、訪れる者は少ない。今もローブを纏った男が一人、墓の前で佇んでいるだけだ。

男は何か独り言を言っているようでもあり、墓に話しかけているようでもある。

 

一見すれば誰も居ない墓地であったが、実のところ、その周囲は物々しい警護が敷かれていた。

非実体のレイスなどが各地に伏せられ、ティアとレイナースも居る。

ローブを着た男の独り言は、中々終わらない。

 

 

 

本当に貴方は頑固ですね。

そういう所は、とても好ましくはあるのですが。

でも、私も我儘ですから何年経っても諦めませんよ?

そういえば聞いて下さいよ、この前……

 

 

 

楽しそうに墓へと話しかける様は、異様と言えば異様である。

そして、男は何かを思いついたのか、隣の墓へと目を向けた。

暫く隣の墓を見ていた男であったが、その瞳からハイライトが消える。

 

 

 

「そっか……貴方にも協力して貰えば良いのかな。ねぇ、ブレイン・アングラウスさん?」

 

 

 

男の呟きを聞いて、ティアとレイナースが思わず小声を漏らす。

 

 

 

「どう見てもヤンデレです。本当にありがとうございました」

 

「マイロード、そんな姿も世界一素敵です」

 

「あの執着をベッドでぶつけて欲しい」

 

「それは、とても素敵な話ですね……想像するだけで……」

 

 

 

この二人は本当に護衛なのだろうか。かなり疑問が残るが、まぁいいだろう。

男の執着の結果がどうなるのか、それは誰にも分からない。

只一つ分かっている事は、この男は本当に我儘だという事だけだ―――――

しかし、それに対する戦士二人も、稀代の頑固者であった。

 

 

この綱引きの結果がどうなるのかは―――まさに、神のみぞ知る世界である。

 

 

 

 

 

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―――新大陸 北の大国

 

 

豪華な玉座に一人の美少女が座り、高々と足を組んでいる。

ポニーテールに纏められた髪は燃えるような赤色であり、全身を包む鎧もまた、赤色であった。

大小、八カ国を次々と打ち破り一大王国を築き上げた―――征服王と呼ばれる存在。

 

その麾下には知将、猛将が綺羅星の如く集まり、絢爛豪華の極みであった。

玉座の間では最近、大陸を揺るがしているダンジョンへの派兵を決めたところである。

そのダンジョンには夢のような財宝が溢れており、まるで大陸全土に黄金時代が訪れたかのような有様なのだ。冒険者達だけに、美味しい思いをさせている訳にはいかない。

 

既に、「アの国」にはダンジョンから生まれた黄金バブルともいうべきものが訪れており、食料や酒などどれだけ作っても供給が追いつかず、何処の宿屋も満員、猫の手を借りても到底足りず、まるで天空から無限の黄金が降り注ぐような光景であった。

 

 

「―――全てを掴み取りにしてやる」

 

 

征服王の艶やかな唇から、燃えるような言葉が漏れた。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

―――新大陸 東の大国

 

 

玉座の間に13人の少女が並んでいた。

その身には其々、大きな《呪文印/スペルタトゥー》が刻まれており、世に十三獣将と呼ばれ、怖れられている存在だ。其々が軽く20lvを超える猛者ばかりである。

 

それだけでも圧巻の光景であったが、玉座の前で跪く麗しい美女は―――何と、竜人であった。

圧倒的な力と魔力を身に宿し、優に50lv相当に匹敵する化物である。

彼女達もまた、噂のダンジョンへ調査団を送り込む事を決めた。彼女達自身は別に財宝を好んでいる訳ではない。彼女たちの頂点たる存在―――“本物の竜”が財宝を好むのだ。

 

 

《砂嵐の竜王/サンドストーム・ドラゴンロード》

 

 

それが、彼女達の頂点に君臨する存在である。

普段は洞窟の中で眠っている事が多いが、財宝の匂いを嗅ぎ付けたのか、最近では起きている事が多くなり、配下の彼女たちに小煩く指令を飛ばす。

今日は人化した小さな体で、その身には大き過ぎる玉座から金切り声で指令を下していた。

 

 

「はよぅ、妾に財宝を持ってこんかっ!キンキラの、ピカピカのじゃぞ!」

 

「「ははぁぁぁぁ!」」

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

―――新大陸 西の大国

 

 

一つの巨大な天使像の前で、三人の少女が祈りを捧げていた。

ここは数百年前、この地に舞い降りた天使様を信仰する巨大な宗教国家。

彼女たちは国の頂点にして、天使様の傍近くで仕える、“聖女”と呼ばれる存在であった。

 

 

「光を齎す王子……?」

 

「違う、その実態は数多のアンデッドを支配する地獄の王よ」

 

「天使様……どうか私達に力を……!」

 

 

聖女達は今は亡き天使様へ熱心な祈りを捧げ―――

そして、遂に大陸を揺るがしているダンジョンへの派兵を決めた。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

―――地下大墳墓 玉座の間

 

 

タイミングを同じくして、三カ国が攻め込んでくる。

その報を聞いたダンジョンの主は不敵な笑みを浮かべた。

しかし、其々の国が500名ずつの精鋭を送り込んでくるとの報が続けざまに入り、遂に耐え切れなくなったのか、膝を叩きながら大笑いする。

 

 

―――――奇しくも、1500名との戦いであった。

 

 

常人ならば身の破滅を思い、じっとしていられないであろう。

だが、主だけでなく、玉座に並ぶ誰の胸にも不安など欠片もない。むしろ、その胸中にはふつふつと湧きあがってくる闘志だけがあった。

 

ある者は熱狂的な忠誠を捧げる為、ある者は愛の巣を守る為、ある者は受けた恩を返す為。

誰の胸にも、自分達を惹き付けて止まぬ、絶対的な主への愛だけがあった。

いつしか、全員の視線が至高の玉座へと向けられる―――

 

 

 

 

 

そこには生も死も、時間すらも支配し、万人を魅了して止まぬ―――――

 

《OVER PRINCE/全てを超越せし王子》の姿があった。

 

眩い輝きを放つOVER PRINCEが立ち上がり、

 

その右手を高々と掲げ、総員へと告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、新たな伝説を始めよう―――――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『OVER PRINCE』

 

 

PAGE:70 ――― TRUE END

 

 

Written by 神埼 黒音

 

 

 

 

 

 




沢山の応援、本当にありがとうございました!
今後の活動や、今作の製作話などは活動報告の方で更新していきます。




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