OVER PRINCE   作:神埼 黒音

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虐殺

今、思えば―――それは運命だったのか、それとも、必然だったのか。

いや、正直に言えばどちらでも良かった。

頭に血が上っているのに、胸は塞がっているという、気持ち悪い状況に吐き気がしていたのだ。

 

 

「こ、この辺りですかね……モモンガさん」

 

「………えぇ」

 

 

例の地図に載っていた娼館は、すぐに見つかった。

人気がない道を何度も曲がり、大通りからは完全に外れた、見た目からは分かりにくい区画ではあったが、地図で予め地点が分かっているなら見つけるのは容易い。

 

そして、まるで誂えたかのように娼館の裏口ともいうような鉄の扉が開き、大きな布袋が投げ出された。その後、無造作にその扉が閉められる。それは、ゴミ袋にしては大きすぎた。ちゃんと袋を縛る面倒すら惜しんだのか、そこからは人の一部がはみ出ていたのだ。

 

 

「嘘……でしょ……」

 

 

ニニャさんの様子がおかしい。

傍目から見ても分かる程に体が震え、目を見開いている。

瞬間、嫌な予感が走った。

フラフラと、まるで幽鬼のような足取りでニニャさんが袋へと近づき、姉さんと叫び声を上げた。

 

 

(あぁ、そういう事なのか………)

 

 

まるで世界が白黒になり、映画のワンシーンでも見ているようであった。

こんな事が実際にあるのか。いや、あって良いのか。

 

泣き叫ぶニニャさんの隣に立つと、袋に入っていた中身が否が応でも見て取れた。

ボールのように腫れ上がった顔面。骨と皮だけになっている腕。ボサボサの髪。干からびた皮膚。おかしな方向に捻じ曲がった指。剥がされた上、何年も経った事が窺える爪。ご丁寧に足の腱らしき部分は左右ともに切られていた。

 

 

―――死体だ。

素直に、そう思った。

 

 

だが、完全には死んでいないのだろう。袋から伸びた手がニニャさんの服を弱々しく摘んでいる。

ニニャさんが跪き、その頭を膝に乗せ、必死に手を掴んで何かを叫んでいた。

そんな光景を、何処か遠いものを見ているような自分が居る。

 

何だろうか、これは。

もはや女性であるとは思えない程に変形しきった体と、顔。

これを、同じ人間がしたというのだろうか……?ちょっと信じがたい姿である。

三流のホラー映画ですら、もうちょっとマシな死に方をするだろう。

大声で何かを叫んでいるニニャさんと、そのお姉さんらしき姿を見ていると、自分のよく知る姉と弟が頭に浮かび、胸が痛んだ。

 

何で、あの二人を思い出す?

さっきの話の所為だろうか?

何故か、ウルベルトさんからいつか聞いた両親の話まで頭を過ぎる。

 

 

―――――あんな危険な場所で働かされて、ろくでもない死に方をし、死んでも骨も戻ってこず、あまつさえ見舞金は雀の涙以下だった。

 

あの時のウルベルトさんの声は怒っているような、まるで泣いているような。

一言では言い表せない、「慟哭」を感じさせるものだった。

 

 

気分が、悪い。

不愉快というのは、こういう心境を指すのか。

 

 

「何だ、てめぇら。どっから湧いてきやがった」

 

 

鉄の扉が開き、中からいかにもな男が出てくる。

盛り上がった胸板に、太い両腕。その顔には明らかに刃物で切られたであろう傷まであった。

 

 

「おぅ、腐れローブ野郎。何見てやがんだ?」

 

「………」

 

 

男は返事を返さない自分に舌打ちした後、足元で蹲っているニニャさんに向けて声を荒げた。

 

 

「てめぇ、何してやがる。そのゴミに何か用か?」

 

「ゴミ……僕の姉さんを、ゴミと言ったんですか………」

 

「あぁ~ん?姉だぁ?」

 

 

男の顔が訝しげに歪んだ後、口元が別種類の歪みへ変わる。弱い者を見つけ、それを甚振ろうとする酷く嫌な表情だった。

この手の人間というのは学校にも会社にも、いや、社会というものに必ず存在する。

自分よりも弱い者を叩き、その生き血を啜るような人間だ。

 

 

「てめぇが弟ってか?なら丁度良い……そのゴミにゃ、借金がまだたらふく残っててなぁ。家族だっつーなら、てめぇに肩代わりして貰わなきゃな」

 

「これ以上、まだ奪うつもりですか……う”っ、……貴方達は、僕らをいったい……」

 

 

ニニャさんが滂沱のような涙を流す。

姉の変わり果てた姿を見て、心が折れてしまったのだろう。その姿は酷く弱々しい。

 

 

「おい、ローブ男。てめぇも関係者かぁ?なら、てめぇのも持ち金も置いていって貰おうか、そこの弟くんも綺麗なツラしてやがるからな……良い稼ぎになるだろうよ」

 

「良い稼ぎ、ね……それは、彼女のような姿にする、と言う事か?」

 

「あぁ?知らねぇよ、そんな事は客に聞け。こっちゃぁ、金次第でオプションを付けるってだけの話だ。殴ろうが、爪を剥ごうが、眼球を抉ろうが、好きにすりゃ良い」

 

「そんな事をされては、払い切る前に死んでしまうだろう。まして、彼女は無理やり攫われたと聞いている。借金など、お前達が無理やり押し付けたモノだろ?」

 

「ぶぁーか!この田舎モンが……俺らを誰だと思ってやがんだ?天下無敵の八本指様だぞ。この国の法も権力も、何者にも縛られねぇのが俺達なんだよ!」

 

「なるほど…………無敵、ね。一つ、確認したいんだが、お前の言い分を借りると、強者は弱者に対して何をしても良い、と言う訳か」

 

「当然だろうが、このドマヌケ野郎が!さっさと出すもん出して、そこに転がってるゴミの借金を払えッ!足りねぇ分は………」

 

 

男がそこで言葉を区切り、蹲っているニニャへ蛇のような視線を向けた。

 

 

「そこの弟くんに、じ~っくり払って貰うからよ」

 

 

―――路地裏に、酷く、嫌な気配が立ち籠め始めた。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

モモンガの胸には、先程から触れたら爆発しそうな程の、決して簡単には消えそうもない怒りが湧き続けている。不愉快、などといった感情を遥かに超えた、ドロドロとした熱いものだ。

 

もしも、彼が死の支配者たるアンデッドであったなら。

精神作用無効のスキルが何度も働き、その怒りは収まっただろう。

 

もしも、彼を親のように慕い、偉大な支配者として仰ぐNPCが居れば。

彼はかつての仲間が残した大切なNPCの事を考え、その怒りを何とか抑えたかも知れない。

 

もしも、この場にかつての仲間が居れば。

それに嫌われないように、激怒するような姿を決して見せなかっただろう。

 

だが、幸か不幸か、この場にはそんな存在など居ない。

彼は、一人でこの世界に来た。

なら、彼を抑えるようなモノは何もなく、一度生まれた怒りを消すようなスキルもない。

 

唯一あるとすれば、彼に新しく与えられた、妙なスキルの数々。

それらに「乗る」か「流され」れば、また違った展開があったのかも知れない。

だが、それらも風前の灯であった。

 

現に先程から彼の心臓は大きな鼓動を鳴らし続け、目の奥では火花が散りっぱなしになっていたが、それらを無理やり抑え込んでいたのだ。

心臓は破裂しそうな程の激痛を訴え、眼は痛みの余りいっそ眼球を掻き出したくなる程であったが、それらを意思の力だけで耐え、抑え付けていた。

いや、それは正確に言えば体中を縛り付けていた最後の鎖であったのかも知れない。

 

 

―――その鎖が今、無残なまでに引き千切られた。

 

 

数年間、ただ一人でギルド拠点を維持し。

一つのゲームに執着し。

楽しかった記憶を頼りに、ただそれだけを想って、「12年」もの間、ログインし続けた男。

 

その姿は、その本質は、鈴木悟という人間の本質は―――――”狂気”であった。

 

 

 

 

 

「クゥ、クズがぁあああああああああ!」

 

 

 

 

 

―――――パキャン!と、形容しがたい音が鳴った。

 

 

 

 

 

無造作に振るった杖が、男の顔の右半分を吹き飛ばしたのだ。

吹き飛ばした《それ》が壁に張り付いて赤い染みを作った後、男の体がゆっくりと倒れ、木を転がしたような音を立てた。これ以上、不愉快な囀りを聞きたくない、というモモンガの意思がそのまま現れたかのような姿である。

 

その光景を見て、路地裏から切羽詰った声がする。

モモンガが振り返ると、そこには仮面を着けた少女が居た。

心配で後ろを付いてきていたのであろう。

 

 

「モ、モモンガ……お前ッ!何をしたか、分かっているのか………!?戦争になるぞ!」

 

「イビルアイさん、これは《大治癒/ヒール》という魔法が篭められたスクロールでして。神官であるラキュースさんなら使えると思いますので、ニニャさんのお姉さんに使ってあげて下さい」

 

 

酷く落ち着いた、まるで朝食でも渡してくるような声色だった。

イビルアイの背中に冷たいものが走る。

危険だ。こいつの状態も、この状況も、何もかもが、最悪だ。

 

 

「ま、待て!それは分かったが、まだ我々は八本指と全面的な戦争をする準備を整えていない!このまま市街戦などになると、どれだけの被害が出るか考えろ!」

 

「そうですか………でも、ここの連中は屑でしょう?」

 

返ってきた答えに、イビルアイが絶句する。まるで会話になっていない。

無理やり止めようものなら、この場で確実に殺し合いになるだろう。

 

 

「ニニャさんとお姉さんの事、宜しくお願いしますね。先程の宿に送りますので」

 

「ちょっと待て!モモンガ、」

 

 

 

《上位転送/グレーター・テレポーテーション》

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 

娼館で働いていた者にとって、その日は悪夢となった。

いや、もう夢を見る事も出来ない。

外敵や急な衛兵の踏み込みなどに備えた、分厚い鉄の扉が突然、吹き飛んできたのだ。一直線に飛んできた《それ》に、二人の男がぺしゃんこに押し潰された。

 

カードやチェス、サイコロを使った賭けなどをして無聊を慰めていた男達が静まり返る。

裏口を見ると、何の冗談なのかローブを着た男が片足を上げた状態で立っていたのだ。その姿はまるで、あの鉄の扉を蹴って入りました、と言わんばかりの格好である。

人間という生き物は信じられないものを見た時、その思考は停止するらしい。

 

彼らは身構えもせず、ただ、その姿を呆然と眺めていたが、その男が無造作に杖を振り上げ、近くに居た男の頭にそれを振り落とした時、ようやく誰かが悲鳴を上げた。

振り下ろされた同僚の頭が、まるでトマトか何かのように破裂したのだ。悲鳴も上げるだろう。

 

 

「な、何だてめぇは!」

「トチ狂った冒険者か!?」

「だ、誰か下の連中を呼んでこい……!」

「サ、サキュロントさんが見回りに来てただろ!さっさと呼んでこいよ!」

「下のコッコドールさんに連絡を!」

「つーか、誰かあいつを殺せや!表の、」

 

 

その言葉の途中で、「へぎぃ!」と妙な声を上げながらまた一人、男の顔が吹き飛ばされる。

軽く横に払った杖が直撃し、鼻から上が消し飛んだのだ。

男達は思う。

一体、何の冗談だろうか、と。

触れたら吹き飛ぶような杖が、この世界には存在するのか??

 

 

「ま、待ってくれ……あ、あんたは一体、何なんだ!?誰に雇われた!」

 

ローブを着た男が一瞬、立ち止まり……その問いに対し、回答する。

 

「悲鳴と呪詛以外、もはや聞きたくないな」

 

 

その声と共に杖が振り下ろされ、男の頭骨が粉々に砕け散り、衝撃で背骨が折れたのか、上半身が紙でも折り曲げたように勢いよく足とくっ付いた。

遂にその、《ありえない姿》を見て、全員が絶叫を挙げ、我先にと逃げ出す。

 

 

「そのまま背を向けるなんて……芸が無いな」

 

《魔法の矢/マジック・アロー》

 

 

ローブを着た男が魔法を唱えた時、更に冗談のような光景が広がった。本来なら一つの光球が放たれる筈のそれが、十個浮かび上がったのだ。

逃げ出した先頭付近の男達にそれが次々と突き刺さり、大勢の客を出迎えてきた、光り輝くようなシャンデリアと、高級なカーペットが敷いてある受付は、赤いペンキでも一面にブチ撒けたように真っ赤となった。

 

それを見て、もう動く者が居なくなる。

動けば真っ先に殺される、そう確信したのだ。

 

 

 

「―――おいおい、何だこの状況は………」

「サキュロントの兄貴!」

「兄貴、ヤバイ奴が来たんです!助けて下さい!」

「兄貴がくればもう安心だ!」

「お、おれ、マジで怖かった……もうダメかと……」

「バッカ、兄貴が来りゃもう心配要らねぇよ」

 

「何だ何だ、こういう時だけ持ち上げやがって……おめぇら次からはサービスしろよ?」

「そりゃ、勿論でさぁ!」

 

 

 

男達が生き返ったような思いで次々と声を張り上げる。

八本指の警備部門、その中でも六腕と呼ばれるアダマンタイト級冒険者に匹敵すると言われる凄腕の六人の中の一人である。これまでも娼館で揉め事を起こす男は少なからず居たが、それらを子供の手でも捻るようにして片付けてきたのがこの男であった。

その圧倒的とも言える強さを知る従業員達からすれば、地獄に仏であっただろう。

 

 

「あんちゃんよぉ、ここが何処だか分かってんのかい?それとも、黒粉でも決めてんのか?」

 

「へぇ、用心棒かな?こういう店には本当に居るんだな」

 

「あぁん?」

 

 

サキュロントは胡乱げな目を向けながらも、相手の全身を観察していた。

杖やローブといった武装から、魔法詠唱者で間違いないだろう、と。

そして、手に持っている杖が途方も無い逸品であるとも。

何者かは分からないが、「あの杖はヤバイ」とサキュロントの長年の勘がひしひしと危険を伝えていた。魔法力も高めているのだろうが、それ以上に打撃武器として使っても、相当なものであろうと判断したのだ。

 

サキュロントは瞬時に気持ちを切り替え、油断無く幻術を展開する。

相手を侮り、痛い目を見る奴は馬鹿者である、と。

こう言った得体の知れない不気味な相手には、初手から最大の技をぶつけて、即座に殺した方が良いとサキュロントは優れた嗅覚で嗅ぎ分けたのだ。

その判断は間違っていない。間違っては、いなかった。

 

 

「幻と現実、見破る事が出来るかな―――――《多重残像/マルチプルビジョン》」

 

「一応、聞いておくが……それは幻術のつもりか?」

 

「カカっ、怯えちまったか?俺は戦士というより、幻術師に近いんでな。真っ当な戦いを望んでたのなら、先に謝っておくよ―――マヌケなあんちゃん」

 

 

その言葉と同時に、サキュロントの本体と幻術が踏み込む。

何重にも”ブレた”腕はどれが本物か分からず、混乱した相手へと突き刺さる。

………そうなる筈だった。

しかし、サキュロントが突き出した剣は、まるで何かに拒まれるかのように止まっている。

 

 

 

《上位物理無効化Ⅲ》

 

 

 

「まぁ、こうなるんだよな。あっちでは無意味だったけど、中々に便利だろう?」

 

「へ………はぁ??」

 

 

ローブを着た男が、まるで答えが分かっていた寸劇でも見たように言う。

当然だ。この男には、60lv以下の者が放つ物理攻撃など一切、効かないのだから。

まして、剣や投げナイフ、槍などの斬ったり、刺したりと言った武器などは、更に別種の強い耐性を持ち合わせており、ダメージを通すなど至難の業である。

 

 

「ちなみに、この世界準拠で考えるなら………殆ど魔法も効かない事になるんだよなぁ。ははっ、まるで本当に魔王みたいじゃないか。そういえば、表に居た男が無敵という表現を使っていたが、お前達の無敵と俺の無敵を是非、ここで試そうじゃないか」

 

「な、んだ、てめぇは………よ、寄るな……こっちに、ぎぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

ローブを着た男、いや……モモンガが、剣を突き出していた相手の手を両手で優しく包む。

まるで健闘を称えるように、慈愛が篭められた手付きであった。

 

 

《負の接触/ネガティブ・タッチ》

 

 

サキュロントの手首に信じがたい程のダメージが流れ、その手首から青黒い煙が立ち昇る。余りの激痛にサキュロントはモモンガを引き離そうと空いた手で殴り、引っ掻き、懸命に足で蹴ったが、そのどれもが相手に一発も届く事はなかった。

 

 

「あ、ぁあ!ぐぁぁぁぁああああ!」

 

 

ぼとり、と熱せられたチーズが溶けたかのように、サキュロントの手首が床に落ちる。

絶叫する相手にモモンガが無言で裏拳を放つと、そのまま首がボールのように飛んでいき、壁に赤黒い染みを作った。サキュロントは遂にまともに名前を覚えて貰う暇すらなく、その命を呆気なく散らせて逝った。

 

 

「さ、用心棒が居なくなったけど、どうしようか?」

 

「ま”、ま”って……わ、私達が悪かったわ……あ、貴方の要求を聞かせて……」

 

「要求、ねぇ………そうだ、一つだけあったな!」

 

 

モモンガが場違いとも言える明るい声を上げ、それを聞いた娼館の責任者でもあり、売春部門の頭であるコッコドールはようやく、愁眉を開く事が出来た。安心したのも無理はない。

誰もが八本指が経営していると承知の、この娼館に対しこれだけ堂々と襲撃を仕掛けてきたのだ。

当然、何らかの要求があると考えるのが自然だろう。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「そ、それで……貴方の要求は何かしら?出来うる限り、努力させて貰うわ」

 

 

相手のシナを作ったような仕草に、モモンガは反吐が出そうになった。

周りや本人の態度から、この娼館の主であろう事は窺えたが、実に醜いオカマである。性根の汚さが顔に、全身に溢れ出ている。これまで、どれだけの人間を食い物にしてきたのだろう。

これが、こんなのが、ニニャさんの姉をあんな状態にしたというのだろうか?

こんなのが、俺に、ウルベルトさんの辛そうな声を思い出させたのか?

 

 

―――――許せるか?

許せるものか―――――生まれてきた事を、これから後悔させてやる。

 

 

「ここは”何をしても良い娼館”なんだよな?」

 

「え、えぇ!その通りよ!貴方ならお金なんて取らないから、幾らでも好きにして頂戴っ!」

 

「なら、遠慮なく……そうさせて貰おうか」

 

「え”っ……ぉごっ、ぶぇびぃぃ!」

 

 

モモンガは満面の笑みを浮かべていた主に近づき、そのまま力一杯抱き締めた。

ミチミチと肉が潰される音がし、骨が異次元の力に耐えかねたように嫌な音を立てていく。

 

 

「ぐぶぃ……はが、はな、はがじでぇぇ……おべがいじまずぅぅぃう!」

 

「うん?《娼館》というのは相手を《抱き》に来る場所だろう?俺は何もおかしい事をしてない。なぁ、お前達もそう思うだろう?」

 

 

周りの男達にわざとらしく声を掛け、時間をかけてゆっくりと抱き締める力を強めていく。

問いかけられた周囲の男達が壊れた機械のように首を縦に振っていた。

 

 

「恩人の家族にあんな苦労をかけたんだから、お前もそれ相応の苦しさを味わうべきだ。何なら、蘇生させて同じ事を繰り返そうか?うん?レベルダウンの事なら心配するな。俺は便利なアイテムを沢山持っているし、お前達は知らない魔法だろうが、《真の蘇生/トゥルー・リザレクション》という魔法やスクロールもある。ここの悪事を伝える証拠や名簿を出させた後は、そうだな………生きながらケルベロスにでも食わせて魂ごと地獄に送ってやろう」

 

「はな、はが、はだじでぶびぃぎぇぇぇぇ!」

 

 

内臓が押し潰されたのか、主の口から色んな嘔吐物が溢れ、耳からは血が垂れ始め、眼球がカエルのように膨らんだかと思うと、遂にボトリと両目が落ちた。

最後に力一杯、両手に力を入れると、腹部が棒のような細さになり、上半身は膨らませすぎた風船のように破裂し、だらしなく後ろに倒れた。

 

 

「確かに、抱くという行為は悪くないな。さぁ、次は誰にする?俺の要求はたった一つだ――――存分に“娼館ごっこ”をしようじゃないか。そうだ、下の“お客様”も招待しないとな。彼らも抱くばかりじゃ、飽きてしまうだろう。たまには“抱かれる”良さも知った方が良い。そう思わないか?」

 

 

モモンガの言葉に全員が絶叫し、跪いて命乞いを始めたが、モモンガの笑みに変化はなかった。

むしろ、その笑みは深くなり、その細められた目には「()()()()()()()()()()」と宣言しているかのような、鈍い光が湛えられている。

 

 

 

 




《精神作用無効》がないモモンガさんが怒ったら、果たしてどうなるんだろう?
そんな事を考えた結果が、この話でもありました。
恐らくは落ち着くまで、誰も手を付けられないほどの大惨事になるでしょう。
千発の核ミサイルを持った独裁者がスイッチを押し続けるようなもので。

そう考えると、原作で激しい怒りが抑えられるアインズ様は常に理知的で居られるので、
そう言う意味では現地勢は救われている場面が多々あるのかも知れませんね。
今作では激怒すると、理性が飛んだままになるので、周囲には悪夢が訪れる事になります。

まぁ、今作の温厚な鈴木さんを怒らせる相手なんて、
相手が100%悪いので何の遠慮も要らないでしょうけど(笑)





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口直し 小ネタ





堕犬
「は~い、モモンガ様と娼館ごっこの列はこっちっスよ~。並んで下さいっス~」

男達
「いやだぁぁぁぁ!離してくれぇぇぇ!」

ナーベ
「…………(さりげなく並ぶ)」




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