OVER PRINCE   作:神埼 黒音

37 / 70
ヴァンパイア・プリンセス

イビルアイは教えられた宿屋へと赴く途中、先程の話を反芻していた。

考える事は山程ある。調べたい事も沢山ある。聞きたい事もだ。

 

 

(そもそも、モモンガという男は何だ……?)

 

 

ティアとガガーランを子供扱いにして退け、嘘か本当か漆黒聖典の人間らしき女も戦う前から兜を脱がせて降参させたという。オマケに、トブの大森林に住まう森の賢王なる大魔獣まで屈服させたというではないか。

 

 

―――まるで、デタラメだ。

 

 

そんな存在が居る筈がない、と思う。

だが、ティアとガガーランは決して馬鹿ではない。この手の話で誇張したり、命を預けて戦う仲間に嘘を吐くような事はありえない。

トドメと言わんばかりに、あのラキュースですらその男に夢中になっているらしい。

益々、ありえない。

 

 

(まるで物の怪か、悪魔の類だな……)

 

 

真っ当な人間ではない。素直にそう思う。

これまでの長い人生の中で、時には人知を超越した存在を目の当たりにしてきたのだ。

その中には《魔神》と呼称される存在すら居た。

かと言って、そのモモンガという男が悪しき存在なのか?と聞かれると返答に詰まる。その男に何らかの思惑があるなら、個別の行動を取っていたメンバー達を殺す絶好の機会を逃しているのだ。

 

 

(やはり、直接会って見定めるしかないな)

 

 

それに、ウルベルニョという存在の事も気に掛かる。

機関という大きな組織を抱えているようだし、それこそ数百年前の魔神の再来かも知れないのだ。

もし、そうであった場合……。

王国は元より、近隣諸国にも壊滅的な被害が出る可能性が高い。

 

 

(本当にそうなら、八本指どころではなくなるな………)

 

 

思考を重ねていると、何時の間にか宿屋へ着いていた。

カウンターへ歩みを進め、主人に声をかける。そう言えば、いつもの宿以外に入るなど何年ぶりだろうか……自分は出不精だし、知らない人間と関わるのも余り好きではない。

そして、素顔を見られては騒動になる事も重なり、めっきり行動範囲が狭められていたのだ。

その事に全く不自由を感じない程に、自分は引き篭もりでもあった。

 

 

「こ、これはイビルアイ様……!本日はこちらへご宿泊ですか?」

 

「いや、モモンガという男に用がある」

 

「戦士長様のお客人の方ですな……蒼の薔薇の方であれば、問題ないでしょう」

 

 

部屋の番号を聞き、階段を上がる。

格調高い木を使った、何処か落ち着く良い宿だ。いつもの宿は酒場と一体化しており、暑苦しい程の熱気があって、あれはあれで嫌いではないが、たまにはこういう宿も悪くない。

 

 

(さて、鬼が出るか、蛇が出るか………)

 

 

扉をノックすると、「ひゃ、はい!」と妙に焦った声が返ってきた。

何だ、中で何かしていたのか?

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

妙な反応が気になり、扉を開けると……そこにはベッドに腰掛けた二人の人物が居た。

一人は部屋の中だというのに、フードを深く被った男の姿。これが例のモモンガという奴だろう。

その横には簡素なローブを纏った男がいた。妙に綺麗な顔をしているが、何だこれは?

面倒だから、男女(おとこおんな)とでも命名しておこう。

しかし、こいつらは何故、男同士でベッドに腰掛けて……と言うか、距離が近くないか?

 

 

(まさか、こいつも変態じゃなかろうな……)

 

 

変態や変わった性的嗜好の持ち主は、もうチームの仲間だけでお腹一杯だ。

ショタコンだのレズだの童貞好きだの……この上、更に男同士までプラスされた日には……。

ともあれ、さっさと情報を聞き出す事にしよう。長居は無用だ。

 

 

「私は蒼の薔薇のイビルアイだ。お前に聞きたい事があって来た」

 

「ぁ、私はモモンガと言います」

 

「……ニニャです」

 

 

二人が立ち上がり、深々と礼をする。

どうやら最低限の礼儀は心得ているらしい。冒険者の中には「力や実力だけが全て」と、わざと礼儀を無視したり、粗野に振舞ったりする輩が多いが、その手の連中ではないらしい。

 

 

「早速だが、話を聞かせてくれ。ウルベルニョという存在の事をな」

 

 

備え付けの椅子に座り、傲然と足を組む。

自分の礼儀こそ、どうなんだ?と思わなくもないが、自分は元よりこういう態度で押し通してきた。今更、変えようとも思わないし、変える気もない。

それこそ、《実力が全て》だからだ。

 

 

「そ、そうですね……何から話して良いのやら……」

 

「ぁ、ぁの……ぼ、僕は飲み物を頼んできますね!」

 

 

男女が真っ赤な顔をして部屋から出て行く。何だあの態度は……?

まぁ、自分は仮面を付けたままだし、声も変容させている。不気味がられる事も少なくはないが、そういった態度ではなかったような気がする。

………容貌だけでなく、態度までおかしな奴だ。

 

 

「で、そのウルベルニョという奴は何処に居る?八本指の長なのだろう?」

 

「い、いえ……奴は所在を晦ますのが巧みでして……私も探ってたりとか、して、ます……」

 

 

ふむ……まぁ、いきなり所在が掴めるとは思ってはいなかったが、こいつの態度も何だ?

妙にオドオドしてるというか、怯えているというか……もしかして、私の態度が悪いのか?最近は仲間以外と顔も合わさなかったし、口も利いていなかったから、どんな態度が普通なのか忘れてしまった。もう少しソフトに接するべきだろうか?

 

男も落ち着かないのか、オドオドしながら背負い袋のような物を取り出し、その中から綺麗な水差しのようなものを取り出した。

それらに篭められている魔力の大きさに一瞬、ドキリとする。

 

 

(マジックアイテム……それも、空間を捻じ曲げ……拡張する類の物か!?)

 

 

瞬時に、男の評価を改める。

こんな物を無造作に……この男、油断ならない。

仮面を付けていても尚、自分の強い視線を感じたのか、男が慌てたように説明を始める。

 

 

「こ、これは《無限の背負い袋/インフィニティ・ハヴァザック》と言いまして。様々な物を入れておく事が出来るんです。故郷の友人から餞別に持たされた物でして」

 

「随分と便利な物だな。その袋一つで豪邸が建つだろうよ」

 

 

皮肉でも誇張でもない。

実際、これを見たらどんな商会の者でも万金を積んででも欲しがるだろう。

むしろ、自分達が欲しいくらいだ。

だが、“友人”からの“餞別”などと言われれば、売ってくれとはちょっと言い出し辛い……。

 

男が更に袋から半透明のコップを取り出し、水差しから水を注ぐ。それらを飲み干し、男はようやく一息ついたように、「ふぅ」と親父臭い声を上げた。

自分にも勧めてきたが、要らんと即答する。毒が入ってるとまでは言わんが、得体が知れない。

 

 

「そのウルベルニョという奴を殺せば、八本指は止まるのか?それとも瓦解するのか?」

 

「ウルさんを……殺す?何を言ってるんですか、貴女は?無理ですよ」

 

「はぁ??」

 

 

何だこいつ?急に態度が変わったかと思ったら……妙な怒気すら漂わせている。

今の会話の、何処に怒る要素があった??

こいつが変なのか?それとも、自分の対人接触が不味すぎるのか?

もう、よく分からなくなってきたぞ……。

 

 

「………無理とは、どういう意味だ?」

 

「そのままの意味です。貴女じゃ勝てませんよ。逆立ちしても」

 

「貴様は強弱の区別も付かん程の愚か者なのか?それとも、敵が巨大であると言いたいのか?」

 

「ウルさんは世界最強の魔法使い、《ワールドディザスター》ですから」

 

 

おいおい、何でこいつはちょっと嬉しそうに話してるんだ??

鼻高々といった態度に頭がこんがらがる。

しかも、ワールドディザスターだと??

聞いた事のない単語、職業だが……意味としては世界に災厄を齎す者、といったところだろうか?

大袈裟と言えば、これ以上に大袈裟な名はないだろう。

自分もかつては「国堕とし」などと呼ばれた事があったが、それを遥かに超える規模だ。

 

 

「なら、お前は勝てないと思いつつ、何の勝算もなく戦っているのか?」

 

「いつかは、越えようと思って……いましたよ。いや、今でも……思っています」

 

 

何なんだ、次は泣きそうな声で!さっきからこいつの態度は一体、何だ!

自分を惑わそうとしているのか?何かの作戦なのか?

こちらのペースを乱そうとしているのなら、確かにその計画は成功しているよ!

だから、もう良いだろう!

その、子供みたいにコロコロ態度を変えるのを止めてくれ!

 

 

「た、只今です……ぇと、飲み物を貰ってきました」

 

 

良いぞ、男女!中々のタイミングだ!

こいつと二人だとペースが乱されて会話にならん。まさかこんな厄介な奴だったとは……。

下で貰ってきたのであろう、幾つかのジュースの中からメロンジュースを取る。

一時、ティアとティナが「吸血鬼にはトマトジュースだ」と毎日のように飲ませてきたので、馬鹿にするなと殊更に違う物を飲むようになったのだ。

トマトジュースが血の代わりになるとでも思っているのだろうか……。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

カラン、と氷の立てる音や、ストローから聞こえる微かな吸引音が部屋に響く。

全員が無言でジュースを飲んでいた……気まずい。

モモンガはもう、ベッドに飛び込んで頭を抱えながらゴロゴロしたかった。

 

 

(イビルアイさんか……また厄介そうなのが来ちゃったなぁ……)

 

 

只でさえ、さっきのニニャさんの言葉が気になって気もそぞろだったのに、そこにウルベルトさんの話が来るなんて……しかも殺すとか言うから、ちょっとカッときてしまったし。

そもそも、この世界に居ないんだから、殺すも何もないってのに。

絶対、変に思われたよなぁ……。

 

 

「そ、そのモモンガさん……姉の件なのですが……」

 

「え、えぇ!その話はとても大切です!重要ですよね!」

 

 

ニニャさんの言葉に乗っかり、即座に反応する。

問い詰められてボロが出る前に、別の話にすり替えるべきだ……。存在する筈もない機関の話なんて、とてもじゃないが正気ではしてられない。

 

 

「故郷から持ってきた秘蔵のスクロールがありまして。念じた物体を追跡するものです」

 

「物体を……追跡、ですか……?」

 

「ほぅ、それは……まさかとは思うが、伝承に聞く《物体追跡/ロケート・オブジェクト》か?」

 

「えぇ、その通りです」

 

 

キッパリと言い切る。

ここは言い切った方が、変に突っ込まれないだろう。《物体追跡》は第六位階の魔法だが、ラキュースさんは第五位階の魔法すら使えると聞いたし、持っていてもそこまで変ではないだろう。

 

南方から、故郷から、と言えば不思議と通る事が多いんだよな……。

この世界では“南方”というのが相当、不可思議で、エキゾチックな響きを持っているようだ。

大昔の、それこそ大航海時代の“東方”とか“アジア”とか、そんな感じなのだろうか?

ともあれ、自分にとってはありがたい話だ。徹底的に利用させて貰おう。

 

 

「何か、そうですね……お姉さんが持っている物などがあれば」

 

「姉が攫われた時、唯一持たせて貰えたのは親が買ってくれたヌイグルミだけでした……」

 

「なら、それを思い浮かべて使ってみましょうか」

 

 

王都や、貰った各種の地図を広げ、ニニャさんが所持していた王国の各種地図も広げていく。

もっと時間に余裕があれば、全都市のマッピング作業をしたかったんだけどなぁ……。

都市の地図に、美味い店や良い宿屋などを記していくのも楽しそうだ。かつての仲間にはそう言った地味な作業を嫌う者も居たが、自分は決してその手の作業が嫌いではない。

 

殆どのダンジョンを網羅し、その特徴や罠、出現するモンスターなどを書き記してデータとして頭に叩き込んでいく。それらを作業と取るか、冒険の記録と取るかの違いなのかも知れない。

 

 

(落ち着いたら、旅行記を書きながら旅をするのも悪くないかもな……)

 

「フン、まるで国宝級のスクロールだが……お前は随分と気軽に使うのだな」

 

「恩人の家族の為です。使うのに、躊躇する理由が何処にあるんです?」

 

「ん……い、いや、まぁ、お前がそう思うなら、良いんだろうな……すまん」

 

 

仮面を付けた少女が動揺したような声を上げる。

自分は何か変な事を言ったんだろうか?

例えるなら、ペロロンチーノさんが居なくなった茶釜さんを探すようなものだろう。仲の良い姉と弟の間を理不尽に切り裂くなど、許されるような事ではない。

赤の他人ならいざ知らず、ニニャさんはこの世界で自分を救ってくれた恩人なのだから。

 

 

「ほ、本当に良いんですか……モモンガさん?とても、貴重なスクロールみたいですけど……」

 

 

ニニャさんが俯いて、泣きそうな声で言う。

いや、実際こんな下位魔法のスクロールなんて幾らでも持っているから、そこまでありがたがられると、逆にこっちが恐縮してしまうんですが……。

アンデッド創造で呼び出した連中にも使えるのは居るしなぁ。

 

 

「構いませんよ。気にしないで下さい」

 

「あ、ありがとうございます……ッ!で、では………」

 

「ぁ、少し待って貰えますか」

 

 

袋から《発見探知/ディテクト・ロケート》や《探知防御/カウンター・ディテクト》などが篭められたスクロールを次々と出してテーブルに並べる。これだけあれば、ひとまずは安心か。

探知魔法を使用する時は、こちらも万が一に備える心構えと対策が必要だ。

ここらへんをケチると、思わぬ逆撃を受ける事になる。

 

 

「お、お前は……いや、もう何も言うまい……」

 

「え、えっと……こ、これを全部、使う、んですか?」

 

「えぇ、これらは基本となる物ですが、致命的な逆撃は全て避けられる筈です」

 

 

何度か息を吸い込み、深呼吸をしたニニャさんが意を決したようにスクロールを使い始める。

ニニャさんが優秀な魔法詠唱者で良かったな……使えないスクロールもあるかと思ったが、どうやら無事に発動しているようだ。

 

彼は通常の倍の速度で魔法を習得出来るという、反則に近いタレントを所持しているとも聞いた。

それが本当の話なら、将来は何処まで伸びるのだろうか……。

最後に《物体追跡》のスクロールが燃え尽きた時、王都の地図に反応が出た。

これは……ダメ元でやってみたが、ビンゴという事か!?

 

 

「これは……ここに姉さんが居るという事ですか!?」

 

「反応があるという事は、少なくとも、その物体はここにあると思って間違いないでしょう」

 

「いや、待て……お前達。この区画は………」

 

 

それまで黙って見ていたイビルアイさんが、地図に顔をくっつけるような仕草で反応があった地点を睨みつける。知っている場所なのだろうか??

 

 

「私は詳しい話は知らんが……そこの男女の姉が攫われた、という事で良いのか?」

 

 

男女って……確かに男とは思えないくらい可愛いけどさ……。

露骨というか、何と言うか、ネーミングセンスがないって言うか……。

 

 

「えぇ、そうです……。僕の姉は貴族に攫われて、それ以来、行方が知れないままで……」

 

「そうか……だが、ここは……」

 

 

イビルアイさんが絶句したように言葉を濁す。

そんな態度を取られたら余計に気になるんですけど……何があるんです??

 

 

「覚悟を決めて聞いてくれ。………ここは、八本指が仕切っている娼館だ。その、かなり……良くない、内容だと聞いている。何度か襲撃をかけようとしたが、政治的な圧力が強くてな……」

 

「娼館、ですか……貴族には捨てられたと聞いていましたが、娼館に売られていたなんて……」

 

 

娼館って……リアルでいう、風俗と言ったところか。

退廃したリアル世界であっても、そういう産業はあった。いや、あんな腐った世界だからこそ、そういう産業は根強く社会に残っていた。

自分は利用した事ないし、利用するつもりもなかったが、会社の先輩などは時折、垢落しだの何だの言って、決して多くもない給料を風俗で溶かしていたものだ。

 

 

「僕、ここに行きます」

 

「待て。お前は話を聞いていたのか?ここは八本指が経営している娼館だと言っただろう」

 

「何年も何年も、姉を見つける事だけを目標に生きてきたんです。ここに居るかも知れない、そうじゃなくても、手がかりがほんの少しでもあるなら、どんな場所にだって行きますよ!」

 

「この場所はな、王都に残された最後の……非合法が罷り通る娼館なんだ。その手の趣味嗜好がある輩の最後の砦とも言って良い……単純に力で奪還などしても、その後がどうなるか考えろ」

 

 

二人の話を聞きながら考える。

ラノベでは娼婦という人らを身請けというか、お金を払えば解放して貰えるようなシステムがあったけれど、この世界でもそうなのだろうか?

それが出来るなら交渉で何とかなるかも知れないけど、肝心の金が無いんだよなぁ……。

ユグドラシルの金貨じゃ、怪しまれるだけで、もっと騒動の種を振りまくだろうし。

 

 

()()()()、お前はどう考える?」

 

 

うわ、いきなり話を振ってこられたし!

こんな状況、リアルでもユグドラシルでも無かったのに、どうするのが一番良いんだろうか……。

ともかくは一度行ってみて、探るなり、本当にそこにお姉さんが居るのか聞いてみるのが一番だよな。向こうが素直に答えてくれるとは思わないけれど……最悪、そこの従業員を何処かへ連れて行って《支配/ドミネート》で口を割らすか?

 

 

「一度、そこへ行ってお姉さんの事を聞いてみるしかないでしょうね」

 

「居たとして、どうするつもりだ?こちらがその女を求めていると分かれば、足元を見られるだけだぞ。身請けの金額など、天文学的な数字になるが、それを理解して言っているのか?」

 

「お金なら僕が払います……!何年かかっても、必ず……!」

 

「男女、お前の心意気は買うが、連中相手には無意味だ。むしろ、お前も娼館で働かせて借金の棒引きをしようとしてくるのがオチだろうよ」

 

「ぼ、ぼ、僕は男ですよ……それに、ニニャという名前があるんですっ!」

 

「その手の連中に男も女も、子供もクソもあるか。だからこそ、あんな場所が存在するんだ」

 

 

そういえばリアルでもゲイバーとか、ニューハーフヘルスとか、ハッテン場とか、江戸時代にも陰間茶屋とか、そんなのもあったくらいだもんな……まして、ニニャさんなんて可愛い顔してるから本気で働かされそうな気がする。

 

 

「モモンガ、今の王都はあちこちに踏めば爆発するトラップが並べられているようなものだ。何がきっかけで、連鎖的に爆発していくか分からん。()()()()()()()()()()()()()それを理解しているのか?この話を発端として、たった今から連中と全面戦争になる可能性だってある」

 

 

仮面を付けた少女の声色に、真剣なものが混じる。

頭では理解はしている。理屈を並べられれば、分かりもする。

だが、ギャングや暴力団のような集団と本当の意味で揉めた事なんてある筈もない。

 

自分のように社会の片隅で、歯車の一つとして生きてきた身に、その問いは辛すぎた。

自分だけじゃなく、誰だって、そんな経験なんてある筈ないじゃないか。誰が暴力団と切った張ったの生活をしたり、ギャングと銃撃戦をするような経験があるっていうんだ?

 

そんな奴が居るなら見てみたい。

ふざけるな!と感情が高ぶるままに叫びそうになった。

 

 

「フン、迷っているなら止めておけ。勝算のない戦いをするのは単なる愚か者だ。その後の展望もなく、戦端を開く者はもっと愚かだがな。勝つという事は力を積み上げ、信頼出来る、裏切らない仲間を集め、」

 

「………るさいな」

 

「ん?」

 

「うるさいな、オマエ」

 

「………ガッカリだ。単なるガキだったらしい」

 

 

何故だろうか、酷くイライラする。

この少女の言葉が、どういう訳か、酷く胸に突き刺さるのだ。何の考えもなく、なすがままの自分を責め立てているようで苦しくなる。

 

 

―――――頭に浮かぶのは、一人ぼっちの玉座。

 

 

そして、誰もログインして来ないというのに数年間、たった一人で宝物庫とフィールドを往復するだけの乾いた日々。お前にもう少し知恵があれば、行動力があれば、「今」も「昔」も変えられたんじゃないのか?とでも言われてるようで胸が張り裂けそうに痛むのだ。

 

何が信頼出来る、裏切らない仲間だ。

ふざけるなよ。

お前、ふざけるなよ?

 

 

「………ニニャさん、行きましょうか」

 

「えっ……そ、その……い、良いんですか?」

 

「行きますよ」

 

 

後ろも振り返らず、部屋を出て行く。

もうあの部屋に、居たくない。この少女と居たら、自分の古傷が次々と開くような気がするのだ。

その傷が開いたら、もう―――そこから流れる血は止まらない。

 

 

「………馬鹿が」

 

 

二人が出て行った後、イビルアイが力なく呟く。

表情こそ仮面で覆われてはいたが、その姿は何処か寂しげでもあった。

 

 

 

 




原作と同じく、すれ違う二人。
原作と同じく、悪気はないのにナチュラルにモモンガさんの地雷を踏む。

二人の関係は、これからどうなって行くのか……?




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告