OVER PRINCE   作:神埼 黒音

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MESSAGE

「ただいまでござるよー」

 

「お、おかえり!ハムスケ!」

 

 

良いタイミングでハムスケが帰宅し、冷や汗に包まれた時間が終わる。

ナイスだぞ、ハムスケ……あのまま居たら色々とヤバイ事に……。

帰ってきたハムスケは手に籠を持っており、そこには色んな食材が入っていた。現金な事に途端に空腹感が湧き上がってくる……さっきまでが緊張の連続だったから余計にお腹が空いたよ……。

 

 

「ぁ、北のゴブリンは某とデコスケ殿を見て、すぐ降伏したでござるよ」

 

「早ッ!いや、その方が楽で良いけどさ……」

 

 

東西の実力者が消え、ハムスケとデスナイトが来たらそりゃ降伏するか……。

どっちも伝説級のモンスターとかになるんだろうしな。この世界の非力なゴブリンでは勝ち目がないだろう。ユグドラシルではそれなりに強いゴブリンも居たが、この世界では見かけないらしい。

 

 

「ほ、本当に森の賢王が従っているのですね………」

 

「殿は某の主君でござるよー」

 

「こんな大魔獣から忠義を示されるなんて……モモンガさんは本当に凄いです」

 

「いや、まぁ………あはは………」

 

 

デコスケは早速、ゴブリンを従えて森のパトロールに出掛けているようだ。

自分が呼び出したアンデッドだからか、デコスケとの間に確かな繋がりを感じる。《伝言/メッセージ》のように会話も出来るし、知識の一部や視界すら共有出来るようだ。

これなら何かあっても、すぐに対応出来るだろう。

 

 

(しかし、《伝言/メッセージ》か……)

 

 

ハムスケが早速、食事の用意をはじめたのを見て、俺はラキュースさんに伝言の魔法について聞いてみる事にする。この世界に来てから、使ってる人を殆ど見た事がないんだよな……。

電話やメールなんてモノがない世界では、どう考えても便利だと思うんだが。

 

 

「この辺りでは、余り《伝言》は使われていないのですか?」

 

「そうですね……距離が離れれば内容が不明瞭、不鮮明となって誤った内容として伝わる事が多いんです。術者の力量や魔力に左右される部分も多いので、信用度としては低いですね」

 

「なるほど………」

 

 

ユグドラシルではフレンド枠などに居る人にはどれだけ離れていても、相手が通信機能をOFFにしてない限りは幾らでも届いたが……電波が全く安定してない電話のような扱いなのだろうか?

続けて聞いていくと、一つの情報に対し、伝言の他にも伝書鳩や早馬など、複数の連絡手段を取って、それらを全て見比べてからようやく一つの情報として受け取るようにしているらしい。

この世界の人も良く考えているんだな……と変な所で感心してしまう。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「モモンガさん、まずは王都へ行きませんか?仲間にも会わせたいですし」

 

「王都、ですか………」

 

 

キッチンに立ち、焼いたキノコを齧りながら応える。

ラキュースさんもハムスケに感謝を伝え、ナイフとフォークで綺麗に切りながらそれらを口にしていた。このキノコはトブの大森林でしか採れないらしく、王国では結構な高級食材らしい。

やたら美味しいと思ってたけど、やっぱり良いキノコだったんだな。

 

採ってきた他の食材も王国では普段手に入らないものが多いらしく、この森がいかに人を寄せ付けて来なかったのかが、よく分かった。

 

ハムスケは醤油が気に入ったのか、何にでも醤油をつけて食べているようだ。

こいつ、結構なグルメハムスターなのか?それとも、口調からして日本食が合うのか?

時折「ぉほー!」なとど言いながら頬を膨らませている巨大ハムスターの姿はシュールだった。

 

俺もハムスケが採ってきた見た目も味もタマネギそのもののような野菜を薄く千切りにし、水で洗って塩をふりかけ、もう一品作成する。

ハムスケにばかり用意させていると、余りにも外聞が悪すぎるもんな……。

「この人、ハムスターに養われてる?!」なんて思われたらイメージがガタ落ちだ。

いや、人として失格の烙印を押されてしまうだろう。

 

次にアスパラガス(?)のようなものを水で洗い、適度に切ったものをゴマ油をひいたフライパンに放り込んで炒める。軽く塩・コショウを振って出来上がり……男料理なんてレベルじゃないな。

しょうがないじゃんか……ずっと彼女も居なかったしさ……。

手に入る食材なんて精々が「もどき」ばっかりで、味も最悪だったしな……。

 

 

「とても美味しいですね。ついワインが飲みたくなってしまいます」

 

「ぁ、冷蔵庫に入ってるんで少し飲んでみますか。味は余り保証出来ませんけど」

 

「わいん??殿ー、某も飲んでみたいでござる」

 

「ハムスターってお酒飲めるのか………??」

 

 

冷蔵庫からワインを取り出し、適当なグラスに注いで乾杯する。

ワインはよく冷えていたが、飲食不要なアンデッドの身であったので、デフォルトで入っている効果も薄いワインしか入っていなかった。こんな事なら、もっと良いお酒を入れておくべきだったか。

流石にこんな綺麗な子と、巨大ハムスターとワインを飲むなんて想像もしてなかったしな……。

 

代わりとは言っては何だが、適当に作った酒のつまみとしか思えない料理は個人的には十分美味しかった。タマネギのシャキシャキと、アスパラガスの噛み応えが堪らない。

自分にとっては、滅多に口に出来ない高級食材だ……リアルだと給料が飛ぶだろう。

こんな料理とも呼べないようなものを出してどうなるかと思ったが、ラキュースさんもハムスケも嬉しそうに食べてくれてるし、まぁ良しとするか。

 

 

「王都に着いたら、今度は私がお二人をディナーに招待しますね」

 

「それは楽しみでござるなー!」

 

「はい、期待していて下さいね!仲間もハムスケさんを見ればきっと驚くと思います……私も含め、仲間とも仲良くして貰えると嬉しいです」

 

「某はずっと一人であった故、知人や友人が増えるのは嬉しい事でござるなー」

 

 

あれ、何時の間にか王都へ行くのって決定になってるの??

と言うか、二人って……ハムスケが完全に人扱いになってないか……?

いや、ハムスケに養われてる現状を見ると、こいつは俺よりもっと上等な生物なのか?!

いかん、頭が混乱してきた……。

 

 

(それにしても、王都か………)

 

 

行くのは、悪くない。

いや、正直に言うなら一度行ってみたいとすら思う。いわば、国の首都のようなものだろう。

今後の為にも行っておくべきだ。むしろ、主要な都市を通りながら《転移/テレポーテーション》が出来る地点を増やしていかなければならないだろう。

 

 

(行く前に、一度ニニャさんに伝えておきたいな……黙って行く訳にもいかないし)

 

 

いや、でも……とっくに忘れられてたりしたらどうしようか………。

「えと、誰でしたっけ?」とか言われたら、その瞬間に俺の心臓は凍結するだろう。

かつての仲間達にメールを送るだけでも、相当な勇気が必要だったと言うのに……。

 

 

(じ、実験と思えば………!)

 

 

あくまで《伝言/メッセージ》の実験だと考えれば、相手から冷たい態度が返ってきても何とか耐える事が出来る……かも知れない。そうあって欲しい……。

くそー!何で男同士なのにこんな緊張しなくちゃいけないんだ……。

 

 

「すいません……少し、知人と話してきます」

 

 

楽しそうに話している二人(?)に声をかけ、コテージの外に出る。

夜の森に明かりはないが、コテージから漏れる光と、スキルのお陰で不便さはなかった。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

(よ、よし………た、試すぞ!行くぞ、俺!)

 

 

まるで片思いの女の子へ初めて電話をかけるような心境で伝言の魔法を使う。

飛ばした魔力が相手へ繋がるような感覚がした後、戸惑ったようなニニャさんの声が聞こえてきた。何か声を聞くの久しぶりな気がするな……。

 

《と、突然すいません。モモンガです……》

 

《モモンガさん!?あれから探し……今、何処に居るんですか??》

 

《今は訳あって、トブの大森林に居まして……》

 

《そ、そうですか。あの騒ぎでしたしね……無理もないですけど……心配、してました》

 

 

こんな俺を心配してくれてたなんて……やっぱり良い子だなぁ。

それに、お互いの声も鮮明に聞こえてるみたいだし、電話代わりに使えそうだ。消費する魔力も微々たるものだし、自動回復していく魔力の方が遥かに大きい。

 

 

《実は明日から、王都へ行く事になりそうでして。その前にお金を返したいと思っていたんです》

 

《……!お金なんて良いんで、どうして王都へ行くのか聞かせて貰えませんか??》

 

《いや、まぁ……その、ちょっとした、悪人退治と言いますか……ははっ……》

 

 

ダメだ、自分で言ってて怪し過ぎる。悪人退治って何だよ!

たっちさんなら喜んでやりそうだけど、自分のキャラじゃないよなぁ………。

全部、自分の自業自得だからしょうがないけどさ。

 

 

《蒼の、薔薇の、皆さんからの要請ですか………》

 

 

あれ……ラキュースさんと一緒に居る事を何でニニャさんが知ってるんだ??それに、何か声のトーンが驚く程低かったような……。

得体の知れない寒気が走り、思わず体が震える。

 

 

《僕も、一緒に行って構いませんか?》

 

《えっ!?いや、何があるか分かりませんし、そんな事は出来ませんよ……》

 

《行きたいんです。とても大切な用事もありますし》

 

《用事、ですか……?》

 

《はい、とても大切なものです。絶対、他に渡せないものなので》

 

 

何だろうか、言ってる内容は普通なんだけど……背筋に走る寒気が止まらない。

何故か、この会話をしてるニニャさんの目がレイプ目になっているような気がしたのだ。

い、いや……そんな訳ないか……多分、色々ありすぎて俺は疲れてるんだろう。

頭にはペロロンチーノさんが良くお勧めしてくれた、ヤンデレゲームに出てくる女の子の姿がチラついてしょうがなかったが、ニニャさんはそもそも男の子なんだしな………。

 

 

(は、ははっ………機関だのウルベルニョだの、色々ありすぎたんだな……)

 

 

今日はもう遅いし、ゆっくり風呂にでも入ろうか!

リフレッシュしないとな!身も心も!

 

 

《モモンガさん……王都へ出発する前に、エ・ランテルに寄って貰えませんか?》

 

《わ、わかりました……明日にでも、またメッセージで時間などを伝えます……》

 

《ありがとうございますっ!》

 

《いえいえ……恩人の頼みとあれば、聞かない訳にもいきませんし》

 

《優しいんですね、モモンガさんは………大好きです》

 

《えっ》

 

 

あれ??何か最後の一言が………。

思わず聞き返しそうになったが、既に伝言は切られているようで繋がりが消えていた。

ど、どういう意味なんだ………。

 

 

(し、親愛の情みたいなものなのか……?)

 

 

それとも、これが今の若者のノリなのか?

この異世界では、男同士でもそういう挨拶や風習みたいなものがあったり……。

う、うん……ありえる事だ。何と言っても、異世界だしな!

ファ、ファンタジーの世界に鈴木悟としての世知辛い常識なんて持ち込んじゃいけない!それは夢を壊すような事だろう。うん、してはいけない事だ。

 

 

(でも、好き、か……)

 

 

たとえこの世界のノリなのか、挨拶めいたものなのかは知らないけど、そんな事を言われたのなんて、もしかしたら初めてなんじゃないだろうか。目立たず、波風を立てないように……。

そうやって生きてきた自分にも、そんな風に言われる時がくるなんて。

 

 

 

 

 

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タブラ・スマラグディナ

「ただし、オトコである」

 

 

 

 

 

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あぁぁぁぁ!せっかく感動してたのに台無しじゃないですか、タブラさん!

一言で全てを台無しにするその癖、いい加減止めて下さいよ……!

良いじゃないですか、別に男同士の友情って事で……。

恋人どころか、男の友達だってユグドラシル以外では居なかったんですし……。

あぁ、言ってて死にたくなってきたな……。

 

遠くからハムスケの「風呂が沸いた」と言う声が聞こえたので、思考を打ち切ってコテージへと戻る事にする。気が付けば結構長い時間話してしまったか。

こうして波乱含みの、初メッセージは終わりを告げた。

 

 

 

 




ニニャのターン!
おぉっと!踏み込んできたぁぁ!モモンガ選手、かわせない!
派手にぶっ飛ばされたー!

と言う事で、次回で第三章が終了となります。

これまでの情報を纏めたものも掲載予定。
今まで殆ど描写してこなかった生活魔法(第0位階)や貨幣の話も出てきますが、
それらは書籍版・WEB版の設定を併せて、独自見解+捏造設定も入れたものとなっています。
(ストーリーには全く関わって来ないですが)

尚、今作では鈴木さんは切る・焼くぐらいは出来るようにしています。
一人だし、ロクに旅も出来なくなるんで……勿論、本格的な料理は無理ですが。




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