OVER PRINCE   作:神埼 黒音

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恋を止めないで

まずは呼び出したデコスケに様々な指示を与える。

森から出て近隣の村に行こうとするモンスターが居たら止めるように、人間が入ってきても殺さないように、余り奥地に入ってくるようなら威嚇して追い出すように。

その他、細々とした指示を与える度、デコスケは頷き理解を示した。

 

やっぱりゲームと違って生き物だからある程度の知性はあるようだ。ユグドラシルだと周囲から離れず、盾になって攻撃を引き受けるだけだったしなぁ……。

 

 

「今後はデコスケ殿が森の全てを支配するのが一番良いでござろうなー。実力者が誰も居なくなったでござるし、残りは北のゴブリンの部族ぐらいでござるよ」

 

「ゴブリンか……そいつらはデコスケに従いそうかな?」

 

「あの部族は強い者に従う習性がある故、見ただけで降伏するでござろうなー」

 

「なら、問題ないか」

 

 

さて、森はこれで良いとして……問題はラキュースさんだな。

苦し紛れに色んな事を口走ってしまったし……どうやって誤魔化していくか……。

何か今もキラキラした目でこっちを見てるし……。

どう考えても彼女、ウルベルニョやら機関やらと本気でやり合うつもりですよね………そんな敵、何処にも居ないのにどうすれば良いんだ??

 

 

「モモンガさん、これからどうするのですか?」

 

「えっ……そ、そうですね……まずは、家に戻ろうかと………」

 

「家、ですか?この森の中に?」

 

 

森に家って……どう聞いても不審者だよな……何処の妖精だよ、俺は!

とにかく一度戻って、落ち着いてから考えよう。

焦ったまま話してると余計にこんがらがっていきそうだ。もう手遅れな気がしないでもないけど。

 

 

「一度、マジックアイテムを使って家に戻りますので、手を貸して頂けますか」

 

「は、はいっ………」

 

「殿ー、某はご飯を調達がてらデコスケ殿を連れて森を案内してくるでござるよ」

 

「そうだな。森はハムスケの方が詳しいだろうし……任せた!」

 

 

遠慮がちにラキュースさんの手を掴み、短い杖をマジックアイテムとして使ってるようなフリをして詠唱する。実際、ンフィー君が言うにはこの世界では武器などに魔法を篭めて使うらしい。

かなり高価な武具限定のようだが、それらはユグドラシルには存在しなかったものだ。何と言っても、物に何かを篭めて使うといえば、魔法を篭めたスクロールだろう。

もしくは、魔法が使えない戦士職などが《蘇生の短杖/ワンド・オブ・リザレクション》などを緊急に使う、ぐらいだろうか。

 

あぁぁ……しかし、ヤバイ。

ラキュースさんの手、スベスベなんですけど……この子、人間じゃなくて、実は女神とかそういうオチはないよな?外見がそれっぽいし、ファンタジー世界だからありそうで困るよ。

そんな益体もない事を考えながら―――杖を振った。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

(見慣れた我が家……って程、滞在してないけど)

 

 

森の奥に設置した、コテージタイプのシークレットハウスの前に転移する。

家というより、場所が場所なだけに別荘って感じか。魔法で作られた家なので耐久性にも優れてるし、拠点用と設定されているので、モンスターも近寄ってこない。

ゲームの設定がそのまま現実に反映されているなんて、よく考えたら凄い事だよな……。

 

 

「私の仲間にも転移を使う者が居ますが、複数人の転移とは凄いですね………」

 

「こ、故郷ではマジックアイテムの発掘が盛んでして……その一つですよ」

 

「では、先程の……あの、とんでもない力を持った仮面もそうなのですか?!」

 

「いえ、あれはガラクタですよ」

 

「え”っ……ぁ、そ、そうなのですか………」

 

 

扉をあけ、中に入ると快適な涼しい風が迎えてくれる。

外の気温に合わせ、自動的に温度を調整してくれるので暑い日や寒い日にも活躍してくれそうだ。ラキュースさんは物珍しそうにしていたが、ハムスケのように説明を求めてくる事はなかった。

やっぱり、そういう所はお嬢様っぽく慎み深い感じなんだろうか……。

 

 

「この家の全てから魔力を……いえ、魔力で“編まれている”感じがします……」

 

「その通りです。設置や回収も一瞬でして……サイズも自由に変わるので、ハムスケのような大きな生き物も中で楽々と過ごす事が出来るんですよ」

 

「な、なるほど………国宝級の品、ですね………」

 

「ま、まぁ……貴重な物ではありますが……。とりあえず、飲み物でも」

 

 

そう言って冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して渡す。食材は腐ると判断されたのか、何も入っていなかったがジュースは無事だった。

でも、飲み物と調味料だけじゃなぁ……ご飯は相変わらずハムスケ頼みになりそうだ。

 

 

(しかし、冷蔵庫、か………)

 

 

帝国という国には、冷蔵庫などがマジックアイテムとして売られているらしい。

科学ではなく、魔法が発達している世界だからあっても不思議ではないが、ニニャさんの話では“口だけ賢者”と言われる英雄が発案したようだ。

あの時は考える事が山ほどあって、余り深く追及しなかったけど……。

 

まさかとは思うが、現代人だったりとかはしないよな……いや、数百年前って言ってたしなぁ。

ラキュースさんに不審がられない程度に色々と聞いてみるか?

アダマンタイト級冒険者なら、物知りだろうしな。

 

 

「ラキュースさん、貴方から見てデコスケは……どう見えましたか?」

 

「伝説級の……一体で、国を滅ぼしかねないモンスターかと」

 

「え”っ………ぁ、あぁ、そうですね。た、確かにデコスケは強力なモンスターです……」

 

 

あれ、うん……うん??

 

 

「あれ程の存在を召喚出来るなんて!モモンガさん、本当に凄かったです!」

 

「ぁ、いえまぁ………」

 

「やはり、魔力だけではなく、あの触媒となった仮面が大きな働きをしたのでしょうか?」

 

「いえ、あれはガラクタですよ」

 

「え”っ……ぁ、そ、そうなのですか………」

 

 

何気ない顔をしながらオレンジジュースを飲み、ごくりと唾を飲み込む。

ちょっと待って……デスナイトって、ここじゃそんな扱いなの?!

この世界準拠で考えたら、それなりに強い部類に入るだろうとは思ってたよ?自分なりにかなり強めに見積もってたけど、まだ足りてなかったって事か………。

と言っても、自分が自重してもスキルの所為で勝手な行動する時があるしなぁ……。

とにかく、折角の機会だ。ラキュースさんに他にも色んな事を聞いておこう。

 

 

「ティアさんから聞いているかも知れませんが、私は遠国から来た者でして……」

 

 

そう切り出し、これまで聞いてこなかった事を質問していく。

最高峰冒険者と言われるだけあって、モンスターの種類や生態などに相当詳しいようだ……これは助かる。強さの基準はざっと、ユグドラシルでのデータを3倍にしたようなものだろうか。

ここでは難度という数値で敵の強さを示すようだが、3倍にするとおおまかに感覚が合うのだ。

 

35lv程のデスナイトが、こちらでは難度100以上に跳ね上がり、逆に人類の最高峰と言われる存在でもユグドラシルのlvに換算すると25~30lv程度の強さでしかないようだ。

人間のlvがそこまで低ければ、モンスターに苦戦するのも頷けるし、魔法も第三位階を使えれば一流と言われるのも納得だ。感じていた妙なチグハグさがようやく晴れた気分になる。

 

 

「その……モモンガさんは、故郷からウルベルニョを追って来られたのですか?」

 

「ま、まぁ……そうですね。や、奴は今、この近辺を狙っているような………」

 

「近年、八本指の活動があそこまで活性化してきたのは………」

 

「と、とと、当然、奴の影響ですよ……ほ、本人達も気付かぬ間に、でしょうがね」

 

 

うぉぉぉ……ヤバイ!話が変な方向に……!

つか、八本指とかいったな!しょっちゅう名前聞くけど、お前ら何してくれてんだよ!

マジでいい加減にしてくれ!

 

 

「やはり、そうでしたか……“機関”が連中を知らぬ間に操っ………」

 

「―――――ラキュース」

 

「あっ……」

 

 

また勝手に手が動き、ラキュースさんの唇に人差し指が当てられる。

またかよ!二回目かよ!そろそろ本気で訴えられるんじゃないのか………。

ラキュースさんは顔を赤くしながら、俺の指を両手で包み「ご、ごめんなさい」と頭を下げてきた。いえいえ、謝るのはこっちですからセクハラで訴えないで下さいね?!

 

あ、後……そろそろ手を離して貰って良いですかね………。

あれ……もしかして、このまま話すんですか……?

 

 

「私達は今、王国を蝕む八本指と命を賭けて戦っています。ウルベルニョが関わっているなら、尚更放っておけない敵となりました」

 

「た、確かに……けしからん組織のようですね……犯罪は、良くないですし……」

 

「私の事を心配されているようですが、これ以上、隠さないで下さい………」

 

「え”っ」

 

 

ヤバイ、何の話をしているんだ??

何か良くない流れが来ている気がする。

しかも、自分のこういう時の勘って結構当たるんだよな……。

 

 

「モモンガさんがティア達と会ったのは、八本指が黒粉の取引を行う予測場所の一つだったと聞いています。既に、モモンガさんはウルベルニョと関わる八本指と、裏で熾烈に戦っておられるのではないですか?」

 

 

その言葉に軽い眩暈を感じた。

どうやら俺は、八本指という意味不明の組織と既に戦ってる事になっているらしい。

あくまで彼女の中にある俺の像は、八本指などの組織も含めた世界征服を企む“機関”という巨大な敵と戦い、立ち向かっている孤高の男なのだろう。

今もそのキラキラとした目には強い憧れのようなものが含まれていた。

外見がどストライクな女神のような美少女からそんな風に思われて、これ以上、とても否定するような事は出来そうもなかった。

誰がこの状況で「八本指ってタコかイカの親戚ですか?」などと暢気に問えるだろうか。

 

 

「さ、流石はラキュースさん。み、見抜かれてしまいましたか………」

 

「やはり!なら、私もその戦いに加わります!必ずお役に立ってみせますから!」

 

「そ、そ、そうですね……そ、そこ、までの覚悟がおありなら………」

 

 

うぉぉぃ!話が斜め上に行き過ぎて、収拾が付かないじゃないか!

どうするんだ、これ!どうすんだよ、これ!

こう言う時こそスキルでパパっと上手い言い訳を出してくれよ!

 

そう思った瞬間、手と口が勝手に動き出す。

いや、やっぱ無し!今の嘘です!

そんな思いも虚しく、俺は包まれていた指を解くと、あろう事か……ラキュースさんの腰を抱いて強く引き寄せた。近い、近い、ヤバイ!

 

 

「ならば、共に上がろう―――――この国を救う舞台へ」

 

「は、い………!もう絶対離れません……!」

 

 

おぉぉぉぉい!

俺は何を口走ってんだよぉぉぉ!

 

 

 

 




勘違いと童貞特有の見栄っ張りが重なり、恋の速度が加速していく!
ブレーキの無い二人はもう止まらない!

がんばれ、ももんがさま(他人事)




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