OVER PRINCE   作:神埼 黒音

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陰謀論

(あぁぁぁぁ………何が機関だよ!)

 

 

今、自分の前では美しすぎる女の子が目を輝かせていた。それも、覚悟と決意を秘めた表情で。

綺麗な緑色の瞳がキラキラとこちらに向けられている。

本当なら嬉しいシチュエーションの筈なのに、俺の心は滝のような汗を流していた。

 

 

(また余計なスキルの所為で……邪気眼そのものじゃないか!)

 

「ぃ、いえ、その……無関係の方を巻き込む訳には………」

 

 

そうだ、とにかくこの場は誤魔化そう。

まさかさっきの《伝言/メッセージ》が”誰かとしてたフリ”でした、なんてとても言い出せる雰囲気じゃない。と言うか、そんな事がバレたら俺は死ぬ。心が破裂して死を迎えるだろう。

《心臓掌握/グラスプ・ハート》なんてレベルじゃない。

 

 

「私はこう見えてアダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇の一員です。必ずお力になれます!」

 

「蒼の薔薇って……ティアさんのチーム!?」

 

「………っ!」

 

 

ヤバイ、余計に誤魔化し辛くなってきた気がするぞ………。

と言うか、連鎖的にティアさんにまで厨二病をこじらしてると思われてしまう!

しかも今回は邪気眼付きとか……もはや癒せぬ病を抱えていると病院に担ぎ込まれるレベルだ。

彼女を見ると「そっか、彼が言っていた……」「これは運命ね」とか不穏な事を呟いている。何か分からんが、余り宜しくない予感がする。うん、しかも、きっと当たってる。

 

 

「貴方がモモンガさん、だったんですね」

 

「え”っ。は、はぁ……まぁ、そうですが………」

 

「やっぱり!」

 

 

何が嬉しいのか、その場でピョンと跳ねた彼女に驚く。

見掛けは物凄いお嬢様っぽいけど、意外とアクティブな感じなんだな……と言うか、この子は一体なんだ?これまで生きてきて、こんな絢爛豪華な雰囲気を漂わせてる女の子なんて見た事ないんだが。この国の姫君とか言われても納得してしまいそうだ。

 

身に着けている武具も、この世界で見てきた中では飛び抜けているように思える。

顔もスタイルも良すぎるし……確実にリア充であると確信出来るものがあった。

ただ、彼女のは息の詰まるような美しさではなく……うまく言えないが、そこに居るだけで周囲を明るく照らすような、生命の輝きを感じさせるような美しさだった。

正直、見惚れてしまうレベルだ。

 

ぶっちゃけ、こういう正統派な美少女ってタイプだったりするんだよなぁ……。

非リア充の童貞には眩しすぎる存在だけど……。

 

 

「ティアやガガーランからも話は聞いています。是非、私達も協力させて下さい」

 

「い、いや、その敵は強大で、蜃気楼のようで、つ、掴めないと言いますか………」

 

 

蜃気楼どころじゃねーよ!そんなもん、影も形もねーよ!

いっそ開き直って叫びたくなったが……

その時から俺の名は「架空の相手と空メッセージを行う厨二王子」として大陸全土に響き渡る事になるだろう。もはやこの異世界にすら住む場所がなくなる。

 

どうにかしてこの場を……何とかしてハムスケに……と思ったが、ハムスケは高い木に登って上に生っている果実を美味そうに頬張っていた。お前……後で俺にもくれよ?

じゃなくて、こういう時こそ助けてくれよ!

 

 

「なるほど、私達が戦っている八本指も似たような構成をしていますね……」

 

 

確か八本指って、麻薬とか誘拐とかしてるヤバイ組織だっけ?

彼女はそういう組織と本当に戦ってるから、こんなに必死に、真面目に考えてくれてるんだろうか。だとしたら、そんな気持ちをからかっているようで罪悪感が湧いてくる……。

もう、いっそ言ってしまうか?でも、あぁぁぁぁ………死ぬだろ、これ!

 

 

「モモンガさん。一つだけお聞きしたいのですが……敵の首領は掴めているのでしょうか?」

 

「しゅ、首領……ですか……?」

 

「はい、八本指との長い戦いの経験から、下部組織をどれだけ叩こうとも、余り効果が望めないと分かったのです。組織の”頂点”を叩かねば、連中は何度でも復活します」

 

「しゅ、首領は………悪の…………ん”ん”っ………世界の………」

 

 

彼女が目を輝かせ、ごくり……と唾を飲み込む。

いやいや、居ないんですよ!

そんな組織もないんですよ!ごめんなさい!

 

 

「せ、世界征服を企む……悪の魔法使い………う、ウルベルト……さん、だ……」

 

「世界征服ですって?!ウルベルトサンというのが敵の首領なのですか?」

 

「ぁ、いや、さんは敬称というか……う、ウルベルニョ、だったな……う、うん」

 

「そ、そんな……世界征服だなんて途方もない事を考える巨悪が居たなんて……まさかとは思いますが、そのウルベルニョはモモンガさんより強いのですか?」

 

「へっ?そりゃ、強いですよ。自分なんて足元にも及ばないです」

 

「そ、そんな……ッ!」

 

 

あぁぁ……ウルベルトさん、ごめんなさい!

つい、勝手に名前を変形させて使っちゃいました!

悪の首領とか、悪の組織とか言われたら、真っ先に浮かんだのが貴方の名前だったんですよ!

しょうがないじゃないですか!いつも世界征服したいとか言ってたし!

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

ウルベルニョ(?)

人を勝手に世界征服を狙う悪役にするなんて………マジでやりたい………

じゃなくて、許さないんだからねっ!

な、何だったら、そっちに呼んでくれても良いんだからねっ!

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

いやいや、この回想おかしいだろ!

ウルベルトさんはこんな気持ち悪いキャラじゃないし!

いや、この世界に居たら案外ノリノリで悪の魔法使いをしてる……か?何か世界に災厄を齎すとか、新世界の神になるとか、本気でやりそうな気がしないでもない。

 

 

「モモンガさん、そんな強力な首領を頂点にした“機関”というのは一体………」

 

「―――――ラキュース」

 

 

手が勝手に動き、彼女のピンク色の唇に人差し指が当てられる。

ちょっ、何を勝手な事してやがる!

 

 

「みだりに“その名”を口にするな―――――連中の手は長く、その耳は小さな音も拾う」

 

「は………はひっ………」

 

 

あぁ、もう!

いきなり唇に触ったりしたから、顔真っ赤にして怒ってるじゃんか!

これ、セクハラとかで国に訴えられたりしないだろうな……何かお嬢様っぽいし……。

俺、貧乏なのに所持金が吹っ飛ぶぞ……。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「殿ー。何かを呼ぶとか言っていたのはどうなったでござるか?」

 

「ぁ、そうだったな………」

 

 

おかしなスキルの所為で予定がグチャグチャだよ………。

番人にするなら、《死の騎士/デスナイト》辺りが適任だろうか。

アンデッドだから、疲労や睡眠とか気にせずに働けるだろうし。

 

ユグドラシルでは盾役としてよく使っていたデスナイトだけど、この世界準拠で言えばそれなりに強い部類になるだろう。ゲームでは雑魚モンスターでしかなかったけど、皆から聞いた話を元に考えると……ダンジョンのシンボルエンカウント型の中ボスとか?

いや、大きく言ったらフロアボス辺りになるかも知れない。

この世界のモンスターとまだロクに戦ってないしな……後でラキュースさんに聞いてみるか。

 

 

「新たな森の番人でござるかー。楽しみでござるなー」

 

「元々が対象を守る盾役だしな……“警備員”としては優秀だと思うよ」

 

 

いずれにせよ、ラキュースさんの目の前で呼び出す訳にはいかない。

何とかして、彼女にお引取りして頂かなくては……。

 

 

「モモンガさん、一定時間で消滅する召喚ではなく、世界へ留める召喚を行うのですか?!」

 

「ぇ、いや、まぁ……」

 

「お一人で、ですか??その、数百人で、大規模な儀式を組む、などではなく……?いえ、それですら、私は伝承などでしか聞いた事がありませんが………」

 

 

えぇぇ!こっちの人ってそんな面倒な事をしてるの?

スキルでポンポン作れるんですけど?!

 

 

<上位アンデッド創造/1日4体>

<中位アンデッド創造/1日12体>

<下位アンデッド創造/1日20体>

 

 

改めて自身のスキルを確認し、変な汗が出てきた……これ、何とかして誤魔化さないとマズイな。

ユグドラシルでは一定時間で消えたけど、あれはあくまでゲームだ。

この異世界だと消えない可能性もある……ンフィー君にもマジックアイテムを使う、と説明したし、それで行くか?

 

この世界はどうも、マジックアイテムです、と言えば誤魔化しが効き易いみたいだし。一定時間で消えようが、この世界に残り続けようが、マジックアイテムの所為にしよう。

 

 

「このマジックアイテムを使います。故郷の知人から譲り受けたものでして」

 

 

懐から出したのは……俺の友情を裏切った、あの嫉妬マスクだった。

12年の付き合いだったというのに……お前も少しはアイテムとして働け!こいつに関してだけは、どう扱おうが俺の心は痛まない。

 

 

「な、何とも……恐ろしい負の力を感じるマスクですね……」

 

「いえいえ、ただの裏切りも……ガラクタですよ」

 

 

今後も、こいつを使って適当に誤魔化して行く事にしよう。こいつもアイテムBOXでホコリを被っているより、アイテムとして使われる方が嬉しいだろうしな。と言うより、自分はこれだけ苦労してるのにこいつだけ楽に過ごしているのが気に入らない。

 

俺はいかにも、このアイテムを使っているかのようにして創造をはじめる。

実際、泣いてるのか笑ってるのかよく分からない表情してるしな。何か呪術めいた怨念みたいなものを感じさせなくもないから、召喚の触媒とかには向いているのかも知れない。

 

更に“それっぽく”思わせる為、近くに転がっていたゴブリンの死体も持ってくる。

こういう召喚とかって、死体を生贄に……とか漫画でよく見たしな。

ゲームじゃなく、実際にやるとなると黒魔術とか死霊術そのものか……。

 

 

「………《天候操作/コントロール・ウェザー》」

 

 

え?? ちょっと待て、俺がしたいのはアンデッド創造だよ?

何で天候を操作すんだよ!しかも、周りに聞こえないようにメッチャ「小声」で詠唱してるし!

魔法の所為で辺りの気温がグンと下がり、周辺に霧が立ち込めてくる。

森へ差し込む日差しと、立ち込める霧が周囲に幻想的な空間を作り出していく。

 

ハムスケは何が起きたのかと落ち着かない様子で周りをキョロキョロと見渡し、ラキュースさんは何故か目を輝かせ、こちらに身を乗り出していた。

そして、当然の如く―――口が勝手な言葉を紡ぎ出す。

 

あぁ、そうでしょうね!そうでしょうとも!

もう分かってましたよ!

今日は朝からメチャクチャだし、もう存分にやっちゃって下さいよ!

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

(一体、何が始まるの………?)

 

 

ラキュースは空気が変わった事を感じた。

いや、感覚ではなく、本当に変わったのだ。

肌を刺すような冷気と、静謐な空間に満ちる白い霧……遂に、儀式が始まるのか。

 

彼の足元に巨大な青い魔法陣が浮かび上がり、その圧巻とも言える美しさに息を飲む。その魔法陣は一秒たりとも同じ紋様を描かず、目まぐるしく刻まれた文字と紋様を変貌させていく。

 

大気を震わせるような大魔力が吹き荒れる中、彼はその中心で何かを耐えるように、左手で顔を覆い、右目だけで魔法陣を睨みつけていた。何て心震わせる格好良いポーズなんだろうか……。

私もしたい……出来れば、彼と並んで一緒にしたいとすら思った。

 

晴れ渡っていた空には暗雲が立ち込め、豪雷が鳴り響く。

この召喚は一体、どれ程の大魔力を使い、必要とするのだろうか?まるで世の理(ことわり)を捻じ曲げるかのような大儀式ではないか……これを一人で行うなど、想像するだけで震えがくる。

 

そして、いよいよ彼の口から宝石のような詠唱が零れだす。

私は、この日を生涯忘れないだろう。

自分の人生を決定付けた―――この瞬間を―――――

 

 

 

 

 

――――告げる。

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

《仮面》の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者。

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天。

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!

 

 

 

「顕現せよ―――――ッッ!《死の騎士/デスナイト!》」

 

 

 

彼の右手が突き上げられ、雷雲から稲妻を落とすように振り下ろされる。

瞬間、視界が轟音と白光に包まれた。

そして、青き魔法陣から一際強く放たれた光がゴブリンの体へと収束し………

 

 

―――――巨大な盾と長大な剣を持つ禍々しい騎士が、世に顕現した。

 

 

 

(ぁ、あぁぁ……………)

 

 

見ているだけで魂を削られそうな程の凶悪な怪物。

ともすれば、失禁しかねない程の強烈な威圧感。かの賢王ですら毛を逆立てて震え、遂には高い木に登って尻尾を尖らせている。

彼が呼び出した、と知っていなければ自分も即座に逃げ出しただろう。

イビルアイならば抑えられると信じたいが、自分では無理だ。

台風や雷などの“天災”と同じ規模であろう………人間に対抗出来るような存在じゃない。

 

 

(間違いなく”国家非常事態宣言”が出されるレベルの……伝説級モンスター……)

 

 

いや、そんな宣言に何の意味があるだろうか?

そんな宣言を出した頃には、国は既に壊滅的な損害を蒙っているのではないか?

そして、そんな彼が自分より強いと言わしめるウルベルニョという魔法使いと、機関。

余りのスケールの違いに、自分が酷く小さく思えた。

アダマンタイト級冒険者は頂点でも何でもなく、井の中の蛙でしかなかったのだ。

 

 

(でも、ショックでも何でもない……むしろ、胸がドキドキしてる……!)

 

 

彼は一体、どんな冒険をしてきたのか。どんな戦いをしてきたのか。

何処から来たのか。敵の規模は?機関の手は王国にも伸びているのか?帝国には?

彼に恋人は居るのだろうか?女性の好みは?胸は大きい方が良いのだろうか?

何でもいい、少しでもいいから、彼の事が知りたい!そして、共に戦いたい!

 

 

(私がアダマンタイト級冒険者になったのは、全て、この日の為にあった……!)

 

 

そう確信する事が出来た。

全ては運命だったのだ。

こうなる事が、決められていた。

 

彼と共に戦い、恐らくは後世に英雄譚として語り継がれるであろう、世界の命運を決する戦いに身を投じる為、これまでの日々があった―――!

繰り返す日常、愚かな貴族からの依頼、王国を覆う暗雲、八本指の暗躍、派閥間の対立。

暗いものばかりだった日々に、いま―――光が差し込まれた。

 

彼と一緒ならどんな試練も必ず、切り払う事が出来る!

もう迷わない。

私の人生は、彼と共にある―――――

 

その彼を見ると、水差しのような物を取り出して森の賢王に飲ませていた。

召喚した騎士にも「飲む?」とコップを差し出し、あの恐ろしい騎士が雷に打たれたように盾と剣を投げ出し、恐縮しきったように何度も頭を下げていた。

一体で国家を滅ぼしかねない恐ろしい騎士が、まるで彼の前では仔犬のようではないか。

 

 

「折角だし、お前にも名前を付けてやらなきゃな………」

 

 

彼はあの呼び出した恐ろしい騎士に、名を与えるようだ。

あれ程の騎士である。

名を与えるとなると非常に難しいだろう………何せ、伝説級の怪物だ。

 

 

「デスナイト、デス、ナイト……デスノート………よし、お前は今日から”デコスケ”だ!」

 

「おぉ!!良い名でござるなー!」

 

「オォ!オォォォ♪」

 

(ええええええええええええ?!)

 

 

どういう所からそんな名前になったのかサッパリ分からないが、あの騎士は感動したように何度も頷き、嬉しそうな叫び声を上げていた。

やはり、伝説級ともなれば私の常識の範疇では測れないのかも知れない。

 

 

 

 




適当に言った言葉が撤回出来なくなり、
どんどん深みに嵌っていくモモンガ……いや、悟君。
これ原作のアインズ様と同じだな(笑)

そんな訳で、今月はほぼ毎日更新していたので、また書き溜めに戻ります。
沢山の感想や評価、本当にありがとうございました!




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