その二つ名で呼ばないで!   作:フクブチョー

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Myth5 白兎と呼ばないで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン17階層、クエストを終え、期間の途につくロキ・ファミリア。51階層という深層に集団で辿り着いておきながら、ここまで早い帰還を決めたのは二つ理由がある。

 

一つは51階層及び50階層で交戦した新種。この戦闘で物資、特に武器の多くを失った事により探索は断念せざるをえなくなった。

現在は深層と比べ、道幅の狭い中層で、隊を二つにわけて帰還している。先行部隊は武器なしでも充分な実力をもつ精鋭部隊で結成されていた。

もう一つの理由がこの精鋭部隊に組み込まれたイレギュラーの存在。本来であれば此処にいないはずの人間。シルクのようなサラサラとした白髪にリヴェリアと良く似た緑柱石の瞳を宿し、腰に黒い細身の刀を差した一級冒険者、リヴィエール・グローリアの存在だった。

 

深層の探索に一人で来ていた彼は必然的に大荷物を持つ事が難しい。自然と探索時間は短くなる。彼の帰還にロキ・ファミリアが合わせたという理由が一端にあった。

さらに大荷物を抱えての深層からの帰還は危険を伴う。武器を失ったロキ・ファミリアのガードを務める代わりに後方部隊にバックパックを預け、帰還を共にしている。

本来であれば他人に収穫したアイテムを預けるなどどれほど仲が良好な相手でも難しい。相手がフィンでなければ彼もそんな事はしなかっただろう。

中層に至るまでの戦闘は魔導士の支援を除いてほぼ一人で戦闘を終結させていた。

 

今も黒刀がモンスターを屠る。しかしこの護衛任務もほぼ終了だ。この辺りまで戻ってきたなら、たとえ武器がなくとも、もうロキ・ファミリアの精鋭部隊なら問題なく戦える。

漆黒の刃を腰に納めた。

 

「…………ねえ、ティオネ」

 

息一つ切らさず先頭で佇む白髪の青年、リヴィエール・グローリアを見ながら、アマゾネスの少女、ティオナ・ヒリュテは姉のティオネに語りかける。

 

「リヴィエール……強すぎじゃない?」

 

同様の思いはロキ・ファミリアほぼ全員にあった。最大ファミリアの一角に数えられる彼らは手練の魔法剣士は何人か見てきた。しかしこれ程の使い手を見た事など恐らくない。【剣聖】の強さを間近で何度も見てきたロキ・ファミリア幹部でさえ記憶の中にある彼との差に驚いている。

 

ーーーーコレが……今のリヴィエールか

 

憂いに満ちた表情で息を吐く彼を見ながらリヴェリアは心の痛みに顔を歪めた。恐らくはよほど無茶なペースで深層に潜り続けていたのだ。でなければレベル7とはいえ、あれ程の鋭さを持った強さを得ることは出来ないだろう。

元々大人びた少年だったが、壮絶な過去を経てさらに年齢不相応の精神力を持ってしまった。戦いながらどこか楽しそうに剣を振るっていた記憶の中の可愛い弟の姿はもうどこにも無い。

代わりに戦いが終わるたびに、疲れたような息を吐くようになっていた。

その姿は1年前と比べ、随分と艶っぽく、大人の色気がある。

 

ーーーーたしかに美しい。だが……なぜだ?なぜこんなに不安になる程、危うく、儚く映る?

 

拳を握り込む音が聞こえる。隣を見ると唇をかみしめ、辛そうな顔で金髪金眼の少女が彼を見つめていた。

アイズ・ヴァレンシュタイン。誰より強さを求め、時に危うく映るほどまっすぐ走る【剣姫】。彼を目指して強くなったにも関わらず、彼我の差は縮まるどころか、開いていた。

 

ーーーーアイズ……

 

大切な仲間に何を言っていいかわからなかった。けどあの姿を追わせるのはさせたくなかった。

 

「アイズ」

 

口を開きかけた時、声が届いた。気がつけば白髪の青年が目の前に来ていた。

 

「先ほどお前と共闘した時に戦力はざっと確認した。レベルは5。器用と敏捷、魔力はAクラスってとこか。一級冒険者の中でも間違いなくトップクラスの実力だ」

 

リヴィエールの分析は完全に当たっていた。見ただけでここまで正確にわかるのかと心中で驚嘆した。

 

「お前は充分強いじゃないか。なんでそんな顔をしてる?」

「…………でも、もうレベル5になってから3年が経つ。リヴィが私くらいの頃はもうレベル6だった。もう最近じゃアビリティも殆ど上がってない」

 

ーーーーなるほど、レベル5においてアイズはもう頭打ちという事か。

 

焦る理由の一端に俺がある事にすこし罪悪感が湧く。

俺と比べる事など何一つないというのに……

 

「俺はもうこういう戦い方しか出来ない。馬鹿は一度死んでも治らなかった。バカを治しかけていた太陽を自分の手で斬ったことで俺は光を失って一人になった。もう俺は闇から戻れない」

 

この男は自分の危うさには気づいていた。その上でこの白い悍馬は止まらない。少なくとも自分の復讐を遂げるまでは、この一本の刀は貫くか折れるかしない限りは止まれない。

 

良くも悪くもこの子はリヴィエールに似ている。鍛えれば鍛えるほど彼女が憧れたこの剣士のスタイルに酷似していくことにリヴェリアは気づいていた。

そして、リヴィエールも。

 

「お前には家族がたくさんいるじゃないか。お前が何もかも護ろうとする必要なんてねえんだよ。俺の真似して走っていたらつんのめっていつかコケる。コケた本人が言うんだ。間違いない」

 

そんな自分のような思いはさせたくない。自分のことを棚に上げて何を言っていると我ながら思うが、それはリヴィエールの心からの本音だ。頭の上に手を置く。

 

「お前は俺なんかよりよっぽど強えよ。だからアイズ、俺のようにはなるな」

 

すべて本音だ。強さを求めて、すべてを守ろうとして、結局自分は大切なものを何一つ守れずに全て失った。

だがこの子は何年もダンジョンに潜り続けて何一つ失っていない。仲間と繋がる強さをすでに持っているアイズを、リヴィエールは本気でそう思っている。

 

「…………?」

 

アイズは何を言っているかわからないという顔をする。自分より遥かに強い彼が弱いという意味が理解できなかった。

それでも彼が自分に嘘をつくなどとは思えない。きっと彼にとって今言ったことは真実なのだろう。

それでも……

 

「ーーーーそれでも、私は…(げんかい)を超えたい」

 

強くなりたい。せめて貴方の隣に並べるくらいは強く。

きつく結ばれた唇と眉に苦悶が浮かんだ。

 

ーーーーダメか…

 

いくら言葉を重ねてもこの子は聞かないだろう。

 

「少し休む。とりあえずはモンスターも出てこねえだろう。先行は任せた」

「………リヴィは?」

「心配しなくてもどこにも行かねえよ。ほら、ティオネ達が待ってるぞ、行ってこい」

「でも……」

 

まったく信用がない。自業自得は承知しているがここまでとは。ため息をつき、小指を出す。

 

「ずっと見てるから……」

「リヴィ…」

「今度は俺が待ってるから」

「!…………うん!!」

 

小指を絡め、結ぶ。一度縦に振ると、アイズは前へと走って行った。笑みがこぼれる。少し主神を思い出す。

 

ーーーーまったく、馬鹿は俺だけではないな

 

言うべきことは言った。ならあとは頼れる彼女の仲間たちに任せるとしよう。

リヴェリアに目を向ける。同時に驚く。自分と同じ目を彼女はリヴィエールに向けていた。

 

「どういうつもりだ」

 

意図が測れなかった。まさか俺に任せるとでも言うつもりか?

 

「これからもアイズを強くしてやってくれ、リヴィ」

 

眉をひそめる。一緒に戦った事はあったが何かを教えた事など一度もない。これからも、とはどういう事だ。

 

「だがアイズは強くなった。その事にお前は無関係ではないだろう?」

 

ない、と言いたかったが、出来なかった。どんどん戦い方が自分に似ていく事にリヴィも気づいている。

 

「あの子を強く出来る力を誰よりも持っているのはお前だ。私達では出来ないことだ」

「…………あのな」

「特別な事は頼まないさ。お前は好きに生きればいい。生きてたまに顔を見せに来てくれ。あの子を導く背中であってくれればそれでいい。その道は私達が作るから」

「………ゲロ甘だな、てめえら」

 

諦めの息を吐く。本当に面倒だ。全てを失って、その痛みを知って……

もう誰とも繋がらない。もう何も背負わないと決めていたのに…

 

「リーア、俺アンタの事好きだし、尊敬してるけど、そういうとこ嫌い」

 

二人きりになった時にだけ使う呼び方で彼女を呼ぶ。今だけは1年前と同じ、ただの家族に戻って。

 

「奇遇だな。私もお前が大好きだが、大嫌いだ」

 

二人とも笑う。やはり馬鹿は俺だけではない。そんなつもりなどないが、いつの間にか自分もこの愛しい師に背負われていたらしい。

 

「行ってくるよ、リーア」

「いってらっしゃい、リヴィ」

 

先頭へと向かう、僅かに血の繋がりがある弟分に姉が告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだまだ行けたのに〜。暴れたんないよ〜」

 

先頭に合流したリヴィエールと共に歩きながらティオナが漏らす。確かに体力的に言えば、上級冒険者である彼女にはまだ余裕がある。アマゾネスであるこの子なら尚更だ。

 

「しつこいわよアンタ。いい加減になさい」

「だってせっかく50層まで来たのに〜」

「転移門とか層ごとにあれば楽なんだがな。なんか本で読んだ他の塔ではあるらしいよ?たしかアインクラウドとか言うとこ」

 

ティオナの気持ちもよくわかる。50層まで来ることは相当面倒だ。ソロで潜っているリヴィエールはなおさら。それをほぼトンボ帰りは惜しいと思うことは仕方ないことだろう。

 

「そんな便利なものがあればいくら高くても喜んで使うんだけど……ねえリヴィエール、そんな魔法ないの?」

「ない」

「うぅ〜〜、何だったのよあのモンスター!!」

「リヴィエールすら知らないんでしょ?未確認のモンスターって言うほかないわよ。確かにおかしな点はあったけど」

 

豊かな胸の谷間から石のような物をティオネが取り出す。その時の見事な揺れは薄い板の妹の心を抉った。

 

「お前それ……あの新種の魔石か?」

「まあね」

 

取り出されたのは何やら歪な色が混ざった見覚えのない魔石。連中を斬っても爆発するか腐食液で消えてしまったため、魔石の採取はリヴィエールさえ出来なかった。

 

「ああ、そういや直接手ぇ突っ込んでたなお前」

「その時むしり取ってやったわ」

「…………ちょっと見せてくれるか?」

 

なんの疑いもなくティオネはリヴィエールに魔石を手渡す。普通ダンジョンの重要な収穫である魔石を他人に渡す事などまずあり得ないというのに、躊躇など微塵もなかった。

 

ーーーーチッ、コレじゃあ奪えねえじゃねえか。

 

1年前の事件に繋がる可能性のある手がかりだ。出来れば奪ってしまいたかったが、こう無邪気な対応をされてはその気も失せた。魔石の形や特徴を忘れないように凝視した。持ち上げて光に透かす。

 

「わ、何それ。変な色」

「…………ああ、やはりすこし妙だな」

 

普通はどのモンスターも魔石は紫紺色なのだが何やら黒い靄のようなものが入った石に見覚えはなかった。特徴を覚えたリヴィエールは魔石を返す。

 

ーーーー天然物じゃねえって事か?まあダンジョンの仕組みなんて謎だらけで未知のことの方が多いけど……

 

リヴィエールの7つ目の感覚(セブンセンス)はこのモンスターがダンジョンから生まれたものではなく、誰かに造られたものだと告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休息を取る一行。リヴィエールもその辺りの出っ張った岩に座った。その隣にアイズも腰掛ける。大きくため息をついた所を見られてしまった。

 

「リヴィ、疲れた?」

「大丈夫だ、問題ない」

 

大丈夫でなくても絶対このセリフを言う男ではあるけど、今は心からの本音だった。確かに交戦回数はソロの時より遥かに多いが、休息も支援も比べ物にならないほど多い。疲れるというほどではない。

 

「ふぅ」

 

たまたま近くにサポーターの一人が腰かけた。大きなバックパックを背負った少女。サポーターだ。

 

「リーネ、手伝おうか?」

 

視界に入ってしまったため、疲労の色を濃く浮かべた少女にアイズが近づく。彼女らしい、強者が持つには貴重な優しさにリヴィは笑ってしまった。1年前と何も変わっていない。

当然サポーターはその誘いを断る。上級冒険者であるアイズに荷物持ちなどさせられるはずがない。

 

「でも……」

「アイズ、よしてやれ。お前にとって戦う事が仕事であるように彼女達はコレが仕事なんだ。奪ってやるな」

 

肩を叩いてアイズを止める。手伝う事が優しさなら、見守る事もまた優しさだ。その事を知って欲しかった。

 

「そうだぜアイズ。雑魚共に構うな」

 

ウェアウルフ、ベートがリヴィに同調する。しかしその理由は白髪の青年とはかなり違っていた。

 

「弱えやつに拘うだけ時間の無駄だ間違っても手なんて貸すんじゃねー。俺たちは見くだしてりゃいいんだよ。強いお前は強いままでいい」

 

ベート・ローガは少し行き過ぎな程の実力主義者だ。アイズとその他の扱いが驚くほど違う。誤解されがちな発言のおかげでファミリア内では嫌っている者も多く、常に孤立している。

 

「コラー!バカ狼!アイズを困らせるなー!!」

「うるせえ!手ぶら組はサポーターでもやってろ!」

 

ーーーーまあ、理由は実力だけじゃねえんだろうが。

 

アイズに懸想しているツンデレ狼のあの態度も、わかっていれば可愛いものだ。リヴィエールは彼の事を周りほど嫌っていない。面識もないのにヘコヘコしてくるサポーターより余程歯ごたえがある。

 

「リヴィ……私って怖がられてる?」

 

自分よりも遥かに強いのに人を惹きつける彼に聞いてみる。わからない事は彼かリヴェリアに聞く事が最も良いと信じていた。

 

「いや、尊敬されてんのさ。お前だって俺に近づくにはずいぶん時間かかったじゃねえか」

 

あの時、ダンジョンで彼女を助けてから、ずっとアイズはリヴィエールを追いかけていたが、声をかけられるようになったのはかなり後になってからだった。一緒に剣の稽古をするようになるまで三ヶ月はかかった。

 

「だってリヴィは……凄すぎたから」

「彼女達にとってはお前も凄すぎるんだよ。何かをしてやるために近づくんじゃない。もっと軽い理由で接してやりな。そうすればお前の事を手の届かない高嶺の花なんて思わねえさ」

 

金色の髪をグシャグシャ撫でてやる。懐かしい感覚にアイズは自然と笑顔が漏れた。

 

「あーあー、あっついあっつい。今日ダンジョン暑くなーい?局所的に」

「良いなぁ…私も団長と……」

「このクソ白髪!テメエサボってんじゃねええ!!」

「いやだってもう中層じゃん。俺手ェ出したらダメだろ」

 

ロキ・ファミリアにはとある規則がある。その事を知っていたリヴィはもう自分の出番などほぼ無いだろうと考えている。ベートも正論で返された為か、黙った。

 

するとモンスターの雄叫びが前方から響いた。

 

「ヴヴォオオオオオオオオオオオッ!!」

「進行方向!ミノタウロス…大群です!!」

 

現れたのは、群れをなしてこちらに向かってくる牛頭のモンスター、ミノタウロス。リヴィエール達の敵では無いが、初級冒険者ではまず勝てないモンスターだ。

 

「リヴェリア、これだけいるし、私達もやっちゃっていい?」

「ああ、構わん。リヴィ、お前はアイズと組んでくれ。ラウル、指揮を」

 

ロキ・ファミリアの中層における規則。それは下の団員に経験を積ませるため、上級冒険者は中層で出張ってはいけない。

しかし数が数だ。万が一を考え、リヴィエール達にも許可を出す。

 

「り、リヴィエールさん達!空気読んでくださいね!」

「わかってるよラウルちゃん。海より深く手加減してやらい」

「大丈夫大丈夫!」

「わかってるわよ」

「ステゴロだぞクソ白髪。それくらいのハンデはやれ」

「ったく、しょうがねえな」

 

アマゾネス姉妹の妹は腕をぐるぐる回し、姉は手をわきわきさせている。リヴィはボキボキと手の骨を鳴らした。

 

どっちがモンスターかわからないほど恐ろしい笑みを四人とも浮かべている。

初級冒険者なら武器ありでも到底かなわない相手と素手でやれと言われてしょうがねえなでら済ますあの四人の強さは中堅のラウルには信じられなかった。

 

ミノタウロスの雄叫びというよりも、悲鳴に近い声がダンジョンに響き渡る。

 

「ええ!?逃げたぁ!?」

「あーあ、アマゾネスがあんな殺る気満々に殺気漏らすから」

「のんきな事を言ってる場合か!?早く追え!あんなパニック状態では何をするかわからんぞ!」

「急ぐぞ。下は他の連中に任せる。アイズ、手伝え。ついて来い」

「うん!」

 

暴走したミノタウロスは普通の冒険者ではひとたまりも無い。これ以上被害が拡大する前に、この場で最も速いリヴィエールが先行する事を決め、唯一自分の速度について来れるアイズに声をかけた。リヴィに頼られた事が嬉しかったらしく、これ以上無い良い笑顔で返事をした。

 

二人で一気に跳躍する。その姿は一瞬で遥か遠くへと消えた。

 

「各階層に一人は残れ!先頭はリヴィとアイズに任せろ!殺し尽くせ!」

 

後ろからかかる師匠の怖い指示にちょっとビビるリヴィエールだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーダンジョン5階層!

 

走りながら二人とも次々にミノタウロスを屠る。想像以上に数が多く、二人をもってしてもこれほどの上層に逃がしてしまった。しかしそれもここまで。残すところは……

 

「残りは?」

「一匹」

 

返り血をぬぐいながら全体の俯瞰を頼んでいたアイズがリヴィの質問に答える。7つ目の感覚で強化された五感がどこにあと一匹がいるかを告げた。

 

「うわぁああああ!!」

 

感じた先から悲鳴が聞こえる。ミノタウロスに襲われていたのは装備も未熟などう見ても新米の冒険者。姿はよく見えないが声から言って恐らく少年だろう。

 

「アマテラス」

「エアリアル」

 

黒刀とレイピアが重なる。

 

『ムラクモ!』

 

黒い炎の旋風がミノタウロスを上空に吹き飛ばした。

 

「ちょっと手加減しすぎたか」

「でも冒険者を巻き込めない」

 

ミノタウロスが吹っ飛んだ先に跳躍する。牛型のモンスターは一瞬で八つ裂きになった。

 

「リヴィ」

「終わりか?」

「うん、今ので最後」

 

一つ嘆息し、空を仰ぐ。コレでとりあえずはひと段落だ。

 

腰を抜かして座り込む少年に目を向ける。自分と同じ白髪にルベライトの瞳。体躯は小さく、まるで白兎のようだ。

 

「あの、大丈夫です……か?」

 

返り血塗れの少年にアイズが声をかける。恐怖のあまり、引いていた感情が戻ってきた。白い肌が赤くなっていく。

 

その時、二人同時にとある幻影が映る。壁にもたれかかり、ダンジョンで腰を抜かす少年に、リヴィエールはかつて助けた金髪の少女を、アイズは幼い自分を幻視した。

 

「リヴィ……」

 

困ったように白髪の青年の肩に手を添える。それでようやくフラッシュバックから帰ってきたリヴィエールは頷きを返し、手を伸ばした。

 

「おい白兎、立てるか?」

「えぅ、ダァああああああ!!!?」

 

叫んだかと思うと。新米にしては驚くほどの速さで一気に走って逃げ去った。取り残されたアイズとリヴィはポカンと差し出した行き場の無い手を動かした。

 

「はっ……ははは…助けた……相手に……逃げられてんじゃねえか……流石だなぁ、剣聖」

 

息を切らして追いついてきたベートがゼエゼエ言いながら笑った。そんな頑張って追いついてこなくても、とこちらも笑みが漏れた。

 

「お茶会の時間でも迫っていたのかね、あの白兎は。ま、アレだけ元気そうなら大丈夫だろ」

「お茶会?どういう意味?」

「アリス in ワンダーランドだ。本くらい読んでおけ」

 

二人とも腰に剣を納めた。踵を返す。

 

「戻るぞ。リヴェリア達に合流する」

「うん、わかった」

 

その背中についていく。その時に気づいた。砂色の彼のローブに赤い跡が残っている。血の跡だ。

 

「ご、ごめんリヴィ。ローブ、汚しちゃった」

「ん?ああ、返り血か。良いよ別に。よくある事だ」

「…………ゴメン」

 

気にするなと手を振り、歩き出す。彼のローブを汚してしまった罪悪感もあったが、それよりこんな血まみれの汚れた手で彼に触ってしまった事を悔いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後書きです。遂にベル君登場。剣聖と剣姫が再会を果たす事で止まっていたリヴィエールの物語が動き始めます。ちなみに現在の主人公プロフィールです



リヴィエール・ウルス・グローリア
Lv.7。
力:B 714 耐久:C 638 器用:A 858 敏捷:S 921 魔力:S 912
発展アビリティ:狩人:B 調合:F 剣士:S 精癒:I 魔導: A 耐異常: G
《魔法》
【アマテラス】
 ・黒炎を生み出す事が出来る。一度燃えたら焼き尽くすまで決して消えない
【ノワール・レア・ラーヴァテイン】
【ウィン・フィンブルヴェトル】
【ヴェール・ブレス】
【モユルダイチ】

 《スキル》
7つ目の感覚(セブン・センス)
第六感を含めたすべての感覚が研ぎ澄まされ、未来予知に近い超感覚を発揮する
状況を問わず効果持続。
【王の理不尽】
効果と詠唱を把握する事でエルフの魔法を全て操れる。
太陽の子(ライジング・SON)
スキルの発現時に誓った目的を遂げるまで成長速度が高まる。






コレが現在の主人公プロフィールです。矛盾点があればご指摘よろしくお願いします。それでは励みになりますので感想、評価よろしくお願いします。低評価ももちろん受け付けていますができればその理由もお聞かせください。よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければ幸いです。

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